香港条約批准―次は何か?
2024-02-28
2024年2月28日:インダストリオールと加盟組織による長期キャンペーンの結果、船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約が批准され、2025年6月26日に発効する。これは船舶解撤労働者にとって何を意味するのだろうか。
船舶解撤は世界で最も危険な仕事と言われており、インダストリオールは長い間、この産業を浄化する最も実際的な第一歩として香港条約の批准を求めて運動してきた。加盟組織の支援を受けて協力しながら、条約を促進するために各国政府、船主、投資家、その他の業界関係者に圧力をかけ続けた。
船舶解撤場の死亡率が極端に高いため、最大の関心事は事故と職業病の両面での労働者の安全改善であり、これに不安定雇用、低賃金、劣悪な労働・生活条件が続いている。この条約は産業改革を保証してはいないが、批准を出発点としてこれらの側面を改善できると私たちは信じている。
2023年は船舶解撤業界で素晴らしいニュースが続いた1年だった。昨年の夏にバングラデシュとリベリアが条約を批准し、発効の条件がすべて満たされた。パキスタンとマーシャル諸島も批准したことで潜在的な抜け穴が塞がれ、すべての主要な船舶解撤国と旗国が条約を批准した。船舶解撤産業を浄化して公平な競争の場を作り上げる必要があることについて、業界全体が広く合意している。
ガイドラインが正しく実施されれば香港条約は労働条件を改善するか?
- 解撤場の所有者は、契約労働者を含む労働者全員の詳細を記録し、利用できるようにしなければならない
解撤場が船舶解体の許可を得るには、要件を満たした船舶リサイクル施設計画を所轄官庁(担当政府機関)に提出する必要がある。この計画には、解撤場で雇われている全労働者(契約労働者を含む)の記録や、安全衛生訓練プログラムを盛り込まなければならない。労働者は訓練を修了しなければ解撤場で働くことを許されない。
これは臨時雇用に依存する産業の重要な変化である。解撤場所有者は通常、未登録の移民労働者に頼っている。大きな問題は、解撤場で働いたあと病気になって故郷の村に戻り、治療も補償も受けていない労働者がいることである。この変化によって組合組織化もやりやすくなる。船舶解撤労働者を組織化しようとすると、使用者は組合員を解雇する。労働者は臨時労働者なので、組合つぶしを立証するために従業員としての地位を証明することが難しい。登録要件があるため、これはさらに難しくなる。訓練実施の要件は、職場の技能向上のための投資拡大も促すだろう。
- 全員に適切なレベルの安全訓練を受けさせなければならない
安全衛生訓練では、特に船舶解撤に関係のある材料を取り上げ、アスベスト、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、オゾン層破壊物質(ODS)、防汚化合物・システム、カドミウム、六価クロム、鉛、水銀、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、ポリ塩素化ナフタレン(PCN)、放射性物質、短鎖塩素化パラフィンといった危険物質を取り扱うための指示や計画を盛り込まなければならない。これらは労働者がかかる職業病の原因となる危険物質なので、この訓練は大きな差を生じる。
訓練プログラムでは、PPEの支給とその利用に関する訓練、火災予防、緊急対応・避難、安全衛生訓練、環境意識、応急手当も取り上げなければならない。
- 使用者は管理・責任体制を示し、記録を保管しなければならない
これには、危険評価、予防戦略、立ち入りの安全基準、火気使用の安全手順にもっぱら責任を負う安全管理者の設置が含まれる。
解撤場所有者は以下も提供しなければならない。
- 健康と公衆衛生(洗面・トイレ設備、清浄水の提供、食事・娯楽エリア、労働者が有毒廃棄物を持ち帰らないようにするための更衣・洗濯設備など)
- 職業病の医学的監視
- 緊急対応計画
- 危険物質リストと治療法
香港条約の発効は実施のための国内法にかかっている。つまり、船舶リサイクル国は、船舶リサイクルや廃棄物管理などを対象とする国内法を策定する必要がある。国際海事機構は現在、バングラデシュ政府と協力しながら、SENSRECというプロジェクトを通して適切な法律と強制メカニズムを開発しており、インドもこのプロセスをすでに完了、パキスタンでも同様の作業が計画されている。
公正な移行に向けて
香港条約の批准は、労働者の安全を改善するための必要最小限の重要な第一歩である。この条約が実際問題としてどの程度効果を上げるか、また、特に危険物の処理に関するバーゼル条約に対応するために、条約の要素を改善する必要があるかどうか評価することが重要になる。しかし、ギャップとリスクに取り組むために一段と踏み込み、南アジアの船舶解撤産業の公正な移行を目指して努力する必要がある。
そのためには、組合を承認し、組合と使用者と政府の3者による社会的対話を生み出し、香港条約の実施と船舶解撤産業の改革をめぐって交渉する必要があるだろう。担当政府機関、シップリサイクル業者および現場で労働者を代表している組合の協力の焦点は、合同安全衛生委員会、教育・訓練の実施、社会保障へのアクセス確保、解撤場の監視・検査、労働者の権利尊重になるだろう。労働者と組合を、この産業の完全なパートナーとして承認する必要がある。
汚く危険な産業を改革し、安全な船舶リサイクルと信頼できるグリーンスチール供給によって世界に利益をもたらす産業に変えるチャンスが数多くある。
そのためには、現地の鉄鋼業を転換し、再圧延工場でのダウンサイクルではなく電気アーク炉を使って鉄鋼をリサイクルし、リサイクル産業を発展させる必要があるかもしれない。その他の業界関係者、特に船舶所有国・旗国、船主、投資家、現金購入者を議論に参加させ、財政面、技術面、政治面で支援を得るべきである。
しかし、公正な移行と影響を受ける労働者・地域社会の積極的な参加がなければ、この可能性を実現することはできない。
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