金属労協議長挨拶
JC自身も自己改革しつつ
国内外の労働運動に更なる貢献を
加藤 裕治
金属労協議長
加藤 裕治

今大会の位置づけ
 我々の置かれた現在の状況は、皆さんがお感じになっているとおり、戦後の歴史の中で、1つの大きな節目に差しかかっていると言えます。それは、我々労働組合が支持をする政党民主党が参議院の中で第一党となり、与党を過半数に追い込んで、いわゆる緊張感のある二大政党政治が実現をしたことです。
 一方、世界を見渡してみますと、ドイツやイギリス、イタリアなど多くの国々で政権リーダーが交代しました。そして、アメリカや韓国など、近々交代があるかもしれない国も多いわけです。21世紀の初頭に当たって、20世紀後半から世界を吹き抜けた、いわゆるネオリベラルな政策に対し、我々労働組合の手でブレーキをかける環境が整ってきたと判断することもできると思います。そういう時代背景での大会ということであります。  そんな中でIMF−JCは、3つの重要な役割を担っていかなければならないと感じていますので、それについて述べ、そうした情勢を共通認識にしていただければと思います。

IMF−JCの3つの重要な役割
 その3つの重要な役割とは、まず1つは、国際労働運動におけるJCの役割ということです。我々IMF−JCは、ドイツのIGメタル、Ver.di(公共サービス労組)といった組織とともに世界有数の組織人員を有する、そして、その力を持つ労働者集団なわけであります。当然のことながら、そうした労働者集団として、大産別としての世界における役割があると思います。
 2つ目が、国内の政治状況に応じた役割、我々、日ごろから申し上げておりますように、民間・ものづくり・金属というまさに我が国の基幹産業の集団としての役割があると思います。
 3つ目が、格差にかかわることです。小泉、安倍政権と続いた中で、日本の格差が拡大し、固定化しようというような状況にあることは、皆さんと共通認識だろうと思います。そういう歴史の中で、まさにこのIMF−JCは春闘を通じてこの国の成果分配に大きな役割をしてきたわけです。その役割に基づいて、これからどのように考えていくべきか。
 この3点について、少し私なりの考え方を順次述べていきたいと思います。

世界の労働運動の担い手として
 まず、世界の労働運動の担い手として役割ということです。
 昨年11月にICFTU(国際自由労連)とWCL(国際労連)が合併をして、ITUC(国際労働組合総連合)が結成されたわけです。1980年代の終わりの冷戦終了から20年の月日がたって、世界の労働運動は、新しい方向を目指して動き始めたと思います。ITUCのもとで、世界の9つの国際産業別組織、GUFがお互いに協力を模索する協議体もできています。
 また、各国を見渡してみますと、主にヨーロッパを中心として、各国の産業別組織自体がほかの組織と合併していくという大きな動きがあります。例えば、北欧においては、金属と化学エネルギー、繊維などの組合が合同しましたし、イギリスでは、我々の仲間であるAmicus(アミカス)、金属、電機、自動車もおりますが、そういう組合と運輸関係のT&Gという組合が組織統合しました。さらに、この2つの統合した組織が国境を越えてアメリカのUSスチールと合併を模索しているという状況にもあるわけです。
 これらは、グローバリゼーションの進展に対応する動きであると判断しています。昨今、グローバリゼーションはまさに急進展しておりまして、最近話題となっています投資ファンド、プライベートエクイティというものが大変各国に影響を及ぼしております。これは、まさに産業別組織の論理を超えたところで動いているわけであります。
 そして、冒頭にも言いましたように、いわゆる新自由主義的な、ネオリベラルな政策というものが先進国、途上国を問わず労働組合の勢い、労働組合の権利を奪おうとしています。その結果として労働市場が柔軟化し、世界中で格差の拡大、二極化が見られるわけです。  これに対抗した世界の運動が求められることは当然であり、ITUCの大会でも「連帯のグローバル化」が叫ばれ、確認されていますが、残念ながら目に見える形で運動の成果が上がっているとは必ずしも言えないわけです。
 経済の成長と労働者国民の豊かさの獲得というこの2つは、必ずしもその延長線上に約束されているものではないと思います。ヨーロッパやアメリカ、アジア大陸を見ても、国家としての成功モデルはあるわけですが、国民が豊かになっていくという経路、道のりというのは、必ずしも1つではないわけです。
 ITUCが結成されたということは、極めて意義深いわけであります。しかしながら、世界が全く同じ運動理念や形で動いていけるということではありません。我々IMF−JC自体も企業の行動規範(COC)の締結に向け、これからまた努力していこうと思っていますし、人権の確立ということは大きなテーマであり、大前提であります。一方で、そうしたものだけが先行して企業の生産性向上が置き去りになるようでは、雇用の安定は図れないわけです。
 そのような認識のもとで、我々IMF−JCとしては、今後、特にアジアの労働運動の発展に貢献してまいりたいということであります。  経済の発展とともに権利の拡大を求めて、性急にヨーロッパレベルまで到達することを求める動きもあるわけですが、私たちは、アジアとして地に足のついた発展モデルというものを構築していきたいと思っています。
 そうした考え方のもとに、今年6月にシンガポールでアジア金属労組連絡会議のパイロット会議を開催し、成功させたと思っています。この会議をさらに発展させていって、アジアの連携を一層強めながら、主体的な地域ブロックとしてIMF運動の発展を支えてまいりたいと思っているところです。IMF本部にも、さらにこの考え方を理解してもらって、今後もバックアップをしてもらいたいと思っているわけですが、世界の労働運動が発展していくためには、ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアという三大経済地域がそれぞれ地域の特徴を生かした運動を発展させ、相互に連携を保ちながら全体を支えていく必要があると考えています。
 そうした意味から、アジアとりわけ日本は、これまでの運動に自信を持って、世界に向けてもっと発信をしていく必要もあるだろうと考えています。
 そうした見地から、来年5月にIMF執行委員会が開かれますが、これを日本で開催するように招致しました。実は、日本においては、1985年に世界大会を開催して以降、IMFの主要な会議は開催されていないわけです。世界のリーダーたちに、日本をより深く理解してもらう大変よい機会だと思いますので、ぜひとも皆さんのご理解、ご協力をいただきたいと思います。

我が国経済を支える金属産業の労働組合として
 2番目の役割としては、我が国経済を支える民間・ものづくり・金属産業としてということです。
 まさに緊張感ある政治、二大政党状況の中で、民主党が私たちの期待するような、あるいは国民が納得できる国会対応、政策を打ち出していけば、民主党政権の誕生ということも決して夢ではない。かなり実現性は高まっていると思います。
 私たちは、連合結成から17年を経まして、いわば悲願でもあった自分たちが支持をする政党が政権をとるという状況を間近に控えていると思えるわけです。労働組合が支持する政党が政権をとっている例は、主としてヨーロッパでたくさん見られるわけですが、そういう国々のリーダーたちと話をしますと、政権をとっているときのほうが労働組合としては結構厳しいんだということを言われます。まさに国家全体を考えた運営を迫られるということだろうと思うわけです。
 昨今の連合運動ですが、連合結成当初にはかなりはっきりとうたっていました、いわゆる官僚依存の中央集権政治的な政治からの脱却、あるいは非効率な財政、行政機構の改革のための規制緩和、そうした命題が少なからず後退し、既得権益の擁護、あるいは改革の勢いのスローダウンを求めるような声が少しずつ強くなっているような気がします。
 小泉、安倍と続いた自公政権があまりにも市場原理優先の政策を強行し、格差が拡大し、貧困層が増大してきたということもあって、軌道修正をしていく必要があることは当然ですし、弱者への目配りが必要であることも当然です。しかし、既得権の維持だけにこだわっていれば、日本経済はいずれ立ち行かなくなるということも確かであります。
 我々は、日本経済の屋台骨を支えてきた、そして、これからも支え続ける金属産業として、民主党が政権をとることが現実味を帯びてきた今こそ、まさに日本経済の競争力を維持していくんだ、そのことによって日本を支えていく。そのために非効率の排除、財政規律の早期回復、あるいは生産性の低い分野の生産性向上のための必要な規制緩和というものを私たちは引き続き主張していかなければいけないと思っているわけです。
 連合は、今、来期の運動方針の論議をしています。その基本スタンスの中で、民主党が政権与党になる可能性も視野に入れて、労働組合としても日本のバランスある発展の一翼を担っていくという覚悟、あるいは公正な社会を目指して、みずからも改革をしていくんだという考え方をもう少し明確に出したほうがよいのではないかということも、私の立場でも主張させていただいているところであります。
 我々金属労協としまして、日本が今後あるべき進路をたどっていけるように、民間・ものづくり・金属というスタンスから日本の構造改革の必要性を説き続けなければいけない。そういう認識に立った議論をこの場でもお願いできればと思います。

格差の拡大を押しとどめる分配のあり方
 最後に、格差にかかわる社会的配分の問題です。言うまでもなく日本の高度成長期以降の春闘の相場形成役はIMF−JCでありました。そして、JCは、単に相場形成のために先頭を走ってきただけではなく、日本経済の状況に応じた分配のあり方というものを理論づけ、それを提言し、実践してきたわけであります。
 昭和50年、1975年のオイルショック後のハイパーインフレを収めた経済整合性論をひっ提げた春闘は、皆さんも認識のことと思います。しかしながら、バブル崩壊の前後から、JCの役割というものもなかなか難しい状況になってきました。JCは、これまで二次にわたる賃金政策も出しており、その中で、格差拡大防止、圧縮のためには、賃金の上げ幅ではなく絶対水準、根本からの高さを重視した交渉が大切、交渉方式としては「個別賃金方式」を実践すべき、ことを主張してきたわけです。
 しかしながら、連合の中では「連合としては統一して平均賃金の引き上げ幅の要求を掲げてもらいたい」という声が多くを占めてまいりまして、なかなかJCの考え方が広がるということはなかったように思います。
 この10年を振り返りますと、1997年の橋本政権の失政で不況に入りまして、金融危機をくぐって、日本経済はまさにデフレ経済に突入し、今もそれが続いているわけです。金属産業各社も生きるか死ぬかのリストラを経験したわけです。そして、2002年のベアゼロショックと言われておりますが、そこから数年間、大手組織がベア要求をしないという状況が続きまして、春闘の持つ社会的成果配分機能というものが後退を余儀なくされた状況だったと思います。
 こうした中で出てきましたのが、中小としても自力で水準を上げていこう、底支えをしていこうという中小共闘であったわけです。そして、2年前からはパート共闘も立ち上がりました。単なる横並びだけを求めるということではなく、カーブ維持分を確保することが大切だという意識や運動を促した中小共闘やパート共闘の意義は大変大きかったと思います。
 そして、一昨年から電機連合では職種別賃金要求を追求するようになりました。賃金改善という制度改定までも含んだ要求を行うという新しい賃上げ交渉のあり方も私たちは提案してきました。
 皆さんもご案内のとおり、最低賃金制度改正の論議も行われまして、この秋の臨時国会が待たれるわけですが、そういった中で、日本にも職種別賃金の概念が必要になってきているということは言うまでもないわけです。多様化した雇用形態をカバーし格差縮小を目指すためには、あるいは均等処遇を求めていくためには、職種別の賃金概念の導入が不可欠であることは言うまでもないことです。
21世紀の日本の労働市場改革というのは、そこから始まると言っても言い過ぎではないと思っています。
 そうした意味で、IMF−JCが昨年大会で確認いただいた総合プロジェクト答申で掲げている、絶対額水準による大くくり職種別賃金での交渉、取り組みというものが今後の日本の春闘のあり方に大きな方向性を示すものだと思っているわけです。
 2008年闘争に向けた議論も早急に始めなければなりません。既に幾つかの産別では話をし始めていると思いますが、そうした考え方を背景に持ちながら、2008年の議論を少し加速してまいりたいと思っているところです。

結びに
 以上、IMF−JCの重要な役割を3つに集約して申し上げました。
 それぞれが時代の要請の中で大変大きなテーマだろうと思います。日本経済を牽引する立場にある我々IMF−JC自身も自己改革をしていくという決意も必要でありましょう。そして世界、日本の労働界にいろいろな形で貢献し、呼びかけもしていかなければならないと思います。
 この大会を機として、大いに議論を盛り上げていただいて、来年は本大会になります。運動方針も策定しますが、そのような視点に立った、これからの金属労協運動を打ち立てていけるように、この1年間、活動方針を策定し、さらに前進を求めていきたいと考えていますので、ぜひとも皆さんの積極的なご参加をお願いしまして、私からの冒頭のごあいさつにさせていただきます。
 どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)