第48回定期大会
議長 西原浩一郎
JC議長挨拶
「確かな雇用・確かな未来」への道を
我われ自身の力と英知で
主体的に切り拓く


金属労協議長 西原浩一郎

金属労協・IMF−JC第48回定期大会にお集まりの代議員・傍聴の皆さん。大変、ご苦労様です。
また本定期大会には、連合を代表して高木会長、海外から本年5月のIMF世界大会でのマルチェロ・マレンタッキ前書記長の退任に伴い、新たに書記長に選出された北欧金属労連出身のユルキ・ライナ書記長、引き続き書記次長に選出されたJC出身の鎌田書記次長にご来賓としてご臨席いただきました。全員の拍手で、感謝と歓迎の意を表したいと思います。


◆衆議院議員選挙 金属労協推薦候補者全員当選 協力いただいた皆さんに心から敬意
さて大会冒頭にあたり、まずは8月30日投開票で施行された第45回衆議院議員選挙において、我われの支援する民主党が単独で過半数を圧倒的に制する歴史的な勝利により政権交代を果たしたことを全員で喜びあいたいと思います。同時に金属労協推薦候補者への取り組みをはじめ、全国各地で政権交代に向け奮闘し、この夏の選挙戦を戦い抜いた金属労協の各産別・企連・労組の皆さんに心から敬意を表します。おかげさまで金属労協推薦候補者も全員の当選を果たすことができました。

今回の衆議院議員選挙の結果に関して申し上げれば、これまで特に小泉政権以降の新自由主義路線・ネオリベラリズムに基づく政府・与党の政策展開の下、社会的公正が後退し、社会の連帯も希薄化しました。また競争至上・効率最優先の政策推進とその方向に沿った産業・企業行動により、良質な日本社会の基盤が崩れつつあり、様々な分野で格差が拡大し、貧困問題が顕在化するとともに、雇用そして年金・医療・介護等社会保障制度のセーフティネットが劣化の道を辿ってきました。国民はこのような政治・社会・経済の流れの中で不満と不安を高めてきたわけであり、今回の選挙結果は、時代の流れを大きく転換すべき、すなわちパラダイムチェンジを図るべきとの国民の意思が、明確に表明されたものと考えます。

したがって民主党には、これからの日本の進路選択が委ねられたことへの歴史的な意義を踏まえ、国民の意思と、その思いに応え、社会の公正を求める立場から、雇用と暮らしの安心・安定を期待する勤労国民の視点での政策推進と改革を積極的に進めてもらいたいと思います。また金属労協としても、JCに集う産業・企業の健全発展と働く者の生活を守り高めるための政策制度の改革・改善に向け、「民間・金属・ものづくり」の観点から、民主党との政策協議を中心とする連携を従来以上に強め、政策実現力を高めていきたいと考えます。

◆国際労働運動 IMF新たな執行部体制選出とアクションプログラムを決定
次に金属労協の活動について申し上げたいと思います。
はじめに国際労働運動の分野です。IMFは4年に一度の世界大会をスウェーデン・イェテボリで5月に開催し、世界の金属労働者が、今、直面している危機の実態と、その背景の本質についての認識を大会参加者が共有する中で、IGメタルのベオトルト・フーバー新会長・ユルキ・ライナ新書記長を中心とする新たな執行部体制を選出するとともに、今後4年間の運動方針となるアクションプログラムを決定いたしました。
すなわち世界の金属労働者が直面する危機と、その背景の本質ということで申し上げれば、それはグローバル経済化が進む中で、経済効率の高さをあらゆる価値の上位に置き、多くの問題を自由で競争的な市場に委ねることで解決しようとする「市場競争至上主義」「市場原理主義」の行過ぎた弊害であり、例えば強者の論理に基づく弱者の切り捨て、その被害者の多くは移民労働者、非正規労働者等の不安定労働者であります。そしてまた配分構造のゆがみによる格差の拡大、貧困問題、倫理無き金融資本のもたらす生活破壊、環境問題等々であります。
特にまた、昨年秋以降の世界金融危機・世界同時不況は世界各国の金属労働者の雇用と生活に、極めて重大な脅威を与え続けているということであります。

私は市場経済体制とグローバル経済化こそが、豊かな生活をもたらし、市場における競争が技術・流通革新、すなわちイノベーションを通して暮らしの利便性を高めている現実を否定すべきではないと思いますし、また途上国が経済発展と貧困からの開放を目指すためにもグローバル経済化は必然と考えます。
すなわち、行過ぎた負の部分を排除し、国際的に健全な市場経済体制を築いていくための、公正・安定と効率を調和させるバランス感覚を世界が取り戻すための力と英知こそがIMFには求められているということであり、そのための取り組むべき課題を世界大会で確認したことの意義は大きいと考えます。
IMFは今後、グローバルな連帯を強化しつつ、アクションプログラムに沿って金属労働者の権利や雇用・生活を守るための活動を推進することになりますが、金属労協・JCとしても、その一翼を担いIMFにおける責任と役割をしっかりと果たしていかなければなりません。特にユルキ・ライナ書記長の、バランス感覚を持って、ゆるぎない信念のもとで活動に取り組む姿勢に敬意を表すると共に、最大限のバックアップに努めたいと思います。
特に金属労協としては多くの日系企業が進出するアジアに焦点をあてて連帯強化の観点から金属労協が呼びかけて発足した「アジア金属労組連絡会議」の場なども活用し、アジアの金属労働運動の多様性と現実を直視しつつ、健全な労使関係を構築することで労使紛争の未然防止につなげること。そして万が一、労使紛争が発生した場合にはIMF本部はもとより、日本の関係する産別・労組との連携により、現地の労働組合を適切にサポートし早期解決に努力する必要があります。
なおIMF世界大会では、東芝インドネシアにおける労使紛争への支援が決議されました。本件については以降、金属労協としても電機連合および東芝労組と連携し、紛争の解決に向けた様々、懸命な努力を積み重ね、先日、関係者の努力により、労使合意に至ったところですが、現状、経済危機を背景に、アジアにおける日系企業の労使紛争は、増加傾向にあります。各産別・労組の立場からも現地労働組合とのコミュ二ケーションルートの強化を通しての一層の目配りと、金属労協と連携した迅速、かつ適切な対応に努めていただきたいと思います。金属労協としても海外労使紛争防止に関する労使セミナーを、経営側の参加体制を強化しながら、さらに内容の充実に努めてまいります。

◆経済危機・雇用危機 乗り切っていくための活動を方針の第一義として努力
次に国内の活動分野について二点、触れたいと思います。一点は政策制度の取り組みです。
昨年秋以降の世界金融危機・世界同時不況は、日本の金属産業全体に極めて甚大な打撃を与えました。
外需の激減と国内の消費減退により国内外で、市場が「蒸発」したとも形容される状況下で、各国通貨に対する円高も加速し、一部の業種を除き、総じて金属産業は生産・収益状況、とりわけ働く者の雇用と生活に深刻な影響を受ける事態に立ち至りました。
特に自動車産業、電機・電子産業を中心とする在庫削減と設備投資抑制の影響は、金属産業全体に波及しましたが、今回は、企業の資金調達環境が急速に悪化したことも背景に、減産規模が大きく、その調整スピードが圧倒的に早かったことにその特徴があります。このような事態を受け、金属労協の各企業では、残業・休出の削減、交代シフトの変更、非稼働日設定、一斉年休、一時帰休、操業短縮等で対応せざるをえず、このことは派遣労働者・期間従業員など非正規労働者の雇い止め等の状況をもたらしました。また事業再編・事業所レベルでの閉鎖等が拡大し、中小企業を中心に経営破たん・倒産も発生いたしました。
各産別・労組には、これらの状況に対応し、非正規労働者も含め働く者の雇用と生活を最大限守り抜く観点から、懸命な労使交渉・協議を精力的に展開していただきましたが、金属労協としても、今回の危機的な事態に対し、政府・関係省庁等に対する要請活動として、昨年12月の「非正規労働者の雇用情勢の悪化に対する緊急要請」を皮切りに、2月・3月の「雇用危機を打開し、勤労者生活の底支えを図る緊急的な雇用対策」、6月の「良質な雇用の創出とその環境づくり」等、政策制度の取り組みを強化してまいりました。
一連の取り組みの主な主張は
@非正規労働者の皆さんの雇用の場の確保・生活支援を中心とする社会的セーフティネットの拡充・強化
A企業内で雇用維持を図るための雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金の拡充と利便性の向上
B当面および中長期を見据えた、環境対応の新商品への買い替え・新規購入促進による内需喚起、グリーン分野における雇用維持・創出でありましたが、連合の政策制度の取り組みと、金属労協各産別独自の取り組みとの連動も相俟って、多くの分野で政策実現につなげることができたものと考えます。
なお在庫削減の効果や中国をはじめとする新興国需要の堅調さ、および日本も含めた各国政府の需要喚起に向けた経済対策効果等もあり、金属産業の生産・販売動向等については、最悪の状況からは脱しつつあるとはいえ、そもそも絶対水準的には未だ厳しい状況にあることは否定できません。日本をはじめ各国の景気対策は需要の先食い的な要素もはらんでおり、為替動向の不透明さもあることから、この先、持続的な景気回復・市場の本格的な活性化につながるとの確信は未だ持ち得ないというのが率直な認識です。むしろ、既に危機的レベルにある日本の雇用状況は、この先さらなる悪化が懸念されており、雇用調整助成金の受給状況等をみれば、我われは引き続き危機感をもって、事にあたるべきであります。
したがって金属労協としては、当面の間、過度の外需依存から内外需バランスのとれた経済構造へ転換する方向で、国民の雇用と暮らしに焦点をあてて機動的な経済・金融政策を推進すべきであるし、その際、日本も含め世界の経済構造が、資源・エネルギーや地球環境問題等の制約、今後の米国の過剰消費構造の修正が世界経済に与える影響、新興国市場の拡大等によって、大きな構造的転換期にあるとの認識をもち、当面の対応と併せ、これと整合性の取れた未来志向の経済・産業政策を重視すべきと考えます。
なお産業政策の観点からは、資源小国・日本において、多くの分野で高度な技術・技能基盤を有するものづくり産業、とりわけ金属産業の日本経済全体に与える影響の大きさや雇用吸収力の高さを踏まえ、金属産業の国内事業基盤を維持・確保し、そのポテンシャルをさらに高める方向での政策推進がなされるべきだと考えます。また、ものづくりに関わる優秀な中小企業の存在と集積こそが、日本のものづくり全体の強みであることを十分認識した取り組みが重視されるべきであります。
このような観点からは、当然、我われ自身の取り組みとの関係でも、金属産業の基盤を成し、その国際競争力の源泉こそが、働く者そのものにあることを企業経営者に、あらためて強く認識してもらわなければなりません。 いろいろ申し上げましたが、したがって金属産業労使には、まずは足元の雇用を何としても維持・確保し、働く者の生活を守るために集中して努力することが求められます。その上で働く者一人ひとりの意欲・活力・モチベーションの維持・向上や、技能・技術の確保・継承・育成などの観点から、「人への投資」が経営政策の最上位に置かれなければならないし、特に働く者の意欲・活力・モチベーションを阻害するものを職場から排除する方向で労使が努力していかなけばなりません。
また、そのためにも今こそ、将来を見据え、求めるべき、そして目指すべき良質な雇用・労働のあり方、追求すべき働き方についての労使の検討を、より深めていく局面にあると考えます。
いずれにしても金属労協として、将来を展望しつつ、経済危機・雇用危機を乗り切っていくための活動を活動方針の第一義として努力してまいります。


◆春季生活闘争・JC共闘 産別の意思を結集した取り組みを展開、今後へのステップになる
二点目は、春季生活闘争・JC共闘について、触れたいと思います。
2009年闘争において金属労協は、日本経済を牽引する基幹産業としての位置づけにふさわしい賃金水準の追求を基本に、個人消費の落ち込みを最大限くい止め、内需喚起による景気の下支えを図る観点、および物価上昇による賃金の目減り分を補填し実質生活の低下分を回復させる観点等を重視して、連合方針を踏まえ、「実質生活の維持をはかるため物価に見合う要求を行う。」との方針を掲げ、各産別がその趣旨に沿った主体的・自主的な具体的要求方針を確立し取り組みを進めました。
しかしながら要求検討段階以降、交渉過程において、月を追って、日を追って生産・販売が激減し、おしなべて産業・企業環境が未曾有の危機的状況に陥り、先行き不透明感が高まる中、金属労協全体が、過去に例の無い厳しい労使交渉を余儀なくされました。
結果として賃上げが、要求趣旨との関係からは、不十分なものであったことは率直に認めざるをえませんが、交渉最終段階における各産別・労組の懸命かつ粘り強い取り組みにより、概ね、賃金の下支えと活力維持の観点からギリギリの水準となる賃金構造維持分を確保できたこと、また物価上昇が賃金決定の重要な要素であることを経営側に再認識させたこと、また雇用確保の決意をあらためて労使で確認できたこと等は、評価できるものと考えます。
JC共闘としては、取り組み環境を考えれば、求められる労働組合の社会的役割、および共闘の意義に関わる共通認識を醸成することで、産別の意思を結集した取り組みを展開できたものと考えますし、今次取り組みは、今後の取り組みへの貴重なステップになると考えます。
ここで最後まで、こだわりをもって交渉第一線で労使交渉を積み重ね、奮闘された組合役員の皆さんに議長の立ち場からも、敬意を表したいと思います。
なお2010年闘争については、これから論議・検討をスタートさせますが、職場を基点に、様々な検討要素と諸情勢を慎重に見極めながら、マクロとミクロの視点をしっかりとつなぎ、その適切なバランスの中で、具体的な取り組み方向を見定めてまいります。
また金属労協として、本年、発足した連合の部門共闘の強化に向け、取り組み全体を、JC共闘から、より部門共闘へシフトする方向で努力していきたいと思います。取り組み課題の整理を踏まえての、今後の検討・論議への積極的な参加を要請いたします。

なお、このことを含め、金属労協のあるべき姿の検討については、改革の全体像の認識の共有化に努めながら、必要な改革を2011年度から着手する方向で、来年の大会では、その考え方と改革方向を、より明確に提案できるよう努力してまいります。


◆最後に
最後に、我われの前には。課題が山積していますが、「確かな雇用・確かな未来」への道を、我われ自身の力と英知で主体的に切り拓くことを大会参加者全員で確認し、大会冒頭にあたっての議長挨拶といたします。 ご清聴、ありがとうございました。