第44回協議委員会

金属労協議長挨拶

鈴木勝利金属労協議長

国民生活の安定と水準の回復に向け全力で取り組む覚悟

 本協議委員会は、今さら申し上げるまでもなく、2002年闘争に対する金属労協としての方針を決定する重要な会議であります。まず、冒頭に真摯なご討議をお願い申し上げておきたいと思います。

●現在の経済・社会情勢
 さて、現在の経済・社会情勢を直視したとき、私たちは失われた10年と言われる状況からの脱却を果たすことができずに、さらに閉塞感が高まっている混迷した状況と言わざるを得ない思いであります。
 政府は「聖域なき構造改革」を旗印に、この難局を乗り越えることに全力を傾注していますが、構造改革後の日本の姿が真に国民生活の安心・安定と公正な社会の構築を目指すものであるとするならば、政府の改革内容には疑問を投げかけざるを得ません。また、日本経済の基幹的産業である製造業の活力を引き出す長期的な施策に関しても、不十分と言わざるを得ません。
 先般発表された構造改革の先行プログラムについても、金属労協として点検し発表しておりますが、最も重大視する雇用対策において、財源的にもその方策としても、全く不十分な内容と言えます。また、社会保障制度の確立や財政・行政改革、そして金融政策等、国民の将来不安に対して適切な施策が未だ提起されていない状況と言えます。
 日本は今、デフレ・スパイラルの入り口に差しかかっています。何としてもこれ以上の悪化は阻止しなければなりませんが、構造改革の着実な実施とともに、国民生活の安定とその水準の回復を図ることが喫緊の課題で、金属労協としても全力を挙げて取り組む覚悟です。
2002年闘争方針の確立に向けて
 本会議は、2002年闘争について、日本経済全体を覆う極めて深刻な不況という側面と、一方では産業、業種、企業における業績格差が著しくばらつく中で、金属労協全体をどのようにまとめていくのかという、JC共闘そのもののあり方を問う難しい闘争方針を確立する協議委員会であります。
 こうした状況を受け、JCとしては、例年より早く三役会議、書記長会議、常任幹事会、労働政策委員会等を通じて検討をしてきました。そして何よりも、現下の経済状況が抱える構造的な課題の中から金属産業全体に共通する問題を抽出し、それらに対する共通認識を共有すると同時に、産業環境が違う金属産業全体を包み込む方針の確立に全力を挙げてまいりました。
 産業構造は欧米を問わず、その成熟度に応じて第一次産業から第二次産業、そして第三次産業へシフトしていくとされています。その推移と全産業内における金属産業の雇用動向、そして、資源もなく、貿易加工立国を宿命づけられている日本経済の中で、国際競争力の担い手としての金属産業が、今後どのような道を歩んでいくのかという、より基本的な、より根源的な命題について議論を交わしてまいりました。


●日本経済を支える製造業・金属産業の置かれている現状
 1990年から2000年まで約10年間の就業者数の推移を追ってみると、日本の第一次産業は7.2%から5.0%へ減少、これはイタリアとフランスに近く、アメリカ、ドイツ、イギリスが1〜2%ですから、それと比べても多い比率となっています。
 第二次産業・製造業は、日本が34.1%から31.2%へと微減していますが、これはドイツ、イタリアに似通っており、アメリカの23%、イギリス、フランスの24〜25%と比べれば高い就業者比率となっています。
 第三次産業は、日本においては58.7%から63.7%へと増加を続けていますが、これもドイツ、イタリアと同様の傾向となっております。アメリカ、イギリス、フランスはいずれも70%台に達しており、日本が就業構造においてもアメリカ型になるのか否なのかは実に興味深いことはもちろんですが、金属産業としても重大な関心を持っていかなければならない問題であると思っています。
 一方、こうした就業構造の変化の中で、金属産業就業者数の全産業に占める比率は、90年の11.6%から、99年には10.1%、2000年にはついに10%を切り9.9%と落ち込むことになりました。
 ここで問題なのは、就業者数の落ち込み自体ではなく、もう一つの統計が示す産業別の輸出入額の推移なのであります。日本の産業において、輸入より輸出が上回る、すなわち国際競争力を持ち、貿易黒字を記録している産業の中心は、自動車、鉄鋼、造船、電機、一般機械、精密機械など金属産業で占められていることなのであります。今年9月までの月例の貿易黒字は15カ月間連続して減少しており、4−9月期の貿易黒字額は前年同期比43%も減少しました。


●国際競争力の観点からも「社会的合意形成」は喫緊の課題
 今日の金属産業の多くが抱える国際競争力の低下問題は、数年後には日本が赤字国に転落し、国際通貨基金の管理下に入るのではという危惧を現実にする可能性も秘めております。その競争相手は欧米の先進国のみではなく、技術力も製造能力も力をつけてきた発展途上国、とりわけ中国を中心にしたASEAN諸国の動向が脅威となりつつあります。
 もちろんそれぞれの産業が置かれている環境によって影響を異なりますが、かつて先進国・欧米が日本の金属産業に駆逐された軌跡を考えてみれば、やがてかつての欧米の経緯を日本が味わうことは時間の問題なのでありましょう。その中で、アメリカやヨーロッパ諸国がどのように金属産業を維持し、発展途上国の脅威に対抗してきたのかを、私たちは学ばなければなりません。
 今年9月の大会で中間報告がなされている、「社会的合意形成」は、今や国際競争力の観点から喫緊の課題になっております。11月21日に開催した金属産業労使会議においても、こうした課題に対する新しい労使関係を模索する方向で共通の認識を確立し、今後、事務レベルでどのような方法をもって合意づくりを行っていくのかを詰めていくことで意見の一致をみました。


●2002年闘争の基本姿勢
 こうした基本的な課題認識を持つ一方で、差し迫った2002年闘争に対しては、産業間の業況の相違を認め合うこととし、10月15日の三役会議では、時期としても例年より早く基本姿勢を確認したものであります。
 1つには、雇用確保を基本とし、今日、懸念されるデフレ・スパイラルの阻止に向け、所得の安定を確保するため、最低でも賃金構造維持分を確保することとし、さらに従業員の協力によって生産性の向上が図られ、当然報われてふさわしい産業・企業が取り組むベア交渉を、JC全体の共闘で支え合っていくことにしたものであります。その三役会議での基本的考え方をもとに、その後の書記長会議、労働政策委員会での議論を経て提案をされているのが、本日の方針であります。
 雇用確保を中心に取り組む産別も、ベア交渉に取り組む産別も、それぞれが難しい課題を抱えている中での交渉になります。
同時に、政府の構造改革に対して、金属労協が提唱する政策課題を着実に実現させる運動が今まで以上に重要となっています。
 本日の会議が、皆さんの真摯な討議を通じてより良い方針となりますようお願いを申し上げ、冒頭のごあいさつとさせていただきます。

<このページのトップへ>

<目次に戻る>