1.はじめに
第60回定期大会では、2022~2023年度にわたる2年間の運動方針を提起した。後半の一年間の活動を提起する2023年度活動方針は、「活動と組織の改革」の実現目標を2024年度(2023年9月~)に置いた新しい金属労協のあるべき姿に向けた具体的改革の最後の一年となる。この位置づけを強く意識しながら、活動方針を提起する。
2.基本的な考え方
2.1 組織改革に向けた具体的活動と残された課題
組織財政検討プロジェクトチームの示した「『新しい金属労協』の活動分野を、国際労働運動と人材育成に絞り込み、さらなる充実とそれに向けた体制や運動の進め方の改革を行う」方針に基づき運動を進めてきた。
連合との関係については、部門別連絡会議議長・事務局長会議において金属労協としての考えを明らかにするとともに、金属部門が先行して取り組みを進めることについて了解を得た。引き続き、産業別の活動をいかに連合の運動として進化させていくのか、金属労協から提起することで前進を図りたい。
国際労働運動については、これまでの活動を精査しながら運動の質を向上させるとともに、インダストリオールとの連携強化やそれに資する本部や地域事務所への人員配置を果たした。これまで以上に、内外に向けた発信力を強化するとともに、それに伴う責任を果たすことが求められる。また、国際産業政策への取り組みの一つとして、人権デュー・ディリジェンスを重点テーマとしてかかげ、協議委員会でそのスタートを切った。具体的には、パンフレットなどによる理解浸透から始め、各産別・単組への運動の波及を促進するために「人権デュー・ディリジェンスにおける労働組合の対応ポイント」を作成した。また、政府の作るガイドラインへの政府・政党等への要請活動を行ってきた。国際分野と政策分野の連携により実現できた活動であるが、今後、同様の取り組みの充実を図っていきたい。
人材育成については、労働リーダーシップコースをはじめとする定例的な研修セミナーに加え、労働組合役員として知っておくべき基本知識である経済学やDXに関する入門セミナーを開催した。運営方法やテーマ設定など、今後のあり方に資するものとなったが、この経験を活かしながら、人材育成方針を充実させていきたい。
春季生活闘争(JC共闘)、産業政策、労働政策などの活動については、将来的にはその運動主体を連合(連合産業別活動センター(仮称))に移していくとしながらも、連合活動としてスタートするまでの間は引き続き金属労協の運動の柱として位置づけられる。さらに、これを契機として、産別や連合などの他組織との関係の中で金属労協としての運動として行うべき金属労協ならではの活動に特化する、効果的な運動の推進をめざしてきた。また、具体的な運動推進においては、産業政策策定のために、政策委員によるワーキングチームを立ち上げ、政策の柱を検討する初期段階から連携をとりながら進めるなど、これまでのやりかたを変える取り組みも行ってきた。この取り組み方法を、他の運動にも広げるとともに、さらなる運動の充実を図る。
財政については、今のところ海外出張がほとんどないため、単年度での支出超過はそれほど大きくない状態であるが、今後海外との往来が増えるに従い、財政状況は厳しくなることが予想される。効果的な運動の推進を図りつつ、持続可能な活動を推進できるよう、引き続き努力を続ける。
2.2 直面する主な課題について
昨年の運動方針で掲げた主な課題は、次の4つである。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する取り組み
- DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
- カーボンニュートラルへの対応
- 貿易・産業政策への取り組み
新型コロナウイルス感染症に関する取り組みは、パンデミックが当面終息する見込みのない現状を見ると、少なくともこの1年間は継続する課題である。グローバルサプライチェーンにおける産業的な課題とともに、雇用への直接的・間接的影響も労働組合として看過できない課題である。インダストリオールなどの国際的な場での議論に参画するとともに、引き続き労働組合のグローバルなネットワークを生かしながら課題解決に向けた活動を行うことが求められている。
DXとカーボンニュートラルへの対応については、策定した産業政策の中で具体的な対応について提起している。カーボンニュートラルに関しては、ロシアのウクライナ侵攻やミャンマーの軍事政権台頭などの国際情勢の不安定化により、エネルギー安全保障の面からさらに難しい課題がつきつけられるようになった。再生可能エネルギーがどこまで安全保障に寄与することができるか不明な中で、石炭やガス、石油などの化石燃料に依存しないエネルギー供給体制をどのように構築するか、現実を直視した上でさらなる冷静な議論を行っていく。
貿易・産業政策で直面する課題として、人権デュー・ディリジェンスへの取り組みをすすめてきた。政府のガイドライン(案)が示されたが、労働組合の関与などについては残念ながら我々が求めた内容になっているとは言えない。これから企業での取り組みが一層推進されることになるが、労働組合が人権デュー・ディリジェンスに関与する重要なステークホルダーのひとつであることを労使協議で訴えることができるよう引き続き支援を行う。
3.運動をとりまく情勢
3.1 国内情勢
(1)経済情勢
2021年度のわが国の実質GDP成長率は2.2%となった。コロナ禍からの持ち直しを受け、内需、外需ともに前年比プラスに転じた。2022年度の実質GDP成長率予測は、7月時点の政府見通しは2.0%、日銀見通しは2.4%、民間調査機関の予測の平均は2.0%となっている。
鉱工業出荷は、全体としてはコロナ禍以前の水準に回復して以降、横ばいが続いている。設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)は、回復が続いている。
経済活動の動向を敏感に観察できる人々に対するアンケート調査である「景気ウォッチャー調査」では、景気は緩やかに回復している。
輸出金額は、コロナ禍の落ち込みを上回る前年比プラスが続いている一方、輸入金額が大幅に増加していることを受け、貿易収支は大幅な赤字が続いている。
消費者物価上昇率は、資源、エネルギー価格の高騰や急激な円安の進展などにより、2022年7月(予測)には2.5%となった。コロナ禍からの回復に加え、ロシアのウクライナ侵攻により、WTI原油先物価格が3割以上上昇し、小麦、トウモロコシなどの穀物価格も同様に大幅に上昇している。
完全失業率は、2022年1月以降はやや低下し、6月は2.6%となっている。有効求人倍率は緩やかに改善しており、2022年6月は1.27倍に上昇した。
新規求人数の増加率は大幅な増加が続いており、金属産業の増加率は産業計のそれよりも大きい。
倒産件数について、2022年1~6月の累計では3,045件と前年同期比1.2%で減少した。金属産業は136件で13.6%増となっているものの、コロナ禍前を下回る水準が続いている。
企業業績について、日銀短観によると、売上高はほとんどの産業で増収の予想となっている。経常利益は、原材料価格高騰の製品価格への転嫁が困難との見通しから、製造業全体では1割弱の減益予想となっているが、コロナ禍前の水準は大幅に上回っている。
(2)政治情勢
2021年10月4日に、岸田内閣が発足した。2021年10月15日、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、「新しい資本主義実現会議」を設置し、2021年11月8日には、「緊急提言」を取りまとめた。緊急提言では、成長戦略として、科学技術立国の推進、スタートアップの徹底支援、「デジタル田園都市国家構想」の起動、経済安全保障を掲げた。また、分配戦略については、賃上げの機運醸成、男女間の賃金格差の解消、税制支援の強化、取引適正化のための監督強化等をあげた。
2021年10月22日、第6次エネルギー基本計画を策定し、「2050年カーボンニュートラル」「2030年度の温室効果ガス排出46%削減、さらに50%削減の高みを目指す」という目標の実現に向けて、エネルギー政策の道筋を示した。再生可能エネルギーの導入促進と国民負担の抑制、原子力発電の再稼働、水素・アンモニアの社会実装加速等が盛り込まれた。
2021年12月27日、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を確認し、労務費、原材料費、エネルギーコスト上昇分を適切に転嫁していくため、政府横断的な転嫁対策の枠組みを創設した。
2022年6月7日に確認された「経済財政運営と改革の基本方針2022」では、新しい資本主義への重点投資分野として、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「デジタルトランスフォーメーション」をあげた。環境変化への対応としては、「外交・安全保障の強化」「経済安全保障の強化」「エネルギー安全保障の強化」「食糧安全保障の強化」「対外経済連携の促進」等に取り組むこととした。また、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつも、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」等の記述が盛り込まれた。
3.2 国際情勢
(1)経済情勢
世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻やインフレの長期化により、2022年のGDP成長率の見通しは2.9%となった。ウクライナ侵攻の影響が大きいユーロ圏は大幅に見通しの下方修正となっている。
米国は、2021年の実質GDP成長率は5.7%となったが、2022年以降はマイナス成長が続いている。インフレが40年ぶりの水準となる中、FRBは2022年3月から積極的な金融引き締めを実施しており、景気後退懸念が高まっている。
ユーロ圏は、ワクチンの普及により対面サービス産業が活性化する一方、ロシアのウクライナ侵攻により資源価格が上昇し、経済の下押し圧力となっている。消費者物価上昇率は、2022年5月に8%を超え、ECB(欧州中央銀行)の目標である2%を大きく上回っていることから、ECBはコロナ禍で導入した量的金融緩和を終了し、7月には11年ぶりの利上げを実施した。
中国は、2022年1~3月期はGDP成長率は前年比で4.8%となったものの、4月には上海市が事実上の都市封鎖(ロックダウン)を実施したため大幅に失速した。5月以降は正常化に向けて動いているものの、新型コロナの感染再拡大やロシアに対する経済制裁の波及が引き続きリスクとなっている。
東南アジアでは、2022年はじめに新型コロナの感染再拡大があったものの、都市封鎖など厳しい活動制限措置までは実施しなかったため、経済活動への影響は限定的となり、景気は回復傾向を維持している。一方、物価上昇と米国の金融引き締めに伴う金融引き締めは経済の下押し圧力となることが懸念される。
(2)政治情勢
2022年2月24日、ロシアは、ウクライナ各地への侵攻を開始した。これに対して、3月2日、国連総会の緊急特別会合は、ロシアの即時撤退を求める非難決議案を141カ国の賛成多数で採決した。米国、EU、日本などでは、ロシア中央銀行の外貨準備の凍結、ロシア大手7銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除、ロシアを最恵国待遇の対象から排除するなどの制裁を科した。ウクライナに対しては、人道的支援、経済的支援、軍事的支援を行っている。
2022年6月26~28日に開催されたG7エルマウ・サミットでは、ロシアへの制裁強化とウクライナへの支援拡大で合意し、途上国への食料の安定供給のため45億ドル(約6,000億円)を追加拠出することとした。
米国は、2022年2月11日には、アジア、インド、オセアニア地域の安全保障や経済連携の方針を示す「インド太平洋戦略」を発表した。新たな経済連携の枠組みを立ち上げる他、台湾の防衛力の向上を支援する方針を示し、中国に対抗して地域への関与を強める姿勢を明確にした。
2022年5月23日、バイデン大統領は、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の始動を表明し、中国に対抗してサプライチェーン(供給網)の再構築やデジタル貿易のルールづくりなどで連携することとした。
中国上海市では、2カ月以上にわたってロックダウンが続き、2022年6月1日に解除された。ロックダウンにより生産や物流が長期間停止したことにより、サプライチェーンが寸断され、半導体等の部品不足の影響が世界に及んだ。
韓国では、2022年5月10日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が就任し、5年ぶりに保守政権が発足した。
4.活動方針
4.1 国際連帯・国内外での建設的労使関係構築に向けた活動
国際連帯活動
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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多国籍企業労組ネットワーク構築
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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国際人材育成
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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日本の労使への建設的労使関係構築の理解促進
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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4.2 次世代の加盟産別・単組の活動を担う役員の育成とスキルアップを支援するための活動
教育活動
4.3 金属産業政策
産業横断特定テーマに関する金属産業政策立案・実現
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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4.4 労働政策
金属共闘
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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特定最低賃金
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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4.5 地方活動
地方ブロック活動
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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4.6 情報発信
電子メディアに特化した情報発信
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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4.7 財政運営
単年度収支均衡に向けた財政状況の改善
目的 |
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課題・背景 |
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具体的な 運動 |
2022年度の具体的運動の評価 | 2023年度の具体的運動 |
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5.おわりに
2023年度は、2021年第59回定期大会からはじまった3年間の「新しい金属労協に向けた準備期間」の最後の1年間となる。
この2年間、新しい金属労協に向けた準備を行ってきた。将来的な連合への活動の移行という組織改編への準備を意識しながらも、むしろ金属労協の50年を超える歴史の中で積み上げてきた運動を、金属労協として継続すべき必要不可欠な活動に集中するべく、運動の整理を行い、限られた力を効果的に使えるような産別を交えた体制や運動項目の集中を図ってきた。この1年も継続して取り組んでいく。一方、連合への運動移行に関する議論はこれから本格化する。これまでの議論においては、他の部門別連絡会議に先んじて連合における産業に根差した運動を進めることについて、連合本部によって確認されている。今後進めることになる連合との議論の中で、産業を意識した活動をいかに連合の運動として進化させていくのかについて、金属労協として考える姿を提起し、具体化に向けて前進を図りたい。
この変革の発端となった財政状況については、支出の大きな部分を占める海外への渡航がコロナ禍により中断していることもあり、単年度での支出超過はそれほど大きくない。しかしながら、海外への渡航が徐々に再開し始めており、今後財政は厳しい状況に置かれる。加えて、インダストリオール会費が、スイスフラン高になっていることから、支払う円建ての会費は大幅に増加している。この背景から、2023年度は財政的に厳しい状況に戻ることが予想されるため、より一層の効率的な運営を進める。加えて、インダストリオール会費支出については、金属労協本来の運動を制限せざるを得ない状況に陥らないよう、対策を検討する。