金属労協 2023年度活動方針

1.はじめに

 第60回定期大会では、2022~2023年度にわたる2年間の運動方針を提起した。後半の一年間の活動を提起する2023年度活動方針は、「活動と組織の改革」の実現目標を2024年度(2023年9月~)に置いた新しい金属労協のあるべき姿に向けた具体的改革の最後の一年となる。この位置づけを強く意識しながら、活動方針を提起する。

2.基本的な考え方

2.1 組織改革に向けた具体的活動と残された課題

 組織財政検討プロジェクトチームの示した「『新しい金属労協』の活動分野を、国際労働運動と人材育成に絞り込み、さらなる充実とそれに向けた体制や運動の進め方の改革を行う」方針に基づき運動を進めてきた。
 連合との関係については、部門別連絡会議議長・事務局長会議において金属労協としての考えを明らかにするとともに、金属部門が先行して取り組みを進めることについて了解を得た。引き続き、産業別の活動をいかに連合の運動として進化させていくのか、金属労協から提起することで前進を図りたい。
 国際労働運動については、これまでの活動を精査しながら運動の質を向上させるとともに、インダストリオールとの連携強化やそれに資する本部や地域事務所への人員配置を果たした。これまで以上に、内外に向けた発信力を強化するとともに、それに伴う責任を果たすことが求められる。また、国際産業政策への取り組みの一つとして、人権デュー・ディリジェンスを重点テーマとしてかかげ、協議委員会でそのスタートを切った。具体的には、パンフレットなどによる理解浸透から始め、各産別・単組への運動の波及を促進するために「人権デュー・ディリジェンスにおける労働組合の対応ポイント」を作成した。また、政府の作るガイドラインへの政府・政党等への要請活動を行ってきた。国際分野と政策分野の連携により実現できた活動であるが、今後、同様の取り組みの充実を図っていきたい。
 人材育成については、労働リーダーシップコースをはじめとする定例的な研修セミナーに加え、労働組合役員として知っておくべき基本知識である経済学やDXに関する入門セミナーを開催した。運営方法やテーマ設定など、今後のあり方に資するものとなったが、この経験を活かしながら、人材育成方針を充実させていきたい。
 春季生活闘争(JC共闘)、産業政策、労働政策などの活動については、将来的にはその運動主体を連合(連合産業別活動センター(仮称))に移していくとしながらも、連合活動としてスタートするまでの間は引き続き金属労協の運動の柱として位置づけられる。さらに、これを契機として、産別や連合などの他組織との関係の中で金属労協としての運動として行うべき金属労協ならではの活動に特化する、効果的な運動の推進をめざしてきた。また、具体的な運動推進においては、産業政策策定のために、政策委員によるワーキングチームを立ち上げ、政策の柱を検討する初期段階から連携をとりながら進めるなど、これまでのやりかたを変える取り組みも行ってきた。この取り組み方法を、他の運動にも広げるとともに、さらなる運動の充実を図る。

 財政については、今のところ海外出張がほとんどないため、単年度での支出超過はそれほど大きくない状態であるが、今後海外との往来が増えるに従い、財政状況は厳しくなることが予想される。効果的な運動の推進を図りつつ、持続可能な活動を推進できるよう、引き続き努力を続ける。

2.2 直面する主な課題について

 昨年の運動方針で掲げた主な課題は、次の4つである。

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する取り組み
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
  • カーボンニュートラルへの対応
  • 貿易・産業政策への取り組み

 新型コロナウイルス感染症に関する取り組みは、パンデミックが当面終息する見込みのない現状を見ると、少なくともこの1年間は継続する課題である。グローバルサプライチェーンにおける産業的な課題とともに、雇用への直接的・間接的影響も労働組合として看過できない課題である。インダストリオールなどの国際的な場での議論に参画するとともに、引き続き労働組合のグローバルなネットワークを生かしながら課題解決に向けた活動を行うことが求められている。
 DXとカーボンニュートラルへの対応については、策定した産業政策の中で具体的な対応について提起している。カーボンニュートラルに関しては、ロシアのウクライナ侵攻やミャンマーの軍事政権台頭などの国際情勢の不安定化により、エネルギー安全保障の面からさらに難しい課題がつきつけられるようになった。再生可能エネルギーがどこまで安全保障に寄与することができるか不明な中で、石炭やガス、石油などの化石燃料に依存しないエネルギー供給体制をどのように構築するか、現実を直視した上でさらなる冷静な議論を行っていく。
 貿易・産業政策で直面する課題として、人権デュー・ディリジェンスへの取り組みをすすめてきた。政府のガイドライン(案)が示されたが、労働組合の関与などについては残念ながら我々が求めた内容になっているとは言えない。これから企業での取り組みが一層推進されることになるが、労働組合が人権デュー・ディリジェンスに関与する重要なステークホルダーのひとつであることを労使協議で訴えることができるよう引き続き支援を行う。

3.運動をとりまく情勢

3.1 国内情勢

(1)経済情勢

 2021年度のわが国の実質GDP成長率は2.2%となった。コロナ禍からの持ち直しを受け、内需、外需ともに前年比プラスに転じた。2022年度の実質GDP成長率予測は、7月時点の政府見通しは2.0%、日銀見通しは2.4%、民間調査機関の予測の平均は2.0%となっている。
 鉱工業出荷は、全体としてはコロナ禍以前の水準に回復して以降、横ばいが続いている。設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)は、回復が続いている。
 経済活動の動向を敏感に観察できる人々に対するアンケート調査である「景気ウォッチャー調査」では、景気は緩やかに回復している。
 輸出金額は、コロナ禍の落ち込みを上回る前年比プラスが続いている一方、輸入金額が大幅に増加していることを受け、貿易収支は大幅な赤字が続いている。
 消費者物価上昇率は、資源、エネルギー価格の高騰や急激な円安の進展などにより、2022年7月(予測)には2.5%となった。コロナ禍からの回復に加え、ロシアのウクライナ侵攻により、WTI原油先物価格が3割以上上昇し、小麦、トウモロコシなどの穀物価格も同様に大幅に上昇している。
 完全失業率は、2022年1月以降はやや低下し、6月は2.6%となっている。有効求人倍率は緩やかに改善しており、2022年6月は1.27倍に上昇した。
 新規求人数の増加率は大幅な増加が続いており、金属産業の増加率は産業計のそれよりも大きい。
 倒産件数について、2022年1~6月の累計では3,045件と前年同期比1.2%で減少した。金属産業は136件で13.6%増となっているものの、コロナ禍前を下回る水準が続いている。
 企業業績について、日銀短観によると、売上高はほとんどの産業で増収の予想となっている。経常利益は、原材料価格高騰の製品価格への転嫁が困難との見通しから、製造業全体では1割弱の減益予想となっているが、コロナ禍前の水準は大幅に上回っている。

(2)政治情勢

 2021年10月4日に、岸田内閣が発足した。2021年10月15日、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、「新しい資本主義実現会議」を設置し、2021年11月8日には、「緊急提言」を取りまとめた。緊急提言では、成長戦略として、科学技術立国の推進、スタートアップの徹底支援、「デジタル田園都市国家構想」の起動、経済安全保障を掲げた。また、分配戦略については、賃上げの機運醸成、男女間の賃金格差の解消、税制支援の強化、取引適正化のための監督強化等をあげた。
 2021年10月22日、第6次エネルギー基本計画を策定し、「2050年カーボンニュートラル」「2030年度の温室効果ガス排出46%削減、さらに50%削減の高みを目指す」という目標の実現に向けて、エネルギー政策の道筋を示した。再生可能エネルギーの導入促進と国民負担の抑制、原子力発電の再稼働、水素・アンモニアの社会実装加速等が盛り込まれた。
 2021年12月27日、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を確認し、労務費、原材料費、エネルギーコスト上昇分を適切に転嫁していくため、政府横断的な転嫁対策の枠組みを創設した。
 2022年6月7日に確認された「経済財政運営と改革の基本方針2022」では、新しい資本主義への重点投資分野として、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「デジタルトランスフォーメーション」をあげた。環境変化への対応としては、「外交・安全保障の強化」「経済安全保障の強化」「エネルギー安全保障の強化」「食糧安全保障の強化」「対外経済連携の促進」等に取り組むこととした。また、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつも、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」等の記述が盛り込まれた。

3.2 国際情勢

(1)経済情勢

 世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻やインフレの長期化により、2022年のGDP成長率の見通しは2.9%となった。ウクライナ侵攻の影響が大きいユーロ圏は大幅に見通しの下方修正となっている。
 米国は、2021年の実質GDP成長率は5.7%となったが、2022年以降はマイナス成長が続いている。インフレが40年ぶりの水準となる中、FRBは2022年3月から積極的な金融引き締めを実施しており、景気後退懸念が高まっている。
 ユーロ圏は、ワクチンの普及により対面サービス産業が活性化する一方、ロシアのウクライナ侵攻により資源価格が上昇し、経済の下押し圧力となっている。消費者物価上昇率は、2022年5月に8%を超え、ECB(欧州中央銀行)の目標である2%を大きく上回っていることから、ECBはコロナ禍で導入した量的金融緩和を終了し、7月には11年ぶりの利上げを実施した。
 中国は、2022年1~3月期はGDP成長率は前年比で4.8%となったものの、4月には上海市が事実上の都市封鎖(ロックダウン)を実施したため大幅に失速した。5月以降は正常化に向けて動いているものの、新型コロナの感染再拡大やロシアに対する経済制裁の波及が引き続きリスクとなっている。
 東南アジアでは、2022年はじめに新型コロナの感染再拡大があったものの、都市封鎖など厳しい活動制限措置までは実施しなかったため、経済活動への影響は限定的となり、景気は回復傾向を維持している。一方、物価上昇と米国の金融引き締めに伴う金融引き締めは経済の下押し圧力となることが懸念される。

(2)政治情勢

 2022年2月24日、ロシアは、ウクライナ各地への侵攻を開始した。これに対して、3月2日、国連総会の緊急特別会合は、ロシアの即時撤退を求める非難決議案を141カ国の賛成多数で採決した。米国、EU、日本などでは、ロシア中央銀行の外貨準備の凍結、ロシア大手7銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除、ロシアを最恵国待遇の対象から排除するなどの制裁を科した。ウクライナに対しては、人道的支援、経済的支援、軍事的支援を行っている。
 2022年6月26~28日に開催されたG7エルマウ・サミットでは、ロシアへの制裁強化とウクライナへの支援拡大で合意し、途上国への食料の安定供給のため45億ドル(約6,000億円)を追加拠出することとした。
 米国は、2022年2月11日には、アジア、インド、オセアニア地域の安全保障や経済連携の方針を示す「インド太平洋戦略」を発表した。新たな経済連携の枠組みを立ち上げる他、台湾の防衛力の向上を支援する方針を示し、中国に対抗して地域への関与を強める姿勢を明確にした。
 2022年5月23日、バイデン大統領は、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の始動を表明し、中国に対抗してサプライチェーン(供給網)の再構築やデジタル貿易のルールづくりなどで連携することとした。
 中国上海市では、2カ月以上にわたってロックダウンが続き、2022年6月1日に解除された。ロックダウンにより生産や物流が長期間停止したことにより、サプライチェーンが寸断され、半導体等の部品不足の影響が世界に及んだ。
 韓国では、2022年5月10日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が就任し、5年ぶりに保守政権が発足した。

4.活動方針

4.1 国際連帯・国内外での建設的労使関係構築に向けた活動

国際連帯活動

目的
  • アジア地域における国際労働運動のリード役として金属労協がその運動を目指すべき方向へ導くべく、引き続き、インダストリオール台での発言力・影響力の維持・向上を図る。加えて、各国の労働・社会情勢に関する情報や、先進事例を収集し、国内情勢における課題解決にも資するべく、国際的な視野での活動推進に向けた海外友誼組織との交流も含めた国際連帯を、欠くことのできない金属労協としてのコアバリューとして継続する。
  • また、国際連帯活動推進の円滑化を求めた国内連帯、国内関係組織との定期的な交流・情報交換を進める。
課題・背景
  • 金属労協が加盟する国際産別組織インダストリオールは当初南アフリカで予定していた第3回世界大会をCOVID-19の影響で1年延期し、2021年9月にWebにて実施した。書記長の退任に伴う新しいリーダーシップのもと今後新たな4年間の活動が始まった。
  • 米中対立による世界情勢の変化、世界各国における民主主義への脅威・労働基本権の侵害、DX・カーボンニュートラルといった技術革新・グリーン化政策への対応の要請、COVID-19による世界的な市場・労働環境の変化が生じている。こうした中で、インダストリオールらしい、より産業横断的な政策実現、グローバルでの労働基本権の確保、社会的不平等の解消、女性の参画向上の実現に向けた活動が求められる。金属労協としてもこうした活動への適切な対応による公正な労働基準の確保、その実現に向けた建設的労使関係の確立の責任が国内外において期待される。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • インダストリオール世界大会に向けては規約改正議論を中心に活動へ積極参画する。リーダーシップにおいては、これまでの副会長・アジア太平洋地域共同議長を引き続き務める。加えて、本部書記次長への派遣も視野に入れながら、今後の活動において派遣組織としての役割と責任を果たす。また、東南アジア地域事務所への職員の派遣を通じたアジア地域におけるより強固なインダストリオール活動への参画を進める。
    • 副会長・アジア太平洋地域共同議長や金属労協から派遣している本部書記次長、東南アジア地域事務所長を中心に、インダストリオールの活動に貢献した。
  • 「日韓金属労組定期協議」については、対面の代替となるWeb形式で開催する。「北欧産業労連との定期協議」については、2022年度の現地渡航を伴う対面での開催と今後のあり方について検討するため、Web形式で意見交換を行う。また、「日独金属労組定期協議」は二か国間での双方の行き来が可能になることを前提に日本での対面での開催を検討する。また、IGメタルとの間ではWebを活用したデジタル化をテーマにした「対話フォーラム」の開催を検討する。「中国金属工会との交流」では、次回対面開催の実現に向けて双方の検討を推進する。
    • 各国との定期協議についてはWebによる代表者会議、もしくは事務局連絡会議を実施し、二国間の良好な関係を維持。次年度に向けた対面による定期協議の再開の計画も策定。
  • 第3次「男女共同参画推進中期目標・行動計画」に沿った活動を推進する。男女共同参画推進連絡会議において、2022年9月以降の活動のあり方について議論を進める。
    • インダストリオール世界大会にて女性の執行委員代理を輩出。
    • 芳野連合会長を講師に迎え、男女共同参画推進研修会を開催した。多くの推進担当者の参加を得て、経験や思いの共有を行った。
    • インダストリオール世界大会での規約の変更も踏まえ、第4次「男女共同参画推進中期目標・行動計画」を策定した。
  • 新たな体制の整備と共に、COVID-19の感染状況の改善を前提に、インダストリオール日本加盟組織協議会(JLC)・各地域事務所と連携をして、アジアの金属労組を集めた会合のあり方など今後につながるテーマの持ち方も含めて模索し、実施を検討する。
  • 友誼組織との交流は、対面での開催を前提に、「日韓金属労組定期協議」を韓国での開催を目指す。「中国金属工会との交流」は検討状況に応じた、双方への行き来をもとに対面で開催する。また、その他各友誼組織との交流について、対面のみにこだわらない「交流のあり方」を整理・検討し、組織間で調整する。
    • 第4次「男女共同参画推進中期目標・行動計画」に沿った活動を推進する。
    • 男女共同参画推進連絡会議において、2023年度男女共同参画推進交流集会開催に向け詳細を検討していく。
    • 2023年6月にケープタウンにて開催されるインダストリオール中間政策会議に女性代議員(40%)を派遣し、会議における男女共同参画の推進に貢献する。
    • インダストリオール世界大会での青年に関する決議に基づく今後の取り組みへの対応を検討する。
  • JLCとの連携を通じて、インダストリオール活動への積極参画を進める。特にアジア加盟組織との強固な関係を築くために、定期的な意見交換やアジアの関係労組のリーダー招聘などの活動を着実に進める。そのために、金属労協として求める活動の姿を明確化する。
    • 東南アジア地域事務所とのWeb懇談会(組織メンバー、取組み等の紹介)を実施した。
    • インダストリオールのインドネシア加盟協議会との青年組合員交流会を実施した。
  • 連合・GUF・JILAF・ILO駐日事務所や各省庁、在日大使館といった関係組織との協議・連携の場をもつ。
    • 金属労協主催の研修会・セミナー・懇談会等、各種取組みを通じて関係組織との連携を進めた。

多国籍企業労組ネットワーク構築

目的
  • 海外事業体における建設的な労使関係の構築に向けて、海外労組と日本の労組とのネットワーク構築の推進と労使の理解促進を求める。特に、日系企業が多く進出するアジア各国において、現地労使の理解促進と現地労組の育成を図る。
  • また、それを将来におけるインダストリオールが推進するGFA(国際枠組み協定)の締結に向けた必要条件として推進する。
  • 個別企業の労使紛争案件については、現地組織や地域事務所との連携を強化する。特に、オンラインでの活動も活発化させ、複雑になりかねない情報の動きに素早くかつ適切な対応を図る。
課題・背景
  • 金属産業のグローバル化が進んで久しいが、今なお海外現地事業体における労使による対立、経営側による労働基本権の侵害が報告されている。金属労協としても産別・単組と連携し、解決に至る活動を推進してきた。引き続き、金属労協に対しては、個別の紛争案件への適切な対応と共に、目指すべき海外事業体における建設的な労使関係の構築が期待される。また、海外労組も成熟とともに世代交代も進み、属人的な活動の限界も目立ち始めている。その運動の持続可能性は日本の労働組合としても看過することはできない。さらに、グローバル化の一層の進展、産業の変革等を背景に海外を拠点とする多国籍企業との合従連衡も進むことも想定される。このような動きにともなった現地日系企業における労使紛争も徐々に目立ち始めており、建設的な労使関係の構築が求められるフィールドは広がりを見せている。
  • 一方で、産別・単組における国際活動の推進も一定の枠内での活動にとどまってしまっている現実もある。よって、国際労働運動をこれまで推進してきた金属労協による活動の一層の後押しの期待は高まり続けている。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • タイ・インドネシアにおける労使ワークショップをCOVID-19の下で実現可能な形式も含めて検討し、開催する。開催にあたっては、より現地労使の理解が深まることを目指して新たな枠組みを検討する。特に開催の計画を通じ、現地産別との連携の強化および建設的な労使関係構築への理解促進を並行して進める。
    • コロナ禍のため2022年度中の労使ワークショップは再度見送る判断をするも、タイとインドネシアの現地に赴き、現地労組と直接今後の新たなワークショップの議論を実施。情報収集のため東南アジア地域事務所/IGメタル共催の現地トレーニングにも参加。
  • 2022年度にタイ・インドネシアで実施した労使理解に対する活動を踏まえて、現地への渡航も含めた労使ワークショップのあるべき姿を検討する。Webを活用した現地会場とのハイブリッド開催を行うなど、日本国内労使が積極的に参画できる仕組みも検討の上、現地でのワークショップを再開する。
  • 労使紛争への支援要請に対して、Webも活用した適切な情報が入るネットワークを構築する。これにより、産別・単組およびその労組ネットワークを通じた問題の早期捕捉、迅速な解決を支援し、中核的労働基準の遵守につなげる。
    • タイの労働組合(TEAM)とは2022年2月より、新たに労使紛争棚卸Web会議を1回/月の頻度にて定期的に実施。従来に増して紛争情報の早期捕捉を実現。
  • 産別とも連携しながら、具体的な活動の取り組み事例を収集し、産別・単組が実践に一歩踏み出せるような資料の整備や必要に応じた個別企業労使における活動支援を行う。
    • 産別の国際委員会等にて、紛争や中核的労働基準遵守(人権デュー・ディリジェンス)に係る講演等を実施。

国際人材育成

目的
  • 幅広いメンバーが国際労働人材として広く活動できるよう、基礎的な素養を養う教育活動を継続的に実施する。また、活動の助け・即戦力となる人材の育成に資する海外労働組合・労働運動情報を組織の資産として効率的なストック・活用を目指す。
課題・背景
  • 建設的な労使関係の構築を一層推進するにあたっては、金属労協・産別のみならず、単組に至るまで活動を理解し、推進できる人材を継続的に維持ないし裾野を拡大していくことが基盤整備として求められる。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 海外への渡航が制限される中で、国際労働研修プログラムについては、対象国を特定しない国内での座学による国際労働講座を代替として開発し、実施する。
    • Webによる研修を第1~3部は座学形式にて国際労働運動等の基礎を学び、第4部としてインダストリオール・マレーシア協議会の組合役員とのWeb懇談会を実施。
  • 2022年度の労働講座参加者を中心に対象とした現地渡航前提の国際労働研修プログラムを実施する。また、Webを活用して国内からも参画できるパートを設けて人材育成の裾野を広げる。
    • 2022年度のプログラム参加者を中心に、2023年度は実際にマレーシア現地へ渡航し、マレーシア協議会の組合役員等と対面での交流計画を検討。
  • 海外の組織・人物情報、労使紛争の過去経緯等を収集したJCMpediaを継続整備し産別を巻き込み、積極的に活用する。
    • 改めてJCMpediaの運用・作業マニュアル等を配布の上、金属労協国際委員等を中心に積極的な活用を呼び掛けた。

日本の労使への建設的労使関係構築の理解促進

目的
  • 加盟産別・単組の労使双方が、中核的労働基準の遵守や建設的労使関係構築の重要性に関する理解を深め、進出先の現地労使における日頃からの円滑なコミュニケーションの確保を図る。あわせて、現地労組とのネットワーク構築実現に向けたバックアップを推進する。
課題・背景
  • 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の国別行動計画(NAP)が日本国内においても策定・公表され、人権デュー・ディリジェンスの取り組み、中核的労働基準の確保がサプライチェーン上も含めて企業に求められる動きが高まりを見せている。その実効性ある取り組み推進としての建設的な労使関係構築の重要性に対する日本の労使の理解促進は、金属労協の目指す海外現地事業体における活動推進の基盤として期待される。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 「海外における建設的な労使関係の構築に向けた国内労使セミナー」をWeb形式にて継続的に開催する。特に昨年度より取り入れた活動の進捗に応じたステージ分けを引き続き取り入れ、実践ステージではWebを活用し双方向性も取れ入れるなどして労使理解を促進させる。
    • 複数の講師による講演を行い、ステージ分けを実施。実践ステージについてはコロナ禍のため、引続き実施可能な方法の検討を継続する。
  • 「海外における建設的な労使関係の構築に向けた国内労使セミナー」を継続的に開催する。開催形式はWeb形式にとどめることなく、対面でのディスカッション形式を取り入れるなど実践につながるコミュニケーションの可能性を検討する。
    • 参加者を増やすためのツールとして、国内労使セミナーの趣旨をまとめた汎用的なチラシの作成を検討

4.2 次世代の加盟産別・単組の活動を担う役員の育成とスキルアップを支援するための活動

教育活動

目的
  • 労働リーダーシップコースでは、産別や単組の枠を超えた人材交流を通し、大きな時代の変革期に対応できる人材育成、産業社会の発展に寄与するため、基礎的教育を行う。
  • 金属労協のネットワークを活かして、産別・単組の役職員のスキルアップ、産別活動に資する時宜に応じたテーマのセミナー、ワークショップを参加しやすく効果的な形態で開催し、知識・情報を提供する。
課題・背景
  • 次代を担う人材育成は、労働運動の持続的発展のためにも重要であり、金属労協の特色を活かした教育・研修を実施することが求められている。
  • また、人材育成は新しい金属労協において主体的に取り組む活動の一つであり、労働リーダーシップコースをはじめ、各種研修会について、目的や対象者などを明確にした上で、内容や開催方法などについて整理していく必要がある。
  • 労働リーダーシップコースは多くの労働組合リーダーを輩出するとともに、産別・単組の枠を超えて人と人とをつなぐ交流の場として高く評価されている。これまでにもプログラムを改善するなど充実を図ってきたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、2021年度の開催が延期になるなど、開催方法の検討が課題となっている。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 労働リーダーシップコースの目的や教育方針を堅持しつつ新型コロナウイルス感染症拡大防止対策に留意して開催する。対面とWeb、それぞれのメリットを活かしたプログラムで実施する。
    • 労働リーダーシップコースは、感染対策に万全を期し、ほぼ通常通りの形で開催することができた。
  • 引き続き感染症対策に留意して開催する。時代のニーズに応じたプログラムの改善を検討する。
  • これまで開催してきた労働情勢検討会、政策課題研究会、Web講演会について、目的と対象を整理して、実施する。
    • 時宜に応じたテーマのセミナーとして、組織内における人権デュー・ディリジェンスの理解・浸透を目的に勉強会を開催した。
    • 労働経済やDXに関する入門連続セミナーを開催し、多くの方々に参加いただいた。若干難しいというコメントはあったものの、概ね好評であった。
  • 人材育成のあり方について検討するプロジェクトを設置し、新しい金属労協における具体的な活動を明確にする。
    • 国際人材育成を含めた人材育成の再整理を行う。
  • 講演会等で使用した資料や講演の動画などの活用可能性について検討する。
    • 著作権などの問題があり、公開範囲や方法などについて具体的に検討する。

4.3 金属産業政策

産業横断特定テーマに関する金属産業政策立案・実現

目的
  • 新型コロナのワクチン接種も進み、一方で新冷戦が進行するといった環境変化の中で、DX、カーボンニュートラルなどの大変革において、産業の競争力強化に向け、金属産業の労働組合の立場から積極的に対応する。技術変化への対応に際しては、社会的対話と労使協議を重ねる中で、新たに必要となるスキルの習得・向上に向け教育訓練を拡充し、職種転換、雇用移動によってあくまでも雇用を維持する「公正な移行」を実現していく。
  • 優越的地位の濫用規制と下請法の強化、中小企業の生産性向上などにより、バリューチェーンにおける付加価値の創出・適正配分に寄与する。
  • グローバルな中核的労働基準の確立に向けて、わが国金属産業として責任を果たしていくよう、労働組合の取り組みを強化する。
課題・背景
  • 新型コロナ対応の経験を通じて、わが国におけるDXへの対応の遅れが浮き彫りとなっていることに加え、長期化が想定されている新冷戦への対応も含めたバリューチェーンの再構築、2050年カーボンニュートラルの実現など、金属産業は大変革の中にある。
  • 対外的には、TPP11への英国の加盟や米国の復帰など、自由で開かれた国々における経済連携協定の拡大が重要課題となっている。
  • 日系企業の海外事業拠点において、中核的労働基準に関わる労使紛争が多数発生している。また、欧州を中心に企業の人権デュー・ディリジェンスの法制化が進んでいる中、組合としても対応を検討する必要がある。
  • 2021年には、「民間・ものづくり・金属」の観点から、成長戦略、マクロ経済、DX、カーボンニュートラル、バリューチェーン、国際労働の各政策からなる「2021年政策・制度要求」を策定し、要請活動を展開した。
  • 政策・制度要求では、優先的に取り組むべき項目を明確にするため、重点化と項目の絞り込みを行ってきたが、金属労協の限られたリソースの中で、民間・ものづくり・金属産業に働く者の観点に立った政策の実現力を一層高めていくため、政策立案・推進の運用方法を見直し、さらに強力な絞り込みを行っていく必要がある。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 要請項目については、わが国金属産業の命運を決するDXやカーボンニュートラルに関する政策を中心に据えていく。連合や各産別の政策要求との重複を避けつつ、
    • DX・カーボンニュートラル対応、バリューチェーンにおける付加価値の創出・適正配分などの産業政策
    • 金属産業における人材育成・確保のための政策
    • それらの環境整備のための政策
    などから3項目程度に絞り込み、「2022年産業政策要求」を策定し、要請活動を展開する。
    • 「2022年産業政策要求」については、DX、カーボンニュートラル、適正取引の3分野を要請項目として取り上げ、そのほかの課題については継続課題として巻末に記載した。
  • 要請項目を3項目程度に絞り込み、「2023年産業政策要求」を策定し、要請活動を展開する。
    • 引き続き重点化と項目の絞り込みの下で産業政策を推進していく。
  • 産業政策の策定に際しては、産別のみならず単組からの幅広い情報提供、提案を募り、意見集約を図る。具体的な方法については別途検討する。また、実際の政策策定作業を分担するワーキンググループ設置など、加盟産別との連携を強化する。
    • 2022年度は、産別のみならず単組からの幅広い情報提供、提案を募り、意見集約を図るため、産業政策中央討論集会を実施した。2023年度も開催に向けて検討を進める。
    • 2022年度はワーキンググループを設置し、実際の作業を分担して政策策定を進めた。2023年度は策定を前倒し、引き続きワーキンググループのもとで政策策定を進める。
  • 「産業政策要求」で取り上げた項目以外に、緊急な産業政策対応が必要となった場合には、適宜、迅速に政策立案を行い、要請活動を展開する(雇用悪化、新たなパンデミックが発生した場合の対応など)。
  • とくに重要な産業政策課題については、政治顧問との連携を図り、三役からの大臣要請などを展開する。宣材として政策レポート、リーフレットを作成し、府省、マスコミなど関係方面に配布する(組織内はWeb展開)。
  • 当該年の要請項目の如何に関わらず、政策課題に関する各府省の担当窓口と定期的な意見交換・情報交換の場を設ける。
  • 金属産業に関係する団体との意見交換・情報交換の実施を検討する。
  • グローバル産業政策については、インダストリオールの活動に迅速かつ積極的に対応し、JLCとの連携のもと、インダストリオールやインダストリオール加盟組織に対する働き掛けを強化する。
    • 産業横断的なテーマに関するものも含めて、インダストリオールや加盟組織が開催するウェビナーや定期協議等において情報収取・意見交換を行った。
  • 貿易・産業政策の観点から経済連携協定などに関して研究を行い、同じ考えを持つ海外友好組織との連携を深め、国内外における課題提起や必要な要請活動を行う。
  • 金属労協として、「人権デュー・ディリジェンス」に関する労働組合としての対応を検討する。
    • 人権デュー・ディリジェンスへの対応について、金属労協の全ての委員会で議論を行い、組織内外への周知活動として、「2022年闘争の推進」への織り込み、勉強会の開催、入門用パンフレットの作成を行うとともに、単組が企業と協議・意見交換を行う際に参照するための資料として「人権デュー・ディリジェンスにおける労働組合の対応ポイント」の作成を行った。
    • また、企業に向けた人権デュー・ディリジェンス実施の「ガイダンス」を政府が作成するに際し、金属労協の考え方を反映すべく政府・政党要請を行った。
    • 国際委員会を中心に、相互の参考とすべく産別の人権デュー・ディリジェンスの取り組み状況について共有する。また、組織内での理解・浸透に向けて引き続き勉強会等を実施するとともに、産別や地方ブロックなどでの人権デュー・ディリジェンスに関する講演等に対応する。

4.4 労働政策

金属共闘

目的
  • 賃金の底上げ・格差是正および日本の基幹産業にふさわしい賃金水準確立をめざし、生産性運動三原則に基づく、「成果の公正な分配」、「人への投資」を追求する。
  • 心身の健康を維持し、家庭生活や地域活動、社会貢献、自己啓発など個人のための生活時間を確保して、生活の豊かさを追求するとともに、職場において生産性の向上を促す観点からも、働き方の見直しを図る。
  • 同じ職場で働く仲間として、同一価値労働同一賃金を基本に、非正規雇用で働く労働者の賃金・労働諸条件の改善を実現する。さらに、未組織労働者なども含めた金属産業で働く人全体の賃金の底上げ・格差是正に向け、労働組合としての社会的責任を果たしていく。
課題・背景
  • 「第3次賃金・労働政策」の下で、「雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進」「『同一価値労働同一賃金』を基本とした均等・均衡待遇の実現」「ワーク・ライフ・バランスの実現」の3つを柱に、実現に向けて取り組んでいる。
  • コロナ禍が収束に向かい、一方で新冷戦が進行するといった環境変化の中で、DX、カーボンニュートラルなどの大変革に積極的に対応し、金属産業の成長力を高め、競争力を強化するための人材確保が急がれており、継続的な賃上げによる「人への投資」をさらに強化していく必要がある。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 速報対象組合の取り扱いなど、各地域における闘争時の情報共有のあり方について、検討を進める。
    • 情報開示の範囲を見直しつつ、産別を通じてタイムリーな情報提供を行った。
  • JC共闘の一層の強化を図り、金属労協のあるべき姿の検討材料とするため、JC共闘の歴史的経過と理論を振り返り、整理する。
    • 物価上昇など闘争をとりまく環境変化に対応し、歴史的経過と理論を振り返った。
  • 2023年闘争については、物価が上昇局面にあることに留意しつつ、経済、産業・企業の動向を見極めながら、組合員の生活を維持する観点から、賃上げ要求について検討を進めていく。
  • 企業内最低賃金協定の中期的目標の見直しについて、検討を進める。
  • JC共闘の一層の強化を図るため、賃金・労働諸条件決定の歴史的経過と理論を振り返る勉強会を行う。
  • 金属産業において引き続き大変革が進行する中で、生活の安定と向上、産業の新たな発展基盤の確立、経済の持続的成長を達成するため、生産性運動三原則に基づく「成果の公正な分配」として、基本賃金の引き上げを基軸とした「人への投資」を追求していく。
    • 2022年闘争は、「成果の公正な分配」と「人への投資」の必要性を強く訴える方針を作成、根拠となる資料を充実させるなどの取り組みによって、2014年以降で最も高い賃上げの獲得につなげた。
  • 企業内最低賃金協定と特定最低賃金に対する理解を促進するため、交渉に活用できる教宣資料を作成する。
    • 企業内最低賃金協定が特定最低賃金制度において果たす役割の重要性や課題をまとめたリーフレットを作成し、単組の交渉の参考資料として提供した。
  • 労働諸条件の改善に向けて、統一取り組み項目の設定など、項目を重点化しつつ、共闘効果を高めるように検討する。
    • 「2022年闘争の推進」において、労働諸条件に関する要求項目を整理し、共通に取り組む方針を明確化した。
  • JC共闘内における闘争情報の共有や社会への発信について、多様な手法の活用を検討する。
    • 内部向けホームページの活用を検討した結果、当面は現状の手法を継続することとした。
  • 賃金の底上げ・格差是正、適正な労働時間の実現を前進させるため、個別賃金水準の実態調査と労働時間の実態調査を継続する。各種調査・集計に関して、産別との調整・連携を図るため、担当者レベルの会議を開催する。
    • 個別賃金水準の実態調査と労働時間の実態調査を継続して実施し、組織内でデータを共有した。調査担当者の意見交換を実施し、産別と連携を密にして、調査・集計に取り組んだ。
    • 調査担当者の意見交換については、産別のニーズを把握しながら位置づけを検討する。
  • JC共闘と連合の部門別共闘との一体化を模索し、連合本部との連携をさらに強化する。
    • 連合金属共闘と闘争推進集会や記者会見を共催し、闘争状況を社会に発信した。
    • 連合事務局との意見交換、連携をさらに強化していく。

特定最低賃金

目的
  • 特定最低賃金を金属産業の労働の価値にふさわしい水準に引き上げることによって産業の魅力を高め、人材を確保することで産業の競争力を高めるという好循環サイクルを構築する。
課題・背景
  • 「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇を確立するとともに、金属産業においてはグローバル化を理由とした賃金の下押し圧力が強い中で、産業内の公正競争確保とバリューチェーン全体の持続的な発展を図るため、労使対等の交渉によって決定された企業内最低賃金の水準を、特定最低賃金を通じて組合未組織企業や非正規雇用で働く者を含めた産業全体に波及させる必要がある。
  • 地域別最低賃金の3%程度の引き上げや使用者側の特定最低賃金廃止論により、地域別最低賃金と特定最低賃金が接近・逆転するケースが出てきており、今後さらに増加することが懸念される。地域別最低賃金をいったん下回った地域では、使用者側の反対により、 特定最低賃金の金額改正ができない事態が生じている。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 地域別最低賃金全国加重平均1,000円への到達が見込まれる中、金属産業の労働の価値にふさわしい水準をめざす。
    • タイムリーな情報発信と産別との連携によって、これまでにない高い引き上げ獲得を支えた。
  • 地域別最低賃金との水準差を維持・拡大するため、地域別最低賃金の引き上げ額以上の特定最低賃金の引き上げを継続的に実現していく。
    • 地域別最低賃金の引き上げ額以上の引き上げをめざす方針を示して取り組み、地域別最低賃金の引き上げ額の平均が28円という中にあっても、135件中31件が地域別最低賃金の引き上げ額以上の引き上げにつなげた。
  • 企業内最低賃金協定と特定最低賃金に対する理解を促進するため、交渉に活用できる資料を作成する。
    • 企業内最低賃金協定が特定最低賃金制度において果たす役割の重要性や課題をまとめたリーフレットを作成し、単組の交渉の参考資料として提供した。
  • 都道府県別に設定されているすべての金属産業の特定最低賃金について、金額改正の取り組みを行う。新設についても積極的に取り組む。
    • ほとんどの金属産業の特定最低賃金について、金額改正または新設の取り組みを行った。
  • 産別本部の最低賃金担当者による「最低賃金意見交換会」を適宜開催し、産別間の情報共有と地域の取り組みを支援する方針の立案、教宣資料の作成を行う。
    • 「最低賃金意見交換会」の開催により情報を密に連携し、地域の審議対策や、方針立案、教宣資料の作成を行った。
  • 地方最低賃金審議会の公益側委員、経営者団体の使用者側委員、都道府県労働局への働きかけを強化するため、地方連合会との連携を強化し、金属部門連絡会を活用した情報交換を進める。
    • 連合地方ブロック主催の「最低賃金担当者会議」に、産別本部、金属労協からも参加し、情報共有を図った。
  • 組織内外に対して、制度の意義・役割への理解を働き掛ける。
    • 特定最低賃金に関するリーフレットをホームページに掲載し、広く社会に発信し、社会への理解を働きかけた。
  • 具体的な取り組みについては、状況の変化に的確に対応し、「特定最低賃金の取り組み方針」「特定最低賃金の金額改正・新設に臨む確認事項」として示す。
    • 「特定最低賃金の取り組み方針」の策定、「特定最低賃金の金額改正・新設に臨む確認事項」のタイムリーな発信を行った。
  • 特定最低賃金の中期的な課題については、継続的に検討を進める。
    • 地域別最低賃金の動向等も見据えつつ、継続的に検討を進めていく。

4.5 地方活動

地方ブロック活動

目的
  • 生産拠点が実際に存在し、従業員の生活の場でもある地元の活性化を促すことにより、基幹産業たる金属産業の持続的な発展を図る。
  • 地方自治体に対しても、「民間・ものづくり・金属」の立場からの政策実現を図る。
  • 特定最低賃金や地方産業政策の取り組みを進めるための意見・情報交換を行う。
  • 地域再生・活性化のために、金属・ものづくり産業の職場を代表する金属労協加盟の産別・単組の声を政策決定に反映させる。
課題・背景
  • 地方連合会の政策への盛り込みを主眼とする「地方における政策・制度課題」を策定し、地方組織の利用に供してきた。
  • 地方連合会金属部門連絡会など、都道府県単位の枠組みにおいて、最低賃金や「地方における政策・制度課題」に関する研修会については、Web開催も含めて提案し、実施地域も増えてきている。
  • 「地方政策実現に向けた取り組みの進め方」を紹介するなど、わかりやすさ、取り組みやすさの強化を図ってきたが、都道府県ごとの取り組みには差が見られる。
  • 組織改革推進チームで示された方向性にそって、地方における活動の意義と役割、地方連合会金属部門連絡会との関係について改めて明確化し、これからの地方活動の具体的あり方について検討する必要がある。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 「地方における産業政策課題2022」を策定する。
    • 地方組織、産別のニーズに応じ、かつ項目絞り込んで策定した。
  • 新しい金属労協の組織と活動のあり方に基づく、これからの地方活動の方向性について各ブロックで議論を行う。
    • 地方ブロック代表者会議において議論を行った。
  • 地方連合会金属部門連絡会の設置状況、活動内容、予算などの現状を把握するため、各県役員からの意見聴取を行う。
    • 地方連合会の現況調査および意見聴取を実施した。その内容は組織改革推進チームに報告し、さらに議論を進めることとした。
  • 「地方における産業政策課題2023」を策定する。
  • 2024年度以降の地方活動のあり方について検討する。
    • 地方活動のあり方について考え方を取りまとめ、第62回定期大会(2023年)で報告する。
  • 「地方における産業政策課題」の内容については、地方組織のニーズに応え、産業政策、人材育成・確保のための政策、およびそれらの環境整備のための政策に特化する。
    • 引き続き地方組織、産別のニーズに即して策定する。
  • 「地方における産業政策課題」の網羅的な検討を図るなど、地方連合会での政策策定への金属部門の積極的な参画を促すとともに、支援する地方議会議員との連携強化を促進する。
    • 地方ブロック会議で各地域の取り組み状況について情報共有を図った。
  • 各地域における「最低賃金」や「地方における産業政策課題」に関する研修会や諸会議における勉強会など、Webでの開催も含め具体的な提案を行う。
    • 勉強会の開催を各地方に働きかけ、地域からの要請に基づいて講師を派遣した。
  • ものづくり教室については、新たに取り組む地方組織での開催支援を行うとともに、すでに取り組んでいる地方組織に対してもソフトウエアプログラミングの要素をもった工作キットを紹介するなど、内容のさらなる充実を提案する。
    • コロナ禍においても、各地域で工夫をし、開催できているところもある。
  • 地方ブロックのおよび各都道府県の活動内容に関する情報交換と共有化をはかるために、地方ブロック代表者会議を随時開催する。その際はWebを積極的に活用し、会議の頻度を高める。

4.6 情報発信

電子メディアに特化した情報発信

目的
  • 金属労協の方針や活動を周知し、加盟産別・単組の金属労協の取り組みに関する理解を深める。
  • インダストリオールや諸外国労組の活動や、国際的な課題、さらには時宜に応じたテーマに関する取り組みや論考を紹介し、加盟産別・単組の取り組みに活かす。
  • 春闘情報などを組織外に発信し、金属労協の社会的役割を果たす。
課題・背景
  • これまで金属労協から主に産別・単組に向けた情報発信ツールとして機関紙を年4回、機関誌を年2回発行してきた。また、ホームページを活用して、春闘情報やインダストリオールニュースなどをタイムリーに発信している。
  • デジタル技術の進化により、即時性、双方向性のある多様な情報発信ツールが活用される時代となり、金属労協の情報発信のあり方の見直しが迫られている。
  • 組織改革の議論においても、紙媒体から電子メディアを中心とした情報発信への変更が求められている。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • これまで発行してきた機関紙・誌、政策ニュースなど紙媒体での情報発信のあり方について、目的と対象を明確にし、電子媒体での発行に切り替えるための検討を行う。
  • 準備が整ったものから、順次電子媒体での発行に切り替えを進める。
    • 金属労協としての情報発信のあり方について、組織改革推進チームを中心に議論を行った。引き続き、検討をすすめる。
    • 情報発信については、情報の到達範囲や能動的なのか受動的なのかなどのメディア特性を考慮の上、既存メディアの充実や新しいメディア(SNSなど)の追加を検討する。HPについては、その位置づけを再確認した上で、内容の整理を行う。また、電子媒体での情報発信・共有への移行を基本とするが、紙媒体の優位性についても考慮する。
    • 情報共有については、現状のWebを利用した基盤(特設ページ、JCMpedia)の充実を検討する。
    • 金属労協で蓄積している印刷資料や文書について、保管量や保管対象を見直し、効率的な保管方法を検討し実行する。

4.7 財政運営

単年度収支均衡に向けた財政状況の改善

目的
  • 健全な財政運営により、持続可能な組織とする。
  • 金属労協に求められる役割に沿って、活動を効率的に実施できるような予算措置を講ずる。
課題・背景
  • 金属労協財政は、2013年度以降赤字が続いているが、組織財政検討プロジェクトの答申に基づく支出削減策などにより、赤字幅は着実に減少している。
  • 2020年度21年度はコロナ禍による海外出張の制限などにより、単年度収支が黒字となったが、これは特殊事情によるものであり、基調としての単年度収支均衡には至っていない。
  • 金属労協の支出の約半分を占めるインダストリオール会費については、スイスの物価上昇に合わせた調整による実質増や円安傾向などにより、財政に深刻な影響を与えることが危惧される。
具体的な
運動
2022年度の具体的運動の評価 2023年度の具体的運動
  • 単年度収支均衡に向けて、引き続き支出削減に努める。
  • 新しい金属労協の組織と活動のあり方に向けて、柔軟な支出運営を図るため、常任幹事会の承認を得たうえで、予備費を活用する。
    • 日常的な経費削減の努力を続けるとともに、活動の重点化等に応じた予算編成を行った。
  • 活動の整理や予算のあり方についての検討状況を踏まえ、必要に応じて予算の組み換えを行う。
    • 活動の重点化に関わる2022年度の実績を踏まえ、予算編成のあり方について検討を行う。
  • 2024年度以降の組織と活動にあわせた予算のあり方について検討を行う。

5.おわりに

 2023年度は、2021年第59回定期大会からはじまった3年間の「新しい金属労協に向けた準備期間」の最後の1年間となる。
 この2年間、新しい金属労協に向けた準備を行ってきた。将来的な連合への活動の移行という組織改編への準備を意識しながらも、むしろ金属労協の50年を超える歴史の中で積み上げてきた運動を、金属労協として継続すべき必要不可欠な活動に集中するべく、運動の整理を行い、限られた力を効果的に使えるような産別を交えた体制や運動項目の集中を図ってきた。この1年も継続して取り組んでいく。一方、連合への運動移行に関する議論はこれから本格化する。これまでの議論においては、他の部門別連絡会議に先んじて連合における産業に根差した運動を進めることについて、連合本部によって確認されている。今後進めることになる連合との議論の中で、産業を意識した活動をいかに連合の運動として進化させていくのかについて、金属労協として考える姿を提起し、具体化に向けて前進を図りたい。
 この変革の発端となった財政状況については、支出の大きな部分を占める海外への渡航がコロナ禍により中断していることもあり、単年度での支出超過はそれほど大きくない。しかしながら、海外への渡航が徐々に再開し始めており、今後財政は厳しい状況に置かれる。加えて、インダストリオール会費が、スイスフラン高になっていることから、支払う円建ての会費は大幅に増加している。この背景から、2023年度は財政的に厳しい状況に戻ることが予想されるため、より一層の効率的な運営を進める。加えて、インダストリオール会費支出については、金属労協本来の運動を制限せざるを得ない状況に陥らないよう、対策を検討する。