第20回「海外での建設的労使関係構築」
国内労使セミナーを開催
東京オリンピックに向け人権・労働基本権などを学ぶ
7月14日 電機連合会館で開催、加盟産別労使など118名が参加
金属労協は、2017年7月14日、都内・電機連合会館で、第20回「海外での建設的な労使関係構築」国内労使セミナーを開催した。セミナーには、加盟産別労使103名(会社側14名)をはじめ友誼組織などから合計118名が参加した。
これまでの経緯と今回の意義
同セミナーは、2007年10月に第1回を開催以来、毎年2回開催しており、主に中核的労働基準遵守の取り組み推進と、海外における建設的な労使関係構築に資することを目的に開催している。今回は、経済のグローバル化の進展にともない、人権を保護するうえでの政労使それぞれの役割の重要性が再認識されるようになってきている状況の中で、東京オリンピック、パラリンピックの開催が3年後に迫る中、国連や五輪組織委員会が求める人権・労働基本権に関するガイドラインなどの内容や今後の動向を中心に講演を受けた。
開会挨拶(相原議長)
セミナーでは、冒頭、金属労協を代表して相原議長が開会挨拶に立ち、「このセミナーは2007年に始まり、今回で20回を迎えるが、この間にもグローバル化と貿易協定による通商の自由化は益々進展している。最近では国連で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』(SDGs)が採択されている。こうした動きに対して持続可能性の観点から将来に向かって対応していくことが求められており、企業として対応することが地域や国の発展にも貢献することにつながる」「海外においては日系企業の労使紛争などが今でも多く発生している。金属労協としても情報収集にあたりながら解決に向け努力している。現地に労組があるかどうかに関わりなく、建設的な労使関係構築に向けた我々の役割はあるし、労組結成に向けた動きをサポートする役目もある。現地で労使の対話が不足しているということが最大のポイントである」「労組の国際活動を振り返るとき、その活動はまず人間関係の構築からスタートしている。日本の労使関係を理解してもらいその経験を共有してもらうことにも努力を続けてきた。さらに今日では、現地での働く人たちの権利確保にポイントが移ってきている」「労組の権利を確保することは現地事業体の健全性を確保することにもつながっている。日本の労働組合として果たしうる役割は大きい」「2020年の東京オリパラに向け、日本の労使関係の健全で公正なあり方を世界に向け示していく良い機会である。さらによりよい職場づくりのために努力したい」等と述べた。
講演『人権・労働基本権の近年の進展状況』(黒田かをり氏)
続いて、講演に移り、NPO法人であるCSOネットワーク事務局長の黒田かをり氏から「『人権・労働基本権の近年の進展状況』-東京オリンピック・パラリンピックを契機として-」と題して講演を受けた。黒田氏は国際社会における最近の労働・人権に関する動向に触れたうえで、国連の「ビジネスと人権」に関するなかでは企業の役割として人権侵害の危険性を事前に把握し、問題があれば予防することが求められていることを指摘した。講演の中では「人権と聞くと日本では特定の人たちが被害者で自分は関係ないという見方が多いが、世界的に見るともっと普遍的にとらえていることが分かる。米国政府は日本の人権課題を毎年の報告で指摘しているが、日本人の人権意識とは若干ギャップがあるかもしれない。国連の『ビジネスと人権』に関するなかでは企業の役割として、侵害の危険性を事前に把握し、問題があれば予防することが求められている。対応が遅れていた日本政府は国別の行動計画を策定中である」「SDGsについては、指標を開発し成果を図るという点と、民間セクターの役割が重視されていることを指摘したい。SDGsの特徴は、普遍性、包括性、統合性、多様性である。日本政府は昨年SDGsの実施指針を策定しているが、率直に言って日本政府のこれまでの取り組みは、SDGsに沿って既存の政策を整理し直した内容にとどまっている」等と述べた後、2020年の東京五輪について触れ、「建設現場における人権侵害や環境破壊の懸念が指摘されていると述べ、「東京五輪が持続可能な社会の実現に向けた変革のきっかけとなることを期待している」と講演を結んだ。
報告「米国における2016年大統領選前後の経済社会情勢」(山口博臣氏)
次に、基幹労連・特別中執の山口博臣氏から「米国における2016年大統領選前後の経済社会情勢」について報告を受けた。同氏は連合を通じて外交官として3年間の米国日本大使館勤務の経験をふまえ、米国の社会、経済、格差、国民性などの特徴・現状について報告すると共に、トランプ氏の大統領選の勝利について、その勝因を分析。その中で、米国の社会状況については、「米国は多様な国であり、移民が多く、人種も多い。人々はおおらかであり、ギスギスしていない感じがある。周りから話しかけてくる。しかしサービスはよくない。『走りながら考える』傾向がある。とりあえずやってみるということ。持ち場がはっきりしているが、それ以上やらないのも特徴。また意外と保守的な面がある。経済格差や地域格差が大きいことも感じる」等印象を述べた。また、「社会の状況は「分断」ということがよく指摘されるが、大統領選の影響ではなく、すでにある地域格差、世代格差、人種格差などに注目が集まった結果ではないか。選挙では白人有権者の民主党離れ、民主党の政策がリベラルになりすぎたという指摘があった。また『隠れトランプ支持者』が多くいたという指摘もあった」と述べた。米国の労働組合については「労働組合は対象の産業にあまり関係なく組織化している。組織率は低いが政治力は大きい。」と指摘。サービスに対する日米の違いについては、「確かに日本ではサービスが行き届いているが、そのコストは誰かが負担しているのであり、負の側面も考えなければならない。日本ではサービスは均一であり、米国ではニーズに合わせた『適当さ』を感じる」等と印象を述べた。
報告「日産労連における海外労組とのネットワーク構築活動」(粕谷強氏)
続いて、日産労連・政策企画局次長の粕谷強氏から、「日産労連における海外労組とのネットワーク構築活動」と題して報告を受けた。氏は最初に日本の自動車産業及び日産のグローバル化の進展について「日本の自動車産業の輸出比率は台数ベースで47%であり、海外生産は67%に達している。日産自動車は輸出比率90%、海外生産は82%となっている。海外での事業所は500か所に及ぶ」と述べた。日産労連としての国際活動の基本について触れ、「労働組合の国際活動の基本としては、海外友誼労組との情報交換、二国間交流、労組役員の育成、労組および企業のサポートを実施している。1973年にはIMF日産世界協議会を開催し、これは以降94年まで7回にわたり実施している」ことなども述べた。その後の現在までの国際活動について、「その後96年から2年ごとに、日産労連ワールド・ジョイント・セミナーとして、友誼労組との情報交換をしている。14年のセミナー参加は海外11か国、17組織、24人、このうちインダストリオール加盟は11組織だった」。また、「二国間の交流としては、韓国、フランス、中国と継続的に連携している。ほかに日産EWC(欧州労使協議会)との交流などがある。全体としては、15か国24組織と友誼的な関係がある」と報告した。最後に、ネットワーク構築の意義について「連帯意識の醸成、労使関係の相互理解、情報交換などであり、これらを通じ雇用と生活の長期的安定をめざすことだ。こうしたことを通じて紛争が生じた場合にも、早期に適切な対応ができると考えている。第三者の介入により問題が拡大・複雑化することもあるが、建設的な労使関係の構築を通じ、早期に課題解決できると考えている」と結んだ。
本部報告「JCMの海外における建設的な労使関係構築に向けた活動」(岩井伸哉部長)
次に、JCM国際局の岩井伸哉部長から「JCMの海外における建設的な労使関係構築に向けた活動」について報告した。毎年開催している海外での労使ワークショップについて、「はじめは労使が顔をあわせることを目的としていたが、現在は労使関係における「建設的」の意味を考えることも重点としている。最近は経営者の参加が増えている。労使関係は車の両輪であり、お互いが鏡の関係であることを説明している。また日本の労使関係の歴史についても説明している。」と報告した。2017年度のインドネシアとタイの労使ワークショップについて触れ、「今年はインドネシアでは事例報告を中心に行い、工業団地における労使のフォーラムについて説明があった。経営内、組合内で意思疎通が十分であるかどうか、労使関係への認識が不十分なケースなどの事例発表があった。別のケースでは、労使対話により紛争解決に至ったことなどが報告された。タイでは好事例を報告した」と報告した。マレーシアの事例にも触れ「マレーシアでは労組組織化のための登録と認証選挙がある。ある企業では認証に成功したが、経営側は企業内労組の設立を画策しているとのことで、日本の親企業の労組を含め改善を要請している」と報告した。
最後に、浅沼事務局長がセミナーのまとめを行い、閉会した。