オピニオン:COP21以降どうなる?
2016-05-25
気候変動はなぜ労働組合の問題なのだろうか。世界中の国々が気候変動に関して行動を起こすか、何も措置を講じず結果を待っているかに関係なく、一つの転換が起ころうとしている。この転換が水やエネルギー、沃地といった資源の暴力的な争奪戦と化し、労働者の権利や社会的保護を台無しにする状況を許してはならない。
「政策文書や大会決議、1980年代から現在までに開催された何十回もの部門別会議や地域会合で、持続可能性と気候変動に関する組合の立場を討議・規定してきた。死んだ惑星に雇用はない。持続可能性はもはや好みの問題ではなく死活問題だ」とブライアン・コーラー・インダストリオール持続可能性担当部長はコメントし、2015年パリ会議の今後について以下のように述べた。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
2015年パリ会議(国連気候変動枠組条約第21回条約国会議)を振り返る
ブライアン・コーラーインダストリオール持続可能性担当部長・記
2015年12月12日にパリで開催された気候サミット(COP21)において、温室効果ガスを管理して気候変動を抑えるための歴史的協定が締結された。この協定はインダストリオール関連部門のほとんどに大きな影響を及ぼす。
パリ気候協議に関する労働組合の3大要求は以下のとおりだった。
- 意欲を高く持ち、気候行動の雇用創出可能性を実現すること。
- 気候関連資金に関する期待に応え、最も脆弱な層を支援すること。
- 労働者と地域社会にとって公正な移行の確保に取り組むこと。
パリ協定には、成功を収める気候協定に必要な要素が盛り込まれ、世界の平均気温を産業革命前+2℃をかなり下回る水準に抑え、気温上昇を産業革命前から1.5℃に制限するための取り組みを推進」するという目標が示されている。定期的審査に関する条項があり、経済変換が起こるであろうことが確認されており、不十分ではあるが必要資金に言及している。
公正な移行が明確な文言で序文に盛り込まれている。
「国家レベルで定義された開発優先課題に従って、労働力の公正な移行とディーセント・ワークや良質な雇用の創出の義務を考慮に入れる」
締約国は今、公正な移行に政治的に関与したことを受け入れなければならない。この関与は公正な移行に関する最近のILO指針書によって強化された。
おそらく、政府による関与よりも重要なのは、この協定がグローバル経済に送るシグナルだろう。投資家や保険会社にとって、化石燃料への資金投入に伴うリスクを正当化することがますます難しくなる。これは一夜のうちに金融界を変化させるわけではないが、変化させることは間違いない。
パリ協定はゴールではなく出発点であり、成功するために必要な要素をすべて盛り込んだ制度的枠組みを作り出す文書と考えなければならない。
労働者と環境にとって公正な移行
公正な移行の概念は、労働者と家族、地域社会、労働組合を尊重・保護しつつ、持続可能な産業で新しいディーセント・ワークを創出するということである。労働者は、環境を損なう雇用を選んだわけではなく、自分たちと家族が生活していくために仕事を必要としたにすぎない。
持続可能性に向かう変化のコストをすべて労働者に負担させるのは、著しく不公正である。
強力な社会的セーフティーネットは公正な移行プログラムの必須条件だが、そのようなセーフティーネットの利用は決して労働組合の第一選択ではない。組合の第一選択は、そして可能な限り公正な移行は常に、持続可能な雇用を創出し、発展させ、あるいは維持することである。持続可能な(「よりグリーンな」)雇用は、環境保護団体が思い浮かべるような雇用と同じものとは限らない。ソーラーパネルや風車を製造するにも、燃料やエネルギー、鉄鋼、プラスチックをどこかから調達する必要があり、これらは持続可能な雇用と考えなければならない。
現実の公正な移行 公正な移行は、多くの国々の政府、特に米国政府が第二次世界大戦後に多数の復員軍人を民間労働力に再統合するために導入した政策に端を発する。もっと最近の例は、ドイツが過去20~30年間に石炭鉱業の大幅な縮小に対処した政策である。充実した社会的保護プログラム、創造的な労働調整政策、労働組合との協力――それに適切な資金供給――のおかげで、労働者と地域社会が完全に守られた。これは、経済変化の社会的結果がどのような公共政策を採用するかによって決まること、そして労働者や社会の保護が可能であることを示している。 |
公正な移行を確保する唯一の方法は、そのような移行を促進するとともに、その影響に対処するための構造的プログラムの策定である。労働者の雇用が脅威にさらされると、環境が損なわれる。したがって、労働者にこの選択を求めてはならない。労働組合は「防御不可能なものの最後の擁護者」になることを避けなければならない。
公正な移行プログラムは包括的でなければならず、労働者と家族、地域社会を支援する柔軟な取り組みでなければならない。プログラムの立案に労働者を関与させ、それぞれの状況に応じてカスタマイズしなければならない。公正な移行プログラムは、時代遅れの産業用地の創造的再編成を支援することさえあるかもしれない。そして、労働者と労働組合をそのまま維持しなければならない。
持続可能な経済への公正な移行の獲得
再生可能エネルギーは将来急成長してエネルギー構成全体に占める割合が高まり、よりグリーンで持続可能な工業プロセスや工業製品が工業生産全体に占める割合が大きくなるだろう。その一方で労働運動は、労働者が関連産業の環境フットプリントの代価を払わされることのないようにする必要がある。
世界の温室効果ガス排出をここで食い止める必要がある。2016年2月はすでに過去最高に温かい年となった。このままでは、地球温暖化を2℃未満に抑えるというパリ協定の目標は達成されず、世界中の人々が社会・経済・環境への壊滅的な影響にさらされるだろう。
インダストリオール・グローバルユニオンとITUC、アメリカの労働組合会議AFL-CIOは3月にワシントンDCで会合を開き、昨年12月のCOP21気候サミットで締結されたパリ協定による政策圧力に、世界の労働運動がどう取り組むかをめぐって討議した。 この会合で特に焦点となった問題は、影響を受ける労働者にとって公正な移行をどのように達成するかである。エネルギー部門(特に石炭部門)のみならずエネルギー依存度の高い産業の労働者も、パリ協定に従って温室効果ガスを管理し、気候変動を抑えようとする取り組みの影響を大きく受ける。 |
労働組合運動は、いくつかの面で非政府環境保護組織と利害が一致しているが、使用者と懸念を共有している面もある。しかし労働運動には、産業転換に関する専門知識や、この変化を社会的に公正かつ公平なものにするための技能がある。
このような状況において環境的公正が重要であることは明白であり、特に開発途上地域では、多くの地域社会が鉱業など1つの産業だけに大きく依存しているが、これらの工場は国内環境規制の不足・欠如や技術の陳腐化が原因で、最大の環境汚染源でもあることが多い。
公正な移行は交渉の場で勝ち取れるものではない。そのような移行のためには慎重な公共政策選択が必要であり、強力な社会保護プログラムや持続可能な産業政策に基づき、既存の雇用をより持続可能な雇用に転換するとともに、より環境に優しい新たな雇用を大量に創出しなければならない。
公正な移行はそれだけで起こるものではなく、いわゆる自由市場は公正な移行をもたらさない。政府・企業両方を相手に集中的なロビー活動と対話を行う必要がある。さもなければ労働者は、社会経済問題への必要な配慮抜きでパリ協定を達成しようとする土壇場の混乱の犠牲になるだろう。
この歴史上の正念場でリーダーシップを発揮するのは私たちの責任である。物理法則と交渉することはできないが、現在および将来の労働者全員のために持続可能な産業政策を支持し、公正とディーセント・ワークを要求することはできるし、そうするつもりである。
ILO(国際労働機関)と公正な移行 ILOは2015年に三者構成専門家会議を開催し、環境維持、企業のグリーン化、社会的一体性およびグリーン・ジョブ(環境に優しい仕事)の促進を達成するために、国の政策や部門別戦略に関する経験の取りまとめと徹底的な見直しに基づき、ガイドライン案を審査・修正・採択した。 その結果策定されたILOの公正な移行に関する指針は、公正な移行の枠内で潜在的環境規制の影響を管理し、よりグリーンな(環境に優しい)持続可能な企業の発展を促進するための9つのキーポイントを確認している。 ●政策の首尾一貫性と制度(国別) ●社会的対話(マルチステークホルダー) ●マクロ経済成長政策 ●産業別・部門別政策(グリーン・ジョブ、ディーセント・ワーク) ●企業政策 ●技能政策(教育含む) ●労働安全衛生 ●社会的保護政策(医療、所得保障、社会サービス) ●労働市場政策 公正な移行をめぐる討議にILOが参加する意義は大きい。これによって公正な移行の概念は初めて国際的に通用する定義を与えられ、国連専門機関の中で制度上の生命を吹き込まれる。 |
特集:グローバル・サプライチェーンにおける労働者の権利:企業の責任を保持
2016-05-25
多国籍企業関連の生産が全世界に広がり、多くの国々で雇用が拡大している。そして、この傾向は労働組合運動に新たな課題をもたらしている。包括的な規則や実施機構が存在しない中で、どうすれば多国籍企業にサプライチェーンの労働権侵害に対する責任を負わせることができるだろうか。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
特集「グローバル・サプライチェーンにおける労働者の権利:企業は責任を負う」
文:ジェニー・ホールドクロフト、アダム・リー
国際労働機関(ILO)の推計によると、40カ国のグローバル・サプライチェーン(世界的供給網)関連雇用数は1995年の2億9,600万人から2013年には4億5,300万人に増えた。これは世界の労働力の5分の1以上に相当する。多くの労働者にとって、グローバル・サプライチェーンの雇用は不安定雇用、低賃金、非人間的な労働時間を意味する。
グローバル・サプライチェーンの拡大を駆り立てているのは、特に低賃金と不十分な規制・実施に乗じるために立案されたビジネスモデルである。調査によると、サプライチェーンでは労働者の権利が尊重されなくなっている。
衣料産業では、1989年から2010年にかけて、米国向けに衣服を輸出する上位20社の労働者の権利に関するスコアが73%低下すると同時に、各社が生産する衣服の価格が42%下落した。
国連指導原則は、多国籍企業はサプライチェーンの労働条件に責任を負うと明記している。だが多くの多国籍企業が、自分たちには労働者の賃金や労働時間、安全衛生、雇用契約に対する管理権がなく、その実態さえ知らないと主張している。しかし、これら各社は、使用材料、材料供給源、生産プロセス、納期などに関して、サプライヤーに非常に具体的な生産要求をすることができる。
実際に、企業が利益を最大化するために立案する調達モデルは、労働者に対する虐待の多くを引き起こす直接原因となっている。短いリードタイム、土壇場での生産仕様変更、新製品発売に向けた生産増、調達決定が労働者に及ぼす影響への配慮の全般的な欠如が、グローバル・サプライチェーンにおける労働者の権利の改善を妨げる大きな障害である。
グローバル・サプライチェーンの全段階で働く労働者には、「自分たちの賃金・労働条件がなぜこれほど劣悪なのか」と問いかける資格がある。労働者に製品を作らせ、役務を提供させている企業は大きな利益をあげており、サプライチェーンの労働者全員に適正な生活水準を容易に保証できる可能性が高い。
アップル社は2015年第4四半期に創業以来最高の利益184億米ドルを計上した。現金準備は2,160億米ドルに達している。一方、この過去最高益を生み出した製品を作っている労働者は、アメリカにおいて649米ドルで販売されているiPhone 6を1台作る報酬として、4米ドルしか受け取っていない。
ファッションチェーン、ザーラの創設者アマンシオ・オルテガは今や世界で2番目の金持ちになり、個人資産は実に700億米ドルに達している。
グローバル・サプライチェーンの頂点に立つ多国籍企業バイヤーは自社製品を作る工場で労働者を直接雇用しているわけではないにせよ、その購買決定は賃金・労働時間に大きな影響を及ぼす。
(上図のキャプション)上から順に
四半期利益
184億米ドル
iPhone 6販売価格 649米ドル
労働者の賃金 4米ドル
CSR(企業の社会的責任)の失敗
拘束力がない一方的・自発的な企業の社会的責任(CSR)の取り組みは、賃金・労働時間の改善にも労働者の組合加入権の尊重確保にも、ものの見事に失敗した。
CSRは数百万ドルの利益をあげる社会監査産業を生み出した。つまり、結果が伴っていないにもかかわらず多額の資金が投じられており、多くの企業が現行アプローチの改良によって漸進的変化を達成したいと考えているのである。
しかし、この遵守・監査モデルは個々の工場の実績に焦点を合わせるばかりで、原因や組織的障壁を確認して対処していないので、この取り組みは今後も効果を上げないだろう。
CSRプログラムが十分な成果を上げていないことに対して一般の意識が高まっている。うわべだけのウェブサイトやレポートは、もはや企業が旧態依然を続けられる都合のよいカモフラージュではない。監査モデルへの信頼をさらに揺るがす出来事があった。社会監査・認証機関のSAIとBSCIが、全焼して労働者254人が死亡したパキスタンのアリ・エンタープライズ衣料工場と、崩落事故で労働者1,134人が亡くなったバングラデシュのラナ・プラザに、それぞれ適格証明書を与えていたことが分かったのである。
労働組合の選択肢は?
国連指導原則と同原則に基づくOECD指針は、多国籍企業がサプライチェーンにおける侵害に責任を負うことを明確にしている。労働組合はOECD指針に基づいて提訴することができるが、これは拘束力のある解決をもたらすわけではなく、結果はまちまちである。
一般に現在、他国における行動を理由に多国籍企業を本国で訴えることはできないが、多国籍企業に法的要件を課そうとする動きがある。フランスでは、最大手のフランス系多国籍企業に対し、人権と環境への損害を防ぐためにデュー・ディリジェンス計画を導入することを義務づける法案が審議されている。そのような計画を策定しない企業は、裁判官によって計画立案を要求され、従わなければ罰金を科せられることがある。
一方、国連人権理事会では、企業の人権責任に関する拘束力のある国際条約の実現に向けて取り組んでいる。
労働組合は、2016年6月の国際労働総会でグローバル・サプライチェーンについて討議し、多国籍企業のサプライチェーンにおける国際労働基準の違反に取り組む具体策を考案するよう求めることにしている(囲みを参照)。
インダストリオールはグローバル資本への対抗という戦略目標に沿って、対象産業のサプライチェーンで多国籍企業の責任を強化するために対策を講じ続けている。
インダストリオールは50社近い多国籍企業とグローバル枠組み協定を締結している。これらの協定は企業に労働者の基本的権利の支持を義務づけ、一般に当該企業のサプライヤーも同様にするという約束を盛り込んでいる。
同じ使用者のサプライチェーンで活動する他の組合との関係を深めている組合もある。インダストリオールおよび姉妹グローバル・ユニオンである国際運輸労連のデンマーク、ノルウェー、イギリスの加盟組織は、石油、ガス、海事および輸送の各部門間で組合の連携を組織的に構築する計画を立てている。
その目的は、サプライチェーン全体におけるコミュニケーションと連携、組織化によって組合の力を強化することである。
労働組合は企業のブランド名を利用して、サプライチェーンにおける労働者の権利を要求することができる。
ITUCは先ごろ報告書を発表し、主要な有名多国籍企業50社が直接雇用している労働者の割合が6%にすぎないという恥ずべき事実を暴露した。残りの94%はグローバル・サプライチェーンの陰に隠れ、低賃金と権利侵害に悩まされていることが多い。ITUCは、これらの有名企業に「隠れた労働力」に対する責任を取るよう要求している。
小売関連の会社を名指しして恥をかかせる手法は特に有効な場合がある。インダストリオール関連部門の使用者は小売に従事していないことが多いが、多くの場合、サプライチェーンを通して小売会社と関係を結んでいる。
鉱山・金属大手リオ・ティント社の労働組合は会社に間接的に圧力をかけるために、同社からダイヤモンドを調達している宝石小売会社シグネット社をリオ・ティント社の劣悪な慣行と公に関連づけた。
フィリピンのインダストリオール加盟組織MWAPは、2014年にエレクトロニクス企業NXPと新しい労働協約を交渉するにあたって、当初はほとんど成功を収めなかった。NXPがMWAP指導部を攻撃したことを受けて、NXPの顧客であるアップルに焦点を移した。
MWAPとともにアップルの店舗で抗議行動を実施した。SumOfUsと共同で請願を行い、アップルに対し、同社サプライヤーのNXPに労働慣行の改善を求めるよう要求、15万人分の署名を集めた。その結果、MWAPは新しい労働協約を勝ち取ったのである。
サプライチェーン協定
2013年4月のラナ・プラザ崩壊は、失敗したCSR監査モデルから脱却し、グローバルなサプライチェーン労使関係を目指す転機となった。この事故がきっかけで、火災予防および建設物の安全に関わるバングラデシュ協定が実現した。これはグローバル・ユニオンと200社を超える多国籍衣料会社が締結した、法的拘束力のある画期的協定である。
この協定は、監査プログラムやCSRプログラムの導入から何年も経っていながら、まだ工場の安全性が確保されていない根本的原因を確認し、それに取り組んでいる。協定の中でブランド各社は、サプライヤー工場に秩序を維持させ、必要な工場改修資金を確保させることを約束している。工場が従わない場合、締約ブランドは取引関係を打ち切らなければならない。
バングラデシュ協定は、企業がサプライチェーンにおける侵害に対処する方法を一変させる見込みがある。現在の課題は、このモデルを足がかりに、サプライチェーンにおける他の組織ぐるみの労働権侵害に取り組むことである。
インダストリオールは衣料産業の主要ブランド数社と了解覚書を交わした。ACTと呼ばれるこの合意されたプロセスの目的は、世界の衣料産業における主要な賃金決定手段として、ブランドの購買業務に支援された産業別労働協約制度を確立することである。この了解覚書は、衣料生産国における産業別交渉の発展を生活賃金の達成に不可欠な要素として確認し、これを実現するには労働者の結社の自由に対する権利と団体交渉権の効果的な承認が必要であることを明確にしている。
グローバル・サプライチェーンではバイヤーが頂点に立ち、チェーンのどこに価値が配分されるか、どれだけ多くの価値が最終的に労働者の手に渡るかを決めるうえで最も大きな影響力を持っており、産業別交渉を支援する購買業務の改革が不可欠である。
ACTプロセスは、労使間の産業レベル全国団体交渉をブランドの購買業務に関連づけることによって、真のサプライチェーン労使関係の枠組みを作り上げる。労働者は産業別交渉を通して、自分と家族が十分に食べていける賃金を得ると同時に、産業の特異性、労働時間、生産性、賃金に影響を及ぼすその他の問題に取り組むことができる。
ACTプロセスは初めて、生活賃金を妨げる構造的障壁に取り組むことによって、拡張性のある持続・実施可能な方法で衣料労働者の賃金を引き上げる見込みが本当にある制度の創出を目指している。
この経験とバングラデシュ協定の経験に基づいて、サプライチェーンの構成・管理方法に深くかかわっている他の労働権問題に取り組むために、同様のモデルを開発できない理由はない。
この機会に労働組合は今、真のサプライチェーン労使関係に向かって、グローバル・サプライチェーンの労働条件に焦点を当てなければならない。
サプライチェーンをめぐる闘い――ILOで企業の責任を討議
グローバル・サプライチェーンは労働者ではなく大企業の期待に応えている。今回、グローバル・サプライチェーンで労働者を守るための闘いがILOで取り上げられる。
ILOは6月の国際労働総会(ILO総会)で、グローバル・サプライチェーンでディーセント・ワークを推進する方法について議論を行う。ILOは仕事の世界の基準設定を任務とする三者構成組織である。ILO総会は年1回開催され、ILOの一般的政策、活動プログラム、国際労働基準について決定する。
グローバル経済は現在、責任ギャップに悩まされている。多くの企業がサプライチェーンで労働者の権利を支持していると主張していながら、権利の尊重を確保するために必要な措置を講じていない。各国政府は、自国企業の海外サプライヤーにおける労働者の権利にほとんど責任を負っていない。それらのサプライヤーが拠点を置く国々には、労働者の権利を保護する法律がある場合が多いが、その法律を実施する能力や意思がない。
国連とOECD(経済協力開発機構)は、この責任ギャップに取り組むために対策を講じている。2011年、国連は指導原則を承認し、OECDは指針を更新した。
政労使は今回、ILOで進むべき道をめぐり討議する。
ILOの労働者グループは、グローバル・サプライチェーンで労働者の権利が幅広く侵害され、グローバル・サプライチェーンが労働者に利益を与えていない事実を反映する、討議の結論を強く求める予定である。
労働者は以下も要求する。 ●グローバル・サプライチェーン条約を目指して努力するという決定。この条約は、政府(本国と受入国)および企業(サプライヤーとバイヤー)の役割と責任を明確にすべきである。また、法的責任を規定し、サプライチェーンで労働者の権利の尊重を確保する政策や法律を策定するための指針を与えるべきである。 ●多国籍企業宣言の改訂。多国籍企業宣言は、雇用条件に関して企業・政府に勧告するILO文書である。しかし、主に企業自体の事業を対象としており、サプライチェーンはカバーしていない。労働者は、この宣言の適用範囲を広げ、調停や仲裁に持ち込める苦情処理制度を盛り込むよう要求する。 ●サプライチェーンの透明性向上に対する使用者の約束。 ●サプライチェーンにおける安全性向上と不安定雇用削減に向けて努力するという約束。 ●部門別団体交渉の促進と最低生活賃金率および最低賃金決定メカニズムの確立。 |
使用者グループはILOのサプライチェーン討議に異なる方法で取り組み、グローバル・サプライチェーンを経済開発の重要手段と表現し、サプライチェーンにおける労働者の権利の侵害を軽視すると予想される。使用者は、透明性の向上や説明責任、労働条件改善を求めるあらゆる措置に抵抗するだろう。
ILOでの議論がサプライチェーン責任の強化につながるよう確保するために、組合は労働者グループ案の支持を求めて自国政府に圧力をかける準備を整えておかなければならない。 |
特集:同じ目標を掲げる2つのナショナルセンター:ブラジルで団結により大勝利
2016-05-25
ブラジルでは労働者の4割以上が、2大ナショナルセンターであるCUTと「労働組合の力」のどちらかに加入している。両組織は絶えざる闘いとたゆまぬ努力により、ブラジルの労働者のために大きな勝利を収めた。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
プロフィール
ブラジルの2大ナショナルセンター「CUT」および「労働組合の力」が団結により勝利
文:キンバー・マイヤー
2006年12月6日、2万人の労働者がブラジリアを行進し、歴史的な協約を勝ち取った。ブラジルの2大ナショナルセンター、中央統一労働組合(CUT)と「労働組合の力」は、最低賃金の年次増額を求める2カ年キャンペーンの一環として、首都ブラジリアで3回目の全国デモ行進を組織した。
この行進のあと最低賃金が引き上げられ、労働組合の団結と闘志が労働者のために重要な成果を獲得できることを示した。政府はその後、労働組合、使用者団体および定年退職者・年金受給者団体の代表と合意し、インフレ率と1人当たりGDP成長率に基づく最低賃金の年次引き上げを採用した。この政策は現在もなお実施されている。
ブラジルの労働組合運動史におけるもう1つの画期的事件は2008年に起こった。両ナショナルセンターの代表が代議院に出席し、初めてナショナルセンターを法的に承認する法案が採決されたのである。
「CNTMはナショナルセンターの法的な承認を得るために7~8年にわたってブラジルのナショナルセンターと行動をともにし、2008年に目標を達成。その後、ナショナルセンターの共同議題を策定した」「CNTM-労働組合の力とCNM-CUTはともに、労働組合運動の統一を目指す政策に基づいてデモやセミナー、大会に出席した」とインダストリオール加盟組織CNTMのミゲル・トーレス会長はコメントした。
そして、闘いは今も続いている。南米の大国は現在、政治危機だけでなく大きな経済危機にも直面している。景気減速は工場閉鎖と失業を招いた。しかし、組合は労働者の権利の擁護と何千人ものブラジル人の雇用保護に極めて重要な役割を果たした。
2016年初め、CUTと「労働組合の力」に加盟する組合はデモの組織を支援して成功を収め、2016年オリンピック組織委員会に書簡を手渡し、日産が同社のサプライチェーン全体で人権を尊重することによって公式スポンサーのガイドラインを尊重するよう主張した。
CNM-CUTとCNTM「労働組合の力」の代表は、米国ミシシッピ州における同社の反労働組合政策を糾弾するために、ブラジル上院人権委員会の公聴会にも出席した。その結果、パウロ・パイム上院議員は、日産CEOのカルロス・ゴーンに接触し、労働者と交渉して組合による工場の組織化を許可するよう求めることに同意した。
労働組合は多国籍企業による労働者の解雇を阻止するために何度かデモを組織、例えばサンベルナルド・ド・カンポ(サンパウロ州)のメルセデスベンツ工場では、ストによって1,500人の雇用が守られた。CNM-CUT傘下のABC金属労組を代表するラファエル・マルケスとCNTM-「労働組合の力」を代表するミゲル・トーレスが、ともに抗議行動に参加した。
2つのナショナルセンターに加盟する総連合は他の部門、例えば化学部門でも支え合っている。
インダストリオール加盟組織CNQ/CUT初の女性会長となったルシネイデ・バリャオは次のようにコメントした。「私たちは化学部門の組合(FEQUIMFAR-「労働組合の力」、インダストリオール傘下)ならびにオザスコとクリティバの金属労働者(「労働組合の力」)から、いくつかの問題に関して支援を受けている。例えば、民主主義を守り、クーデターを阻止し、ジルマ大統領が任期を務め上げるまでジルマ政権を維持するための闘いや、経済成長と雇用を促進する新しい経済政策を求める闘いだ」
CUTは自らを「大衆を代表するブラジルの労働組合であり、独立した民主的な労働者階級の組織で、労働者階級の現在および過去の利益を守るために取り組んでいる」と表現する。CUTは1983年8月28日、サンパウロ州サンベルナルド・ド・カンポで創設された。その2年後、ブラジルでは20年に及ぶ軍事独裁を経て民主主義が回復した。
このような理由でCUTの最初の行動は、労働者の普遍的権利を保障できる広範囲の政治的・経済的・文化的な変化を求めて闘うことだった。
ブラジルではCUT創設の数年後、もう1つ労働組合が結成された。国際女性デー祝賀中の1991年3月8日に「労働組合の力」が設立されたのである。その目的は、「独立・自由・多元主義を信奉し、内部の公開討論に開かれ、より良くより公正なブラジルと連帯の促進を目指す明確なプロジェクトに基づき、子どもの福祉を増進できる」現代的な労働者の運動を統合することである。
第2回インダストリオール・グローバル・ユニオン世界大会は2016年10月にリオデジャネイロで開催される。
ブラジルのインダストリオール
インダストリオールはブラジルに22の加盟組合があり、これらの組合はCUTまたは「労働組合の力」の傘下である。インダストリオールは現在、若い労働組合員向けの訓練・教育プロジェクト、組合への女性の包含、多国籍企業における不安定雇用との闘いにあたって加盟組織と協力している。
ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、メキシコの自動車部門組合も協力しており、ブラジル系多国籍企業で労働組合ネットワークを構築するために連携している。インダストリオールはエネルギー大手ペトロブラスと、ラテンアメリカ唯一のグローバル枠組み協定を締結している。
ブラジルにはインダストリオール国別協議会があり、3部門(繊維、金属、化学)の2大ナショナルセンター傘下6団体が加わっている。
スペシャル・レポート:ストップ不安定雇用に向けた4年間のインダストリオールのアクション
2016-05-24
2012年の創設以来、不安定雇用に対抗する行動はインダストリオールにとって最優先の政策・キャンペーン課題となっている。全世界のインダストリオール加盟組織が4年にわたって組織化と交渉、キャンペーン、法制化闘争を展開してきたところであり、第2回インダストリオール世界大会は、これまでの業績を振り返るとともに、今後の闘いに再び焦点を合わせる機会である。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
スペシャル・レポート
ストップ不安定雇用に向けた4年間のインダストリオールのアクション
文:アーメル・セビー
過去数十年間に世界中で不安定雇用が幅広く増加している。ヨーロッパとアメリカでは労働者の7割がまだ常用直接雇用だが、不安定な雇用形態が増加傾向にある。低所得国では、自営や契約・臨時労働が主要な雇用形態となっている。
不安定雇用の急増は企業と政府の両方によって助長されている。企業は柔軟性を雇用創出の条件としており、政府は経済成長の名において労働市場を規制緩和し、不安定で質の低い雇用の拡大を許容している。グローバル化経済では、激しい国際競争と外部委託生産プロセスによってコスト削減圧力が強まっている。多国籍企業は、特に繊維や電子のような部門で不安定雇用を生み出すサプライチェーン・モデルを押しつけている。使用者は技術変化に乗じて柔軟性と不安定性の拡大を強要することができる。
不安定雇用との闘い:インダストリオールの基本戦略目標
2012年6月にコペンハーゲンで開催されたインダストリオール結成大会において、インダストリオール加盟組織はストップ不安定雇用キャンペーンを全会一致で採択した。
このグローバル・キャンペーンの名において、労働組合は10月7日のディーセント・ワーク世界行動デーに組合員を動員することを約束した。
世界行動デーに参加する加盟組織は毎年増加しており、これは加盟組織がストップ不安定雇用の必要性を重視している証拠であると同時に、虐待的な雇用契約を撲滅するというインダストリオールの決意を実に分かりやすく示す傾向でもある。
「不安定雇用の継続的な拡大は組合にとって最大の脅威の1つであり、労働者の雇用保障や賃金・労働条件だけではなく、権利を求めて集団で闘うために労働者を組織化する組合の能力をも脅かす」
「インダストリオールにとって、不安定雇用との闘いはグローバル・レベル、産業レベル、地域レベルですべての活動に組み込まれた重要な戦略目標だ」とユルキ・ライナ・インダストリオール書記長は言う。
不安定雇用との闘いに向けた組織化
「不安定雇用の蔓延は明らかに、企業による団結権・団体交渉権への攻撃の一部だ。不安定雇用の特徴は労働組合権がまったくと言っていいほど欠如していることであり、不安定労働者の組合加入を妨げる大きな障害が数多くある」とユルキ・ライナは言う。
インダストリオールのストップ不安定雇用キャンペーンは、加盟組織による不安定労働者の組織化を奨励・支援している。スウェーデンのユニオン・トゥー・ユニオン、フィンランドSASK、ノルウェーLO、オランダFNV、ベルギーACV-BIE、フランスFCE-CFDTの出資による労働組合プロジェクトは、組織化、団体交渉、キャンペーンに関する行動計画を立案・実施する能力の強化にあたって、加盟組織に具体的な支援を提供している。不安定雇用との闘いは、特にサハラ以南アフリカと東南アジアで全加盟組織を代表する全国キャンペーン・チームの設置など、加盟組織の間で行動の一貫性を高める重要な役割を果たしている。
不安定雇用プロジェクト活動に参加する加盟組織は、2012年以降何万人もの不安定労働者を組織化したと報告している。加盟組織の報告によると、昨年だけで3万4,000人の不安定労働者を組織化した。
サハラ以南アフリカの加盟組織は、トーゴ、カメルーン、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ブルキナファソ、セネガルの6カ国で約1万7,000人の不安定労働者を組織化した。
西アフリカでは、臨時労働者や日雇い労働者の利用を制限する法律があるにもかかわらず、このような契約が常に悪用されている。セネガルのいくつかの化学会社では、労働者全員が日雇い労働者か派遣労働者である。インダストリオールの取り組みを通して、オルグ向け訓練プログラムが導入されており、加盟組織は標的企業で組織化活動やキャンペーンを開始した。
「組合の力は組合員数によって決まる。契約労働者を組織化して組合に加入させ、組合員のために闘い、力を強化しなければならない」とインドINMFのB・K・ダス書記長は言う。
インドのプネーでは、企業が正社員の採用数を絞り、非組合員の契約労働者の利用を増やしている。常用労働者は解雇され、同じ仕事のために臨時労働者が再雇用されているが、給料はわずかである。
インドの連合団体SEM(統一労働者連盟)は反撃に転じ、不安定労働者を組織化している。契約労働者は以前、組合加入にあたって不当に差別されていた。この状況を克服するために、SEMは2014年9月にマハラシュトラ州で、派遣労働者の個別組合であるマハラシュトラ契約労働者組合(MCWU)を登録した。MCWUはインダストリオールの支援を受けてオルグを訓練し、1カ月で650人の契約労働者を組織化した。
インダストリオールは加盟組織に対し、個別組合を設立するのではなく、不安定労働者を組織化して代表するよう促している。しかし、それが難し過ぎ、不安定労働者の組合を設立することが唯一の解決策であることが判明した場合は、常用労働者の組合の連帯と支援が不可欠である。常用労働者の組合は、工場で不安定労働者を組織化するために必要な情報を提供する。
団体交渉がカギ
加盟組織は2015年、プロジェクトだけで不安定労働者1万人の常用雇用化に成功した。
過去数年間に、加盟組織が不安定労働者の労働条件改善の取り決めに成功したり、団体交渉の対象範囲を不安定労働者にも広げたりしたとの報告例が数多くある。これらの例の多くはインダストリオール出版物『保障の取り決め』に掲載されている。
- カメルーンではFENATICAMとUSTICが、N.I.S. Environ of Cimencamの下請労働者600人の全国社会保障制度への登録を確保した。
- ブラジルでは2003年にFUPがペトロブラスとの協約を勝ち取り、不安定労働者への支払いを確保する保障基金を設立した。
- インドでは2015年、INCWFがグジャラート州でディグビジェイ・セメントの契約労働者のボーナス獲得に成功し、SMEFIがインド鉄鋼公社の常用労働者に提供されているものと同様の医療設備を契約労働者も利用できるようにした。
立法化をめぐる闘い
不安定雇用の利用を制限し、適切に執行される効果的な法律が不可欠である。
インドネシアの加盟組織は、現行法の不遵守に関する証拠を集めるために、ICT電子、自動車、繊維・衣料、セメント、造船・船舶解撤、紙パルプ、鉱業、化学、エネルギー各産業の労働者500人以上を対象に調査を実施した。臨時契約の更新は法律上2回しか認められていないにもかかわらず、インタビューした契約労働者と直接臨時労働者の大半が、数回にわたって契約を更新していた。14年続けて雇用されている労働者もいた。
不安定労働者の大多数が企業の中核事業活動に従事していたが、法律は不安定労働者が遂行できる活動の種類を明確に制限している。加盟組織は、この調査結果を利用して法令遵守改善キャンペーンを実施する予定である。
フィリピンでは加盟組織が共同キャンペーンを展開しており、議会に対し、正規常用雇用を促進するとともに、すべての産業部門で増加している不安定雇用(特に派遣労働)の制限を目指す、身分保障法案の採択を要求している。
ブラジルのインダストリオール加盟組織は、議会による外部委託自由化法案の採択を阻止するために、何年もの間キャンペーンを実施している。10年以上前から、契約労働者を無制限に利用できるようにする法案が審議されている。組合は何年かうまく阻止していたが、使用者は2015年4月、下院で法案を可決させることに成功した。この法案は現在、上院の採決に付されている。インダストリオールの支援を受けて、労働組合と幅広い市民社会が協調しながら法案に反対している。今までのところ、この運動は上院での採決を遅らせることができている。
インダストリオール関連部門の不安定雇用
インダストリオールは、関連部門における不安定雇用の性質や蔓延に関する情報を絶えず収集している。加盟組織の大部分(65~85%)が一貫して、当該部門における不安定雇用の利用拡大を報告している。
常勤契約を結んでいない労働者の(総雇用量に占める)割合
25-50%
50-75%
75-90%
90-100%
出所:ILO
インダストリオール産業別世界会議の準備の一環として、加盟組織は関連部門における不安定雇用に関する情報を共有している。調査回答によれば、常用労働者と不安定労働者との間に著しい不平等があることは明白である。どの部門でも、不安定労働者の大多数が常用労働者と同じ待遇を受けてはいない。
給料は低く、インド・チェンナイ地域のいくつかの自動車部品工場の賃金構造を見ると、契約労働者の賃金は常用労働者のほぼ8分の1である。
リオ・ティント・マダガスカルの外注労働者の賃金は常用労働者の4分の1である。
不安定労働者の社会的保護は、たとえあったとしても常用労働者と同じではない。常用労働者に提供される医療設備のような企業給付を不安定労働者が利用できることは稀である。
加盟組織の報告によれば、不安定労働者は職場で常用労働者と同じ施設を利用できるとは限らない。インドの多くの企業とリオ・ティント・マダガスカルでは、常用労働者は食堂を利用しているが、不安定労働者は外で食べるよう強制されるという屈辱的な扱いを受けている。フィリピンのカビテ地域では、電子部門や繊維部門の契約労働者は節約のために朝歩いて通勤しているが、常用労働者は会社の輸送サービスを利用することができる。
不安定労働者は安全衛生面でより大きなリスクにさらされ、肉体的により過酷な仕事に長時間にわたって従事していることが多い。訓練は少なく、経験も足りない。
いくつかの世界的・地域的な企業別・産業別ネットワークの活動では、不安定雇用が中心的課題となっている。
2016年、インド、フィリピンおよびインドネシアのセメント部門のインダストリオール加盟組織は、不安定労働者の組織化を優先する共同国家行動計画を採択した。
この部門では特にアジアにおいて不安定労働者の利用が広く見られる。ラファージュホルシム・グローバル・ネットワークは2015年10月7日に世界行動デーを組織した。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカの労働組合は集会や会議、会合を開き、「ラファージュホルシムは同社で不安定雇用が幅広く利用されている問題に取り組まなければならない」という強力なシグナルを送った。過去4年間に300人以上がラファージュとホルシムでの勤務中に亡くなっており、その9割近くが下請業者か第三者に雇用されていた。
インドの加盟組織PCSSは、何年もの闘いとインダストリオールの支援によるOECD提訴を経て、1月にラファージュホルシムのACCジャマル・セメント工場で重要な勝利を得た。この妥結によって契約労働者1,000人の半数が雇用保障を獲得するとともに、契約労働者の給料がセメント産業の全国賃金協約に達するように漸進的に再調整され、解雇された労働者に解雇手当と復職支援が提供されることになった。
不安定雇用はインダストリオールのリオ・ティント・グローバル・キャンペーンの優先課題の1つである。リオ・ティントにおける不安定雇用の大規模な利用に伴う無数の侵害に注目が集まっている。加盟組織は不安定労働者を積極的に組織化している。
FISEMAは2013年、QMM(リオ・ティント・マダガスカル)で外注労働者300人を組織化することができた。オーストラリアでは、CFMEUが1つのリオ・ティント職場で常用労働者を外注労働者とともに組織化している。外注労働者は時間決めで雇われており、使用者は簡単に解雇することができるので、この組織化は困難な任務である。
ILOに対する行動
インダストリオールは、不安定雇用が国際労働基準の尊重を大きく損なっている実態をILOに認識させるために闘っている。制度上の認識が不足しており、使用者と政府はこの問題に取り組む用意ができていない。労働者グループの支援を受けてILOで何年も提言した結果、2015年2月に一歩前進し、インダストリオールは非標準的雇用形態に関する三者構成専門家会議に参加した
この会議の結論はILOの不安定雇用対策を大幅に強化する可能性があり、ILOがデータ収集と不安定雇用に関する報告を改善するよう勧告している。重要なのは、この勧告が臨時雇用と雇用形態に基づく差別とに関する今後の専門家会議も要求し、この2つの分野で将来の国際労働基準を発展させる可能性を開いたことである。
キャンペーンと勝利
「4年間のストップ不安定雇用キャンペーンで得た豊富な知識と経験のおかげで、創設3団体がすでに実施していた活動を足がかりに、世界中のインダストリオール加盟組織は、あらゆる形態の不安定雇用に立ち向かう準備がいつでもできている」とユルキ・ライナは言う。
「不安定雇用との闘いはまだ終わっていないし、すぐには終わらないだろう。10月にリオデジャネイロで開催される第2回大会で、加盟組織は、このグローバル・キャンペーンを次の段階に進めるにあたり、コミットメントの再確認を求められる。このキャンペーンの幾多の業績を振り返り、今後の課題に備えて力を蓄えるべき時だ」
「確実に言えるのは、どこであれ不安定雇用が根づいていれば、インダストリオール加盟組織は労働者の権利を守るために組織化し、交渉し、政治的に闘い、力を合わせるということだ」
Global Worker
STOP Precarious Work
◆組合員の証言1◆
アブドゥライさん(化学労働者、西アフリカ・セネガル在住)
私は2005年から同じ会社で日雇い労働者として月15日働いていたが、社会的保護はなく、仕事に必要な個人用保護具も支給されなかった。だが2014年以降、労働組合SUTIDSの行動のおかげで常勤契約を結んでいる。 今、私と家族の生活はすっかり変わり、私の収入は125%増えた。妻と子ども4人の医療費の6割を会社が払ってくれる。今では個人用保護具もある。社会保障基金が妻に出産相談サービスを、子どもたちに医療を提供し、妻の出産後と子どもたちが18歳になるまで2カ月ごとに給付を払ってくれる。その結果、今や私は不安定労働者の利益を守る戦闘的な活動家だ。
組合員の証言2
ハリダスさん(機械技師、インド在住)
私は12年間、さまざまな会社で契約労働者として働いた。賃金は安く、雇用不安があり、交通手段や食堂施設も適切な安全設備もなく、厳しい時期だった。請負業者や経営者の奴隷のようなものだった。
統一労働者連盟(SEM)の指導下で、私の会社の契約労働者97人全員が組合に加入した。経営側と何度か交渉を重ねた末、組合は私たち全員の常勤契約を勝ち取った。続いて協約が締結され、契約労働者1人当たり135米ドルの賃上げが確保されるとともに、社会保障給付と常用労働者が享受していたすべての施設も提供された。これは私と家族に極めて大きな変化をもたらした。今、私には雇用保障があり、交通手段や食堂を利用でき、子どもたちに質の高い教育を受けさせることができる。全体的に見て、私の社会的地位は向上した。
特別インタビュー: ベルトホルト・フーバー インダストリオール会長
2016-05-25
特別インタビュー: ベルトホルト・フーバー インダストリオール会長に聞く
ベルトホルト・フーバー氏は、バス工場の工具修理工見習いから身を起こし、世界最大の全国労働組合であるドイツの金属労組IGメタルとインダストリオール・グローバルユニオンの会長に昇り詰めた。「会長としての自分の役割は加盟組織の代弁者になることだ」と語るフーバー氏は、2016年10月にリオデジャネイロのインダストリオール世界大会で勇退する。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
インタビュア-:レオニー・ググエン
インダストリオール・コミュニケーション担当
Q.なぜ組合活動にかかわるようになったのか。
私がIGメタルに加わった1971年当時は、職場で労働組合や民主主義の問題に取り組みやすい政治的雰囲気があった。ドイツのウィリー・ブラント首相は民主主義を発展させたいと考えており、ドイツでは労働組合支持率が最も高い時期だった。
Q.労働組合でのキャリアで何を学んだか。
同僚の話を聞くこと、共通の目的を見つけて設定することを学んだ。自分自身が重要だとは考えないようにすることも学んだ――労働組合を強化するのは団結だ。
ドイツでは第二次世界大戦後、人種的、宗教的または政治的な背景にかかわらず、1部門1組合の原則に基づいて組合運動を再建できる強みがあった。各部門で1つの労働組合が労働者の利益を守るという考え方だ。私の所属組合であるIGメタルを例に取れば、再統一に伴う困難を乗り越えて勢力を維持した強力な安定した組合だ。
Q.1989年のベルリンの壁崩壊後間もなく、あなたはIGメタルの役員として旧東ドイツに移った。ドイツ統一にあたって労働組合はどのような役割を果たしたか。
2つのまったく異なる世界が出会い、西洋の極めて生産的な産業が後進経済と融合した。だが、IGメタルは旧東独諸州から100万人の新規組合員を何とか獲得したと言ってよい。残念ながら、旧東ドイツの大量解雇と産業空洞化が大きな原因で、再び新規組合員の多くを失ってしまった。最初の主な課題は、できるだけ多くの雇用を守ることだった。
Q.インダストリオールのようなグローバル・ユニオンはなぜ重要なのか。
歴史的に、先進工業国の労働組合は国際的な視野に立っており、これは労働運動の重要な文書すべてに見ることができる。
それはインダストリオールが、グローバル・レベルにおける国際基準の規制を任務とする国際労働機関の拠点、ジュネーブに本部を置いている理由でもある。
グローバル化に伴い、労働基準を国際的に規制する必要性がさらに高まっている。グローバル化は労働者同士を競い合わせているので、グローバル資本への対抗勢力を生み出すために、常に重要な戦略的目標を掲げる必要がある。団結して一致協力しなければならない。
Q.インダストリオールは創設後の4年間にどのような業績を上げたか。
最大の業績は、鉱業などの採取産業から製造業に至るバリューチェーン全体で、部門の垣根を越えて何とか団結し、1つの統一グローバル・ユニオンを形成していることだ。
3年前の悲惨な災害の結果ではあるものの、バングラデシュ協定などの協定に関して大成功を収めることができた。この成果は1つの全国組合だけでは達成できなかったものであり、インダストリオールとUNIグローバル・ユニオンなしでは絶対に不可能だった。
インダストリオールは、生活賃金と最低労働基準を世界的議題に載せるためにも助力している。10月7日に加盟組織が不安定雇用に抗議していることは大きな功績だ。ドイツでは、この日はほかにどんな出来事があろうとも重要な日になっており、私たちは国内のみならず全世界で不安定雇用と闘っている。
全員が支持し同意している5つの戦略目標は極めて大きな業績で、これを成し遂げた大規模組織を私はほかに知らない。
Q.組合はどんな課題に直面しているか。
グローバル化が一因で、労働者の権利が世界のほぼ至るところで毎日侵害されるという状況が生じている。個々の国々だけでなく、すべての場所の労働者全員が、スト権と結社の自由、団体交渉権を確保しなければならない。
工業国であろうと新興国であろうと、不安定雇用は間違いなく21世紀最大の課題の1つであり、形態は異なっていてもあらゆる場所に行き渡っている。不安定で危険な仕事をめぐる労使間の紛争は始まったばかりだ。若年失業とインフォーマル労働も大きな課題となっている。
例えば北米では組合に対する圧力が強まっている。東南アジアなど組合構築が進展している地域にも多くの御用組合がある。全国レベルで声を1つにし、労働組合が一致協力する必要がある。
20世紀の2度に及ぶ流血の世界大戦後、世界平和が最も重要な問題だ。これを達成するには、世界のすべての場所ですべての人々のために、人権と自由、民主主義、公正、繁栄を促進し続けなければならない。
Q.あなたはフォルクスワーゲン監査役会の暫定会長であり、現在アウディ監査役会の副会長も務めている。自動車産業における経験から、インダストリー4.0はどの程度の脅威か。
インダストリー4.0と言えばデジタル化の話になるが、主要な課題は化石燃料からの転換であり、これも生産と雇用に対する圧力を強めている。電気自動車は部品が少なくてすみ、これはラテンアメリカやアジア、ヨーロッパ、北米の自動車生産国に影響を与えるだろう。
1つ明白なのは、自動車の製造・生産が大きく変化するだろうが、影響の大きさは国によって異なることだ。一部の国々は研究開発や投資財、ロボット生産にも大きくかかわっている。ドイツは自動車産業だけでなく、投資財、機械・設備産業にも関与している。
この構造変化に労働者にとって好ましい形で影響を及ぼしたいなら、強力な労働組合を構築しなければならない。何と言っても、危機にさらされているのは雇用なのだから。
まず、それは全国労働組合が取り組むべき任務だ。インダストリオールにとって最優先の国家レベルの課題であり、適正賃金、確かな雇用、安全な作業場という最も重要な目標を目指して闘わなければならない。
Q.インダストリオールで女性に40%を割り当てるという案について、どう考えているか。
女性代表性を確保するための割り当てには無条件で賛成であり、IGメタルでそれを求めて闘っている。最大の問題は、どうやってそれを達成するか、割り当てを守らない加盟組織にどのような制裁を加えるかということ。私は規約の変更を支持している。規約は政治的な声明であり約束だが、文書に記すだけでなく実現させることのほうが重要だ。どうすれば女性による参加を実際に改善できるか検討する必要がある。
Q.インダストリオールが向こう4年間に何を達成できると期待しているか。
インダストリオール創設自体が成功だ。そのための準備には、数十年とは言わないまでも数年かかった。部門の垣根を越えて何とか諸問題に取り組んでおり、どの会合や討議に行っても、参加者にとって出身部門が重要な意味を持つことはほとんどない。だが、共通の文化をさらに発展させる必要がある。
グローバル資本の邪悪さをあげつらうだけでは不十分であり、行動を起こし、企業に異議を申し立てなければならない。その際、人目につく効果的なキャンペーンを実施し、インダストリオールの認知度をさらに高める必要がある。
5つの目標を掲げるだけでなく、この場合も具体的な行動に移さなければならず、地域での活動を例えば不安定雇用と関連づけなければならない。組織開発をよりいっそう重視することによって、世界中で民主的・代表的・自立的かつ強力な団結した独立労働組合を構築しなければならない。
このために、各地域の役割と地域活動を強化する必要があることは言うまでもない。このような任務はジュネーブにいなければ遂行できない。
会長は加盟組織の代弁者であり、強力な意見や見解を打ち出す必要があるが、主要な任務は人の話を聞き、共通の立場と団結を生み出すことだ。 (完)