オピニオン:COP21以降どうなる?
2016-05-25
気候変動はなぜ労働組合の問題なのだろうか。世界中の国々が気候変動に関して行動を起こすか、何も措置を講じず結果を待っているかに関係なく、一つの転換が起ころうとしている。この転換が水やエネルギー、沃地といった資源の暴力的な争奪戦と化し、労働者の権利や社会的保護を台無しにする状況を許してはならない。
「政策文書や大会決議、1980年代から現在までに開催された何十回もの部門別会議や地域会合で、持続可能性と気候変動に関する組合の立場を討議・規定してきた。死んだ惑星に雇用はない。持続可能性はもはや好みの問題ではなく死活問題だ」とブライアン・コーラー・インダストリオール持続可能性担当部長はコメントし、2015年パリ会議の今後について以下のように述べた。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
2015年パリ会議(国連気候変動枠組条約第21回条約国会議)を振り返る
ブライアン・コーラーインダストリオール持続可能性担当部長・記
2015年12月12日にパリで開催された気候サミット(COP21)において、温室効果ガスを管理して気候変動を抑えるための歴史的協定が締結された。この協定はインダストリオール関連部門のほとんどに大きな影響を及ぼす。
パリ気候協議に関する労働組合の3大要求は以下のとおりだった。
- 意欲を高く持ち、気候行動の雇用創出可能性を実現すること。
- 気候関連資金に関する期待に応え、最も脆弱な層を支援すること。
- 労働者と地域社会にとって公正な移行の確保に取り組むこと。
パリ協定には、成功を収める気候協定に必要な要素が盛り込まれ、世界の平均気温を産業革命前+2℃をかなり下回る水準に抑え、気温上昇を産業革命前から1.5℃に制限するための取り組みを推進」するという目標が示されている。定期的審査に関する条項があり、経済変換が起こるであろうことが確認されており、不十分ではあるが必要資金に言及している。
公正な移行が明確な文言で序文に盛り込まれている。
「国家レベルで定義された開発優先課題に従って、労働力の公正な移行とディーセント・ワークや良質な雇用の創出の義務を考慮に入れる」
締約国は今、公正な移行に政治的に関与したことを受け入れなければならない。この関与は公正な移行に関する最近のILO指針書によって強化された。
おそらく、政府による関与よりも重要なのは、この協定がグローバル経済に送るシグナルだろう。投資家や保険会社にとって、化石燃料への資金投入に伴うリスクを正当化することがますます難しくなる。これは一夜のうちに金融界を変化させるわけではないが、変化させることは間違いない。
パリ協定はゴールではなく出発点であり、成功するために必要な要素をすべて盛り込んだ制度的枠組みを作り出す文書と考えなければならない。
労働者と環境にとって公正な移行
公正な移行の概念は、労働者と家族、地域社会、労働組合を尊重・保護しつつ、持続可能な産業で新しいディーセント・ワークを創出するということである。労働者は、環境を損なう雇用を選んだわけではなく、自分たちと家族が生活していくために仕事を必要としたにすぎない。
持続可能性に向かう変化のコストをすべて労働者に負担させるのは、著しく不公正である。
強力な社会的セーフティーネットは公正な移行プログラムの必須条件だが、そのようなセーフティーネットの利用は決して労働組合の第一選択ではない。組合の第一選択は、そして可能な限り公正な移行は常に、持続可能な雇用を創出し、発展させ、あるいは維持することである。持続可能な(「よりグリーンな」)雇用は、環境保護団体が思い浮かべるような雇用と同じものとは限らない。ソーラーパネルや風車を製造するにも、燃料やエネルギー、鉄鋼、プラスチックをどこかから調達する必要があり、これらは持続可能な雇用と考えなければならない。
現実の公正な移行 公正な移行は、多くの国々の政府、特に米国政府が第二次世界大戦後に多数の復員軍人を民間労働力に再統合するために導入した政策に端を発する。もっと最近の例は、ドイツが過去20~30年間に石炭鉱業の大幅な縮小に対処した政策である。充実した社会的保護プログラム、創造的な労働調整政策、労働組合との協力――それに適切な資金供給――のおかげで、労働者と地域社会が完全に守られた。これは、経済変化の社会的結果がどのような公共政策を採用するかによって決まること、そして労働者や社会の保護が可能であることを示している。 |
公正な移行を確保する唯一の方法は、そのような移行を促進するとともに、その影響に対処するための構造的プログラムの策定である。労働者の雇用が脅威にさらされると、環境が損なわれる。したがって、労働者にこの選択を求めてはならない。労働組合は「防御不可能なものの最後の擁護者」になることを避けなければならない。
公正な移行プログラムは包括的でなければならず、労働者と家族、地域社会を支援する柔軟な取り組みでなければならない。プログラムの立案に労働者を関与させ、それぞれの状況に応じてカスタマイズしなければならない。公正な移行プログラムは、時代遅れの産業用地の創造的再編成を支援することさえあるかもしれない。そして、労働者と労働組合をそのまま維持しなければならない。
持続可能な経済への公正な移行の獲得
再生可能エネルギーは将来急成長してエネルギー構成全体に占める割合が高まり、よりグリーンで持続可能な工業プロセスや工業製品が工業生産全体に占める割合が大きくなるだろう。その一方で労働運動は、労働者が関連産業の環境フットプリントの代価を払わされることのないようにする必要がある。
世界の温室効果ガス排出をここで食い止める必要がある。2016年2月はすでに過去最高に温かい年となった。このままでは、地球温暖化を2℃未満に抑えるというパリ協定の目標は達成されず、世界中の人々が社会・経済・環境への壊滅的な影響にさらされるだろう。
インダストリオール・グローバルユニオンとITUC、アメリカの労働組合会議AFL-CIOは3月にワシントンDCで会合を開き、昨年12月のCOP21気候サミットで締結されたパリ協定による政策圧力に、世界の労働運動がどう取り組むかをめぐって討議した。 この会合で特に焦点となった問題は、影響を受ける労働者にとって公正な移行をどのように達成するかである。エネルギー部門(特に石炭部門)のみならずエネルギー依存度の高い産業の労働者も、パリ協定に従って温室効果ガスを管理し、気候変動を抑えようとする取り組みの影響を大きく受ける。 |
労働組合運動は、いくつかの面で非政府環境保護組織と利害が一致しているが、使用者と懸念を共有している面もある。しかし労働運動には、産業転換に関する専門知識や、この変化を社会的に公正かつ公平なものにするための技能がある。
このような状況において環境的公正が重要であることは明白であり、特に開発途上地域では、多くの地域社会が鉱業など1つの産業だけに大きく依存しているが、これらの工場は国内環境規制の不足・欠如や技術の陳腐化が原因で、最大の環境汚染源でもあることが多い。
公正な移行は交渉の場で勝ち取れるものではない。そのような移行のためには慎重な公共政策選択が必要であり、強力な社会保護プログラムや持続可能な産業政策に基づき、既存の雇用をより持続可能な雇用に転換するとともに、より環境に優しい新たな雇用を大量に創出しなければならない。
公正な移行はそれだけで起こるものではなく、いわゆる自由市場は公正な移行をもたらさない。政府・企業両方を相手に集中的なロビー活動と対話を行う必要がある。さもなければ労働者は、社会経済問題への必要な配慮抜きでパリ協定を達成しようとする土壇場の混乱の犠牲になるだろう。
この歴史上の正念場でリーダーシップを発揮するのは私たちの責任である。物理法則と交渉することはできないが、現在および将来の労働者全員のために持続可能な産業政策を支持し、公正とディーセント・ワークを要求することはできるし、そうするつもりである。
ILO(国際労働機関)と公正な移行 ILOは2015年に三者構成専門家会議を開催し、環境維持、企業のグリーン化、社会的一体性およびグリーン・ジョブ(環境に優しい仕事)の促進を達成するために、国の政策や部門別戦略に関する経験の取りまとめと徹底的な見直しに基づき、ガイドライン案を審査・修正・採択した。 その結果策定されたILOの公正な移行に関する指針は、公正な移行の枠内で潜在的環境規制の影響を管理し、よりグリーンな(環境に優しい)持続可能な企業の発展を促進するための9つのキーポイントを確認している。 ●政策の首尾一貫性と制度(国別) ●社会的対話(マルチステークホルダー) ●マクロ経済成長政策 ●産業別・部門別政策(グリーン・ジョブ、ディーセント・ワーク) ●企業政策 ●技能政策(教育含む) ●労働安全衛生 ●社会的保護政策(医療、所得保障、社会サービス) ●労働市場政策 公正な移行をめぐる討議にILOが参加する意義は大きい。これによって公正な移行の概念は初めて国際的に通用する定義を与えられ、国連専門機関の中で制度上の生命を吹き込まれる。 |
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