より効果的で効率的な大産別機能を
発揮しうる組織体制に向け改革を
~3GUFの組織統合と金属労働運動の強化に向けて前進を~
金属労協議長 西原浩一郎
歴史的な節目となる金属労協・IMF-JC第50回定期大会にご参集の皆さん。大変ご苦労さまです。
なお本日は、ご来賓として連合より古賀会長、国際金属労連・IMF本部からはJC派遣の松崎造船・事務技術職担当部長にご臨席いただきました。後ほどご挨拶頂きますが全員の拍手で感謝と歓迎の意を表したいと思います。
東日本大震災で犠牲になられた全ての皆様、JC組合・家族の皆様に心から哀悼の意を
まずは大会冒頭にあたり、本年3月11日に発生した東日本大震災により、尊い命を理不尽にも奪われた2万名を超える方々に心から哀悼の意を捧げるとともに、全ての被災者の皆様にお見舞い申し上げます。金属労協においても現時点で組合員42名の方が死亡・行方不明、組合員ご家族で死亡・行方不明の方は616名にも達するという事態となりました。
なお今回の大震災は巨大地震・大津波、加えて福島第一原発の事故と拡大する放射能汚染という想像を絶する大規模かつ広域にわたる複合災害であり、日本は戦後最大の国難に直面いたしました。
大震災発生以降、金属労協加盟産別は被災した組合員・ご家族の救援・支援や、被災地での雇用確保に全力を挙げることはもとより、連合の被災者・被災地支援や災害復旧・復興に関わる総合的な取り組みに、積極的に参加・協力してまいりました。具体的には連合ボランティア派遣および支援カンパの呼びかけに対応するとともに、被災地からの要請・要望も踏まえての事態の推移に応じた政府への政策要請と政策実現に全力を傾注してまいりました。
未だ原発事故は収束に至らず、復旧・復興には、これからも長い道のりが想定されますが、金属労協は常に被災された方々の思いと希望に寄り添い、被災地の復旧・復興、そして日本再生のための役割と責任を、我が国基幹産業たる金属部門に働く者の自負と決意をもって果たし続けていかなければならないと考えます。
特に被災地の復興を図り、これを日本再生につなげるためには「雇用無くして真の復興・再生」はあり得ないし、そのためにも金属産業が、被災地・東北はもとより日本において良質な雇用を維持・確保していくことが不可欠と考えます。
なお今回、金属産業でも多くの企業が被災することで、いわゆるサプライチェーンが寸断され、各産業セクターで全国規模での深刻な操業短縮・操業停止を余儀なくされました。
そして、このことがサプライチェーンの弱みとして指摘され、生産拠点の海外移転も含めた分散化や、部品・素材の仕様・スペックの共通化圧力等が加速しつつあります。
東日本大震災を通じて明確になった日本の金属産業の強さ
サプライチェーンを構成する業種・企業間での合意・納得に基づきリスク管理の観点からサプライチェーン全体を強化するための検討を行うことは否定しませんが、一方で今回の事態を通して、あらためて日本の、特に金属産業の強みが明確になったことは認識すべきと考えます。
すなわち1点目は、素材から最終製品にいたるサプライチェーンの寸断が国内はもとより有力な海外メーカーの生産活動にも与えた影響の大きさと広がりは、サプライチェーンの中で中小企業を含め日本の金属産業が欠くべからざる要の役割を、「ものづくり」の力と製品の優秀さにより果たしていることを示しています。
2点目は、サプライチェーンの復旧が、当初の想定をはるかに上回るスピードで図られたという事実です。日本のサプライチェーンは、その脆弱性を露呈したというよりは、むしろ驚異的な回復力を示しました。
その原動力こそ、一刻も早く供給責任を果たそうとした現場の献身的な努力の積み重ねであり、自律的で迅速な職場の判断と創意工夫、産業全体・地域・業種間の連携・協力体制でありました。これらは金属ものづくり産業の力と思いの結集、そして現場力が、いかに卓越したものであるのかを証明するものです。
国内ものづくり基盤の維持・強化に向けて
今、金属産業は震災の影響にとどまらず、デフレ経済下での国内市場の低迷、自由貿易協定締結の遅れ、法人税の高さ、さらに進むことが予測される電力不足、とりわけ「超円高」の進展等により、国内事業の海外移転に伴う国内空洞化危機、すなわち雇用喪失の危機に直面しています。
金属労協は、国内ものづくり基盤を維持・強化するための労使の自助努力を第一義としつつも、今申し上げた様々な政策課題の連合の政策への意見反映と政策実現への努力を継続してまいります。
なお、その際、ものづくり基盤を支える「人への投資」を通じて雇用の維持・創出、賃金・労働諸条件の確保・向上等を通して、産業の位置づけに相応しい良質な雇用の創造に努めることこそが、全ての前提であることを強調しておきたいと思います。
IMFの仲間からの国際連帯に心から感謝
また今回の大震災に際してIMF本部をはじめ各国のIMF加盟組織から連帯の精神と友情溢れるお見舞い・激励のメッセージ、そして多額の義援金を頂戴いたしました。義援金については連合カンパに活用させていただきましたが、金属労協は、今回の惨事に際して示された各国金属労組の国際連帯の精神を永遠に忘れません。
3GUFの組織統合について
さて今後の活動に関して2点に絞り申し上げたいと思います。
一点は、3GUFの組織統合についてです。
組織統合の背景
本件は、これまでも定期大会や協議委員会等で報告してまいりましたが、国際金属労連IMFと、国際化学エネルギー鉱山一般労連ICEM、および国際繊維被服皮革労働組合同盟ITGLWFの3つの国際産業別組織・GUFの統合問題については、私も参加した統合に向けたタスクフォース会議での激論を経て、5月に開催された3GUF合同執行委員会において、基本合意に至ることとなりました。
なお、この組織統合の背景として欧米先進諸国における生産拠点の新興国シフトによる労働組合の「組合費減少に伴う財政難」や「組織力・影響力の低下」を指摘できると考えます。ドイツではIGメタルが繊維の組合を統合し、スウェーデンでは金属・化学・繊維の組合が統合しIFメタルが結成されました。全米鉄鋼労組USWはゴム・化学・エネルギー等の組合を統合しています。
この様な事態はGUFの運動にも様々な影響を与えてきました。すなわち各GUFの財政悪化と組織力の低下、一方での多国籍企業のグロ―バル展開拡大へのGUFの対応力強化の必要性の増大です。
組織統合の意義
このような背景を認識した上で、金属労協として組織統合の意義を次のように理解すべきと考えます。
まず、グローバル経済化が進展する中で、日本企業、特に我々金属部門でも、企業が国境を越え、従来の産業セクターの枠組みを超え、事業展開を加速しているという現実があります。
また、各国政府も、貿易や経済・金融に関わる国際的な連携体制を、様ざまな枠組みで強化しつつあります。
このような状況を踏まえた上で、我われ労働組合には国際機関・政府・企業に対してグローバルレベルでの影響力が求められています。すなわち公正な行動、特にILO中核的労働基準の順守をはじめディーセントワークを確立するためのGUFを通した国際連帯活動の強化が求められているのであります。
したがって組織統合を通して、より効果的で効率的なGUFの組織機構・運営と安定的な財政が確保できれば、それは国際労働運動の将来に向けた確固たる活動基盤の確立につながるし、歓迎すべきことと考えます。
要は、組織統合そのものが目的ではなく、組織統合で何を目指すのかということこそが問われると考えます。
討議過程での主要な争点1:会費問題
なお、討議過程での主要な争点は、意思決定機関のあり方と財政・会費問題でありました。これらの点については、金属労協も含めIMFのメンバーは、極力スリムで機能的、そして民主的討議が確保できる意思決定機関の確立を求めるとともに、IMF加盟組織の財政状況の厳しさを考えれば会費値上げは断じて認められないとの立場で主張してまいりました。なお現行会費は、IMFが年間一人当たり1.1スイスフラン、ICEMが2.91スイスフランとなっています。
討議過程での主要な争点2:意思決定機関のあり方
また、大会と大会の間の主要意思決定機関は執行委員会となりますが、民主的で活発な討議を確保するためにも極力、メンバー数を絞り込むべく主張してまいりました。結果として新組織結成後、次の大会までの4年間を移行期間と位置づけ、この間の会費は、インフレ分は反映するものの各GUFそれぞれが現行会費で据え置き、一本化はそれ以降とすること、また結成後の4年間は、移行期間として執行委員数を60名とし、4年後の大会で40名にすることとなりました。 なお、規約内容を詰める3GUF合同の規約作業部会と新GUFの活動内容を明確にするアクションプラン作業部会が設置されました。既に8月末には両部会が開催され、金属労協は若松事務局長を両部会の委員として派遣し、金属労協の主張の最大限の織り込みに努力しているところです。
金属労協としての具体的対応
なお、今後、各GUFが機関会議において組織統合に向けた確認・決定を行うこととなっており、IMFは本年12月にインドネシア・ジャカルタで開催する中央委員会で組織統合を決定することとなります。これを受け2012年6月にデンマーク、コペンハーゲンで新たなGUFの結成大会を開催する運びとなりますが、その大会前日には3GUFが、それぞれ臨時大会をもって解散する予定となっています。
金属労協は、今後、人事問題への対応やアジア大洋州地域に焦点をあてた金属労協としての国際連帯活動のあり方の検討等、組織統合を前提として様々な分野での検討と対応を進めていかなければなりません。ICEMおよびITGLWFの日本加盟組織とも必要な連携をとりながら、金属労協として誤りなき道を選択してまいりたいと思います。なお新GUFへの加盟は、金属労協・IMF-JCを加盟単位といたしますが、新GUFの結成は、今後の我われの活動にも様々な影響を与えることから、その具体的対応については、しっかり論議していく必要があります。
金属労働運動の強化と組織運営のあり方
次に金属労働運動の強化と組織運営のあり方について申し上げたいと思います。これについては2010年度までの「あり方委員会」での論議を踏まえ、グローバル化に対応した組織運営を構築すべく、国際機能の強化とグローバル化に対応した国内機能への整理を基軸に、業務仕分けにより活動全体をあらためて評価・精査しながら、より効果的で効率的な大産別機能を発揮しうる組織体制に向け改革を行う方向で、議長、副議長、事務局長、産別事務局長・書記長をメンバーとする「組織運営検討委員会」を設置し、検討を進めてまいりました。
なおGUF組織統合への対応と検討過程で発生した震災への対応を最優先としたこともあり、当初の予定と比べ、検討・論議が遅れをきたしたことは議長として率直にお詫び申し上げますが、いずれにしても3GUF組織統合の影響を見据え、我々を取り巻く諸情勢への洞察を踏まえながら、金属労協として、連合運動との整理も含め、負託された役割をしっかり果せる中長期的な組織運営の方向性を答申として取り纏め明年の大会に提起してまいります。
当然、改革のスピードを高める観点で、早期に改革の具体化が図れるものについては機関決定を経て、答申提案前であっても実施に移してまいります。
なお検討の前提となる財政については、連合会費の値上げや組合員の減少等に伴う財政悪化を踏まえて加盟産別の一部から金属労協会費の値下げ要請が出されました。この取り扱いについて検討した結果、来年に予定する組織運営検討委員会答申前とはなりますが、産別事情への全体の理解に基づき、先行して来年1月より現状の一人月額31円の会費を、20%減となる25円へと改定することといたします。
20%の値下げというのは、金属労協の支出の約30%を占めるIMF会費がスイスフラン建てであり、スイスフランが円以上にドルやユーロの逃避資金となって為替市場で高値を続けており、実質的なIMF会費負担が増大傾向にあることも含め、極めて厳しい水準であることは事実ですが、これから組織運営検討委員会が1年かけて行う中長期的な組織運営の方向性の検討の中で、安定的な財政基盤を確保していきたいと考えます。
当然、今回の会費値下げが金属労協の単なる機能低下につながり、金属労協の存在意義が薄れてしまっては全く意味がありません。これまで以上の業務効率化や経費削減に努め、具体的な活動内容一つ一つの今日的な意義を精査しながら、強化すべき分野は強化するとともに、連合や加盟産別への活動の移管も含めて金属労協として見直す、あるいは、とりやめる分野を業務仕分けしながら、知恵と工夫を絞り出し、見直し内容を答申に反映することといたします。
なおこの見直し内容は、「組織運営検討委員会答申」に反映されることとなりますが、具体的な活動への反映は、4年間をかけて進めたいと思います。
その理由は、新GUF結成に伴う国際労働運動の領域における活動内容を見極める必要があること、および活動の見直し実施にあたっては、内容の、より詳細な検討と関係者間の調整が必要になるということであり、この4年間のいわば移行期の過程での財政収支上の不足分は、財政基金積立金から充当させていただきたいと考えます。
具体的な検討はこれからとなりますが、私自身は、20%削減目標は水準的にその達成は十分可能であるし、むしろ何としても達成しなければならないと考えます。加盟産別の皆さんのご理解とご協力をお願い申し上げます。
おわりに
最後に、2点お礼とお願いを簡潔に申し上げます。
2011年闘争に関して
1点は2011年闘争に関してです。2011年闘争は、集中回答日目前の東日本大震災の発生により、急遽、臨時戦術委員会を開催し、「組合員・ご家族の安否確認と救援体制の確立を最優先とする」こととし、「3月16日の回答引き出しが困難な場合は、各産別の判断に委ねる」との異例の対応を行うことといたしました。交渉結果は、集計登録組合では全ての組合が賃金構造維持分を確保するとともに、中堅・中小労組を中心に昨年を上回る労組が賃金改善・賃金是正分を確保するなど格差是正上の前進を果たしました。もちろん闘争に関わる課題で持ち越したものも多々ありますが、JC共闘として、デフレの進行を阻止する観点で至上命題とした賃金構造維持分確保の流れの波及と格差是正への寄与の観点から一定の社会的役割を果たし得たものと考えます。異例かつ困難な交渉の中で、最善を尽くされた産別・労組の皆さんの奮闘に敬意を表し、議長の立場から感謝申し上げます。
女性参画の活動強化への要請
2点目として、金属労協諸活動への女性参画の活動強化をあらためて要請いたします。金属労協は、2010年度に策定した「女性参画目標・行動計画」を踏まえ、各種会議体・集会・研修会等、あらゆる活動の場面での女性参画の促進を求めています。
国際労働運動においては女性参画の拡大によるジェンダーバランスの改善は重点方針となっており、日本の金属産業の国際労働運動における橋頭堡たる金属労協において、この分野の強化は極めて重視しなければなりません。女性の組合活動への参加率向上、組合役員への登用促進と活動環境の整備等、職場段階から総合的に、スピード感をもって取り組む必要があります。本分野の活動強化に向けての一層の努力を要請いたします。
以上、金属産業労働者を取り巻く環境には、容易ならざるものがありますが、加盟産別の理解と協力のもと、「確かな雇用・確かな未来」に向け、金属労協の価値ある活動の前進に向け、最善を尽くすことをお約束し、大会冒頭にあたってのご挨拶といたします。ありがとうございました。