一層の円高是正を要請
金属産業の円高の影響について各産別から窮状を報告
【概要】
2012年2月22日朝、金属労協は、円高対策を中心テーマに、都内ルポール麹町で「政策研究会」を開催した。冒頭、西原議長からの挨拶の後、各産別から各産業への円高の影響を報告した。
各産別および金属労協からは、以下の報告・要望を行った。
- 内需が縮小する下で、海外生産比率が高まっており、国内生産においても輸出向けの比率が高まっている。円高の影響で、短期的な企業収益が悪化するのみならず、研究・開発部門も含めて海外移転を決断せざるを得ない状況にある。産業空洞化、雇用の空洞化の危機に直面している。
- 日銀の物価目標はまだ低い。実効性の高い金融緩和策を早急に実施するように対応してほしい。
次に「円高に対する民主党の対応、最近の動向」について政治顧問を代表して直嶋議員から大要以下の発言があった。
- 民主党として「円高・デフレ対策特別チーム」を設置した。日銀に対しても、水面下で円高是正を働きかけてきた。今回の金融緩和は、サプライズということもあり、為替と株の両方に効果があった。日銀は、決めたことをきちんとやるべき。国債を新たに10兆円、本当に買うようにしなければならない。小出しでやっても効果はない。
その後の意見交換の中で、各議員からは大要以下のコメントを受けた。
- 金融政策は、日銀と連携して、ウォッチしながらやっていく。
- 円高対策は、ものづくり産業の声が届いた。円高の影響は東京にいてもわからない。工場閉鎖で実感している地方から声を上げることが大切。
- 円高対策の陳情はあまりない。陳情対策本部を通し記録に残した方が良い。
- 安全で、地域が了承する原子力発電所については再稼働すべきと考える。
- 現場が頑張っても利益が出ない状況を解決し、活力を引き出さなければならない。
出席者
組織内議員 | 直嶋正行参議院議員(自動車総連)、池口修次参議院議員(自動車総連)、 古本伸一郎衆議院議員(自動車総連)、大畠章宏衆議院議員(電機連合)、 田中慶秋衆議院議員(JAM)、髙木義明衆議院議員(基幹労連)、 轟木利治参議院議員(基幹労連)、柳田稔参議院議員(基幹労連)、 辻泰弘参議院議員(基幹労連)代理、平野博文衆議院議員(電機連合)代理北島純秘書 |
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金属労協 | 西原浩一郎議長(自動車総連会長)、有野正治副議長(電機連合委員長)、 眞中行雄副議長(JAM会長)、神津里季生副議長(基幹労連委員長)、 海老ヶ瀬豊副議長全電線委員長)、若松英幸事務局長、野木正弘事務局次長、 滑川太一事務局次長、井上昌弘事務局次長、事務局 |
西原浩一郎金属労協議長挨拶(要旨)
2月14日の日銀会合で金融緩和を打ち出したことで、1ドル=80円に戻した。しかしながら、今の円高水準は産業が耐えられる水準ではない。国内空洞化、雇用喪失の危機に直面している。2011年は、31年ぶりに貿易赤字になった。2012年1月には、貿易赤字額が過去最大を更新した。われわれ輸出産業の状況がその数字に表れている。政府・日銀は、円高と戦う姿勢を見せてほしい。民主党は、円高・デフレ対策の特別チームを設置したと聞いている。本日は、職場の現状がどうなっているか報告させていただき、引き続き円高是正へのご尽力を心からお願いしたい。
金属各産業の円高の影響報告(要旨)
自動車産業(西原浩一郎自動車総連会長)
- 自動車産業の就労人口は、関連産業を含めれば、国内全就業人口のおよそ1割を占める。プラザ合意以降、円高が進む中にあっても懸命に雇用を維持してきた。しかし現在、自動車産業は深刻な産業空洞化の危機、雇用喪失の危機にさらされている。
- 世界市場の拡大に伴い、海外現地生産は既に国内生産を上回っている。国内生産の半数は海外向けだが、円高等によって海外向けが減少している。国内市場が長期低迷傾向にある中、海外向けの国内生産の増強を図らなければ、中小を含めて意図せざる海外移転、廃業を決断せざるを得ない。1円円高になれば、乗用車8者合計で、860億円の損失になる。
- 2010年の統計では、自動車産業は貿易収支において11.5兆円の黒字を出している。これにより、他産業も含めた貿易収支全体での6.6兆円の黒字化への寄与と同時に、経常収支黒字の大部分も占めている。円高で自動車の貿易黒字が縮小すれば日本経済全体にも悪影響を及ぼす。
電機産業(有野正治電機連合会長)
- 電機産業は、リーマンショック後、海外比率が下がったが、国内消費が下降する中で、海外の伸びに支えられている。2008年の世界経済の同時不況や、東日本大震災後の電機機械の輸出の推移をみると、ドルベースではそれなりに回復しているが、進行する円高のため円ベースでは、回復がなかなか進んでいない。
- ここ数年の傾向として、情報通信機械分野において、輸入額が輸出額を上回る傾向が続いている。特に輸入額が増えた製品は、携帯電話、薄型テレビ、ノートパソコンで、2010年度実績額では、いずれも5,000億円超となっている。これまで人を抱え、売り上げを稼いできたが、今では足を引っ張っている状態である。電機産業は、百四十数社あるが、70兆円売り上げても赤字である。開発・研究拠点も海外に出ざるを得ない状況となっている。
金属機械産業(眞中行雄JAM会長)
- 円高に加えて、東日本大震災、タイの洪水も各企業の経営・業績に影響を与えており、産業全体としてどれだけの影響を受けているか明確にするのは難しいが、円高が企業業績・産業動向に影響を与えているのは間違いない。
- 自動車サプライヤー関連では、円高、欧州不景気、震災、タイ洪水による日本車の減産の影響を受け、予算を下回る業績となる見込み。完成品メーカーの海外生産への移行に伴い、サプライヤーとしても海外生産に移行せざるを得ない事態も発生している。
- 工作機械では、リーマンショック後の落ち込みから回復基調にある。日米欧の需要が底堅く堅調に推移している。しかし、最需要国である中国が減速傾向の中、ユーロ安で相対的に競争力が上がった独・伊などとのメーカー相手に厳しさが増している。
- 精密機械では、北米向けは売上好調で現地ドルベースでは予算を上回っているが、円ベースでは売上減の企業もある。収益的には更に厳しい状況である。鋳鍛造では、中小企業が多く直接輸出をする企業はほとんどないが、納入先が輸出企業で円高の影響を受ける場合は、受注減や強いコストダウン要請を受けており、厳しい経営を強いられている。
鉄鋼・造船重機・非鉄産業(神津里季生基幹労連委員長)
- 国内に事業基盤をいかに残すか、技術をいかに残すかが課題。円高ではやっていけないという声を、鉄鋼連盟、造船工業会、日本鉱業協会と連携してアピールしている。
- 鉄鋼業では、原材料を輸入しているので、円高の影響が少ないと思っていたが、1~3月期は赤字の見込み。輸出比率がかつての2~3割から4~5割に拡大しており、内需の低迷もあって大きな影響を受けた。また、原材料費は中国が価格決定権を握っており、上がる一方である。溶鉱炉の設備投資が大きいため、簡単に海外移転はできないが、赤字が定着すると海外シフトが懸念される。
- 造船業は、リーマンショック前は、投機的な造船で食いつないできたが、今はその反動でばったり受注が途絶えている。総合重工分野は海外展開しているので、円高の影響が大きい。
- 非鉄精錬業は、リサイクル、電子部品など幅広く手がけているが、全国にある100~200人程度の事業所を閉鎖せざるを得ない状況も出てきており、地域の雇用への影響が懸念される。外資100%でシリコンウェハーを生産していた企業が、採算が合わないとして国内の工場を閉鎖し、シンガポールとアメリカに生産を移すなど、足下で雇用問題が発生している。
電線産業(海老ヶ瀬豊全電線委員長)
- 電線産業の2011年度の業績は、売り上げは前期と変わらないが、経常利益は下がっている。銅電線の出荷量はこの3年横ばいであるが、90年代と比較すると半減している。
- 一方、銅電線の輸入量は、8年間で3倍に増え、輸入が輸出の2.3倍に増えている。海外子会社の強化とともに資本増強も行われ、アウト・インが増大していることも要因の一つ。これに伴い、従業員数も、大手6社で1998年の4万人程度から2011年には1.5万人程度へと減少している。国内需要が低迷するなか、海外新興国のインフラ整備による需要もあり、輸出への依存度が大きくなっているが、円高の影響により利益が出ず、収益圧迫要因となっている。1ドル=80円の想定で77円が継続した場合、一社では営業利益が25億円悪化する。企業は、新興国の経済発展により、海外企業へ投資を行い、そこで利益を上げていくことに軸足を移しつつある。円高が続けば、事業見直しによる国内生産の縮小につながる。国内で生き残れる部門や開発部門まで海外に出て行ってからでは、国内雇用は守れない。早急に手を打つ必要がある。
若松英幸金属労協事務局長
- 2月14日の日銀の金融緩和策の発表は、みなさまのご尽力のおかげと感謝している。日銀は中期的な物価安定の目途を当面1%としているが、諸外国の中央銀行の物価目標が2%であることと比べればまだ低い。日銀が発表した金融緩和策が着実に実行されるかどうかにも不安がある。実効性の高い金融緩和策を早急に実施するように対応をお願いしたい。
- 電力不足も危機的状況にある。定期点検中の原子力発電所の再稼働がなければ、電力の安定供給は難しいのではないかと懸念している。
円高に対する民主党の対応、最近の動向(直嶋正行参議院議員)
(略)
意見交換
(略)
まとめ(西原浩一郎金属労協議長)
- 企業は自らを守るために海外に出ざるを得ない。しかし、そのために中小のサプライヤーが崩れていって良いのかという葛藤の中で経営している。そういう経営者がいるうちは良いが、今年は大きく発言が変わってきた。自動車産業では年間1千万台を雇用の維持ラインと位置づけてきたが、1千万台は難しい、どこまで耐えられるか労使で考えたいとの提案が出てきた。2~3年後に大きな影響が出てくるのではないか。
- 震災でサプライヤーの重要性がよくわかった。地方経済を支える広範なものづくりが崩れたとき、それでよいのか、雇用をどうするか、日々悩んでいる。今あるものづくり基盤、モラールの高さ、技能集積を守っていくことが必要である。今の円高水準は、絶対水準として厳しい。