2013年4月10日 東京・電機連合会館にて
「ものづくり日本の将来像」テーマに開催
金属労協は、4月10日午後1時から5時まで、都内・電機連合会館会議室で、2013年度政策セミナーを開催した。今回は、「ものづくり日本の将来像」をテーマに開催、加盟産別・単組から120名が出席した。冒頭、金属労協を代表して、眞中政策委員長(副議長、JAM会長)挨拶に立ち、今回のセミナーの意義について「日本経済再生にとって最大の障壁であった超円高は、是正の方向にあるものの、国内ものづくり拠点の維持・強化を図り、国内製造業が生き抜いていくためのグランドデザインは、いまだ描き切れていない。政府は産業競争力会議において、2013年半ばをめどに成長戦略の策定を進めているが、その検討状況について認識を深めていくとともに、東日本大震災被災地における製造業の復興、アジアの国々と対峙する九州地域の製造業の雇用情勢について、状況の掌握に努めることにより、金属労協および産別・単組の政策・制度、産業政策、経営対策の活動に役立てていきたい」等述べた。続いて、本部報告として浅井茂利政策局次長から「金属労協政策・制度課題重点取り組み項目」、「金属労協・地方における政策・制度課題2013」を中心に報告した。続いて、地方からの報告として、2つの事例報告を受けた。一つ目は、東北ブロック代表の菅野義雄氏(電機連合宮城地協議長)から東北「東日本大震災被災地における製造業の復興」と題して報告を受けた。二つ目は、金属労協九州ブロック代表の田井孝二氏(電機連合福岡地協議長)から九州「九州地域における製造業の雇用状況」と題して報告を受けた。続いて、講演として「今後の成長戦略の検討状況」と題して、産業競争力会議議員であるコマツ取締役会長の坂根正弘氏から講演を受けた。最後に、金属労協の若松英幸事務局長がセミナーまとめを行い、セミナーを終了した。
1.政策委員長挨拶要旨(眞中行雄 金属労協副議長・政策委員長/JAM会長)
金属労協では、従来から、「民間・ものづくり・金属」で働く者の立場から、産業政策、政策・制度の取り組みを重視した取り組みを推進してきた。古くは1970年代の狂乱物価の収束、80年代以降は内外価格差是正、2000年代に入ってからは、外国人労働者問題の改善、リーマンショック時の雇用維持・非正規労働者対策やTPP、さらには原発事故によるエネルギー不足への対応、そして円高是正など、時代が必要とする政策を積極果敢に提案し、その実現を図ってきた。
実体経済の回復がなければ、デフレからの回復もありえない。金属労協としては6つの政策の実現が大切だと考えている。一つ目は円高是正である。為替は急激に下がっているが、安定的推移が大切だ。二つ目は、デフレ脱却のための環境整備だ。住宅投資、設備投資など実体経済の回復が必要だ。三つ目は、TPPの問題で、政府として農業など国内対策が求められている。四点目は、エネルギーの確保と環境問題への対応だ。火力発電への代替により電力料金の値上げとなっているが、これ以上の値上げはものづくり産業にとって死活問題となりかねない。安定的で低廉な電力の供給を求めたい。五点目は、ものづくり産業の持続可能性だ。雇用労働者の7割が中小企業で働いている。六点目は、仕事と子育ての両立に対する環境整備のテーマだ。本日のセミナーを通じ、金属労協および産別・単組の政策・制度課題、産業政策、経営対策の活動に役立てていただきたい。
2.本部報告要旨(浅井茂利政策局次長)
本部報告として、「金属労協政策・制度課題重点取り組み項目」と「金属労協・地方における政策・制度課題2013」について、説明を行った。
・円高是正は、安定的推移が求められる。日本の金融緩和は欧米に比べ、これまで小さいものに止まってきた。デフレ脱却が今後の課題になる。ウォン、人民元は購買力平価に比べて大幅に割安である。貿易赤字の拡大は、輸出数量の減少による影響が大きく、為替の問題ではない。一方、企業の想定為替レートはまだ80円台である。
・TPP参加がようやく実現しつつある。アメリカの承認のため、早くても7月から参加という日程。TPPに関する情報は不足しており、情報の公開は重要ではあるが、単純労働への労働市場の公開とか、公的保険分野への進出はあり得ないだろう。
・エネルギー問題については、金属労協では、一定の前提のもと、政府が責任を持って原発の再稼働の判断を行うとしている。問題は温暖化排出ガスであるが、政府では、今年11月までに見直しを行うこととしている。
・事業承継の問題については、後継者がいない場合の対応が問題となる。従業員は事業の継続を求めるのは自然であり、継続が出来る方法を研究している。
・工業高校のあり方について改善が必要。工業高校の就職内定率は高く、離職率も低い。工業高校の魅力の一つである。
3.地方からの報告要旨
①東北「東日本大震災被災地における製造業の復興」(菅野義雄・金属労協東北ブロック代表/電機連合宮城地協議長)
・震災から2年が経過した現状について。未だに多くの行方不明者がいる。これも津波による災害の影響といえる。余震も最近ようやく減ってきている。震災に関する新聞報道も徐々に減ってきているが、役立つ情報の発信が大切だ。また報道と義援金の多さは、相関関係があることも分かった。報道の影響は大きいと言える。鉄道、道路、港湾など社会インフラも徐々に整備されつつある。福島の原発からの復興では、汚染への対応が見通せない状況にある。
・経済の総体としては、東北経済は着実に回復しつつある。被災県ごとに見ても、マクロ的には震災前の水準に回復している。サプライチェーンの改善も進んでいる。鉱工業生産指 数も回復しつつある。製造関係では、新設・増強の工場もあるが、他方、再建断念や移転の工場も出ている。雇用状況については、被災3県で110万人の方に影響があったとし ている。そのうち8万人が離職している。また、別の統計でも、製造業では8万人の雇用減を記録している。しかし、最近の有効求人倍率は、復興需要もあり、全国平均以上に高 い水準となっている。
②「九州地域における製造業の雇用状況」(田井孝二・金属労協九州ブロック代表/電機連合福岡地協議長)
・九州はかつてシリコン・アイランドと呼ばれた。IC生産のピークは平成10~12年であった。それ以降、減少している。九州における半導体の貿易額を見ても、07年と比較して11年には輸入が3分の1、輸出が半分に減少している。他方、自動車産業については、生産は増加傾向が続いている。
・九州の人口は、2035年には、2005年より230万人減少すると見られる。現在の佐賀県と長崎県を合わせたくらいの人口が減ることになる。道州制導入の論議が避けて通れない。
・事業構造改革については、2007年頃以降の内容は、ほとんどスクラップばかりだった。再就職の斡旋もあったが、なかなか厳しい状況であった。
・円高・デフレ・価格競争力・生産性改善などの要因で、労働集約型産業の生産拠点の統廃合の事案が多くある。雇用については、遠隔地への転任先提示を受けるが、居住地変更を伴う異動に応じられない従業員が多く、結果として離職者が多い。
・今後、地方経済に与える影響がより顕著に表れると懸念される。アジアの発展を九州の成長に繋げていくことが必要である。
4.講演「今後の成長戦略の検討状況」
・社長時代に製品を半分に減らした。現在または将来世界一または二位のシェアにならない製品からは手をひくと宣言した。
・建設機械の地域別需要構成を中期的に見ると、日本はバブル以降のシェアが下がり続けている。21世紀は新興国の時代だ。
・世帯の人口は爆発的に増加中。都市化も進んでいる。資源、エネルギー問題は深刻だ。化石燃料は無くなる前提で考えなければならない。
・成長のキーワードは、アジアとの共存、ダントツ商品(環境、安全、ICT)、固定費の削減だ。経営者はリスクを取らなければならない。
・企業価値を世界中で共有することが重要。全ステークホルダーからの信頼度の総和が企業価値だ。顧客からの信頼は特に重要だ。コマツでないと困る度合いを高め、パートナーとして選ばれ続ける存在となることだ。
・日本企業が低収益で苦しむ原因は、日本のデフレ状況、東京中心の思考の問題、六重苦、トップマネジメント力がない、終身雇用の課題、高い業務コストなどだ。
・日本ものづくりコストは高くはない。問題は固定費だ。最近では、工場は国内でしか作っていない。問題はデフレが続くかどうかにかかる。
・デフレの原因は、社会構造、産業構造の他、立法・行政構造にもある。
5.セミナーのまとめ
・地域の代表の人に初めて話してもらった。地域で働く人たちのいろいろな状況を理解することは政策立案の上でも重要だと思う。
・坂根相談役のお話は、元気が出る話だった。経営者としての質の高さを感じる。
・円高の問題は大変だった。今、いろいろ動き出している。景気の回復を確実にしていく必要がある。
・良質な雇用を創出する、ものづくり産業は、日本の発展にとり重要だ。人材力、現場力を生かした政策を一緒に作っていきたい。