米国発の金融危機が実体経済に波及する中で、日本経済も極めて深刻な局面に立たされているという認識を持たなければならない。特にこれまで日本経済を主体的に牽引してきた金属・ものづくり産業は、内外需の急減、そして実体経済と大きく乖離をした円高の進行等による厳しい環境の中での2009年闘争の取り組みとなる。 我々金属労協は、その状況をしっかりと直視しながら、今労働運動全体が果たすべき社会的役割とは何かについて真剣な討議を経て方針を確定してきた。その上で、2009年闘争において、全構成組織がJC共闘の旗の下で、全力で取り組みを進めていこうという決意を固めてきた。 労働運動が果たすべき社会的役割を踏まえ闘争方針を策定 今回の金融危機を契機に、これまでの産業・企業・経済構造など様々な分野での「あり方」自体が見直されている、ある意味ではチャンスと言える。金融機能は健全な産業・企業社会を作るためには不可欠なものであるということを理解した上で、実体経済、特に日本の経済構造においては中核を担うものづくり・金属産業の重要性、また金属産業に焦点を当てたさらなる政策推進の重要性、そして金属産業が経済だけではなく様々な社会構造の中で果たしている大きな責任と役割などについて、認識を深める大きな機会になったのではないか。問題は、労働組合がそのような状況を踏まえてどう行動していくのか、我々の姿勢をどう示して社会に訴えていくのかということである、職場での真摯な討議を通して今後の交渉体制を作っていくことが特に重要である。 また、我々労働組合は、職場を起点とする社会的勢力として、産業・企業の置かれた状況を踏まえた方針でなければ力となり得ないということは厳然たる事実である。しかし、もう一方でいわゆるミクロとマクロをつなぐ接点としての我々の役割をどう考えるのかが、今次2009年闘争において我々自身に深く問われる闘争ではないか。 賃金引上げについての3つの視点 そういった状況の中で、金属労協が取り組む賃金引き上げについての考え方を3つの視点から整理をしてみた。 (1)内外需バランスの取れた経済構造への転換のために まず一点目は、日本経済を過度の外需依存の体制から内外需バランスのとれた経済構造に転換するという考え方のもと、そのために労働組合はどう主体的に行動するのかという視点だ。外需や設備投資といったこれまで日本経済を牽引してきた要素が総崩れの状況にある中、どう消費喚起をして景気の底割れを防ぐのか、そのための社会的使命が我々労働組合には課されているのではないか。内需拡大がなければ、非正規の方々の雇用を守り、雇用を創出するための経済構造には転換できない。その内需拡大をするための賃金引上げというのが第1の視点である。 (2)働く者の暮らしを守るために〜物価上昇に見合う要求を 2点目として、働く者の暮らしを守るという視点である。「生活防衛」という観点を我々は当然重視しなければならない。食料品を中心とする生活必需品を主として明らかに物価は上昇している。今回の物価上昇は、輸入する原材料価格や食料品の価格の高騰から来ており、いわゆる従来型の物価上昇ではないが、要因はどうあれ現実に物価上昇が家計に大きな影響を与えている現実を直視しなければならない。もし物価上昇に関わる賃金上の調整が行われないということになれば、労働価値の低下あるいは実生活の切り下げにつながる。今回経労委報告の中で、「物価は外生的要因であって、賃金決定の要素とはならない」という表記があるが、これは働く者の生活に対する経営側の責任の放棄だと言わざるを得ない。今回の要求においては、「物価の取り扱い」については、はっきりと我々のスタンスを示すことが求められている。金属労協としては、連合とも連動する形で、実質生活の維持を図るため、物価上昇に見合う要求を行うこととした。 (3)人への投資こそ将来への展望を切り開く唯一の道 3点目として、人への投資という視点は引き続き重視すべきと考える。産業・企業ごとに取り組むべき課題、対処すべき問題が日々顕在化する中で、これらに対する経営諸施策に、生産性向上に努力しながら多様な課題にチャレンジしていく体制をどう築き上げるのかが今回の交渉では問われている。また人への投資の優先順位を経営側がどのように位置づけるのかを我々は問わなければならない。人の意欲・活力こそが現状の危機を突破し、将来への展望を切り開く唯一の道だと考える。人への投資は将来に向けての生きた投資そのものだと確信する。 確かに企業の国際競争力は我々の生きるベースになるものだ。しかし企業のグローバル競争に闘う体制を作る母国である日本の雇用も消費も崩れたとしたならば、闘っていけるのだろうか。そのことを今回の交渉を通じて経営にしっかりと問うていかなければならない。 ワーク・ライフ・バランスの推進について もう3点ほど申し上げたい。 まず一つは、ワーク・ライフ・バランスの推進についてである。構造的な部分で将来を見据えた取り組みをしっかり進めていく必要がある。総労働時間短縮の問題、特に08闘争で取り組んだ時間外労働割増率の引き上げについて、現時点では多くの単組で継続協議となっているが、労働基準法改正を踏まえ、あらためて置かれた状況を踏まえての各産別の方針に基づいた取り組みを進めなければならない。 産業別最低賃金への取組みについて〜企業内最低賃金協定の締結と引き上げ もう1点は産業別最低賃金への取組みについてである。金属労協の取り組みは、産業別最低賃金の今後に対して決定的な影響を与える。産業別最低賃金を引き上げるための最も有効な手段は、企業内最低賃金協定の締結と引き上げにある。このことは、非正規労働者の方々も含めた公正な賃金水準を社会的に形成していくための我々の役割として、より積極的に取り組まなければならない。 労使交渉と平行して、政策制度要求の取組みが重要 今回の労使交渉と平行して、政策制度要求の取り組みが重要になる。非正規の皆さんの雇い止め等に対して、制度的な仕組みやその他の様々な問題の中で、社会的・公的サポートの仕組みをどう作るのか。JCとしても12月には厚生労働大臣に対し非正規労働者の雇用情勢の悪化に対する緊急要請を行い、さらに2月の中旬をめどにして、非正規の方々に対するセーフティーネットの強化と同時に、雇用の維持・創出に向けての様々な政策・制度上の取り組みをについて現在検討を進めている。 今次闘争、集中回答日は3月18日になる。交渉が厳しいことは言うまでもなく想定するところだが、労働運動としての使命、またJCがこれまで作り上げてきた社会・産業・生活に対する我々の責任の考え方をベースにしながら、精一杯の取り組みを全体で進めていきたい。 |