金属労協第52回協議委員会 |
金属労協議長 西原浩一郎 挨拶 労働条件の取り組みと 政策・制度の取り組みは 「車の両輪」 積極的に与・参加を |
金属労協・IMF−JC第52回協議委員会にご参集の皆さん。大変ご苦労様です。また本日はご来賓として大変お忙しい中、10月に開催された連合定期大会で新たに会長に就任された電機連合ご出身の古賀連合会長、本年5月のスウェーデン・イェテボリでのIMF世界大会でIMF書記長職を退任されたマルチェロ・マレンタッキ氏、またIMF本部の鎌田書記次長にご出席いただいております。全員の拍手で感謝と歓迎の意を表したいと思います。 さてマルチェロ・マレンタッキIMF前書記長でありますが、氏は1947年4月にイタリアで生を受け、15歳で地元の中学を卒業後、当時の厳しい雇用情勢の中で多くの臨時的な仕事を経て、17歳でスウェーデンに移住し、自動車メーカー・ボルボ社に入社され、車両組立のライン作業に従事するとともにスウェーデン金属労組の組合員となりました。以降、4年間の労組での夜学での勉学を挟みボルボ労組役員として経験を積み、1974年にはスウェーデン金属労組本部で教育および移民労働者担当局長に就任され、その後、全国団体交渉委員会メンバー等を歴任。1981年にはIMFの安全衛生・教育部長として開発途上国での労組教育に取り組み、1989年のIMF大会で書記長に選出され、以降20年間にわたり全世界2500万名組合員を擁する国際産業別組織・国際金属労連IMFを束ね、卓越したリーダーシップを発揮してこられました。 この間、飛行機嫌いにも関わらす精力的に世界中を飛び回った氏の人間味溢れる人柄、たたき上げの労組役員として培われた労働運動への情熱と正義感、世界の金属労働運動が目指すべき理念の確かさは、IMFと各国金属労働運動の強化・充実に大きく寄与してまいりました。 当然、金属労協・IMF−JCも、多くのご指導・サポートをいただいてまいりました。時には、私も含めて活動のあり方を巡り意見を異にすることもありましたが、JCのマレンタッキ氏に対する敬意と友情と信頼は、これまでの間、揺るぎなきものであったと思います。後ほど、ご挨拶をいただくと共に、協議委員会終了後には、協議委員の皆さん、活動を共にした歴代の金属労協本部・各産別OBの皆さんにもご参加いただき「IMFマレンタッキ前書記長を囲む会」を開催する運びとなっております。 さて本日の協議委員会は、金属労協の2010年闘争方針を決定する重要な場となります。具体的な闘争方針については、後ほど若松事務局長より提案いたしますが、2010年闘争の取り組み環境、および今次闘争の意義を中心に所感を述べたいと思います。 取り組み環境では、まずは政治のあり方が大きく変わる中での取り組みになるということです。歴史的な政権交代の日から、3ヶ月が経とうとしています。 我われが支援する民主党を中心とする鳩山連立政権は、「国民の生活が第一」「脱官僚依存・政治家主導」を掲げ、マニフェストの実現に向け「政府・与党一元化」に基づく新しい政治への改革に懸命にチャレンジしているところです。 折から雇用・経済・財政の危機的な局面の中で、適宜・適切な対応を進めながら、これまでの自・公政権の政策の大きな転換と、政策決定の仕組み・政策形成プロセスの抜本的な改革を、スピード感をもって同時並行的に進めなければならないことから多様な課題が錯綜し、現状、一部、試行錯誤に伴う様々な緊張や軋轢も生じているように見受けられます。しかし、我われは、このことを真の政権交代に伴う改革過程において乗り越えなければならない必然的な事態でもあると理解すべきと考えます。 いずれにしても我われは、理念と基本政策の多くを共有する民主党を引き続き支援してまいりますし、民主党には、日本の進路選択が委ねられたことへの歴史的な意義を踏まえ、社会保障制度のセーフティネットが劣化の道を辿り、雇用不安が高まり、デフレが進行する当面の危機的事態への対処に全力を挙げると共に、「雇用と暮らしの安心・安定を機軸とする活力ある公正な社会」を目指す政策推進に努力していってもらいたいと思います。 なお我われの政策も、全て民主党と一致しているわけではありませんが、連合と政府との政策協議の仕組みが重層的に、ほぼ整備されたことから、政策実現に向け奢ることなく、誠実かつ積極的に政策協議に臨んでいく必要があります。 特に連合は、「2010春季生活闘争方針」において、労働条件の取り組みと政策・制度の取り組みを「車の両輪」と位置づけ、景気・消費回復に資する総合経済対策や雇用の安定・確保と雇用創出をはじめとする政策・制度の取り組みを積極的に進めることとしており、これら実現課題は、金属労協にも大きく影響するものであることから、我われもこの取り組みに、積極的に関与・参加していかなければなりません。 また金属労協としても、「民間・ものづくり・金属」の視点からの政策・制度課題の実現に向け、政治顧問との連携を深めると共に、特に連合の政策・制度提言への反映に、より努めていかなければならないと考えます。 併せて、民主党が政権基盤をより確かなものとし我われの政策実現力を高めていくためにも、来年の参議院選挙は極めて重要な意味を持ちます。金属労協は、組織内候補の自動車総連・直嶋正行さん、電機連合・加藤敏幸さん、JAM・津田弥太郎さん、基幹労連・柳田稔さんを全産別で、しっかり支援し明確な成果を出していかなければならないと考えます。 次にマクロ経済・雇用・産業状況に関わる取り組み環境が、総じて不透明かつ厳しさの中にあるということです。 昨年秋以降の金融危機・世界同時不況の直撃を受けた日本経済は、4−6月期、7−9月期において、実質GDP成長率がプラス成長に回復しましたが、日本をはじめ各国政府の経済・景気対策や中国等の新興国需要に下支えされている面が大きく、自律的な回復軌道への道筋は依然、不透明です。特に生活実感に近い名目成長率は、引き続きマイナス成長に陥っています。 また昨年秋以降の経済危機に直面し、それまで輸出比率を高めていた金属産業は一気に生産・在庫調整を余儀なくされ、収益・財務面でも歴史的な悪化を余儀なくされました。現状では全体として、生産・収益面で、一時期の極めて深刻な事態からは底を打ちつつあるとの感はありますが、業種・企業毎の回復状況には、ばらつきがあり、特に中小企業では総じて深刻な状況が継続していますし、特に直近の急速な円高基調で推移する為替動向には、恐怖さえも覚えます。円高の進行はデフレを、より深刻化させるとともに、金属産業の雇用にも重大な打撃を与えかねないことから、円高に対抗する断固たる財政・金融政策を求めます。 このような状況下で2010年闘争との関係で、特に留意・重視すべきは、1点が雇用、2点目がデフレの問題です。 雇用は危機的状況が続いています。7月に統計開始以来最悪の5・7%を記録した完全失業率は直近10月も5・1%と引き続き過去最悪の水準にあり、完全失業者数も344万人を超えていますし、有効求人倍率も深刻です。正規・非正規労働者を問わず雇用状況は極めて厳しく、来春の新卒就職市場は高卒・大卒ともに内定率が落ち込んでいます。 したがって連合・金属労協ともに、今次闘争においては、雇用の維持・創出を最重視した取り組みが求められると考えます。 連合は鳩山政権発足以降、雇用の維持・創出に向けた緊急雇用対策を強く要請し、政府内でも様々な対応が進められつつあります。この間、特に金属労協は10月に受給者が248万人に達している雇用調整助成金が中小企業等の雇用を下支えしていることを踏まえ、補正予算での財源確保による支給要件緩和等に努力してきたところですが、政府の今後の対応と併せ、我われ企業労使自らも、それぞれの産業・企業状況を踏まえながら、協議・交渉等を通じて雇用の安定・確保と雇用創出を最重視した取り組みを進めていかなければならないと考えます。 次に11月の月例経済報告で、政府は日本経済が「緩やかなデフレ状況にある」と認定しました。消費者物価指数は10月までの8ヶ月間連続で前年同月実績を下回り、7月以降は2%台の大幅なマイナス基調で推移しています。 デフレの要因は複合的ですが、内閣府の試算では、年40兆円規模の供給過剰・需要不足が指摘されており、いずれにしても日本経済は、経済のグローバル化の進展と新興国の台頭による国際競争激化に伴う企業のコスト削減圧力を背景に、雇用調整・賃金抑制・非正規労働者の拡大などによるデフレ圧力がこれまで長期間継続する中で、現状では低所得層の増加に加え、賃金、残業手当や一時金の低下が消費不振に拍車をかけ、結果として消費不振に対応する商品の低価格化が加速しています。 なお、このような事態を招いた背景として、「効率と競争」最優先の自民党政権下での供給サイドに偏った政策対応が、需要サイド、特に家計を傷め続けたことにあることを指摘しなければなりません。 なおデフレからの脱却に向けては雇用や生活に関わる将来不安を払拭していく必要があり、社会保障制度の持続可能性を高めるための抜本的見直し等の構造的な改革も不可欠ですが、当面、政労使が、デフレ脱却に向けて、それぞれの責任分野で、直ちに全力を尽くすべきと考えます。デフレによる価格低下が企業収益を悪化させることで雇用・賃金調整圧力につながり、それが消費減退を招き、物価のさらなる低下圧力につながるというデフレスパイラルの進行は何としても、くい止めなければなりません。景気悪化と物価下落の悪循環、すなわちデフレスパイラルの危機に直面しているとの認識を、政労使が共有すべきと考えます。 したがって政府には財源上の制約はあるにせよ、雇用と家計に焦点をあてた最大限、効果的かつ機動的な財政・金融政策の発動を要請しなければなりませんし、労使は、今次闘争を通して、雇用不安を払拭し、生活を守るための責務があると考えます。特に生活を守るという観点からは、賃金水準・家計収入の落ち込みに何としても歯止めをかけ、内需の底支えを図らなければなりません。 次に、2010年闘争のもつ意義の観点から何点か申し上げたと思います。 第一点は、賃金改善の取り組みです。 金属労協は、金属産業全体の取り組み環境の厳しさを踏まえ、JC全体で賃金改善に取り組むことは困難と判断した上で、賃金水準の維持・確保を至上命題として全組合で賃金構造維持分の確保に取り組むことといたします。 その際、定期昇給および昇格昇級制度が明確に確立されているところは、その完全実施による制度運営および賃金水準の両面の維持・確保を求めます。また賃金構造維持分を要求方式で確保する際には、賃金実態の把握を踏まえ賃金維持水準をしっかりと確保してまいります。 併せて、賃金体系上のゆがみ・ひずみの是正等の諸課題の改善や格差是正などに向けて態勢の取れる組合は賃金改善に向け積極的に取り組むとの方針といたしました。 なお中小の関係については、連合の中小共闘とも連動して取り組みを強化していかなければなりませんが、明確な水準維持を図るためにも、特に賃金実態の把握と賃金制度の整備・確立に向け、各産別の最大限のサポートをお願いしたいと思います。 なお昨年秋以降の日々、厳しさ募る産業・企業実態の中で、直面する危機を乗り越え企業・職場と雇用・生活を現実的に守り抜くために、経営から打ち出される人に関わる厳しい経営諸施策にも懸命に耐え、今日に至るまで必死の努力を傾注してきた金属労働者の頑張りを踏まえれば、経営は、我われの、「後の無い要求」に対し、真摯に応える責務があると確信いたします。 第二点は、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みです。 その趣旨と重要性については、ここで触れるまでも無いと思います。金属労協として、長時間労働の是正を担保し、制度確立と制度運営により将来的にも過度の長時間労働に戻させないために、36協定特別条項の厳格な運営や限度時間の引き下げ、労働基準法改正等を踏まえた割増率の引き上げ等、それぞれの実態と課題認識、および取り組み経過を踏まえた産別方針により、取り組んでいただきたいと思います。 特に労働基準法改正に伴う割増率の引き上げについては、中小企業への適用が猶予されるという理不尽な対応がなされていることから、労使交渉において、前進を図る必要があります。 また来年6月30日施行予定の改正育児・介護休業法への対応も進める必要がありますが、本件も、短時間勤務制度の義務化において、定義自体があいまいな困難とされる業務について除外を認めるなどの問題もあり、連合の対応を踏まえつつ、全ての労働者を対象とする方向で協定締結を進めたいと思います。 第三点は非正規労働者の労働条件改善への取り組みです。 金属産業では昨年秋以降、生産・在庫削減が進行する過程で、非正規労働者の雇い止め等が発生し、この間、金属労協の各産別とも、できうる限りの対応を行ってきた経過はあるものの、結果として、進行の速さと規模の大きさから社会問題化いたしました。 いずれにしても、このことは現在の非正規労働者に関わるセーフティネットの不備への対応、労働者派遣法改正論議等につながってきているわけですが、労働組合自らが、その社会的役割を踏まえ、同じ職場で働く仲間という観点から、金属労協の各産別毎の実態に基づく課題・問題認識を踏まえ、非正規労働者の公正処遇・労働条件改善、今後の対応のあり方等、幅広い視点から、関与の前進を図りたいと考えます。なお連合は闘争方針で「全労働者を対象に春季生活闘争を推進」することを明確にしており、各産業・企業の非正規労働者に関わる様々な取り組み内容の、社会的波及に向け、金属労協としても努力していきたいと思います。 なおこのことに関連して、金属労協として、企業内最低賃金協定の取り組みを強化したいと考えます。2010年闘争では、雇用形態の多様化に対応した均等・均衡待遇を実現し、金属産業全体の賃金を底上げするため、全単組の企業内最低賃金協定の締結とともに、高卒初任給に準拠する水準に着実に引き上げるため、月額154000円以上の締結を目指すこととします。現在、企業内最低賃金協定の締結は徐々に拡大しつつあるものの、金属労協全体では43%にとどまっています。またその水準は月額で153,000円程度となっていますが、ばらつきが大きく、大幅な乖離がある組合も少なくありません。 企業内最低賃金協定は、組合員の賃金の底辺を支えるとともに、産業別最低賃金に連動し、同じ産業で働く未組織労働者の賃金の底上げにも寄与するものでもあります。したがって、企業内最低賃金協定の意義と役割を確認しつつ、産別の指導の下、取り組みを強化したいと思います。 最後にJC集中回答日については、3月第3週の方向で、12月3日の連合・拡大戦術委員会での調整を経て決定したいと思います。 共闘の進め方についても、昨年立ち上げた連合の「金属共闘連絡会議」を、より強化、前進させる方向で、金属労協として努力していきたいと考えます。 以上、限られた時間ではありますが、協議委員会への積極的な参加を心からお願い申し上げ、冒頭にあたっての議長挨拶といたします。ありがとうございました。 |