2011年闘争推進集会 議長挨拶
目指す姿とギャップを埋めるための強い意志を持ち、
お互いの信頼の力で進めていく

西原浩一郎
議長 西原浩一郎
 いよいよ2011年闘争が実質的にスタートを切った。これから3月の集中回答日、またそれ以降の早期解決に向けてJC全体が気持ちと力をあわせて取り組んでいく。2011年闘争は金属労協のみならず、日本の労使にとって、また日本にとってこれからの公正な社会のあり方・働き方、そしてまた健全な産業・企業・社会のあり方を模索する上で、大きな転換点となる取り組みにしていかなければならない。

 金属産業の状況は、グローバルレベルで見ればやはり不安定・不確実であり、さまざまなリスク要因がある。日本では相変わらずのデフレ状態、アメリカ、欧州、中国においても、それぞれ不安要因を持っている。しかしながら全体として、それほど悲観的に見る必要はない。特段の落ち込みが訪れるようなことは、よほどのアクシデントがない限りないであろう。



 デフレの進行をいかに食い止めるか

 今回の金属労協の方針は、いくつかの問題意識のもと策定された。ひとつは、日本経済のおかれた状況、特に最大の課題であるデフレの進行をいかに食い止めるか、そしてデフレの脱却に向けてどのような道筋を見出していくのか、そしてそのために労使がどのような役割を果たさなければならないのかが問われる取り組みであるということである。デフレについてはさまざまな要因が指摘されているが、少なくとも今現実に大きな問題となっているのは需給ギャップである。その需給ギャップが発生する一つの大きな要因は、雇用不安と痛んだ家計にあることは間違いない。今次闘争において、これ以上のデフレの進行を食い止める、そのために賃金については全ての組合が賃金構造維持分を取りきる、そのことによって家計を、暮らしを下支えする、これはまさに金属労協にとっての至上命題であり、必達目標である。その上で97年以降の月例賃金・年間総収入での水準の低下に対する復元、あるいは構造的な業種間・企業規模間の格差の問題、賃金制度上のゆがみやひずみを是正するため、産別や単組のおかれた状況に応じて、根拠ある要求の考え方をもって賃金改善分に取り組む。またそれを、JC全体としてしっかりとサポートしていく。家計の下支えや連合春闘の下支えをしっかり図るという考え方のもと、その波及効果をもって今のデフレの進行を食い止めるための役割を果たしていきたい。

 日本における金属・ものづくり産業をいかに守っていくか

 もうひとつの大きなテーマは、グローバル経済化が進展し、国際競争がこれまでとは段違いのレベルとスピードで激化する中で、日本における金属・ものづくり産業を、サプライチェーン全体を通していかに守っていくのかということである。我々は昨年来政府与党に対しても様々な要請活動を行ってきた。円高の問題、日本が立ち遅れたFTA・EPAの促進に向けてTPPへの早期参加について声明の発信、法人税減税などである。それらはすべからく、国内における事業基盤を守る、ひいては職場を守る、さらに雇用と生活を守る、そのための政策について、JCとしての役割・責任に基づく取り組みであることをご理解いただきたい。そうした政策・制度面の取り組みと合わせて、今次闘争を通して現実に金属・ものづくり産業を守っていくための原動力となる「人」への投資、そして特に08年の金融危機以降、様々な苦労・協力をしてきた我々の働きに対する適正な評価を、明確な労働条件改善を通じて示してもらう、このことがこれからの健全な事業基盤を維持していくための絶対条件である。「人」への投資は、これからの事業改革、経営側が強く主張しているイノベーションの原動力となることから、これを経営政策上の最優先課題として、そこにどれだけの想いと決意を持って経営が応えるのか、そのことを、今次交渉を通じてしっかりと問うていかなければならない。その際ベースとなるのは、これまで蓄積してきた技能・技術、それを基盤とする様々な課題・イノベーション・付加価値創造に向けての取り組み、これを加速するための投資というものをどこに最優先して投入すべきなのか、それはまさに「人」ではないのかということである。
 またその時に考えなければならないのは、職場の現実、働く人々の気持ちと、企業の進めようとしているイノベーションなどの事業改革とのギャップをどう認識するかということである。様々な変革・改革に取り組む、そして前向きな職場環境を作るためには、個々の働く人達の努力・協力・意欲・活力が必要となる。その前提となるのは、雇用がどれだけ安心・安定しているか、そして我々の働く価値に対して、経営がどれだけ安心感を与える形で、適正かつ公正な配分をするのかである。安心感の上ではじめてチャレンジをスタートすることができるのであって、ただ厳しいという危機感だけで職場が前向きに活動に取り組めるわけはない、危機感を言うのであれば、そこは健全な危機感を作らなければいけない。健全な危機感とは、経営にかかる情報開示の中で、本当の現実というものをしっかりと見せる、その上でそれに対して、どのような方策・方向で危機を乗り越えようとしているのかのビジョンをしっかりと見せていく、そしてそのビジョンを示す際には、そのための全社的な協力体制を作るための想いをしっかり職場に伝える、そしてそれを成し遂げたときには、働く者の立場から、我々の雇用、そして暮らしに関わる将来展望がどのように開かれているのか、そのことを具体的にイメージさせるものを示す、これらがなければ本当の力は出てこない。そのことをしっかりと論議し、その帰結として、我々は今回、賃金・一時金をはじめとする総合的な労働条件の改善を求めている。

 サプライチェーン全体を守るための中小・地場対策

 もう一つ、サプライチェーンというものを我々はしっかりと認識しなければならない。自動車を例にとって見ても、様々集積されたものづくりの力が自動車に集約されている。そしてその自動車をこれだけ厳しい国内市場において、洗練されたサービス体制でお客様に供給しメンテナンスをする販売会社、そして部品と販売を完全に、安定してデリバリーする輸送の力、そしてそれを支える金融サービスと、様々なバリューチェーンの総合力で成り立っている。JC加盟の各産業においても、それぞれ様々な部分でそれぞれに結びつきを持っている。その輪のひとつでも欠けたならば、日本のこれからの金属・ものづくり産業の健全な発展というものは期することができない。中小・地場が置かれた状況に対する理解というのも、JC全体でお互いに理解をしながら、全ての組合が交渉することが必要である。そのなかでも、サプライチェーン全体を守るための実質的な配分、公正な配分、公正取引といった課題に対しても、我々はさらに取り組みを進めていく必要がある。世界で闘うための日本を守るために、日本の事業基盤の「礎」を守るために、適正・公正な配分を我々は求めていく。

 企業内最賃の全ての組合における締結、そして適用範囲の拡大・水準向上に向けて、それぞれのおかれた状況の中で、非正規も含めた同じ産業で働く仲間の下支えという観点で最大限努力をしていただきたい。特に企業内最賃は、法定産別最賃なり地域別最賃に連動する。今回の経労委報告においても、産別最賃については、もはや意味がないのではないかという提起がされている。産別組織内の我々自身の交渉力と、それに連動した社会的に公正な最低賃金の水準の規定、これはまさに産別でありJCでしか取り組むことのできないものであり、その重みを我々は担っている。従ってJCとしては、今次闘争においても企業内最賃を高卒初任給に準拠した水準を目標に、154,000円への到達もしくは1,000円以上の引き上げという基準を示しながら、なんとしても水準向上と合わせて締結拡大に取り組んでいきたい。

年間一時金については、2008年以降の低下水準を引き上げる過程にあると考えている。それぞれおかれた状況の中で最大限の取り組みをお願いしたい。

非正規労働者に関する取り組みについては、企業内最賃の取り組みをはじめとして、労働組合としての社会的な視点から、金属労協全体として、コンプライアンスの徹底ということをベースに、様々な受け入れのための基準、そこへの関与、労働条件も含めた処遇改善・公正処遇といった観点で、産別方針に基づき、より見える形での前進を図りたい。

 共闘の力、お互いの信頼の力で、今の状況を打破する先頭に立つ

 JCは地域・中小・地場へも含めて、大変大きな影響力を持っているのは事実である。その役割の大きさというものを、我々はしっかりと認識した上で取り組みを進めていくことを確認しておきたい。いすれにしても、労働組合の基本的役割は、我々が理想とする姿、目指すべき姿と現実とのギャップをどう埋めていくのか、そのために強い意志を持ち、粘り強い取り組みがどれだけできるかである。今次闘争においては、これからの産業・企業の健全な発展、国内における雇用の維持・創出、そして公正な処遇・生活条件の確保の観点から、エポックメイキングな取り組みであったと後世言われるような取り組みにしていかなければならない。金属労協は、これまで営々と先輩たちが積み上げてきた共闘の力、お互いの信頼の力で、今の状況を打破する先頭に立つ。今次闘争の交渉は、従来以上に厳しいものとなることは充分覚悟しておかなければならない。そういった状況の中で我々がいかに現実をしっかり見据えて、強い思いをもってJC全体での取り組みの中で集約できるのか、それによってこれからの働く者の姿、日本の社会の姿も変わってくるものと確信している。