機関誌「IMF-JC」2004年春号


職場のメンタルヘルス講座 No3
「職場世話人活動の活性化」

樋口和彦(ひぐち かずひこ)

京都文教大学学長。同志社大学名誉教授。国際分析心理学会正会員。専門は深層心理
同志社大学神学部卒。同大学院神学修士課程修了。アンドヴァ・ニュートン神学校留学。神学修士取得。75年同校より神学博士号取得。スイス・チューリヒのユング研究所で在外研究。ユング精神分析家の資格取得。61年から同志社大学で教える。神学部長、学術情報センター所長など歴任。97年京都文教大学学長に就任(現在)。その他、日本いのちの電話理事長、日本ユングクラブ会長などを兼職。主な著書は、「ユング心理学の世界」創元社(1970)、「生と死の心理学」創元社、「ファンタジー・グループ」創元社(2000)、「聖なる愚者」創元社(2003)他多数


1.心のメンテナンスとは?        
  一時はよく「企業戦士」という言葉が幅をきかせていた時代もありました。どうもこの言葉は今日ではあまり使われないようです。もう自分は猛烈な戦士はではなく、普通の時に病気になる「人間」だという考え方になったのかも知れません。人間は機械と違って調子の良いときもあれば、悪いときもあるし、一本調子に向上するのではなくて、長い間職場で働いていれば波があるのが人間生活なのです。
  じつは、この感覚が職場のメンタルヘルスや心の健康管理を考える時の大切な考え方であります。ところが、この「本調子ではない」時の心のメンテナンスに気と使う人は意外と少ないと思います。建物でも、立てっぱなしで、全く管理維持の費用を考えてなくて、すぐ老朽化して使えなくなってしまう例もしばしば見られます。さすが、近代的な経営の会社は機械のメンテナンスにはお金をかけているでしょうが、心のメンテナンスに気を使って職場で働いている方はどの位いらっしゃるでしょうか?

2.ライフサイクルと精神衛生
労働リーダーシップコースプで「深層心理」を
講義する樋口氏(京都・関西セミナー)
近頃、キャリアビルデイングということが言われるようになっています。自分の一生の職業生活をどのように打ち立てていくか、という観点から、もう一度自分の一生を眺めてみて本当に悔いのない充実した職業生活を送ろうというのがその気持です。考えてみると、職場での生活は人間の一生の中でも最も油の乗り切った大切な時期でもあり、また一日24時間のなかでも、もっとも充実した時間をあてています。したがって、職場生活をどのように送っていくか、それぞれは真剣に考える必要があるわけです。そのため、人間の一生のライフサイクルを考えれば、職業の準備の時もあれば、それが終っても好きな仕事や、余暇の時間を使ってより充実した職業生活も送るというような総合的な考え方もあるはずです。
 どちらかというと、今までは仕事はすべて外部から与えられ、それに真面目に取り組むのが良いという受け身の職業観が目立っていましたが、今日のような急激な産業の再編成や労働形態の変化の時代にあっては、それでは対応できません。どうしても個人が積極的に自分の労働観をぶつけて乗り切っていかなければならない時代に突入していると思います。
 したがって、職場のメンタルヘルスは従来のような、いかに精神衛生を管理するか、という消極的な観点からではなく、心の健康を生涯にわたっていかに増進するかに変化してきました。つまり病気を管理して治療するだけではなくて、これももちろん大切ですが、いかに積極的に人間の能力を最高に引き出し、維持するかにも重点をおく必要があります。ですから、職場の人々が「喜んで打ち込んで働く」状態にするための手助けをどうするか、ということが重要なのであります。


3.「成績の上がらない職場ほど疲れる」
 この様な声をよく聞きます。また、「ホットする時間がない、人間関係に疲れて、成績が上がらない」「あいつがいなければ、もっとこの職場は成績が上がるのに」というのもしばしば聞く声であります。よく調べてみると、実は、「その忙しいというのは、なぜ成績が上がらないかの調査書作りで忙しかっただけだ」という笑い話のようなこともあります。
 これは人間社会には付き物で、貴方から見て、実のところ社会はいい人と悪い人の組み合わせて出来ているのです。いい人ばかりの社会など、滅多にありません。大抵の職場はごく普通の人間の組み合わせで出来ていて、だからこそ本当は楽しいのであります。向こうの人も時に貴方と組むのを災難と思っているかも知れませんし、そう思いこんでいた相手が、突然変わることもあり、これが人間社会のまた面白さでもあります。

4.一時へこたれたら、カンセリングを遠慮なく受けよう。
人間には上げ潮もあれば、引き潮もあります。ですので、落ち込んだら、出来るだけ信頼できる第三者と話してみましょう。身近で頼れる人がいたらその方が一番ですが、ただ問題によっては、関係者に知られてはまずいこともあります。そんな時、薦められるのが、最近次第に社会的に認知されてきた「臨床心理士」によるカンセリングです。もう、すでに多くの職場には専門のカンセラーが置かれていますが、これを積極的に利用しましょう。
 かかったら最後、秘密がばれてしまようでは専門のカンセラーとはいえません。この様な専門のカウンセラーの人々をヘルピング・プロフェッションといいます。看護士さんも、医師の方々も皆そうです。これからは、貴方を助けることを専門にする職業人が増えてくると思います。これからの世界はますます多様になって、人それぞれにあった人生を送るようになるからです。

5.新しい職業的な人生の開発を常に心がけよう。
 全く悩みがなく、何時も全く元気で健康で落ち込まない人がという様な恐ろしい人はいる筈はありません。だから、悩みを恐れず、むしろ一人前に悩める人になるのがよいでしょう。貴方はご自分の心のメンテナンスにどれだけ気を使っていますか?

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