HOME

金属労協(IMF−JC)は2月28日開催した、「いま問われる日本の労使関係 −2003年闘争推進集会−」において,「日本経団連への公開質問状」を採択し、集会終了後、團野事務局長が、日本経団連の矢野専務理事に手渡し、3月末までに文書で回答するよう申し入れた。

日本経団連に対する公開質問状
2003年2月28日
全日本金属産業労働組合協議会
(金属労協/IMF−JC)
議長 鈴 木 勝 利

 貴団体も主張しているように、2003年春季労使交渉は、混迷する日本経済の再生、基幹産業たる「ものづくり産業」の再強化、国民生活の安定に向け、労使が何をなすべきかを真剣に話し合い、その役割と責任を確認していく重要な意義を持っています。
 こうした中で、労使とも交渉の基礎となるべき経済データ、賃金データを示しているところですが、日本経団連から示されるデータについては、意図的とも思える不適切なデータが散見されます。本来労使交渉とは、経済成長率や物価動向のように共通のデータをもとに、環境条件に共通の認識を持った上で、今後の産業・企業の展望を含めた経営環境をめぐる意見交換や、配分をめぐる交渉を行うものであります。その労使の協議や配分交渉のもととなるデータに不適切なものがあることは、労使交渉そのものの存在を危うくすることはもちろんのこと、労使関係の根本にもふれる重大な問題に発展する危惧があります。
 さらに、本労使交渉の中で、賃金制度の改定が提案されている企業が少なくありませんが、制度改定は労使が通年的に時間をかけて納得づくで行われるものであり、労使交渉の手続上も疑問があり、日本経団連としての指導強化が求められているものと考えます。
 このような観点に立ち、われわれは組織の総意として以下の点につき質問を提起し、貴団体の回答を求めるものであります。

1.貴団体は、製造業・生産労働者の賃金水準について、日本は「実労働時間あたり賃金」、アメリカ・ドイツは「支払い対象時間あたり賃金」で比較し、日本の賃金水準を「先進諸国の中でもトップレベル」と主張しています。
同一の計算数値を使わない比較が誤りであることはいうまでもありませんが、貴団体のデータでは、欧米の計算値の分母に年休取得分を含ませていますから、これでは欧米の賃金水準が低くなるのは当然で、きわめてアンフェアな比較と言わざるを得ません。
  ILOでも国際比較用に発表しているように、三国とも「実労働時間あたり」にそろえ、福利厚生費を含めた「実労働時間あたり人件費」で比較すれば、日本は米・独両国に比べて高水準ではなく、先進諸国の中では中位にすぎないと考えますが、いかがですか。

2.貴団体は労働分配率について、マクロレベルの指標をもとに「労働分配率が上昇して企業経営を圧迫している」と主張していますが、このような主張では、@分母、すなわち「企業が産み出した付加価値に『減価償却』が含まれていない」ために、人件費の比率(労働分配率)が上昇傾向をもつことになり、さらに、A分母に「自営業者が産み出した付加価値」が含まれているために、自営業者が廃業すれば分母が小さくなり、これも労働分配率が上昇傾向をもって計算されます。
現実には、マクロレベルの労働分配率(雇用者一人あたり名目雇用者報酬÷就業者一人あたり名目GDP)をみても、売上高人件費比率(日銀・短観)をみても、90年代後半以降、低下傾向にあり、全体としては、労働分配率の低下、人件費の引き下げでしか利益を出せない状況にあります。もともと上昇傾向のある指標を用いて労働分配率の上昇を喧伝することは、日本経済のミスリードにつながると思いますが、いかがですか。

3.次に賃金制度改定についてお尋ねいたします。私たちは、賃金制度の改定は過去も行われてきましたし、今後もあるのは当然と考えています。しかしこの制度改定というものは、その都度必要性に基づいて通年的に行うものであり、制度内容はもとより、ルールの透明性、より客観性のある運用、結果に対する苦情処理など、労働組合との十分な協議を尽くした上で合意を図ることはいうまでもありません。ましてや、今日までそうした点にふれることさえなかった企業が、組合が現行制度に基づいて要求した機会を捉えて、取って付けたように制度改定を唱えるのは労使の信頼関係を根本から損なうものと言わざるを得ません。貴団体は、今日までの日本経済、企業発展を支えた労使関係の基本的なルールさえも疎かにする意図を持っているのでしょうか。むしろこうした動向が従業員の会社への信頼を著しく損ない、産業・企業の発展を傷つける危険性があると考えます。
  貴団体は加盟企業に対し、組合が要求した機会を捉えてこのような手法をとることのないよう、日常的に労使協議を尽くすべく指導を強化すべきだと考えますが、いかがですか。

以上、本質問内容に対し、2003年3月末日までに文書を持って回答されるよう申し入れます。

日本経団連「全日本金属産業労働組合協議会の質問状に関する見解」
金属労協の「公開質問状」に関する日本経団連の「見解」について