スペシャル・レポート:ストップ不安定雇用に向けた4年間のインダストリオールのアクション
2016-05-24
2012年の創設以来、不安定雇用に対抗する行動はインダストリオールにとって最優先の政策・キャンペーン課題となっている。全世界のインダストリオール加盟組織が4年にわたって組織化と交渉、キャンペーン、法制化闘争を展開してきたところであり、第2回インダストリオール世界大会は、これまでの業績を振り返るとともに、今後の闘いに再び焦点を合わせる機会である。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
スペシャル・レポート
ストップ不安定雇用に向けた4年間のインダストリオールのアクション
文:アーメル・セビー
過去数十年間に世界中で不安定雇用が幅広く増加している。ヨーロッパとアメリカでは労働者の7割がまだ常用直接雇用だが、不安定な雇用形態が増加傾向にある。低所得国では、自営や契約・臨時労働が主要な雇用形態となっている。
不安定雇用の急増は企業と政府の両方によって助長されている。企業は柔軟性を雇用創出の条件としており、政府は経済成長の名において労働市場を規制緩和し、不安定で質の低い雇用の拡大を許容している。グローバル化経済では、激しい国際競争と外部委託生産プロセスによってコスト削減圧力が強まっている。多国籍企業は、特に繊維や電子のような部門で不安定雇用を生み出すサプライチェーン・モデルを押しつけている。使用者は技術変化に乗じて柔軟性と不安定性の拡大を強要することができる。
不安定雇用との闘い:インダストリオールの基本戦略目標
2012年6月にコペンハーゲンで開催されたインダストリオール結成大会において、インダストリオール加盟組織はストップ不安定雇用キャンペーンを全会一致で採択した。
このグローバル・キャンペーンの名において、労働組合は10月7日のディーセント・ワーク世界行動デーに組合員を動員することを約束した。
世界行動デーに参加する加盟組織は毎年増加しており、これは加盟組織がストップ不安定雇用の必要性を重視している証拠であると同時に、虐待的な雇用契約を撲滅するというインダストリオールの決意を実に分かりやすく示す傾向でもある。
「不安定雇用の継続的な拡大は組合にとって最大の脅威の1つであり、労働者の雇用保障や賃金・労働条件だけではなく、権利を求めて集団で闘うために労働者を組織化する組合の能力をも脅かす」
「インダストリオールにとって、不安定雇用との闘いはグローバル・レベル、産業レベル、地域レベルですべての活動に組み込まれた重要な戦略目標だ」とユルキ・ライナ・インダストリオール書記長は言う。
不安定雇用との闘いに向けた組織化
「不安定雇用の蔓延は明らかに、企業による団結権・団体交渉権への攻撃の一部だ。不安定雇用の特徴は労働組合権がまったくと言っていいほど欠如していることであり、不安定労働者の組合加入を妨げる大きな障害が数多くある」とユルキ・ライナは言う。
インダストリオールのストップ不安定雇用キャンペーンは、加盟組織による不安定労働者の組織化を奨励・支援している。スウェーデンのユニオン・トゥー・ユニオン、フィンランドSASK、ノルウェーLO、オランダFNV、ベルギーACV-BIE、フランスFCE-CFDTの出資による労働組合プロジェクトは、組織化、団体交渉、キャンペーンに関する行動計画を立案・実施する能力の強化にあたって、加盟組織に具体的な支援を提供している。不安定雇用との闘いは、特にサハラ以南アフリカと東南アジアで全加盟組織を代表する全国キャンペーン・チームの設置など、加盟組織の間で行動の一貫性を高める重要な役割を果たしている。
不安定雇用プロジェクト活動に参加する加盟組織は、2012年以降何万人もの不安定労働者を組織化したと報告している。加盟組織の報告によると、昨年だけで3万4,000人の不安定労働者を組織化した。
サハラ以南アフリカの加盟組織は、トーゴ、カメルーン、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ブルキナファソ、セネガルの6カ国で約1万7,000人の不安定労働者を組織化した。
西アフリカでは、臨時労働者や日雇い労働者の利用を制限する法律があるにもかかわらず、このような契約が常に悪用されている。セネガルのいくつかの化学会社では、労働者全員が日雇い労働者か派遣労働者である。インダストリオールの取り組みを通して、オルグ向け訓練プログラムが導入されており、加盟組織は標的企業で組織化活動やキャンペーンを開始した。
「組合の力は組合員数によって決まる。契約労働者を組織化して組合に加入させ、組合員のために闘い、力を強化しなければならない」とインドINMFのB・K・ダス書記長は言う。
インドのプネーでは、企業が正社員の採用数を絞り、非組合員の契約労働者の利用を増やしている。常用労働者は解雇され、同じ仕事のために臨時労働者が再雇用されているが、給料はわずかである。
インドの連合団体SEM(統一労働者連盟)は反撃に転じ、不安定労働者を組織化している。契約労働者は以前、組合加入にあたって不当に差別されていた。この状況を克服するために、SEMは2014年9月にマハラシュトラ州で、派遣労働者の個別組合であるマハラシュトラ契約労働者組合(MCWU)を登録した。MCWUはインダストリオールの支援を受けてオルグを訓練し、1カ月で650人の契約労働者を組織化した。
インダストリオールは加盟組織に対し、個別組合を設立するのではなく、不安定労働者を組織化して代表するよう促している。しかし、それが難し過ぎ、不安定労働者の組合を設立することが唯一の解決策であることが判明した場合は、常用労働者の組合の連帯と支援が不可欠である。常用労働者の組合は、工場で不安定労働者を組織化するために必要な情報を提供する。
団体交渉がカギ
加盟組織は2015年、プロジェクトだけで不安定労働者1万人の常用雇用化に成功した。
過去数年間に、加盟組織が不安定労働者の労働条件改善の取り決めに成功したり、団体交渉の対象範囲を不安定労働者にも広げたりしたとの報告例が数多くある。これらの例の多くはインダストリオール出版物『保障の取り決め』に掲載されている。
- カメルーンではFENATICAMとUSTICが、N.I.S. Environ of Cimencamの下請労働者600人の全国社会保障制度への登録を確保した。
- ブラジルでは2003年にFUPがペトロブラスとの協約を勝ち取り、不安定労働者への支払いを確保する保障基金を設立した。
- インドでは2015年、INCWFがグジャラート州でディグビジェイ・セメントの契約労働者のボーナス獲得に成功し、SMEFIがインド鉄鋼公社の常用労働者に提供されているものと同様の医療設備を契約労働者も利用できるようにした。
立法化をめぐる闘い
不安定雇用の利用を制限し、適切に執行される効果的な法律が不可欠である。
インドネシアの加盟組織は、現行法の不遵守に関する証拠を集めるために、ICT電子、自動車、繊維・衣料、セメント、造船・船舶解撤、紙パルプ、鉱業、化学、エネルギー各産業の労働者500人以上を対象に調査を実施した。臨時契約の更新は法律上2回しか認められていないにもかかわらず、インタビューした契約労働者と直接臨時労働者の大半が、数回にわたって契約を更新していた。14年続けて雇用されている労働者もいた。
不安定労働者の大多数が企業の中核事業活動に従事していたが、法律は不安定労働者が遂行できる活動の種類を明確に制限している。加盟組織は、この調査結果を利用して法令遵守改善キャンペーンを実施する予定である。
フィリピンでは加盟組織が共同キャンペーンを展開しており、議会に対し、正規常用雇用を促進するとともに、すべての産業部門で増加している不安定雇用(特に派遣労働)の制限を目指す、身分保障法案の採択を要求している。
ブラジルのインダストリオール加盟組織は、議会による外部委託自由化法案の採択を阻止するために、何年もの間キャンペーンを実施している。10年以上前から、契約労働者を無制限に利用できるようにする法案が審議されている。組合は何年かうまく阻止していたが、使用者は2015年4月、下院で法案を可決させることに成功した。この法案は現在、上院の採決に付されている。インダストリオールの支援を受けて、労働組合と幅広い市民社会が協調しながら法案に反対している。今までのところ、この運動は上院での採決を遅らせることができている。
インダストリオール関連部門の不安定雇用
インダストリオールは、関連部門における不安定雇用の性質や蔓延に関する情報を絶えず収集している。加盟組織の大部分(65~85%)が一貫して、当該部門における不安定雇用の利用拡大を報告している。
常勤契約を結んでいない労働者の(総雇用量に占める)割合
25-50%
50-75%
75-90%
90-100%
出所:ILO
インダストリオール産業別世界会議の準備の一環として、加盟組織は関連部門における不安定雇用に関する情報を共有している。調査回答によれば、常用労働者と不安定労働者との間に著しい不平等があることは明白である。どの部門でも、不安定労働者の大多数が常用労働者と同じ待遇を受けてはいない。
給料は低く、インド・チェンナイ地域のいくつかの自動車部品工場の賃金構造を見ると、契約労働者の賃金は常用労働者のほぼ8分の1である。
リオ・ティント・マダガスカルの外注労働者の賃金は常用労働者の4分の1である。
不安定労働者の社会的保護は、たとえあったとしても常用労働者と同じではない。常用労働者に提供される医療設備のような企業給付を不安定労働者が利用できることは稀である。
加盟組織の報告によれば、不安定労働者は職場で常用労働者と同じ施設を利用できるとは限らない。インドの多くの企業とリオ・ティント・マダガスカルでは、常用労働者は食堂を利用しているが、不安定労働者は外で食べるよう強制されるという屈辱的な扱いを受けている。フィリピンのカビテ地域では、電子部門や繊維部門の契約労働者は節約のために朝歩いて通勤しているが、常用労働者は会社の輸送サービスを利用することができる。
不安定労働者は安全衛生面でより大きなリスクにさらされ、肉体的により過酷な仕事に長時間にわたって従事していることが多い。訓練は少なく、経験も足りない。
いくつかの世界的・地域的な企業別・産業別ネットワークの活動では、不安定雇用が中心的課題となっている。
2016年、インド、フィリピンおよびインドネシアのセメント部門のインダストリオール加盟組織は、不安定労働者の組織化を優先する共同国家行動計画を採択した。
この部門では特にアジアにおいて不安定労働者の利用が広く見られる。ラファージュホルシム・グローバル・ネットワークは2015年10月7日に世界行動デーを組織した。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカの労働組合は集会や会議、会合を開き、「ラファージュホルシムは同社で不安定雇用が幅広く利用されている問題に取り組まなければならない」という強力なシグナルを送った。過去4年間に300人以上がラファージュとホルシムでの勤務中に亡くなっており、その9割近くが下請業者か第三者に雇用されていた。
インドの加盟組織PCSSは、何年もの闘いとインダストリオールの支援によるOECD提訴を経て、1月にラファージュホルシムのACCジャマル・セメント工場で重要な勝利を得た。この妥結によって契約労働者1,000人の半数が雇用保障を獲得するとともに、契約労働者の給料がセメント産業の全国賃金協約に達するように漸進的に再調整され、解雇された労働者に解雇手当と復職支援が提供されることになった。
不安定雇用はインダストリオールのリオ・ティント・グローバル・キャンペーンの優先課題の1つである。リオ・ティントにおける不安定雇用の大規模な利用に伴う無数の侵害に注目が集まっている。加盟組織は不安定労働者を積極的に組織化している。
FISEMAは2013年、QMM(リオ・ティント・マダガスカル)で外注労働者300人を組織化することができた。オーストラリアでは、CFMEUが1つのリオ・ティント職場で常用労働者を外注労働者とともに組織化している。外注労働者は時間決めで雇われており、使用者は簡単に解雇することができるので、この組織化は困難な任務である。
ILOに対する行動
インダストリオールは、不安定雇用が国際労働基準の尊重を大きく損なっている実態をILOに認識させるために闘っている。制度上の認識が不足しており、使用者と政府はこの問題に取り組む用意ができていない。労働者グループの支援を受けてILOで何年も提言した結果、2015年2月に一歩前進し、インダストリオールは非標準的雇用形態に関する三者構成専門家会議に参加した
この会議の結論はILOの不安定雇用対策を大幅に強化する可能性があり、ILOがデータ収集と不安定雇用に関する報告を改善するよう勧告している。重要なのは、この勧告が臨時雇用と雇用形態に基づく差別とに関する今後の専門家会議も要求し、この2つの分野で将来の国際労働基準を発展させる可能性を開いたことである。
キャンペーンと勝利
「4年間のストップ不安定雇用キャンペーンで得た豊富な知識と経験のおかげで、創設3団体がすでに実施していた活動を足がかりに、世界中のインダストリオール加盟組織は、あらゆる形態の不安定雇用に立ち向かう準備がいつでもできている」とユルキ・ライナは言う。
「不安定雇用との闘いはまだ終わっていないし、すぐには終わらないだろう。10月にリオデジャネイロで開催される第2回大会で、加盟組織は、このグローバル・キャンペーンを次の段階に進めるにあたり、コミットメントの再確認を求められる。このキャンペーンの幾多の業績を振り返り、今後の課題に備えて力を蓄えるべき時だ」
「確実に言えるのは、どこであれ不安定雇用が根づいていれば、インダストリオール加盟組織は労働者の権利を守るために組織化し、交渉し、政治的に闘い、力を合わせるということだ」
Global Worker
STOP Precarious Work
◆組合員の証言1◆
アブドゥライさん(化学労働者、西アフリカ・セネガル在住)
私は2005年から同じ会社で日雇い労働者として月15日働いていたが、社会的保護はなく、仕事に必要な個人用保護具も支給されなかった。だが2014年以降、労働組合SUTIDSの行動のおかげで常勤契約を結んでいる。 今、私と家族の生活はすっかり変わり、私の収入は125%増えた。妻と子ども4人の医療費の6割を会社が払ってくれる。今では個人用保護具もある。社会保障基金が妻に出産相談サービスを、子どもたちに医療を提供し、妻の出産後と子どもたちが18歳になるまで2カ月ごとに給付を払ってくれる。その結果、今や私は不安定労働者の利益を守る戦闘的な活動家だ。
組合員の証言2
ハリダスさん(機械技師、インド在住)
私は12年間、さまざまな会社で契約労働者として働いた。賃金は安く、雇用不安があり、交通手段や食堂施設も適切な安全設備もなく、厳しい時期だった。請負業者や経営者の奴隷のようなものだった。
統一労働者連盟(SEM)の指導下で、私の会社の契約労働者97人全員が組合に加入した。経営側と何度か交渉を重ねた末、組合は私たち全員の常勤契約を勝ち取った。続いて協約が締結され、契約労働者1人当たり135米ドルの賃上げが確保されるとともに、社会保障給付と常用労働者が享受していたすべての施設も提供された。これは私と家族に極めて大きな変化をもたらした。今、私には雇用保障があり、交通手段や食堂を利用でき、子どもたちに質の高い教育を受けさせることができる。全体的に見て、私の社会的地位は向上した。