特別インタビュー: ベルトホルト・フーバー インダストリオール会長
2016-05-25
特別インタビュー: ベルトホルト・フーバー インダストリオール会長に聞く
ベルトホルト・フーバー氏は、バス工場の工具修理工見習いから身を起こし、世界最大の全国労働組合であるドイツの金属労組IGメタルとインダストリオール・グローバルユニオンの会長に昇り詰めた。「会長としての自分の役割は加盟組織の代弁者になることだ」と語るフーバー氏は、2016年10月にリオデジャネイロのインダストリオール世界大会で勇退する。[インダストリオール機関誌「グローバル・ワーカー」2016年第1号(2016年5月発行)掲載]
インタビュア-:レオニー・ググエン
インダストリオール・コミュニケーション担当
Q.なぜ組合活動にかかわるようになったのか。
私がIGメタルに加わった1971年当時は、職場で労働組合や民主主義の問題に取り組みやすい政治的雰囲気があった。ドイツのウィリー・ブラント首相は民主主義を発展させたいと考えており、ドイツでは労働組合支持率が最も高い時期だった。
Q.労働組合でのキャリアで何を学んだか。
同僚の話を聞くこと、共通の目的を見つけて設定することを学んだ。自分自身が重要だとは考えないようにすることも学んだ――労働組合を強化するのは団結だ。
ドイツでは第二次世界大戦後、人種的、宗教的または政治的な背景にかかわらず、1部門1組合の原則に基づいて組合運動を再建できる強みがあった。各部門で1つの労働組合が労働者の利益を守るという考え方だ。私の所属組合であるIGメタルを例に取れば、再統一に伴う困難を乗り越えて勢力を維持した強力な安定した組合だ。
Q.1989年のベルリンの壁崩壊後間もなく、あなたはIGメタルの役員として旧東ドイツに移った。ドイツ統一にあたって労働組合はどのような役割を果たしたか。
2つのまったく異なる世界が出会い、西洋の極めて生産的な産業が後進経済と融合した。だが、IGメタルは旧東独諸州から100万人の新規組合員を何とか獲得したと言ってよい。残念ながら、旧東ドイツの大量解雇と産業空洞化が大きな原因で、再び新規組合員の多くを失ってしまった。最初の主な課題は、できるだけ多くの雇用を守ることだった。
Q.インダストリオールのようなグローバル・ユニオンはなぜ重要なのか。
歴史的に、先進工業国の労働組合は国際的な視野に立っており、これは労働運動の重要な文書すべてに見ることができる。
それはインダストリオールが、グローバル・レベルにおける国際基準の規制を任務とする国際労働機関の拠点、ジュネーブに本部を置いている理由でもある。
グローバル化に伴い、労働基準を国際的に規制する必要性がさらに高まっている。グローバル化は労働者同士を競い合わせているので、グローバル資本への対抗勢力を生み出すために、常に重要な戦略的目標を掲げる必要がある。団結して一致協力しなければならない。
Q.インダストリオールは創設後の4年間にどのような業績を上げたか。
最大の業績は、鉱業などの採取産業から製造業に至るバリューチェーン全体で、部門の垣根を越えて何とか団結し、1つの統一グローバル・ユニオンを形成していることだ。
3年前の悲惨な災害の結果ではあるものの、バングラデシュ協定などの協定に関して大成功を収めることができた。この成果は1つの全国組合だけでは達成できなかったものであり、インダストリオールとUNIグローバル・ユニオンなしでは絶対に不可能だった。
インダストリオールは、生活賃金と最低労働基準を世界的議題に載せるためにも助力している。10月7日に加盟組織が不安定雇用に抗議していることは大きな功績だ。ドイツでは、この日はほかにどんな出来事があろうとも重要な日になっており、私たちは国内のみならず全世界で不安定雇用と闘っている。
全員が支持し同意している5つの戦略目標は極めて大きな業績で、これを成し遂げた大規模組織を私はほかに知らない。
Q.組合はどんな課題に直面しているか。
グローバル化が一因で、労働者の権利が世界のほぼ至るところで毎日侵害されるという状況が生じている。個々の国々だけでなく、すべての場所の労働者全員が、スト権と結社の自由、団体交渉権を確保しなければならない。
工業国であろうと新興国であろうと、不安定雇用は間違いなく21世紀最大の課題の1つであり、形態は異なっていてもあらゆる場所に行き渡っている。不安定で危険な仕事をめぐる労使間の紛争は始まったばかりだ。若年失業とインフォーマル労働も大きな課題となっている。
例えば北米では組合に対する圧力が強まっている。東南アジアなど組合構築が進展している地域にも多くの御用組合がある。全国レベルで声を1つにし、労働組合が一致協力する必要がある。
20世紀の2度に及ぶ流血の世界大戦後、世界平和が最も重要な問題だ。これを達成するには、世界のすべての場所ですべての人々のために、人権と自由、民主主義、公正、繁栄を促進し続けなければならない。
Q.あなたはフォルクスワーゲン監査役会の暫定会長であり、現在アウディ監査役会の副会長も務めている。自動車産業における経験から、インダストリー4.0はどの程度の脅威か。
インダストリー4.0と言えばデジタル化の話になるが、主要な課題は化石燃料からの転換であり、これも生産と雇用に対する圧力を強めている。電気自動車は部品が少なくてすみ、これはラテンアメリカやアジア、ヨーロッパ、北米の自動車生産国に影響を与えるだろう。
1つ明白なのは、自動車の製造・生産が大きく変化するだろうが、影響の大きさは国によって異なることだ。一部の国々は研究開発や投資財、ロボット生産にも大きくかかわっている。ドイツは自動車産業だけでなく、投資財、機械・設備産業にも関与している。
この構造変化に労働者にとって好ましい形で影響を及ぼしたいなら、強力な労働組合を構築しなければならない。何と言っても、危機にさらされているのは雇用なのだから。
まず、それは全国労働組合が取り組むべき任務だ。インダストリオールにとって最優先の国家レベルの課題であり、適正賃金、確かな雇用、安全な作業場という最も重要な目標を目指して闘わなければならない。
Q.インダストリオールで女性に40%を割り当てるという案について、どう考えているか。
女性代表性を確保するための割り当てには無条件で賛成であり、IGメタルでそれを求めて闘っている。最大の問題は、どうやってそれを達成するか、割り当てを守らない加盟組織にどのような制裁を加えるかということ。私は規約の変更を支持している。規約は政治的な声明であり約束だが、文書に記すだけでなく実現させることのほうが重要だ。どうすれば女性による参加を実際に改善できるか検討する必要がある。
Q.インダストリオールが向こう4年間に何を達成できると期待しているか。
インダストリオール創設自体が成功だ。そのための準備には、数十年とは言わないまでも数年かかった。部門の垣根を越えて何とか諸問題に取り組んでおり、どの会合や討議に行っても、参加者にとって出身部門が重要な意味を持つことはほとんどない。だが、共通の文化をさらに発展させる必要がある。
グローバル資本の邪悪さをあげつらうだけでは不十分であり、行動を起こし、企業に異議を申し立てなければならない。その際、人目につく効果的なキャンペーンを実施し、インダストリオールの認知度をさらに高める必要がある。
5つの目標を掲げるだけでなく、この場合も具体的な行動に移さなければならず、地域での活動を例えば不安定雇用と関連づけなければならない。組織開発をよりいっそう重視することによって、世界中で民主的・代表的・自立的かつ強力な団結した独立労働組合を構築しなければならない。
このために、各地域の役割と地域活動を強化する必要があることは言うまでもない。このような任務はジュネーブにいなければ遂行できない。
会長は加盟組織の代弁者であり、強力な意見や見解を打ち出す必要があるが、主要な任務は人の話を聞き、共通の立場と団結を生み出すことだ。 (完)