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第107号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2020年6月30日)

サハラ以南アフリカの自動車部門:生産拡大でディーセントな雇用を創出する可能性

2020-06-16

現在、アンゴラ、エチオピア、ガーナ、ケニア、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカ共和国など各国で、多国籍自動車メーカーが生産工場を開設しているこの動きは、サハラ以南アフリカ(SSA)で自動車部門向け生産活動が拡大する可能性があることを明確に示している。車両需要は先進国で失速、SSAを含む新興経済国で成長しており、この部門が成長して内需を満たすようになるチャンスがある。

レポート

多くの場合、相手先商標製品製造会社(OEM)は自前の施設を設立するつもりが最初からなく、現地の委託製造業者と契約を結んでおり、委託製造業者が自社工場で車両を組み立てている。さらに、OEMは完全な製造事業を導入することがめったになく、セミノックダウンキット(SKD)から始めて、最終的には中期的に完全ノックダウンキット(CKD)に移行する計画を立てている。SKDとCKDの製造価値付加はかなり低く、工場での生産量が少ないため、部品製造への投資が行われる可能性は低い場合が多い。ほぼ間違いなく、各国政府はこれらの小規模ローテク組立工場を過度に保護している。これらの工場で組み立てられる車両の一部は、SKDに関する政策要件を満たすために分解されているだろう。この場合、製造価値付加は小さい。

SKDはほぼ完成した車であり、原産国で限られた数の部品に分解されたあと、別の国に輸出されて再び組み立てられる。ノックダウンキットには、車の製造に必要なすべての部品が含まれる。

CKDとは完全ノックダウン車を指し、約40%以上が完成した状態の車である。つまり、組立作業が最小限のSKDより多くの部品が組み立てられるということである。

批判的な人々は、SKDとCKDは実は製造ではなく、ほとんど価値付加のない「スクリュードライバー」組立工場だと言う。

例えばケニアでは、OEM向けに製造するフランチャイズを持つ企業を通して契約製造が行われている。例えば、政府が株主になっているケニア・ビークル・マニュファクチャラーズは、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、クライスラーのフランチャイズを所有。別の地元企業AVAは、三菱ふそう、スカニア、トヨタ、日野、タタ向けに中型・大型商用車を組み立てている。

「国産」車の製造にも取り組んでおり、いくつかの新興企業がプロトタイプを発表している。ケニアでは、英国の起業家ジョエル・ジャクソンが2009年に創設したモビウス・モーターズがバギーを発売する予定である。初めて購入する人向きのモデルで、価格は1万2,500米ドルと、ほとんどの国民にとって高価である。

南アフリカでは、ムレザとイランのSAIPAグループの合弁事業が、販売価格1万2,434米ドルの車を生産する予定。報告によると、この車はSKDから作られ、ジンバブエとボツワナの旧マツダ工場と旧現代工場でCKDキットが製造される。

キイラ・モーターズもウガンダでハイブリッドカーを生産する予定で、ナイジェリアの国産ブランドであるイノソン・ブランドは9,555米ドルの車の販売を開始した。うまくいけば、生産が始まるころにはディーセントな雇用が創出されるようになっていることが期待される。

世界でも特に開発が遅れた地域であるSSAでは、ほとんどの政府と政策当局が、自動車製造業は持続可能な工業化と経済開発にとって極めて重要と考えている。いくつかのアフリカ諸国政府、例えばエチオピア、ガーナ、ケニア、ナイジェリア、南アフリカの政府は、ドイツ、アメリカ合衆国、日本、韓国、中国、インドのような自動車製造国を見て、この部門が工業化を促進することに気づいている。金属製造、プラスチック、エレクトロニクスのようなプロセスが、これに貢献している。さらに、自動車メーカー、輸入業者、トラック/バス製造会社、自動車部品メーカーおよび販売会社、コンポーネント製造業者および供給業者、小売業者から成るグローバルな自動車部門バリューチェーンは、大いに必要とされる数千人のディーセントな雇用を創出する可能性がある。この雇用は、失業率が高く賃金が低い地域で不可欠である。

技術進歩に伴って電気自動車(EV)や自動運転車(AV)の開発が進んでいるが、SSAでは、これらの展開を支えるインフラが限られている。しかし、自動車会社と電機会社、情報技術会社の間の技術的収束も、新しい雇用を創出する可能性がある。SSA諸国はこれを、これらの新興産業を利用するために研究開発に投資する機会とみなしている。この研究開発では、部品製造業と現地で調達できる原材料への価値付加に焦点を合わせることができる。

SSAの自動車部門が世界の生産に占める割合は1%に満たない。この産業は世界各国に比べて小さく、2020年の推定世界製造台数8,200万台の2.3%を生産するにすぎないと予想される。ちなみに、この割合は中国30%、ヨーロッパ22%、北米17%である。

これを考慮すると、SSAで生産を増やして、より多くのディーセントな雇用を創出できる可能性は非常に大きい。SSAは、増大する人口を輸送するために2030年までに1,000万台以上の乗用車を製造する可能性を秘めている。

組織化を進める組合

自動車部門を組織化しているインダストリオール加盟組織は、ケニア金属合同労組(AUKMW)、ガーナ工業・商業労組(ICU)、ナミビア金属・関連労組(MANWU)、南アフリカ全国金属労組(NUMSA)、ナイジェリア鉄鋼エンジニアリング労組、ルワンダのSyndicat des Travailleurs de l’Industrie(Strigecomi)である。

SSAでは自動車部門の拡大が予想されるため、組合はすでに勧誘と組織化に関与している。組合戦略は、さまざまなイニシアティブで形になっている。例えば、職場・工場およびインフォーマル部門における勧誘・組織化、国境を超えた組合間の団体交渉ワークショップ、それにフォルクスワーゲン・ネットワークやリア・ネットワークのようなインダストリオール・グローバル・ネットワークである。

インダストリオールが自動車会社(ボッシュ、BMW、フォード、ダイムラー、レオニ、MAN、PSAプジョーシトロエン、ルノー、フォルクスワーゲン、ZF)と締結しているグローバル枠組み協定(GFA)は、関連組合にとって不可欠である。GFAは多国籍企業の事業全体で労働者の利益を保護し、労使がグローバル・レベルで取り決め、最高水準の労働組合権、安全衛生および環境活動を盛り込んでいる。

AUKMWはこのほど、スカニア東部アフリカと労働協約を、ジュア・カリというインフォーマル整備工場と了解覚書を締結した。組合は工場で従来の組織化方法を使いながら、不安定な条件下で働いている場合が多いインフォーマル部門の熟練工を組織化する新しいモデルを試している。組合は、インフォーマル労働者が他の労働者と同じ権利と利益を享受し、労働基準によって保護されるようにしたいと考えている。

例えばインダストリオールVWネットワークは、フリードリヒ・エーベルト財団サハラ以南アフリカ労働組合能力センターの支援により、2019年11月に会合を開いてSSAにおけるVWの拡大をめぐる傾向について討議した。この会合では、社会的対話、団体交渉・組織化・勧誘戦略、連帯・組合相互支援の確立、組合の力の強化を促進するネットワークの能力を構築する方法や、この部門に対するインダストリー4.0の影響も取り上げた。会合には、エチオピア、ドイツ、ケニア、ルワンダおよび南アフリカのインダストリオール加盟組織が出席した。

VWネットワークは、SSAの組合がIGメタルならびに欧州従業員代表委員会とのネットワークを築くためのプラットフォームでもある。ドイツの組合IGメタルとNUMSAとのリア・ネットワークは成功例であり、ヨーロッパとアフリカの労働者がアイデアや戦略を交換している。

リアの欧州従業員代表委員会とIGメタルが始めたリア・ネットワークの目的は、ヨーロッパとアフリカの合同従業員代表機構を設立することである。同社はヨーロッパとアフリカを一体とみなしているため、このアプローチは戦略的である。さらに、強力な企業別ネットワークはグローバル資本に対抗するうえでも役立つ。そのようなネットワークは、価格を指示してサプライヤーよりも安く販売するOEMの優位にも対処する。これを受けてサプライヤーは、賃金を減らして労働者と不安定な契約を結んでいる。例えば、南アフリカのリア工場では労働者の過半数が派遣会社を通して雇用され、ネットワークは労働者の常用雇用を求めてキャンペーンを展開している。

ゲオルク・ロイテルト・インダストリオール自動車担当部長は言う。

「SSAの自動車部門への投資がますます増えている時節柄、インダストリオールはアフリカの加盟組織とよりいっそう緊密に協力したいと考えている。関連労働組合を団結させ、労働組合ネットワークやグローバル枠組み協定、ワークショップ、グローバル・サプライチェーン戦略といった多国籍協力・連帯の手段を最大限に活用したい」

組合は団体交渉で同じような問題に直面しているので、さまざまな国で連帯を構築している。例えばAUKMWとNUMSAのパートナーシップは、組合がどのように団体交渉を行うべきかに重点を置いている。最近の会合では、委任事項や交渉中の組合員への報告に焦点を当てた。さらに、賃金基準やインフレ調整、生活賃金の促進も強調した。組合は団体交渉で産業の成長、雇用機会、自動車部門の見通しのような経済問題にも取り組まなければならないと強調された。労働法による雇用保障と紛争解決の促進や、ケニアと南アフリカ共和国の産業で不安定雇用をなくすためのキャンペーンも極めて重要である。

ローズ・オマモAUKMW書記長は言う。

「自動車部門への投資は雇用を創出する。私たちは組合として、それらの雇用を生活賃金が得られるディーセントな雇用にしたい。この部門の成長は、組合がより多くの組合員を勧誘して組合員数を増やすチャンスだ。インフォーマル部門の不安定労働者のほとんどは労働組合に加入していない。どうすれば彼らが組合員になれるか調べている。公共・民間交通システムを改善するために、インフラ開発だけでなく自動車部門にも投資する必要がある。現地のタクシー(マタトゥ)用の車両も改良が必要であり、ケニアの労働者を輸送するためにバスの台数を増やすべきだ」

ブシムジ・ムクンゴNUMSA自動車部門コーディネーターは言う。

「目前の難題に負けず、組合員の生活・労働条件改善を求めて闘い続ける。使用者との労働協約を通して設けられた基準を維持しなければならない。これは状況改善に向けてあくまで闘うべきだというケニアの同僚へのメッセージだ。他のアフリカ諸国における労働者の搾取にも取り組まなければならないので、定期的に会合を開いて能力を強化している」

政府支援が重要

全世界での経験から、政府の産業政策は自動車部門の成功において主導的役割を果たすことが分かっている。これは各国政府が自動車産業への投資を呼び込むために触媒の役割を演じているSSAでも同じはずである。南アフリカで先ごろフォードと自動車製造地区が開発されたこと、ナミビアでプジョーと政府が協定を結んだことは重要である。南アフリカのダーバン自動車クラスターのような自動車クラスターは、民間企業と自治体、自動車メーカーを結束させ、現地のサプライチェーンで成長と競争力を促進している。これらの国家クラスターを地域レベルで結びつければ、地域自動車サプライチェーンの開発に向けてクラスターを形成することができる。

さらに、SSAは自動車製造用の資源も豊富である。しかし、原材料からもっと多くのものを引き出すために、組合と市民社会組織、地域社会は政府に対し、車両製造業への現地調達政策の導入によって価値付加を促進する政策の策定を強く促している。

自動車製造用の原材料は、恵みよりも災いと言われることが多い。この地域には鉄鋼やアルミニウムといった原材料が豊富である。SSAでは十数カ国に莫大な埋蔵量があり、鉄鋼を生産できる。例えばモザンビークでは、モザールがアルミニウム製品と合金を生産している。リベリアは数十年前からファイアストンのゴム園で天然ゴムを提供している。残念ながら、これらの原材料は価値付加なしで輸出されており、その結果、これらの国々は完成品として輸出する場合に比べて収入を逃している。この地域には、自動車製造業に欠かせない白金族金属などの素材金属もある。

このところ、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行に伴って電気自動車への需要増加が加速しており、バッテリー製造の重要な材料であるコバルトへの需要が増えている。コンゴ民主共和国には世界のコバルト鉱床の60%以上がある。SSAにはバッテリーセル生産の可能性がある。課題は、明らかに、ほとんどのアフリカ諸国に電気自動車製造用のインフラがないことである。

自動車部門の成功要因は優遇政策と助成金による政府支援である。例えば南アフリカでは、産業政策行動計画に基づいて自動車生産開発プログラムが策定されており、どちらの政策手段も貿易産業省が支援している。組合は社会的対話を通して政策プロセスに関与している。その結果、自動車部門はGDPの7.5%に貢献しており、南アフリカ製の車両は140カ国以上に輸出されている。南アフリカは他のアフリカ諸国とは異なり、現地の自動車産業を保護するために中古車輸入も禁止している。

南アフリカは、自動車部門に雇用創出の可能性があることを示す実例である。現在は低迷しているものの、この国の自動車産業は今も部品製造から車両組立に至る分野で11万2,000人以上の労働者を雇用しており、バリューチェーンでは32万人以上が雇用されている。しかし、他の国々では雇用者数が少ない。南アフリカではOEM7社(BMW、フォード、いすゞ、メルセデスベンツ、日産、トヨタ、VW)と、乗用車・大型商用車の独立系輸入・販売業者が活動している。政府は、戻し減税や関税・消費税の減額といったインセンティブを提供している。

アフリカの貿易が抱える課題のいくつかは、多くの小国経済が分散していることに起因している。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の締結により、この状況が変わる可能性があると期待されている。AfCFTAは完全に機能すれば、地域経済共同体を1つのブロックに統合する。ケニアと南アフリカのいすゞ事業間の協力は、地域統合が自動車部門に利益を与える可能性があることを示す実例だが、これは、いすゞがケニアで低賃金を払うために南アフリカで高賃金を避けているということかもしれない。この場合、南アフリカで3,000台以上の小型トラックが生産され、SKDキットの最終組立は車両が販売されるケニアで行われている。

自動車部門の成否は、ヨーロッパ、日本、米国および他の国々からの中古車の流入規制にもかかっている。ガーナのような国では、中古車輸入が激しい競争を引き起こしている。中古車のほうが安いので、ほとんどの人が中古車を選ぶからである。これを規制するために、政府は新車の自動車金融制度の策定を求められている。だが、中古車には現地の条件に適していないなどのリスクがあり、中古車のほとんどが寿命に達しているので修理費が高額である。

ケニアも中古車に関して同じ問題を抱えており、輸入の抑制を目指す国家自動車政策を策定した。ほとんどのSSA諸国と同様に、ケニアでも10台中8台が中古車である。

ナイジェリアでは、国家自動車産業開発計画により、国産車の購入促進によって自動車部門を復活させようと目指している。この計画は、免税や輸入中古車への高率関税によって、多国籍自動車メーカーにもインセンティブを与えている。

さらに、急速な都市化で輸送需要が増えるだろう。経済水準や資産所有、教育レベルの向上によって中流階級が3億人以上に増えており、アフリカ大陸の人々の購買力が上昇して車を購入できるようになっている。しかし、SSAの自動車所有率は現在1,000人当たり42台であり、米国の837台、中国の173台に比べて少ない。世界平均は1,000人当たり180台である。したがって、増大する人口を輸送し、動物に引かせる荷車などの伝統的方法から最新の輸送方式に移動手段を転換するために、もっと多くの車両が必要である。

自動車産業に有利なもう1つの人口統計学的要因は、この地域の人口増加であり、現在の労働力人口は5億人である。国際労働機関によると、この労働力人口は2030年までに6億7,600万人(世界の労働力の約20%)に増大する。自動車部門には、雇用機会が増えたときにも十分な労働力がある。

生活賃金の支給によって所得が上昇し、現地の自動車需要が増加しているため、特に乗用車に関して、SSAの自動車部門には非常に大きな成長可能性がある。雇用創出の結果、組合は新規組合員を獲得するだろう。だが、自動車産業の雇用増加とSSAの急速な工業化を受けて、自動車クラスターを促進する強力な産業政策を導入し、例えば腐敗や密輸が絡んでいることの多い中古車の流入に対処する必要がある。

インダストリオール地域自動車会合の日時と場所は、コロナウイルス感染症パンデミックによる延期のため、まだ発表されていない。世界中の自動車労働者を代表している労働組合が初めて集まり、ネットワークやGFAに関する情報・戦略を交換し、関連マッピング作業(すべての工場の場所、組織化状況など)を完了する予定である。

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