STEMの女性――労働組合にとっての課題
2020-06-16
STEMは科学・技術・工学・数学を表す。ジェンダーギャップに取り組んでSTEMの女性を保護することは、現在、労働組合にとって最も緊急性の高い課題の1つである。
スペシャル・レポート
文:アーメル・セビー
深く根づいた社会・文化規範や固定観念、行動は、女性がSTEMで機会均等と平等な待遇に対する基本的権利を享受するうえで妨げとなっている。
加えて、労働組合は仕事の未来を形成するために公正な移行を求めて努力する中で、女性が置き去りにされず、雇用と時間と利益の公正な再分配の恩恵にあずかれるようにすべきである。
危機的状況にあるものは何か?
STEMには、ソフトウェア開発者やウェブ開発者、コンピュータープログラマー、科学研究員、エンジニア、データベース管理者、技術者、数学者、統計学者のような非常に多くの職業が含まれる。
STEM職は必ずしも高技能職というわけではないが、それでもSTEMに分類される職業は他の職業に比べて不釣合いに技能レベルが高い。
インダストリオール関連部門のほとんどはSTEM部門であり、製造業やエネルギー産業、鉱業はSTEM職で働くSTEM資格保有者を大量に雇用している。
STEM職は賃金が高く、未来の仕事になると期待されている。新技術の発展を受けて、製造部門は新しい技術的スキルを必要としている。STEM分野はインダストリー4.0の発展と気候変動への対処において鍵になる。STEM関連の雇用は、他の雇用よりもはるかに急速に増加している。
STEM職、特に高熟練職に占める女性の割合は低い。ジェンダーギャップは高等教育から始まる。UNESCOによれば、STEM関連の研究分野に入学する学生のうち、女性の割合は35%にすぎない。
自動車総連(JAW)によると、新規雇用エンジニアの男女比は半々ではない。技術系学部では女子学生の割合が15%前後だからである。
ヨーロッパ全域で、男性は中・高度技術製造業で優位を占めており、科学者とエンジニアの83%が男性である。エンジニア職に占める女性の割合は、オーストラリアで2016年に12.4%、カナダでは同年に13%、アメリカでは2017年に16.2%にとどまった。
STEMで働いている女性の割合は分野によって異なる。全世界で、女性の割合が最も低いのはエンジニアリング、製造、コンピューター科学、ICTである。
加えて、高等教育において、仕事の世界への移行において、さらには職歴においてさえ、STEM分野から脱落する女性の数が不釣合いに多いという問題もある。例えば欧州連合諸国全体で、ICT関連の学位を保有する30歳以上の女性のうち、技術産業にとどまることに決める人の割合はわずか20%である。
STEMにおける男女不平等の原因
女子は科学や技術、数学の勉強を奨励されることがめったにない。これらの分野は男性向けだと考えられている。若い女性は、STEM職で身を立てようするのは自分だけではないかとか、将来使用者に差別されるのではないかと心配することも多い。それに加えて、若い女性がこのような困難を克服するのを手助けできる女性の役割モデルやメンターはほとんどいない。
2019年11月に開催されたインダストリオール女性大会のSTEMの女性に関するプレゼンテーションで、スウェーデンの組合ユニオネンは、女性が卒業前にSTEM教育から脱落する理由を説明する要因をいくつか列挙した。
- 教員や学生による性差別
- 能力の承認不足とその結果としての自尊心喪失
- 孤立感
- STEM分野を他者の生活を改善するための手段と考えない風潮
STEMで働いている女性にとって、この差別は続いている。2017年にアメリカで実施された調査によると、女性はいくつかの形で差別を経験している。すなわち、同じ仕事をしている男性より賃金が少ない、無能であるかのような扱いを受ける、同じ仕事をしている男性に比べて上級幹部からの支援が少ない、職場で孤立していると感じる、最も重要な任務を与えられない、女性であることを理由に昇進できない、などである。
ユニオネンによると、女性は最終的に自分の資格に見合わない仕事に就くことが多い。カナダ・ユニフォーの報告によれば、女性はSTEM職で研究に携わっている場合、不安定雇用に甘んじる羽目になり、安定性は高いが賃金の低い仕事に転職するために辞めることが往々にしてある。
STEMの女性はガラスの天井と壁に直面している。女性はゼネラリスト色が強く、あまり技術的ではなく、より低い管理的なポストに就くことを選んでおり、そのような職務に選ばれている。その結果、女性は年齢に関係なく男性より低いポストに就く可能性がはるかに高い。2017年にハッカーランクが1万4,000人以上の職業開発者(女性2,000人を含む)を対象に実施した世界的な調査によると、35才以上の女性の20%以上(男性の割合は6%)が今なお低いポストに就いていた。
先ごろマダガスカルで開かれたワークショップで、鉱業部門のインダストリオール加盟組織は、技術的職業またはSTEM職で働こうとしている女性が差別されている実態を報告した。無意識的・意識的な偏見と出産休暇取得の可能性が原因で、若い女性は採用プロセスで不利に立たされる場合が多い。
世界各地で、女性は家にいて育児・家事労働を担当することを期待されている。労働時間の硬直性とSTEMにおけるワーク・ライフ・バランスの課題が一因で、これらの職業を辞める女性が偏って多い。
STEMの女性は男性の同僚より収入が少ない。カナダでは2015年、STEM分野の学士号を保有する労働者の男女賃金格差が17.9%に達した。この格差はヨーロッパでは2014年に27.6%、アメリカでは2017年に19.7%だった。
STEMにおける性差別とジェンダーに基づく暴力(GBV)
STEM部門では男性的な文化が広く見られる。技術部門とコンピューター科学部門では、『ブログラマー』(ブラザー+プログラマー)文化のせいで女性が去っている。
2019年12月にドイツで開かれたインダストリオール自動車作業部会で、性差別は女性がSTEM部門で直面する主要な問題の1つとして報告された。女性は冗談や行動、女性の仕事を低く評価する発言、女性の能力の疑問視、女性の阻害、職業面での成長の妨害によって、男性の同僚や上司から日常的に意識的・無意識的な性差別にさらされることを余儀なくされている。
女性は産業に広がっている微妙な形の差別が原因で夢の職業を諦めている。「紙で1,000回切られて死ぬようなもので、管理者は女性が血を流していることに気づかない」とロンドンの女性ソフトウェア・エンジニアは言う。「これは初めて話を聞く人にとっては小さな問題あるいは何でもないことのように思えるかもしれないが、女性は誰かに話すころには疲れ果てている」
STEMの女性はGBVを免れない。いくつかの研究とSTEMの女性の証言は、これらの分野でセクシャル・ハラスメントが高度に蔓延している状況を非難している。
組合は何をすべきか?
「ごく基本的なレベルで、もっと多くの女性をSTEMに引きつけて保護することは公平の問題だ。女性にも男性同様に、STEMの仕事を続けて成功する道を選ぶ機会を与えなければならない。それは組合がより包括的で多様になり、変容する世界に適応して生き残るために推進すべき取り組みの一部でもある。新技術とインダストリー4.0が発展する中で、組合がSTEMの女性のために今すぐ行動を起こすべき重要な時期だ」とヴァルター・サンチェス,インダストリオール・グローバルユニオン書記長は言う。
組合は、STEMで男女平等を求める具体的な真の行動と、女性に対する差別や支配の連鎖を生む固定観念・社会規範と闘うための行動を要求すべきである。労働組合は、これらの女性(その多くがホワイトカラー)を組織化したければ具体的な戦略を策定しなければならない。
インダストリオール世界女性大会は、STEMの女性を組織化し、その権利を保護・擁護することを組合の優先課題にしなければならないと主張した。これらの女性を組織化するには、組合は自分たちを代表し保護してくれると感じてもらわなければならない。指導部をはじめ組織機構の全レベルで多様性を反映させ、すべての労働組合行動にジェンダーの視点を統合し、すべての労働者のさまざまなニーズに対応しなければならない。
加えて、考え方の変化を促すために、埋め込まれた固定観念を打破して女性の自尊心と自信を高め、組合内部および組合員間で意識向上や訓練を行うことが不可欠である。
カナダのユニフォーは、教育を通して組織内で代表不足や固定観念、技術・知識の欠如に取り組んでいる。同労組は訓練機関と協力して女性組合員向けに訓練・意識向上プログラムをいくつか計画し、女性がSTEM部門に参入または復帰するよう奨励している。これらの活動の目的は、女性組合員の自信を高めてSTEMの仕事に就かせることである。
ユニオネンは昨年、Women in TechおよびWomen in ITの2団体とともに、技術分野で働く女性向けのワークショップを開き、これらの女性の声を聞いた。女性は要求リストをまとめた。
英国では、ユナイト・ザ・ユニオンをはじめとする組合が学校でプレゼンを行い、生徒たちを職場に招待してSTEMの仕事を紹介した。
STEM部門における差別への取り組みは採用プロセスから始まる。労働組合は、透明かつオープンで責任ある採用プロセスを強く要求すべきである。特に技術系ポストで、新人の採用における意識的または無意識的な偏見に対応すべきである。マダガスカルでは、鉱業部門のインダストリオール加盟組織が、技術系ポストの求人で性差別のない言葉が使われているかどうか監視している。
透明性は、同一労働同一賃金と平等な昇進機会を保証するために重要である。労働組合は透明な給与体系と昇進プロセスを強く要求しなければならない。男女平等を効果的に監視するには、労働組合が企業レベルで男女別データを入手できるようにすることが重要である。例えば、新規採用従業員、昇進・昇給、さまざまな職種や給与水準の労働者の分布に関するデータである。
自動車産業では、英国の組合ユナイトによるイニシアティブを受けて監査が行われ、経営側と組合代表が一緒に訓練を受けた。この現場には現在、組合代表も参加する同一賃金審査委員会がある。
多くの国々の法律が企業に対し、平等計画を策定して差別との闘いを支援するよう義務づけている。フィンランドの法律は、従業員数30人超のすべての職場について、労働組合と協力して平等計画を導入しなければならないと定めている。技術産業では、使用者と労働組合(インダストリオール加盟組織を含む)が、平等計画を立案したり賃金調査を実施して男女賃金格差を確認したりする方法について、訓練資料や訓練モジュールを開発した。これらの訓練には労働者代表と経営側が参加している。
ユニオネンはスウェーデンの使用者団体ALMEGAとともに、企業が差別に関してどのように活動しているか監視するための協力プロジェクトを開始した。調査を行い、サンプル企業の情報を集めている。
STEMの女性向けのジェンダーに対応した生涯学習プログラムの開発を組合の焦点にすべきである。インダストリオール世界女性大会の参加者は組合に対し、使用者との交渉や討議で女性向けの技能向上・生涯学習プログラムを取り上げるよう求めた。
インダストリー4.0の影響は男性と女性とで異なる。女性は時間の不足が原因で男性より訓練機会が少ない。訓練は女性の労働時間中に実施すべきである。女性は、消滅すると予想されるSTEMの中熟練職にとどまっていることが多い。生涯学習は、職業生活を通して女性労働者を支援し、新規雇用の創出から利益を得られるようにする手段である。
労働組合は、STEMで働く男女のためのワーク・ライフ・バランス関連措置や、有給育児休暇の改善や保育サービスへのアクセス拡大によって育児・家事労働の負担を軽減・再分配するための措置を取り決めるべきである。
STEMの男女平等を実現するには、女性がGBVにさらされないようにしなければならない。仕事の世界における暴力とハラスメントに関するILO第190号条約は、組合にとって重要な手段である。この条約は、絡み合う多様な形態の差別、男女をめぐる固定観念、ジェンダーに基づく不平等な力関係など、GBVの根本原因に取り組むうえで役立つ。条約に定められているとおり、職場のリスク評価を行えば暴力とハラスメントの可能性を高める要因(ジェンダー、文化・社会規範など)を考慮することができるので、態度を変化させるうえでも役立つ。
インダストリオールは加盟組織が第190号条約キャンペーンに加わるよう奨励している。この条約は、STEM部門も含めた各部門で性差別や暴力とハラスメントに終止符を打つために生活を変えることができる。