職場復帰をめぐる交渉
2020-06-16
各国政府がロックダウンを緩和し始める中、世界中の組合が職場復帰について交渉している。安全衛生は主な優先課題であり、職場復帰の方法は組合と労働者にとって非常に重要である。
イギリスのインダストリオール・グローバルユニオン加盟組織ユナイト、GMBおよびUSDAWは、労働組合会議(TUC)とともに以下のとおり強調した。
「政府・使用者がCOVID-19パンデミックを受けた全国的な安全衛生革命に合意するまで、組合員300万人に職場復帰を勧めない」。
南アフリカでは、鉱業が6月1日に復帰を目指しており、この部門の危険な再開に明確に反対する動きがある。ハウテン州西部のアングロゴールド・アシャンティ事業でCOVID-19が大規模に拡大し、組合の反対が強まっている。全国鉱山労組(NUM)は、労働者全員が検査を受けるまで鉱山を再開することはできないと言う。
インダストリオールは、安全な生産再開のために細目を交渉しなければならないと考えている。職場復帰に賛成か反対かという問題ではない。復帰の可否は、ある国や都市のコロナ拡大状況、医療制度、通勤のための保護対策の有無などによって決まる。それが導入されたら、全国・部門・企業レベルで組合と交渉し、安全な職場復帰に備えなければならない。
インダストリオールは、労働安全衛生を労働者の権利、使用者の責任の問題ととらえている。
COVID-19によって非常事態に陥ったからと言って、この基本が変わるわけではない。それどころか、この原則はこれまで以上に重要性が増している。
法規は世界各国でさまざまだが、一般に使用者は従業員の安全衛生を保護しなければならない。この義務には、安全に仕事をするために情報や教育、訓練、適正な装置を提供することが含まれる。加えて、COVID-19発生に対処するために新しい特別法規が制定されているかもしれない。職場がすべての法的要求に従うようにしなければならない。
労働者は3つの主要な権利を要求する。
- 仕事の危険について知る権利
- 危険な作業を拒否または中止する権利
- 安全衛生関連の意思決定に本格的に参加する権利
労働者は、どのような危険があるか、それらがどのように管理されるかを、できるだけ完全かつ正確に知る権利を要求する。どんな管理を実施するかに関する意思決定への参加権を強く主張する――それは私たちにとって重大な問題である。つまり、合同安全衛生委員会や労働組合安全代表が、講じられるすべての措置の立案と実施、監視に全面的に関与しなければならない。最後に、管理が不十分だと考える理由がある場合に、不健康または危険な仕事の遂行を拒否する権利を主張する。
職場復帰の前にもちろんリスク評価が必要であり、予防策を導入しなければならない。透明な情報・協議・交渉プロセスを実施し、労働者と組合が全面的に関与すべきである。労働者をリスク評価に関与させなければならない――リスクを評価する道徳的権限を有するのは、そのリスクに直面している人たちだけである。
それぞれの従業員は職場復帰する前に、個人用保護具に関する訓練など、危険・リスク管理に関する実際的で適切な安全訓練を受けなければならない。以下を網羅する明確な手順を定めるべきである。
- 労働者と第三者(外部サプライヤーなど)が職場に立ち入る方法
- 作業場の清掃・消毒
- 個人衛生予防措置
- 集団用・個人用保護具
- 特別安全衛生と共有スペース(食堂、喫煙コーナー、ロッカールームなど)使用法
- 身体的・社会的距離ルール
作業編成は職場復帰にあたって重要な役割を果たす。交替制、内部の職場異動、会合、内部の行事・訓練について分かりやすく概説することができる。必要に応じて、組合・労働者との協定で在宅勤務について定めることができる。
COVID-19のリスクが継続していることを考えれば、職場で症状が出た労働者を管理するための明確なルールを設けなければならない。職場で検査や審査、医学的監視を行う必要がある。COVID-19発症者については、疾病手当のような給付を満額支払い、完全な健康保険を提供しなければならない。
職場復帰計画はジェンダーに配慮し、女性を差別的状況から保護する特別な規定を設けなければならない。
多くの国々で今なお学校が全面的また部分的に休校しているため、労働者向けの保育施設を確保することが重要である。
検査・追跡手順はプライバシーを侵害するため、職場のデータ・プライバシーをめぐる懸念に対応しなければならない。
通勤のための各種輸送方法による解決策について相互に合意すべきである。
すべての職場復帰計画について真の社会的対話を行わなければならない。必要に応じて、専門家のサービスを利用できるようにすべきである。合意された職場復帰手順・協定の尊重の実施・監視に関して、安全衛生代表や安全衛生委員会の役割を明確にしなければならない。
COVID-19関連の心理社会的リスクを視野に入れて、労働者のメンタルヘルス対策を導入すべきである。
医学的・生物学的リスクが高い(例えば持病や特定の処方薬、年齢など)労働者を評価し、そのニーズに対応しなければならない。
業務災害保険計画や労災補償は、ほぼ間違いなく病気の認定だけでなく、安全な職場復帰手順に必要なCOVID-19の犠牲者とキャリアの広範な検査・識別にも依存する。組合は使用者に対し、COVID-19関連の請求に反対するのではなく支援するよう求めるべきである。
国際労働機関(ILO)は、安全で健康的な職場復帰のためのガイドを発行した。ILOによると、「職場復帰を決定する要因は、生命と健康の検討とリスクの予想・軽減でなければならない」。そして、「社会的対話は、効果的な政策設計を確保し、安全な職場復帰の促進に必要な信頼を築くうえで極めて重要である」。
ILOによると、国際労働基準は明確な権利・責任体系をはじめ、安全な職場復帰のための適切な枠組みを提供している。ILOの指針は、心理社会的リスク、化学的危害、人間工学的リスクなどを取り上げている。知る権利と拒否する権利、参加する権利も確認しており、ディーセント・ワークの問題に結びつけている。
ILOはラテンアメリカ・カリブ海地域向けに、10項目の職場復帰措置で構成される安全衛生ツールを導入した。
国際労働組合総連合の職場復帰に関する主要問題は、「COVID-19規制や閉鎖が解除されている多くの国々で人々が職場に復帰しているため、職場の安全衛生を最優先課題にしなければならない」と述べている。
イタリア
組合連合会3団体Cgil、CislおよびUilと使用者団体コンフィンドゥストリアは4月24日、手順について合意した。それに従って、企業が手順を遵守しなければ活動を停止し、地方委員会を設置する。この手順は下請会社の従業員を考慮し、これらの従業員の1人がウイルスの陽性反応を示した場合、下請会社はクライアント企業に直ちに通知しなければならない。
部門レベルでは、繊維部門のインダストリオール加盟組織Femca-Cisl、Filctem-CgilおよびUiltecが5月2日に了解覚書(MoU)に署名、使用者は復帰の「地固め」をする。MoUによると、それぞれの企業はこの手順を採用しなければならない。それによって会社の手順になり、その会社独自の他の措置と統合できるようになる。ソーシャル・パートナーは全国合同委員会を設置した。この委員会は9月30日まで活動し、企業と労働者に手順の内容を知らせる責任を負う。
企業レベルでは、インダストリオール加盟組織FIOM-CGIL、FIM-CISLおよびUILMが5月9日、フィアット・クライスラー・オートモービルズとコロナウイルスの拡大防止策に関する協定を締結した。政府が営業再開のゴーサインを出す際には、これを適用しなければならない。この協定はグループ労働者全員の最大限の安全衛生を保証しており、従業員に防護措置、新しい作業編成、労働者・雇用保護に関する情報を提供している。
ドイツ
IGメタルは、生産現場で保護を確保する方法に関するガイドを発行した。このガイドは従うべき7つのルールを示し、3種類の(技術的、組織的、個人的)措置を勧めている。
IG BCEは実施勧告を盛り込んだ10項目の計画を作成した。この計画には特に、復帰前の全職場のリスク評価、衛生計画、脆弱な層への配慮、個人用保護具が盛り込まれている。
スペイン
CC.OO.とUGTは使用者団体および政府の代表とともに、各部門の特殊性を考慮して、経済活動再開後の「段階的縮小」にどう備えるかに取り組んだ。労働組合は、労働者の保護を保証する活動の再開を要求した。
職場復帰が進む中で、マスクの幅広い使用が勧告されている。組合は、職場に復帰する従業員、特に一般の人々と接触する従業員の保護改善を要求している。下記部門について特別な手順を取り決め、合意した。
- ガラス/セラミック
- 鉱業
- 化学
- 香水・化粧品
- 金属産業
- 製紙
- 自動車
ベルギー
ベルギーの労働組合と使用者は、4月22日に非必須部門の職場復帰を取り扱う枠組みについて合意した。このガイドは、安全な職場を確保するための最優良事例を提示し、安全・健康・衛生指導に関する具体的予防手段を記載している。その狙いは、部門合同委員会(部門別協定について交渉する場)が独自の具体的な部門向け手順を策定する際の基礎を示すことである。
部門レベルでは、金属・技術部門の労働組合が活動再開のための協定を締結した。協定の目的は、職場におけるコロナウイルスの拡大に取り組むために全国レベルの指針を補うことである。この協定は当事者間の社会的対話とコミュニケーションの重要性を重ねて主張し、労働者・労働者代表による関与の必要性を強調している。
他の部門向けにも同様のガイドや勧告がある。
アメリカ
インダストリオール加盟組織の全米自動車労組(UAW)は、職場再開についてゼネラル・モーターズ、フィアット・クライスラーおよびフォード・モーターと合意に達した。UAWは、疾病管理予防センターの使用者向けガイドラインに従って、それぞれの施設で安全対策の強化を確保するために交渉した。
この協定は、時差交代、定期的な手洗い、ソーシャルディスタンス、体温測定、マスクの着用など、必要な予防措置を詳述している。
UAWは、職場復帰にあたってUAW組合員の安全衛生に影響を与える問題を積極的に監視し、対応し続けている。UAWは、現在のコロナウイルス検査を拡大して可能な限り早く完全な検査を行い、職場でウイルスにさらされる時間を減らすことも強く要求した。
ブラジル
さまざまな部門の組合が、何とか企業に安全衛生措置を導入させ、職場でCOVID-19の拡大と闘うとともに、リスクにさらされた労働者が直ちに現場から出られるようにした。この協定は義務的な有給休暇と一時的な雇用保障も提供し、経済的利益を維持し、企業が講じる措置について投票または組合の評価によって労働者の承認を得ることを義務づけている。
スリランカ
スリランカ政府は、社会的対話による労使の利益保護を目指して、COVID-19三者構成タスクフォースを設置。このタスクフォースは、すべての部門に適用される合意に達し、既存の法的枠組みの中で賃金支給と雇用を確保した。タスクフォースのメンバーは、労働者が引き続き雇用され、COVID-19ロックダウン措置によって解雇されないことで合意した。全従業員が職場に配置され、ローテーションで同数の勤務を割り当てられる。これにより、ソーシャルディスタンスのような安全衛生措置を尊重しつつ、労働者の利益を保護する。
トルコ
ビルレシク・メタル・イス(合同金属労組)はCOVID-19ガイドを作成、使用者と労働者の責任に対する認識向上を目指すとともに、職場で適切な措置が講じられるようにしている。職場レベルの安全衛生委員会と安全衛生代表に、ガイドの実施の厳密な監視が委ねられている。
繊維・衣料労組OzIplik-Isは、使用者が職場で講じる安全衛生措置について使用者側と合意する手順のテンプレートを作成した。このテンプレートは、措置の実施に関する法的規制も提案している。