スペシャル・レポート:香港条約発効の要件は?
2022-01-18
【JCM記事要約】
|
2022年1月18日:船舶解撤は世界で最も危険な仕事と呼ばれている。バングラデシュやパキスタンのような国では、労働者が危険で不安定な労働条件に直面しており、訓練も安全装置も医療へのアクセスもほとんどない。その代価として、わずかな賃金しか受け取っていない。
スペシャル・レポート
『グローバル・ワーカー』第2号(2021年11月)より
国:パキスタン、バングラデシュ、インド
船舶解撤産業には安全・健康・清潔で持続可能な雇用を提供する責任があり、労働者にはそのような雇用を期待する権利がある。それを達成する1つの方法が、船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約である。
この条約の目的は、船舶の再生利用にあたって、人の健康や安全、環境に不必要なリスクをもたらさないようにすることである。香港条約は、アスベスト、重金属、炭化水素、オゾン層破壊物質といった危険物質のような問題や、世界の船舶リサイクル施設の作業・環境条件に関する懸念に取り組んでいる。
条約自体が具体的な組織化の余地を提供しているわけではないが、特に労働安全衛生に関する教育・訓練が重要であると明記している。
「使用者だけでなく、労働者とも協力して条約を開発していかなければならない。これを利用して、組合が労働者に加入の動機を与えるうえで支援したい。香港条約を利用して組合員数を増やし、組合に政府・使用者との社会的対話を発展させる機会をもたらすことができる」と2010年から船舶解撤部門に取り組んでいる松﨑寛インダストリオール書記次長は述べた。
技術的な観点から言うと、条約発効の要件は以下のとおりである。
- 15カ国が批准
- 世界の商船船腹量の40%以上
- 批准国の年間最大船舶リサイクル量の合計は、最近 10 年間の年間最大船舶リサイクル量の 3%以上でなければならない。
現在までのところ17カ国が批准している。すなわち、ノルウェー、コンゴ、フランス、ベルギー、パナマ、デンマーク、トルコ、オランダ、セルビア、日本、エストニア、マルタ、ドイツ、ガーナ、インド、クロアチア、スペインである。
条約の発効には、あと総トン数の約10%とリサイクルトン数の0.4%が必要である。
船舶解撤の大部分がバングラデシュとパキスタンで行われているため、両国による批准が重要である。そして、正しい方向へ向かう動きがある――2018年、最近世界最大の船舶解撤国になったバングラデシュが、新しい船舶リサイクル法を制定した。この法律によると、同国は2023年までに香港条約を批准する。
「進展が見られるが、絶えず重大事故が発生しており、労働安全衛生が悲惨な状況にあるため、批准プロセスを速める必要がある。船舶解撤の安全性と持続可能性を高めることが強く求められている。船主とステークホルダーは、環境に優しい安全な方法で船舶をリサイクルしたいと考えている。結局のところ、条約を批准していない国は取引を失う」と松﨑寛は述べた。
「2023年までに香港条約の発効要件が満たされることを期待している。この条約は、持続可能な未来に向けた平等な競争条件を作るために必要最小限の第一歩となる」
組織化の成功で職場の安全性が向上
インダストリオールは2003年から、インドの船舶解撤労働者を対象に組織化プロジェクトを実施している。このプロジェクトはオランダFNVの出資により、ムンバイの現場で開始された。インダストリオール加盟組織SMEFIが、すでに近隣の造船所に組合員を擁し、労働者がプロジェクトを利用しやすいようにしたからである。この組織化活動は最初から使用者側の強い抵抗に遭い、組合つぶしが横行し、警察はマフィアが絡んできたときに援助を拒否した。
だが、オルグたちは諦めようとせず、労働者に自分たちの権利について教え、労働者の命は重要であり、組合は仕事の安全性を高めるために手助けできると伝え続けた。組合員証があれば、労働者が身分を明らかにできるだけでなく、事故発生時の重要情報である血液型も分かる。
組織化活動は2006年、当時世界最大の船舶解撤場で労働条件が苛酷だったアランに拡大された。またしても、使用者と地方政府は組合組織化に抵抗しようとした。
プロジェクト開始前、アランでは労働者の大多数が、派遣会社と契約する貧しいインフォーマル不法就労者だった。労働者が死亡すれば、遺体は海に投げ捨てられるだけだった。しかし、このプロジェクトによって、アラン・ソシヤ船舶再利用一般労組(ASSRGWA)が結成された。同労組は、賃金、社会保障措置、労働安全衛生の改善に貢献した。労働者は組合員証で社会保険を請求したり、銀行口座を開いたりできるようになり、組合には、どんな労働者がどこで働いているかに関する記録がある。ASSRGWA-FNV-インダストリオールが作成した労働安全衛生教育・訓練資料は現在、解撤場所有者と地方当局のグジャラート海事委員会(GMB)によって広く使われている。
インドは2019年に条約を批准した。条約の基準に従い始めてから、施設が改善され、安全性が向上している。
バングラデシュの船舶解撤部門で続く安全上の危機
チッタゴンの船舶解撤場では嘆かわしいほど安全性が欠如しているため、9月の1週間だけで労働者が2人死亡し、3人が負傷した。インダストリオールの事故調査によると、2021年1月以降、バングラデシュの船舶解撤場では少なくとも10人の船舶解撤労働者が死亡し、23人が負傷している。犠牲者のほとんどが不法就労の若い派遣労働者で、適切な安全装置がなかった。
バングラデシュには船舶解撤場が100カ所以上あるが、条約の要件を満たしているのは1カ所だけである。最終リサイクルシステムはなく、危険物はどこかに捨てられるか、適切な施設が建設されるまで造船所に保管されている。しかし政府は、条約批准の直前か直後にリサイクルシステムを建設すると約束している。
船の墓場
2016年11月、労働者250人が解体中の石油タンカーに火がつき、29人が死亡した。爆発の原因は、船の燃料タンク内に可燃性の有毒ガスが残っていたことである。労働者は、燃料タンクから残留燃料を除去できないうちに、解体プロセスに着手するよう強制された。
最低最悪と言われることもある部門で、インダストリオール加盟組織NTUFは労働者を組織化しており、社会的対話を通して労働条件や社会的給付の改善に努め、使用者に交渉パートナーとして認められている。
解説
船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約は、2009年に外交会議で採択された。
新条約の規制対象は、船の安全性と運用効率を損なうことなく安全かつ環境上適正な再生利用を促進するための船舶の設計・建設・運用・準備、安全かつ環境上適正な方法による船舶リサイクル施設の運用、認証・報告要件を組み込んだ適切な船舶リサイクル実施機構の確立である。
船舶リサイクル施設は「船舶リサイクル計画」を提供し、各船舶の詳細や目録に応じたリサイクル方法を明記するよう義務づけられる。締約国は、管轄下の船舶リサイクル施設による条約の遵守を確保するために、効果的な措置を講じる義務を負う。