製造業からモビリティーへ レポート:製造業からモビリティーへ――未来のモビリティー部門に備える労働組合
2022-06-01
【JCM記事要約】
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都市環境における未来のモビリティーコンセプトは、現在私たちが知っているものとは違ったものになるだろう。サービスの共有が増え、個人モビリティーが減少し、人と車とインフラのデジタル接続が進み、無人の車両が増えていく。
レポート
『グローバル・ワーカー』第1号(2022年6月)より
テーマ:モビリティー
文:ゲオルク・ロイテルト
未来はモビリティーの都市化によってすでに始まっている。運転者と乗客を結びつけるプラットフォームは、運転手や他のサービス要員の不安定な労働条件に基づいている。どのような変化を予想でき、労働者と組合にどんな影響が及ぶだろうか。
事実
未来のモビリティーコンセプトの主要素:
- 交通渋滞から脱して温室効果ガス排出を削減するために、都市部の車の量を減らす必要がある。
- 個人的モビリティー(主に車による)が大きく減少しても移動性を維持あるいは改善さえするには、共有サービスを大幅に拡大しなければならない。これは既存の形態の公共交通機関(電車、地下鉄、路面電車、バスなど)と、新しい配車サービスや相乗りサービス(バス、タクシー、オートバイ、自転車、スクーターなど)の両方に関係がある。
- デジタル・プラットフォーム事業者は、柔軟な複合/多重選択輸送ソリューションの導入によって、あらゆる種類の交通手段の組み合わせを可能にする。
- 人工知能システムにおけるビッグデータの収集と利用は、モビリティーコンセプトをデジタル化するすべてのプロジェクトの重要な要素である。
- 新技術により、自律走行車(例えば「ロボタクシー」)の導入も可能になる。これは各種デジタル装置(インターネット、センサー、レーダー、ライダーなど)の設置を必要とし、車両同士が、また車両と(道路)インフラが適切に通信できるようにする。
- 自律走行車は、公共交通機関による農村地帯へのアクセスを可能にする。人件費の削減によって過疎地での顧客サービスの利益が増えるだろう。
- 現在、モビリティー市場に参入しているのは主に技術企業である。というのも、これらの企業には、この部門のデジタル化と新しいサービスや交通手段の実施に必要なソフトウェアと技術、製品があるからだ。
- それらの技術企業は、伝統的なモビリティープロバイダーとは異なるビジネスモデルに基づいて、経済的行動を実施している。ベンチャーキャピタルへのアクセスを得るために、信頼できる形でビジネス概念を提示することが最も重要である。四半期貸借対照表や短中期的な収益性は二の次になる。
- 技術企業は、ただ伝統的なモビリティープロバイダーに取って代わるだけではない。さまざまな形の協力やネットワークが生まれる。未解決の問題は、誰が付加価値の大部分を創出するか、誰が労働条件などを設定するかである。
- 輸送システムの改革とデジタル化は、伝統的な公共交通機関と自動車産業に失業をもたらすが、特にIT、サービス部門、デジタル輸送インフラで新規雇用を創出する。新規雇用の量が失われる雇用を埋め合わせる可能性が高い。
- 新規雇用の中には、賃金の高い高技能職がある一方で、主にサービス分野で、不安定な労働条件を特徴とすることの多い雇用も生まれる。
課題
雇用の減少と増加の定量分析は大した問題ではないように思われるが、今日と明日の雇用の技能格差は難しい課題である。
実例:
アルトゥーロ、52歳
過去31年間、アルゼンチンの大手自動車会社の変速装置工場でCNC旋盤工として働いてきた。電気自動車は(複雑な)変速装置を必要としないため、彼の工場は数年後に閉鎖される。過去30年間にアルトゥーロが習得した主な技能は、高精度金属機械加工、数値制御機械の操作、保守活動、品質管理、複雑な製造プロセスの理解、チームワーク、交代勤務などである。
アルトゥーロが技能の向上や再習得によって新しい仕事を見つけられるようにするには何が必要か。エレクトロニクスやメカトロニクスの分野の新しい技能を追加し、自律走行車の安全な運転に必要なデジタル道路インフラを設置できるようにするというのはどうだろうか。
クリスティン、43歳
チケット販売員として、その後は駅監督者と
して働き、フランスの地下鉄で安全と清潔を確保してきた。10年以上前、券売機にチケット販売員の仕事を奪われた。人工知能のせいで、5年後には監督者としての仕事も失うことになるだろう。彼女の主な技能は現在、かなり複雑な輸送システムや警戒システムの監督、基本的なコンピューター技能、チームワーク、交代勤務に関するものである。
クリスティンが技能の向上や再習得によって新しい仕事を見つけられるようにするには何が必要か。いくつか新しいコンピューター技能を習得し、将来ロボタクシーの導入を監視できるようにするというのはどうだろうか。
キアラ、28歳
過去8年間、インドのB2Bコールセンターに雇用されてきた。主に、ある大手米国企業の簿記業務を担当した。新しいソフトウェアにより、間もなく彼女の仕事は不要になる。彼女が身につけた技能は、簿記と関連コンピュータープログラム、基本制御、顧客関係の分野である。
キアラが技能の向上や再習得によって新しい仕事を見つけられるようにするには何が必要か。彼女が長期的展望のある新しい仕事を見つけるには、おそらく本格的かつ継続的なIT技能向上が必要だろう。
研究:
輸送システム分野の2人のドイツ人研究者、アンドレアス・ニー博士・教授とヴェールト・キャンズラー博士は、未来のモビリティーシステムが労働に与える影響を調べている(関連研究は間もなくここで入手可能)。
討議
労働組合が労働者の権利を擁護し、将来のディーセント・ワークと適正な賃金を強く要求する態勢を整えるようにするために、戦略的な討議が必要である。
中心的な主題は以下のとおり。
- 組織化:この研究によると、自動車産業と公共交通機関の伝統的な大企業は、規模と重要性が低下している。これらの企業は現在かなり組織率が高いため、組合は敗退する可能性がある。他方、これらの企業は、技術企業と競争するために新しい子会社や合弁事業を設立している。現在の交渉関係は組合に、モビリティー市場の新しい分野に手を広げるために一定の影響力を与える可能性がある。
- キャンペーン:この研究は、新しいモビリティーコンセプトの導入には公共の場の再配分が必要になると示唆している。さらに、労働組合が――おそらくNGOと協力して――これらのプロセスを利用し、不安定で危険な労働条件を提供するすべての企業を排除するために、関連ルールを求めるキャンペーンによって適正な労働条件を擁護・促進するよう勧めている。
- 戦略構築:9月27-29日にスペインで関連加盟組織向けに開かれるワークショップで、戦略的討議プロセスを開始する。
プロジェクト
インダストリオール・グローバルユニオンは、国際運輸労連(ITF)、UNIグローバルユニオンおよび独フリードリヒ・エーベルト財団とともに、ディーセント・ワークと適正な賃金を確保するために、未来のモビリティーコンセプトに関する3カ年プロジェクト(2021-2023)を実施している。
プロジェクトの主要素:
- 未来のモビリティーコンセプトとモビリティー市場の詳細な理解の深化:構造、交通手段、活動主体、雇用、ビジネスモデル、組合の役割
- 労働への影響、未来の技能要件および訓練ニーズの分析
- すべてのジェンダー関連側面の評価と包摂
- 南北両方からの平等な情報に基づく真にグローバルな視点の設定
- 外部専門家による研究の委託
- 部門の組合間の戦略志向型討議の開始
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