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第151号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2022年11月11日)

スペシャル・レポート:国際労働裁判所を構築するには?

2022-06-09

2022年6月9日:多国籍企業は世界経済を支配しているが、労働法は国家レベルで制定されており、サプライチェーンにおける侵害から労働者を擁護する国際機関はない。どうやって世界の労働者のために公正と救済を求めればよいだろうか。
                                                      

スペシャル・レポート
『グローバル・ワーカー』第1号(2022年6月)より

テーマ:世界的な労働紛争解決メカニズム
文:ウォルトン・パントランド

 

 

 

 

 

ILOの役割

国際労働裁判所に最も近いものは国際労働機関(ILO)の基準適用委員会(CAS)で、毎年夏の国際労働総会で労働者の権利侵害の報告を聞いている。だが、CASは企業ではなく政府に対する苦情しか取り扱わず、制裁の権限はほとんどない。

排出に関するUNPCCC協定(パリ協定)や世界人権宣言といった国際協定を通して、ILOが世界的な労働仲裁を管理することは、技術的には可能である。しかし、これは加盟国の政治的意志に依存し、現在のところ、そのような意志は見られない。

ジュネーブのILO本部 写真:マルセル・クロゼ/ILO

 

ILO

ILOは1919年、労資が妥協点を見いだす機関を作るために設立された。三者構成機関が当該国とともに運営し、国際機関が定めた基準によって監督された。

国連システム最古の国際組織であるILO創設の原動力となったのは、第1次世界大戦への対応と革命の恐怖である。戦争で旧世界の構造が崩壊したあと、ロシア、ドイツその他の場所に革命の波が広がった。世界各国の政府は、社会的公正がなければ平和はないことを悟り、社会的対話によって仕事の世界を律するために世界的な機関の創出に取りかかった。

革命の脅威が弱まり、資本主義的リアリズムが支配するようになったため、ILOの価値観からの後退が見られる。各国がスト権を弱めるために共謀し、ILO条約は尊重されないことが多い。独裁政権が世界的規模で復活しているため、全世界で労働者の権利の侵害が増えている。先進民主主義国においてさえ、プラットフォーム労働の発展に伴って労働法が緩和または回避され、労働者の権利が大きく後退している。

ILOの影響力と地位の低下にもかかわらず、資本を管理してその最悪の行き過ぎた行為を防止する必要性は依然あり、労資間の国際的な取り決めの構想は異なる形で再び勢いを取り戻している。グローバルな社会的対話によって支持される確固たる国際システムがない中で、企業に責任を負わせるために、さまざまな措置の寄せ集めが講じられている。

 

デューデリジェンス法

多くの消費者は、自分たちが購入している製品が労働者の搾取によって生産されていることを知って愕然とし、企業・政府に行動を要求している。その結果、グローバル・サプライチェーンに関する法体系が発達している。

その中で最先端の法律は、ドイツのサプライチェーン法(Lieferkettengesetz)である。2023年1月1日から、労働者とその支持者は、労働者の権利侵害を含む環境権・人権侵害を理由に、ドイツの裁判所でドイツ企業を訴えることができるようになる。

他の国々にも、そこまで意欲的ではないが同じ目標を掲げる同様の法律があり、欧州委員会はデューデリジェンス指令を提案している。この指令は欧州議会で可決されれば、加盟国の法令に導入される。

もう1つの救済手段はOECD多国籍企業行動指針である。このガイドラインは法的拘束力はないが、50の遵守国のそれぞれに苦情解決を取り扱うナショナル・コンタクト・ポイントがある。拘束力のあるビジネスと人権に関する国連条約に向けた交渉も進んでいる。

 

国際労働調停・仲裁メカニズム

2021年に大会で採択されたインダストリオールのアクション・プランは、グローバル・ユニオンと多国籍企業の間で拘束力のある協定を実施するために、国際労働調停・仲裁(ILCA)メカニズムの開発を求めている

2016年、インダストリオールとUNIグローバルユニオンは、バングラデシュ協定違反で衣料ブランド2社を常設仲裁裁判所(PCA)に訴えた。ハーグに拠点を置くPCAは、仲裁、調停および斡旋によって契約上の紛争を解決できる国際仲裁サービスである。バングラデシュ事件は、PCAがグローバル・ユニオンと多国籍企業の紛争解決に初めて利用された例である。一方のブランドは2017年12月に、もう一方は2018年1月に和解した。2018年、両ブランドが和解の条件(バングラデシュの既製服工場の危険な条件を是正するための230万米ドル超の支払いなど)をすべて満たしたので、PCAはこの件に決着をつけた。アコードは支払金を適格工場に分配した。

この勝利は重要だったが、手続きは費用と時間がかかる複雑なプロセスで、国際労働争議を解決するより良い方法が必要であることが分かった。解決にあたって、両ブランドはグローバル・ユニオンのサプライチェーン労働者支援基金にも拠出した。この基金は、より適切な手段――ビジネスと人権仲裁に関するハーグ規則に基づくILCAメカニズム――の開発資金に使われた。ハーグ規則は国連ビジネスと人権に関する指導原則を実行に移し、国際基準に沿って、グローバル・ユニオンと多国籍企業との協定に盛り込むことができる強力な手段を生み出した。

 

グローバル枠組み協定

労働運動は、多国籍企業とのグローバル枠組み協定(GFA)によって、国家レベルの団体交渉をグローバル・レベルに引き上げた。1988年に食品労働者の国際組織IUFとダノンが最初のGFAに署名してから、多くの協定が締結されている。

GFAは多国籍企業の本国の組合の団体交渉力を利用して、当該企業が活動する他の国にも労働者の権利を広げ、通常――最低限として――中立性と労働者の組織化の妨害禁止を保証している。しかし、いくつかのGFAは国内法に法的根拠があるが、すべての管轄区域で実施するのは難しい。場合によっては、違反に対する制裁が協定からの離脱以外にないこともある。

紛争解決制度に基づく法的拘束力のあるGFAを創出するために、ILCAメカニズムをグローバル協定に盛り込む必要がある。だが企業は、拘束力のある協定は利益を増やさずに責任を増やす制限的措置であると考え、署名に二の足を踏んでいる。

 

国際アコード

ラナ・プラザ災害後に行動を起こす必要が生じたことから、2013年に多くの世界的な衣料ブランドが、UNIおよびインダストリオール・グローバル・ユニオンと法的拘束力のあるバングラデシュ協定を締結した。バングラデシュ協定は今では国際アコードに拡大され、この部門の安全衛生に焦点を当てている。国際アコードは署名企業の本国で強制力を持つため、その条件には法的拘束力がある。

 

打開策の精査

単一の世界的なシステムがない中で、企業に責任を負わせるために、さまざまなメカニズムの寄せ集めが導入されている。この寄せ集めはますます濃密かつ複雑になっており、今あるコンポーネントを組み合わせて世界的な苦情処理制度を作り上げるために、革新的な作業が行われている。最も効果的な方法は、ILCAを盛り込んだグローバル協定の取り決めである。だが、これがなくても、組合は法律やOECD指針、労働協約での約束、企業行動基準などを組み合わせて、労働者のために公正を勝ち取ることができている。

例えば繊維・衣料部門には、組合が利用している手段がいくつかある。

  • 174のブランドが署名している法的拘束力のある国際アコード
  • アコード加盟企業が紛争解決に利用できるILCA
  • グローバル・ユニオンとブランドのGFA
  • 本国の組合が生産国の組合に代わって問題を提起できる労働組合ネットワーク
  • ますます多くの国で制定されている、ブランドにデューデリジェンスの証明を義務づける法律

多くの発展途上国では労使関係や社会保障制度が十分に発達していないので、一部のブランドは組合と提携して、行動・協力・転換(ACT)プログラムを通して政労使の社会的対話を発展させている。ACTには苦情解決メカニズムが含まれ、関係者(世界的ブランド、サプライヤー工場、グローバル・ユニオン、全国組合)が、これを拘束力のある制度として受け入れることに合意している。

その他多くの部門にも、組み合わせて同様の方法で苦情に対処できる独自のコンポーネントがある。この次第に濃密になっている法律、協定およびメカニズムのネットワークが成長する中で、世界的なシステムの枠組みが具体化し始めている。

 

労働者の権利が尊重されていない国の問題

国内法と協定の寄せ集めから成る世界的な苦情処理制度の課題は、一部の管轄区域でしか拘束力を持たないことである。これはほぼ間違いなく、自由に労働者の権利を侵害できる国に拠点を置く企業に競争優位を与え、デューデリジェンスを示す必要がある企業に費用のかかるデメリットをもたらす。一番分かりやすい例は中国で、世界の製品の多くが、独立代表に対する権利がない労働者によって生産されている。

しかし、アメリカが中核的ILO条約を批准していないことを忘れてはならない。米国では多くの州に制限的な反組合的法律があり、北米企業は一般に国際アコード、GFA、その他のグローバル協定に署名していない。

 

世界的なシステムへの政治的意志の構築

短期から中期的に、組合の焦点は、企業に責任を負わせるために、ますます濃密になっている法律、協定および義務のネットワーク構築(GFAへのILCA統合を含む)に絞らなければならない。これらの手段が利用されればされるほど、先例が作られていく。

しかし長期的に見れば、サプライチェーンに関する拘束力のある国連条約やILO条約、それにIPCCCの方針に沿ってILOまたは別個のパネルが管理する世界的な仲裁システムが必要である。これに向けた政治的意志を達成する最善の方法は、世界的なシステムがぎこちない基準の寄せ集めほど複雑ではなく、より公正であることを証明することである。世界貿易機関が貿易分野でしているように、労働者の権利のために平等な競争条件を要求することは企業と国の利益になる。

最善の紛争解決は現場レベルである。世界的な仲裁制度は、確固たる国家仲裁制度を開発し、独立組合、使用者団体および政府が可能な限り低いレベル(理想を言えば職場)で、組合の関与によって紛争を解決しようと目指す体制を支援することによって機能する。これが不調に終わった場合は、国家仲裁制度を通して、そして最後の手段としてのみ世界的なシステムを通して、救済を求めることができる。

これを機能させるために、各国は、労働者救済策や失業手当、年金などを分配できる社会保障制度も開発する必要がある。

労働基本権を普遍的に認知・尊重することを求める声が、世界中で高まっている。先進国の多くの労働者は、発展途上国における搾取と自国における賃金低下・権利侵害との関係を理解している。世界的な労働基準は底辺への競争を阻止し、あらゆる場所で労働者を保護する。

組合は、この要求をもとに、資本家に責任を負わせ、すべての場所の労働者のために公正を実現できる世界的なシステムを形成できるよう助力する必要がある。

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