ILO中核的労働基準とは何か?

ILO中核的労働基準とは、結社・団体交渉の自由、強制労働の禁止、児童労働の禁止、差別の撤廃の4つを指します。
経済のグローバル化、市場経済化の進展により、企業は国境の枠を越えた生産、販売、調達をますます加速化させています。こうした企業活動は、当然のことながら一定のルール、グローバル・スタンダードの下で行われることになっていますが、労働・雇用分野に関しても、そうしたルールは存在しています。
 ILO(国際労働機関)では、すでに1977年に、政労使が共同して、「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(三者宣言)」を策定し、雇用、訓練、労働条件・生活条件、労使関係などの分野に関して、多国籍企業、本国および受け入れ国政府、使用者および労働者団体が実行すべきガイドラインを決定しました。
 続いて98年には、やはり政労使の合意のもと、新たに「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(新宣言)」を採択し、すべての加盟国は、ILOにおいて基本的なものとして認められた条約、すなわち、
 (a) 結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認(第87号条約、第98号条約)
 (b) あらゆる形態の強制労働の禁止(第29号条約、第105号条約)
 (c) 児童労働の実効的な廃止(第138号条約、第182号条約)
 (d) 雇用及び職業における差別の撤廃(第100号条約、第111号条約)
に関しては、加盟国がこれを批准していない場合においても、ILOの加盟国であるという事実そのものにより、尊重し、促進し、実現する義務を負うことを宣言しました。
 ここに掲げられた強制労働・児童労働の禁止、差別の撤廃、団結権・団体交渉権の保証については、「中核的労働基準(コア・レーバー・スタンダード)」と呼ばれており、まさに労働・雇用分野における基本的なグローバル・スタンダードとされています。重要なのは、「三者宣言」に示されているように、中核的労働基準確立が単に政府だけの責任ではなく、グローバルな事業展開を行う企業、使用者団体、労働組合がともに努力していかなければならないということであります。<ページのトップヘ>

ILO基本8条約とは?

◆1930年の強制労働条約(第29号) 日本批准済み
 正式名は、「強制労働に関する条約」といい、すべての強制労働の使用を、できる限り短い期間のうちに廃止することを目的とした条約。この条約で、強制労働というのは、処罰の脅威によって強制され、また、自らが任意に申し出たものでないすべての労働のことである。もっとも、純然たる軍事的性質の作業に対し強制兵役法によって強制される労務、国民の通常の市民的義務を構成する労働、裁判所の判決の結果として強要される労務、緊急の場合、例えば戦争、火災、地震、猛烈な流行病その他のような災害またはそのおそれのある場合に強要される労務、軽易な地域社会の労務であって通常の市民的義務と認められる労務などは包含されない。強制労働が完全に廃止されるまでの経過期間中において、例外の措置として使用されるときには、この条約に決めた条件に従わなくてはならない。
 この条約に関連して、1930年に「間接の労働強制に関する勧告」(第35号)と「強制労働の規律に関する勧告」(第36号)が採択されている。 <ページのトップヘ>

◆1948年の結社の自由・団結権条約(第87号) 日本批准済み
 正式名は、「結社の自由及び団結権の保護に関する条約」という。国際労働機関憲章がその前文において、結社の自由の原則の承認こそ労働条件を改善し、平和を確立する手段であると宣言し、フィラデルフィア宣言が、表現と結社の自由は不断の進歩のため不可欠であると述べていることを考慮して採択されたもの。条約で決められている主なことは次の通り。労働者及び使用者は、事前の認可を受けないで、自ら選択する団体を設立し、加入することができる。労使団体(連合体も含む)は、規約を作り、完全な自由のもとにその代表者を選び、管理・活動を決めることができる。行政機関はこれらの権利を制限したり、その合法的な行使を妨げたり、また、労使団体を解散したり、活動を停止させたりしない。労使団体は右の権利を行使するに際してはその国の法律を尊重しなくてはならない。他方、その国の法律は、この条約に規定する保障を害するようなものであってはならない。 <ページのトップヘ>

◆1949年の団結権・団交権条約(第98号) 日本批准済み
 正式名は、「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約」という。
 労働者は、労働組合に加入しない、または労働組合から脱退することを雇用条件としたり、組合員であるという理由や労働時間外、または使用者の同意を得て労働時間中に、組合活動に参加したという理由などで解雇されたり、その他の不利益な取り扱いをされたりするような差別待遇から十分な保護を受ける。
 労働者団体及び使用者団体は、その設立・任務遂行・管理などに関して、それぞれ相互に、干渉を行うこと(直接・間接を問わず)がないように保護を受ける。特に、労働者団体を使用者またはその団体の支配の下に置くためにする行為(例えば、使用者またはその団体に支配される労働組合の設立促進・労働組合に対する経理上、その他の援助)に対する十分な保護をする。労使間の自主的交渉のための手続きの発達や利用の奨励のため、必要がある場合には適当な措置をとる。
 なお、この条約は、国の行政に携わる公務員の地位を取り扱うものではなく、その権利や分限に影響を及ぼすものではないと定められている。
 この条約に関連して、1951年に「労働協約に関する勧告」(第91号)、「任意調停及び任意仲裁に関する勧告」(第92号)が、1952年に「企業における使用者と労働者との協議及び協力に関する勧告」(第94号)が採択されている。 <ページのトップヘ>

◆1951年の同一報酬条約(第100号) 日本批准済み
 正式名は、「同一価値の労働に対する男女労働者の同一報酬に関する条約」。この条約は同一の価値の労働に対しては性別による区別を行うことなく同等の報酬を与えなければならないと決めたものである。条約は報酬について定義を下し、金銭であると現物であるとを問わず、直接または間接に使用者が労働者に対して支払う報酬で労働者の雇用から生ずるものを含む、とする。
 報酬を同一労働に対して男女同等に支払う、という原則を確立する方法として、@国内の法令、A法令によって設立されまたは承認された賃金決定制度、B使用者と労働者との間で締結された労働協約、C右の各手段の組み合わせ、を規定している。更に、行うべき仕事に基づく職務の客観的評価がこの条約の規定を実施するのに役立つ場合にはこれを促進する措置をとることとする。
 この条約に関連するものとして、1951年の「同一報酬勧告」(第90号)がある。 <ページのトップヘ>

◆1957年の強制労働廃止条約(第105号) 日本未批准
 正式名は、「強制労働の廃止に関する条約」。この条約を批准する国は、次に掲げる手段、制裁または方法としてのすべての種類の強制労働を廃止し、これを利用しないことを約束する。
a. a. 政治的な圧制もしくは教育の手段、または政治的な見解もしくは既存の政治的・社会的もしくは経済的制度に思想的に反対する見解を抱き、もしくは発表することに対する制裁
b. b. 経済的発展の目的のために、労働力を動員し利用する方法
c. c. 労働規律の手段
d. d. ストライキに参加したことに対する制裁
e. e. 人種的・社会的・国民的または宗教的差別待遇の手段

 この条約を批准する国はまた、前記のような強制労働を即刻かつ完全に廃止するために必要な効果的な措置をとることを約束する。 <ページのトップヘ>

◆1958年の差別待遇(雇用・職業)条約(第111号)日本未批准
 正式名は、「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」。この条約は、雇用と職業の面で、どのような差別待遇も行われてはならないことを規定したものである。ここにいう差別待遇とは、「人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身、門地などに基づいて行われるすべての差別、除外または優先で、雇用や職業における機会または待遇の均等を破ったり害したりする結果となるもの」をいうが、特別の条件を必要とする特定の義務についての差別・除外または優先は、差別待遇とはみなされない。また、国の安全を害する活動について正当に嫌疑を受けている者やこの活動に従事している者に対して行われる措置も、差別待遇とはみなされない。
 批准国は、差別待遇廃止のため必要な政策をとり、この政策を促進していく上で労使団体の協力を求め、反差別待遇の法律を制定し、教育計画を進め、この政策と一致しない法令の条項を廃止し、政令・慣行を改正しなければならない。
 関連勧告として、同名の勧告(第111号)が同時に採択された。<ページのトップヘ>

◆1973年の最低年齢条約(第138号) 日本批准済み
 正式名は、「就業が認められるための最低年齢に関する条約」。過去に採択された同分野における10条約を改定するこの条約は、児童労働の廃止と若年労働者の労働条件向上を目的に、就業の最低年齢を義務教育終了年齢と定め、いかなる場合も15歳を下回ってはならないものとする。しかし、開発途上国の場合は、さしあたり14歳とすることも認められる。
 若年者の健康、安全、道徳を損なうおそれのある就業については、最低年齢は18歳に引き上げられる。軽易労働については、一定の条件の下に、13歳以上15歳未満の者の就業を認めることができる(途上国の場合には12歳以上14歳未満)。演劇などへの出演については、例外が認められる。適用範囲は、少なくとも製造業、運輸、建設、農業的企業、工業を含むものとされる。一般教育、職業教育または専門教育のための学校その他の訓練施設における労働には適用されない。
 同名の補足的勧告(第146号)が同時に採択されている。 <ページのトップヘ>

◆1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号) 衆議院で審議中
 正式名は、「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約」。1973年に採択された最低年齢条約(第138号)を補足するものとして、18歳未満の児童による最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保するための即時のかつ効果的な措置を求める。最悪の形態の児童労働とは、次のように定義される。
1. 児童の人身売買、武力紛争への強制的徴用、債務奴隷を含むあらゆる形態の奴隷労働またはそれに類似した行為
2. 売春、ポルノ制作、わいせつな演技のための児童の使用、斡旋、提供
3. 薬物の生産、密売など、不正な活動に児童を使用、斡旋または提供すること
4. 児童の健康、安全、道徳を損なうおそれのある労働
 批准国は刑罰を含み、条約の効果的な実施・施行を確保するための措置を講じる必要がある。また、児童労働廃絶における教育の重要性に配慮しながら、予防、働く児童の解放、社会復帰と影響からの回復、無償の基礎教育を受ける機会の確保、特別な危険にさらされている児童へ手を差し伸べること、女児の特別な状況の考慮といった目的を達成するために効果的な時限措置を講じ、条約の効果的な実施を監視する適切な機構の設置または指定、最悪の形態の児童労働を優先課題として廃絶するための行動計画の立案並びに実行が求められている。最悪の形態の児童労働の効果的な禁止・撤廃に向けた加盟国間の相互協力・支援も規定される。
 同名の補足的勧告(第190号)が同時に採択されている。 <ページのトップヘ>
◎グローバルコンパクトとは?
『グローバル・コンパクト(Global Compact)』は、グローバリゼーションがもたらすさまざまな弊害を解決するとともに責任ある企業行動を国際的に推し進めることを目的に、1999年の世界経済会議(World Economic Forum)で国連事務総長のコフィ・アナン氏によって提案されました。このイニシアティブには、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連環境計画(UNEP)、国際労働機関(ILO)、国連開発計画(UNDP)など、国連の機関が深く関わっています。 『グローバル・コンパクト』は、「世界人権宣言」、「労働の基本原則及び権利に関するILO宣言」、「環境と開発に関するリオ宣言」に基づいた、人権・労働・環境に関する9つの自主行動原則から成っています。
グローバル・コンパクト
【人権】
原則1:企業は、国際的に宣言された人権を支持し尊重しなければならない。
原則2:企業は、人権の侵害に加担することがあってはならない。
【労働条件】
原則3:企業は、組合結成の自由と団体交渉権を支持しなければならない。
原則4:企業は、すべての形態の強制労働を排除しなければならない。
原則5:企業は、児童労働を実効的に廃止しなければならない。
原則6:企業は、雇用と職業における差別を撤廃しなければならない。
【環境】
原則7:企業は、環境に関する課題に対して予防的なアプローチをとらなければならない。
原則8:企業は、より広範な環境上の責任についてイニシアティブを発揮しなければならない。
原則9:企業は、環境配慮型の技術の開発と普及に努めなければならない。
◎グローバル・サリバン原則
サリバン牧師は、南アフリカのアパルトヘイトを止めさせる圧力を形成するために、1977年に「サリバン原則」を発表しアメリカ企業に採用を求めた。これが企業の資本撤退につながるなど、一定の成功を納めたとする評価がある。
  「グローバル・サリバン原則」は、この「サリバン原則」を世界的なコンテクストに応用しようとするもので,1999年11月、レオン・H・サリバン牧師が国連で発表したものである。同原則には、普遍的な人権に対する支持、平等な機会の促進、児童の搾取・体罰の禁止、集会・結社の自由の尊重をはじめとする人権・労働要素が盛り込まれている。
◎SA8000とは?
SA8000(Social Accountability 8000)は、国際労働機関(ILO)のほか、世界人権宣言や子供の権利条約を基礎として策定された、基本的な労働者の人権の保護に関する規範を定めた規格である。1997年に米国のCouncil on Economic Priorities(CEP)の下部組織であるCouncil on Economic Priorities Accreditation Agency(CEPAA)によって策定された。SAIのアドバイザリー・ボードには、労働組合、産業界、人権擁護団体など多様なステークホルダーが含まれており、同規格を継続的に改善していくための議論を行っている。
今日、CEPAAはCEPから独立し、Social Accountability International(SAI)と改称している(本部はニューヨーク)。 SA8000は、下記の9つの主要分野から構成されている。

<SA8000の取り扱うテーマ>
1. 児童労働の撤廃
2.強制労働の撤廃
3.労働者の健康と安全
4.結社の自由と団体交渉の権利
5.差別の撤廃
6.肉体的な懲罰等の撤廃
7. 労働時間の管理
8.基本的な生活を満たす報酬
9.マネジメントシステム

<ページのトップヘ>