第47回協議委員会 特別報告

「企業行動規範(COC)と企業の社会的責任(CSR)の取り組みについて」

 IMF−JCは本日、企業行動規範推進本部2005年度第2回推進会議を開催し、2003年秋以降取り組みを進めてきた、中核的労働基準等に関する企業行動規範(COC)労使締結の取り組みについて、とりまとめを行い、今後の取り組みの進め方、ならびに「企業の社会的責任(CSR)」の推進における労働組合の参画の促進について、以下の確認を行った。

1.IMF−JC傘下の産別および主要な企連・単組は、中核的労働基準等に関する企業行動規範(COC)の労使締結をめざして、2003年秋以降、経営側との協議を再開し、ねばり強い取り組みを行ってきた。IMF−JCとしてもこれを支えるため、適宜、推進本部推進会議を開催して情報交換を強化し、経営者団体などへの働きかけを強め、セミナーの開催、資料集の発行などを実施してきた。
  産別および企連・単組においては、COCの労使締結の姿についても、踏み込んだ検討を行いつつ、懸命な労使協議を積み重ねてきているが、本日現在、具体的な労使締結に至っていない。

2.こうしたなかで、海外では、ヨーロッパ第3位の家電メーカー・メルローニ社(伊)を皮切りに、フォルクスワーゲン(独)、ダイムラークライスラー(米独)、SKF(スウェーデン)、ルノー(仏)など、金属産業の10社におよぶ多国籍企業が、IMF(国際金属労連)の方針に沿った国際枠組み協約(IFA)を締結するに至っている。

3.一方、企業の社会的責任(CSR)が全世界的にクローズアップされており、わが国企業でも、取り組みが急速に進みつつある。
  日本経団連も2004年5〜6月、「企業行動憲章」ならびに「企業行動憲章実行の手引き」を見直し、これまでの企業不祥事対応のものから、企業に対してCSR推進の方向性を示すものに改定を行った。このなかでは、4つの中核的労働基準のうち、団結権の保証・結社の自由については不十分なものの、児童労働の不使用、強制労働の不使用、差別の撤廃については明確に盛り込まれており、また国際的な事業活動における現地取引先に対する取り組みについても、言及されるところとなっている。
  政府関係でも、厚生労働省が2004年6月、「労働におけるCSRのあり方に関する研究会」中間報告書、経済産業省が2004年9月、「企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会」中間報告書を策定し、それぞれの立場から、CSR推進に向けた考え方の整理を図っている。
  加えてISO(国際標準化機構)では、2004年6月、CSR国際会議、引き続いて技術管理委員会を開催し、ISOとしてCSR規格を策定することを決定した。企業内の仕組みのチェックを役割とする従来型のマネジメントシステム規格ではなく、どのような成果をめざしていくべきかというガイドラインを作成する方向になっている。現時点では、CSR規格策定のための手順を確認する段階に止まっているが、2007年の規格発効に向けて、今後、具体的な検討が本格化することになる。ISOは企業活動全般に大きな影響を持つものであり、CSR規格に対しても、企業の積極的な対応が求められるところとなっている。

4.CSRは、コンプライアンス(法令遵守)経営、ビジネス・エシックス(企業倫理)、従業員重視経営、環境、社会貢献など、幅広い分野を網羅するものであり、また企業単体ではなく、グループ企業、さらにはサプライチェーン、流通網などを含めた組織全体における取り組みが問われるものである。ISOの規格化が行われることからしても、例えば海外で生産拠点を展開しているか否かにかかわらず、すべての企業にとって、その永続的な発展のために、CSRの推進が不可欠となっている。
  また、企業における最も重要なステークホルダーのひとつとして、従業員およびその代表たる労働組合は、企業のCSR推進に積極的に参画していくことが不可欠である。労働組合の参画があってはじめて、CSRが実効性を持つものとなる。
  さらに、中核的労働基準の遵守は、当然ながらCSRの範疇に含まれるものであり、CSRの高まりのなかで、中核的労働基準等に関する労使締結によるCOCの必要性・重要性はますます高まってきている。

5.これまでのCOC労使締結の取り組み経過、ならびにCSRに関する最近の動向を踏まえ、IMF−JCは以下の方針に沿って、COCならびにCSRの取り組みを展開していくこととする。

 @ IMF−JCおよびすべての産別は、中核的労働基準等に関するCOCの労使締結を図るべく、引き続き総力をあげて取り組みを推進していく。取り組みにあたっては、様々な実現の方策を模索しつつ、ねばり強く労使協議を進めていく。
   なお、海外における中核的労働基準の状況に関するチェック活動、労使紛争の解決などに関しては、IMF−JCならびにIMFのネットワークを活用し、日本の労使が共同して解決にあたることがきわめて有効であることを、労使共通の認識としていくよう、経営側への浸透を図る。
A 企業におけるCSR推進にあたり、労働組合としてこれに積極的に参画していく。
  具体的には、CSRに関する社内システムへの参加や、CSR指針の策定・改定作業への関与、法令やCSR指針違反についての社内活動を通じた対応、海外でのCSRの推進状況チェックにおける労使連携など、IMF−JCが2004年3月に策定した「CSR(企業の社会的責任)推進における労働組合の役割に関する提言」の実現をめざし、活動を推進していく。

以 上

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(別紙)中核的労働基準等に関する企業行動規範労使締結の取り組みの2003年秋以降の経過

1.企業行動規範締結に向けた労使協議再開までの経過

 中核的労働基準等に関する企業行動規範の労使締結の取り組みとは、企業が海外で事業展開を行うのに際し、ILO加盟国に対して批准の有無、国内法の如何を問わず遵守が義務づけられている基本8条約の内容(中核的労働基準=団結権・団交権の保証、強制労働・児童労働の不使用、差別の撤廃)を遵守していくことを、企業労使として確認し、宣言し、実効性を確保していく取り組みである。
 IMF−JCは、2001年のIMF世界大会に向けて労使締結の取り組みを展開したが、具体的成果をあげるに至らなかった。これ以降、諸外国ではヨーロッパ第3位の家電メーカーであるメルローニ社(伊)を皮切りに、フォルクスワーゲン(独)、ダイムラークライスラー(米独)、レオニ(独)、GEA(独)、SKF(スウェーデン)、ラインメタル(独)、ボッシュ(独)、プリム(独)、ルノー(仏)の合計10企業グループで、IMFの基準を満たす労使締結がなされている状況にある(2004年11月現在)。わが国が国際労働運動において大きく遅れをとる懸念が出てきている。

2.企業行動規範労使締結の協議再開

 IMF−JCは、2003年9月25日、企業行動規範推進本部「2004年度第1回推進会議」を開催し、IMF−JC加盟産別および企連・単組は、IMF−JCが2002年11月21日に決定した「海外事業展開に際しての労働・雇用に関する企業行動規範策定に向けた今後の進め方(その3)」に基づき、企業行動規範の労使締結を求め、産別の指導のもと取り組みを再開し、2004年のIMF−JC大会までに締結をめざしていくことを決定した。
 なお、企業内で行われている企業の社会的責任(CSR)に関する社内体制強化の動きとの関係としては、中核的労働基準に関しては、環境問題などと同様、「CSR全般の取り組み」からは独立して取り扱い、「労使署名による企業行動規範」を締結し、モニタリング、紛争解決など実効性確保の取り組みを労使連携して行っていくことを基本とすることを確認した。
 一方、産別の判断によっては、労働組合がCSRに関する社内体制づくりに参画し、コンプライアンス委員会、企業倫理委員会などといった社内横断的な委員会にも参加することを前提として、中核的労働基準についても「CSR全般に関する行動指針」のなかに盛り込んだうえで、それを労使連携して厳守していくこと、およびモニタリングや紛争解決に際して労働組合が関与していくことを、別途、協約、共同宣言、確認書などのかたちで労使確認するという方策もありうべきもの、との考え方についても確認した。
 またIMF−JCとして、企連・単組における労使協議あと押しのため、2003年11月26日に開催した金属産業労使会議において、経営側の見解を質すとともに、同じく12月9日の日本経団連との懇談においても、強力な要請を行った。

3.「CSR推進における労働組合の役割に関する提言」の策定

 アメリカ、ヨーロッパ、日本を問わず世界的に続発した企業不祥事、CO2排出抑制やリサイクル促進など環境問題への関心の高まり、IT化に端を発した消費者意識の高まりなどをきっかけとして、世界的にコンプライアンス(法令遵守)経営、企業倫理(ビジネス・エシックス)、環境経営などを中心とする、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)が注目を浴びる状況となっており、各企業ともその社内体制づくりの動きを加速化させている。
 CSRに関する社内体制の強化は、勤労者にとって健全な労働条件・職場環境を確保し、消費者利益・株主利益を保護する上できわめて有効であり、ひいては企業の永続的な発展にとって不可欠となっている。従って労働組合は、労使協議会を通じ、あるいはCSR取り組みのための社内システムを活用して、その推進に積極的に参画していくことが必要である。また、現場の声を直接反映する組織として、労働組合の参画があってはじめて、CSRの取り組みが実効性あるものになると考える。
 こうした観点に立って、IMF−JCは2004年3月、「CSR(企業の社会的責任)推進における労働組合の役割に関する提言」を策定、
○中核的労働基準遵守について「労使署名による企業行動規範」を図る組合に対しては、中核的労働基準以外の分野・項目に関する、労働組合としてのCSR取り組みの方向性を示すものとして、
○中核的労働基準遵守についてCSR全般の取り組みのなかで確立を図ろうとする組合に対しては、そうしたCSR全般に対する労働組合の参画の方向性を示すものとして、
提起を行った。

4.IFAセミナー、IFA懇談会の開催

 IMF本部はかねてより、国際枠組み協約(IFA)に関するセミナーの開催を日本に対して要請してきていたが、労使協議を促進するため、2004年4月23日、東京の国連大学ウ・タント国際会議場において、産別、企連・単組三役、GUF、主要企業の経営側、その他関係者を含め200名が参加して開催した。
 セミナーでは、高巌・麗澤大学教授より、まず基調講演を受けたが、
○CSRはサプライチェーンマネジメントとして取り組んでいくことが絶対に必要である。
○ヨーロッパでは、CSRは労働問題としてまず発生した。日本では消費者対策のほうが急がれているが、労働組合としても専門の担当者を設けるなど、対応を強化していく必要がある。
などの考え方が示された。
 経営側からは、讃井暢子・日本経団連国際労働政策本部長が、
○CSRに取り組むからには、中核的労働基準に触れなくてはならない。
○労働組合と力を合わせてCSRに取り組んでいきたい。
○中核的労働基準についてどういうアプローチをするかは、色々なやり方があり、個別企業で判断することである。労使で締結するかどうかは、労使の信頼関係、コミュニケーションにかかわっているのではないか。
などの考え方を示した。
 海外講師・パネラーのブライアン・フレドリクスIMF書記次長、バート・ティエロンIGメタル国際局長からは、講演、パネル、および翌日のIFA懇談会において、以下のような発言があった。
○ドイツでも経営側は最初、IFAの中身にはまったく問題がない、といっていたが、そのあとで、競争力に影響力が出てくるところがあるかもしれない、と主張するようになった。
○ドイツでも経営者団体の抵抗が強く、進歩的な経営者に働きかけて、前例を作ることが大切である。
○VWの中国適用除外は、最初にどうしても協定を結ぶ必要があったので、そのようにした。最初で最後であり、ほかには絶対にありえない。
○IFAをCSRのなかで取り扱うことについては、一定の条件を入れればよいのではないか。@中核的労働基準については100%盛り込む。A途上国の関連会社なども含めてカバーする。B労働組合が経営側と一緒になって実施し、モニタリングの方法についても労使で協議する。これだけあればいいのではないか。
○取り組みの戦略、やり方は日本自身で討議することである。それが決まったらIMFの執行委員会で報告してほしい。
なお、IFAセミナー開催に際し、産別、企連・単組において職場への浸透を図るための教宣資料として、「資料集(第4版)」を策定した。

5.政府、経営側、その他の動き

 厚生労働省は2004年6月、「労働におけるCSRのあり方に関する研究会」中間報告書を発表、経済産業省も2004年9月、「企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会」中間報告書を策定するなど、CSRに対する政府の取り組みも進められている状況にある。
 ただし、厚生労働省の報告書は雇用形態の多様化や能力開発などの促進を中心的な内容としたもので、CSRのなかで最も重要なコンプライアンスに関しては、ほとんど触れておらず、コンプライアンスを「前提とした上で、労働に関するCSRについて企業が考慮することが望まれる事項について概観」したものとの位置づけに止まっている。
 労働におけるCSRのなかでは、不払い残業や偽装請負、過重な労働時間、年休の切り捨て、海外事業拠点における労使紛争など、コンプライアンス、ビジネス・エシックス上の問題点が、現実に数多く存在しており、「前提とした上で」では済ませられない状況にあり、その点で課題の多いものとなっている。
 経済産業省の報告書は、CSRを推進するための進め方やツールについては整理されているが、CSRの中身そのものについては、ほとんど触れられていない。また、CSRの実効ある推進にとって不可欠な労働組合の参画に関しても、一切触れられていない。
 日本経団連も2004年5月、「企業行動憲章」の改定を行い、6月、「企業行動憲章実行の手引き(第4版)」を発表した。従来の企業行動憲章は企業不祥事への対応が中心であったが、企業に対してCSR推進の方向性を示すものに改定を行ったものである。4つの中核的労働基準のうち、児童労働の不使用、強制労働の不使用、差別の撤廃については触れられており、国際的な事業活動における現地取引先の取り組みについても言及されているが、団結権の問題については、「従業員が自由に自分達の代表を選ぶ権利」の遵守、「労使交渉等に対する誠実対応の実践」などの表現に止まり、団結権の保証・結社の自由が直接盛り込まれるところとならなかった。
 一方、ISO(国際標準化機構)は2004年6月、CSR国際会議、引き続いて技術管理委員会を開催し、ISOとしてCSR規格を策定していくことを決定した。CSR国際会議では、発展途上国の代表、あるいは経営側代表の反対も懸念されていたが、両者とも賛成に回ることとなった。なお、規格はガイドラインであり、第三者認証を目的としない方針となっているが、今後の状況次第では、さらに強力なものとなる可能性も否定できない状況にある。2004年9月の技術管理委員会では、2007年発効予定で規格開発を行うこと、ワーキンググループはスウェーデン・ブラジルをリーダーとし、各国は各ステークホルダー(産業界、労働界、消費者、政府、NGO、標準化機関)から6名のエキスパートを選出し、派遣することが確認された。

6.産別における取り組み

2003年秋の取り組み再開を受けて、産別では今後の進め方について意見交換を行った。単組からは、前回、経営と真摯に議論を行った結果、暗礁に乗り上げてしまったという経緯があるので、今回の取り組みに関しては、業界団体をある程度動かさないと進展は望めないのではないか、などの意見が出された。
また今回の進め方では、CSRをどう取り扱っていくのかも、議論のポイントになると考えられるので、その点についても金属労協の場で議論を行ってほしい旨の要請があった。
また、各企業の公表している、企業精神、ポリシー、理念等を集約し、ILO中核的労働基準に対する言及について調査を行うとともに、グローバル・コンパクト等の国際基準への参加に関する状況についても調査を行った産別もあった。
 産別および企連・単組においては、COCの労使締結の姿についても、踏み込んだ検討を行いつつ、懸命な労使協議を積み重ねてきているが、本日現在、具体的な労使締結に至っていない。

以 上

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