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本稿は、2004年10月26日に金属労協/IMF-JCで行った講演内容を、若干の加筆修正の上まとめたものである。賃金制度については、その概念、決定方法、支払ルールなど多くのテーマがあるが、ここでは賃金決定システムをとりあげ、とりわけ最低賃金を設定する法律および労働協約の制度に対象を限定して紹介している。 ■1.賃金決定の基本構造 賃金は、契約当事者の合意によって自由に決定することが原則である。しかしこの原則はまた、遵守すべきいくつかのルールによって枠づけられている。すなわち、法定最低賃金、労働協約による賃金設定、平等原則などである。こうしたルールを前提として構築されている賃金決定システムの基本構造をまず整理しておこう。 第1に、法定最低賃金制度、すなわち「全職域成長最低賃金(SMIC=salaire minimum interprofessionnel de croissance)」(以下、SMICとする)が存在する。法定最低賃金は賃金決定システムの中で最底辺に位置づけられ、当事者はそれを下回る賃金額を決定することができない。第2に、法定最低賃金を上回ることを前提として、産業部門労働協約により職業カテゴリー別の格付に応じた最低賃金(協約最低賃金)が設定される。また、かかる労働協約の多くは拡張適用制度の対象となり、対象地域内の当該産業に属する全企業に適用される。第3に、企業レベルで実質賃金の額などを決定することになっている。 こうした賃金決定の構造、すなわち、法律・産業別労働協約・企業協約・労働契約という階層構造は労働条件決定一般に関連するものである。もっとも、労働協約間の関係については産業レベルから企業レベルへの分権化が進む傾向にあり、賃金についても企業レベルへの分権化や決定の個別化が進行しつつある。とはいえ、他の労働条件(たとえば労働時間)に比べると、特に最低賃金設定に見られるような産業レベルでの機能はいまだ重要であるとの評価もされている。 ■2.法定最低賃金制度 1)目的
2)決定(改定)方法 これら2つの目的に対応するかたちで、SMICには3つの決定(改定)方法がある。 第1に、毎年定期的に行われる改定で、前述の第2の目的を実現する手段とされている。政府が団体交渉全国委員会(政労使三者構成の協議機関)に諮問してその意見を聞いた後、政令で新たなSMIC額が定められる。時期は毎年7月1日発効とされている。この場合、SMICの購買力増加分が、統計調査で示された平均的時間賃金の購買力増加分の2分の1を下回ってはならないこととされている。 第2に、消費者物価指数がSMICの最終改定日から2%以上上昇すると、SMICはその都度、省令によって同率で自動的に引き上げられる。たとえば、4月を基準月にした指数が5月中旬頃に発表され、それが2%以上の上昇であれば6月1日から引き上げられるという具合である。この改定方法は前述の第1の目的を実現する手段となっているが、今日の低成長期にはあまり機能していないという指摘もある。 第3に、政令による随時の改定も予定されている。 3)適用対象と除外・減額 SMICは原則として、全活動部門における満18歳以上の通常の身体的適性を有する全労働者に適用される、全国一律の法定最低賃金である。SMICが完全には適用されない労働者には、特別の制度ないし適用方法を受けることが立法上明記されている場合(見習契約労働者、船員など)のほか、減額措置の対象となっている場合、判例によって除外されている場合(外交商業代理人=VRPなど)などがある。 減額措置では、たとえば若年労働者の場合、17歳未満であれば20%、17歳から18歳であれば10%の減額とされている。但し同部門で6ヶ月以上就労していれば減額措置は適用されない。また、障害を持つ労働者の場合、就職指導・転職斡旋専門委員会によって減額措置の適用およびその率が決定される。 4)計算方法 SMICが遵守されているかどうかは、実際の賃金とSMICとを時間当たり賃金額で比較して行われるが、その際の計算基礎には実労働時間に対応する賃金部分のみが含まれる。法令および判例によると、基本給、労務遂行に直接関連する特別手当および一時金、現物給付、第三者によって支払われる間接的賃金などは計算基礎に含まれるのに対し、経費の償還分、恵与(義務的でない特別手当および一時金)、時間外労働の割増、日曜労働・祝日労働・夜間労働など労働リズムの必要性にかかわる手当、精勤手当、利益配分手当などは計算基礎から除外される。 5)法違反に対する制裁 SMIC違反(最低額を下回る額での支払い)については民事制裁と刑事制裁が予定されている。民事制裁は実際の賃金とSMICとの差額分の支払いであり、刑事制裁は罰金である。罰金上限は1人1件あたり1500ユーロで、再犯の場合は上限3000ユーロとなる。 6)現在の状況 SMICに関する現在の状況を見てみると、その額は2004年7月1日改定時点で、時間あたり7,61ユーロである(2003年の同時点では7,19ユーロであった)。また、SMIC改定の影響をうける労働者は全体のおよそ13〜14%である。<ページのトップへ> ■3.労働協約による最低賃金 1)最低賃金設定と改定交渉義務 労働協約による最低賃金は、職業カテゴリーごとに作成された賃金表において職務の格付に応じて区分されたランクごとに設定される。具体的には、各ランクに付された係数に賃金基準額を掛けて算出される。 労働協約による賃金設定には産業レベルでの設定と企業レベルでのそれがある。1982年の法改革以降、既存の労働協約内容について定期的に改定のための団体交渉を行うことが義務づけられている。産業レベルでは、@職務分類について5年ごとの交渉が、Aカテゴリー別最低賃金額について毎年の交渉が義務づけられている。これは、最低賃金政策をSMICだけではなく交渉によって行うという考え方の現れであるが、実際には労働協約の最低ランクの賃金がSMIC額を下回る例があるなど、交渉がSMICに追従している状況もみられるようである(法制度上は、SMICを下回る協約賃金は許容されないのでSMIC額が適用されることになり、次期改定の対象となる)。 企業レベルでは、実質賃金について毎年の団体交渉が義務づけられている。 2)労働協約の規範的効力
3)拡張適用制度
手続面では、まず、当該労働協約の適用範囲内で代表性を有する労使団体すべてを集めた委員会(原則として合同委員会)において交渉のうえ締結するものとされている。労働協約が締結されると、労働担当大臣は、自らの発意によりあるいは当該協約に署名した労使団体からの請求により、団体交渉全国委員会に諮問してその意見を聴取した上で、拡張命令を発することになる。なお、賃金に関する追加協定のみが拡張対象である場合にはより迅速な手続が予定されている。 内容面では、いくつかの義務的記載事項を定めていなければならない。賃金については、無資格労働者の職業最低賃金、格付に付与される階層的係数、同一労働同一賃金原則の適用方法などがあげられている。また、労働協約で定める賃金の決定および改定について、SMIC等へのスライド制を定めることは禁止されている。 4)計算方法および違反に対する制裁 労働協約上の最低賃金額と実際の賃金額を比較する場合の計算方法(計算基礎に何を含めるかなど)は、基本的には労使の合意により決定することができる。こうした合意が存在しない場合には、前述のSMICで用いられるルールに従うことになる。 拡張適用された労働協約上の最低賃金額未満での支払いには、民事上および刑事上の制裁が予定されている。民事上は賃金の追加支給を受ける権利が発生し、刑事上は上限750ユーロの罰金となる。<ページのトップへ>
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