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2002年闘争ミニ白書

1.交渉をとりまく経済情勢

1.戦後最悪の不況下にあるわが国経済

(1) 大幅マイナス成長の続くわが国経済
(2) アメリカ経済は底入れの兆し

2.デフレの動向
3.所得に敏感に反応する消費

(1) 家計調査の動向
(2) 販売統計の動向

4.量的金融緩和の効果

(1) 量的金融緩和の経過
(2) 量的金融緩和の効果

1.戦後最悪の不況下にあるわが国経済

(1) 大幅マイナス成長の続くわが国経済

@ わが国経済は、2000年10月以降、景気後退が続いてきました。名目GDP成長率で見ると、99年度にはわずかながらプラス成長(0.2%)だったのが、2000年度には△0.3%のマイナス成長となり、2001年度に入ると前年比で4〜6月期△1.8%、7〜9月期△2.0%とマイナス幅がさらに拡大しています。△2.0%は統計開始以来2番目に大きなマイナス成長です。(図表1)
 こうしたことから、2001年度全体の名目成長率としては、政府実績見込みで△2.4%となっており、統計開始以来最悪となることが確実となっています。民間調査48機関の予測の平均値は△2.53%と政府見通しを上回るマイナス幅になっており、まさに戦後最悪の不況といっても過言ではありません。
 なお、実質成長率の見通しは、政府が△1.0%、民間平均が△1.15%となっています。

A 2002年度経済については、名目経済成長率が政府予測で△0.9%、民間調査機関平均で△1.92%となっており、2001年度よりはやや改善するものの、依然としてマイナス成長が続く見通しとなっています。日経連も2002年度の経済情勢について、
2002年度の経済予測については、アメリカ同時多発テロの影響もあり、2001年度よりは改善するものの、依然として低成長にとどまると予測する経済研究機関が多い。(日経連・春季労使交渉の手引き2002年版P.11)

との判断を示しています。
なお実質成長率は、政府が0.0%、民間平均が△0.67%の見通しとなっており、政府予測では、実質マイナス成長が回避される状況となっています。(図表2)

B 個人消費の名目成長率は、2000年度に△1.3%と統計開始以来はじめてのマイナス成長を記録しました。2000年7〜9月期には前年比△3.0%という大きなマイナス幅でしたが、10〜12月期には、雇用者報酬がプラス1.3%と3年ぶりの高い伸び率になったことを反映し、個人消費も△1.5%とマイナス幅が縮小、2001年1〜3月期には△0.5%とさらに縮小しました。しかしながらその後は、4〜6月期△1.1%、7〜9月期△1.7%と再びマイナス幅が拡大しています。

C 設備投資は、2000年度に6.3%と3年ぶりのプラス成長に転じました。2001年度に入ってからも、4〜6月期2.5%、7〜9月期1.5%と引き続きプラス成長で推移していますが、成長率は鈍化しています。
 輸出は、2000年度に6.7%となり、3年ぶりのプラス成長となりました。しかしながら、輸入も11.5%の大幅拡大となったため、外需(輸出−輸入)は、前年比2割も減少(△20.9%)しました。2001年度に入ると、輸出が4〜6月期△3.0%、7〜9月期△8.5%とマイナスに転じており、このため外需も4〜6月期△71.4%、7〜9月期△61.4%と激減しています。

D 鉱工業生産指数を見ると、生産指数、生産者出荷指数とも2001年2月以降、前年割れが続いており、12月にはそれぞれ△14.9%、△14.0%と大幅マイナスを記録しています。しかしながら一方で、前年比プラスで推移していた生産者在庫指数が、2001年11月には△0.5%と14カ月ぶりにマイナスに転じ、12月には△1.6%とさらにマイナス幅が拡大しています。景気の先行きを示す指標として、今後の動向が注目されるところです。(図表3)

(2) アメリカ経済は底入れの兆し

@ 2001年3月に景気後退に転じたアメリカ経済は、9月11日の同時多発テロによってさらに追い討ちをかけられることとなりました。しかしながら、
○消費者信頼感指数(注)に持ち直しの動きが見られる。
○非軍需資本財受注や企業の景況感が急速に改善している。
○IT関連部門などで在庫調整が進んでいる。
○株価が11月にテロ事件前の水準にまで回復している。
などの状況も見られるようになってきています。
 1月30日に発表されたGDP統計によると、2001年10〜12月期には、実質経済成長率(前期比年率)はかろうじてプラス(0.2%)に転じました。これを受けて、連邦準備理事会の連邦公開市場委員会(日銀の政策委員会・金融政策決定会合に相当)も同日、「経済活動が底堅くなりつつある」「経済回復の見通しはより確実さを増している」との認識を示し、金融コントロールの指標であるFF(フェデラルファンド)レートを据え置きました。FFレートの据え置きは、同委員会としては2000年12月以来となります。
各調査機関の予測数値を集計した”Blue Chip Economic Indicators” 2002年1月10日号の「コンセンサス予測」によれば、2002年4〜6月期以降は2〜3%台の成長が見込まれています。

(注)アメリカのコンファレンスボード(経団連のような財界団体)が発表している消費者心理指標。現状と先行き指数の合成指標で、調査対象は約5,000世帯。アメリカではこのほか、ミシガン大学消費者心理指数(調査対象約500人)が有名。

A こうしたことから、わが国内閣府は2002年1月、「アメリカは、景気後退局面にあるものの底入れの兆しがみられる」との判断を示しました(月例経済報告2002年1月)。日経連も、
今回のテロ事件で予想されるアメリカ経済への影響としては、消費マインドの低下による個人消費の落ち込みが懸念される。ただし、その落ち込みは、継続的なテロがないかぎり、アメリカ政府の対応などにより一時的なものと考えられる。(手引きP.20)

 
として、内閣府とほぼ同様の判断をしています。

B このようなアメリカ経済の情勢や、1ドル=130円台という為替レートの状況を受けて、わが国の輸出について内閣府は、「IT関連需要の低迷などから大幅に減少していた電気機器や一般機械などの減少幅が縮小しており、下げ止まりの兆しがみられる」「アメリカ向け輸出は、自動車の増加により全体としても増加している」「アジア向け輸出は、このところ急速に減少幅が縮小している」と分析しています。
そして先行きについては、「世界経済の同時的な減速が長期化した場合、輸出を引き続き下押しする要因となるものの、為替レートの円安傾向や、世界的なIT関連の在庫調整の進展が我が国輸出を下支えする要因になるとみられる」との認識を示しています。(月例経済報告2002年1月)

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2.デフレの動向

@ 消費者物価上昇率は、2001年4〜1月の平均で前年比△0.9%となっています。4月から10月までは△0.7%ないし△0.8%で推移していたのが、11月に前年比△1.0%、12月△1.2%、1月△1.5%と3カ月連続でマイナス幅が拡大しています。(図表4)
国内卸売物価も同様の傾向となっており、2001年4〜6月には△0.6%ないし△0.7%で推移していたのが、7月△0.9%、8月△1.0%、9月、10月△1.1%、11月、12月が△1.4%とマイナス幅が拡大してきています。

A 一方、国全体の物価水準を示すGDPデフレーターは、94年度以降、97年度を除いてずっとマイナスが続いていますが、とりわけ2000年度には△1.9%と統計開始以来最大のマイナス幅を記録しました。しかしながら2001年度に入ってからは、4〜6月期△1.4%、7〜9月期△1.5%となっており、2000年度に比べてわずかではあるもののマイナス幅が縮小しています。

B 2002年度予測としては、消費者物価上昇率が政府△0.6%、民間平均△0.94%、GDPデフレーターが政府△0.9%、民間平均△1.25%となっており、引き続きデフレ状態が続く状況となっています。
  しかしながら、マイナス幅はやや縮小する見通しとなっており、とくに量的金融緩和が物価の面でどのよう効果を現すか、注目すべき状況となっています。

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3.所得に敏感に反応する消費

(1) 家計調査の動向

 総務省・家計調査において、全国勤労者世帯の名目消費支出の動向を見てみると、2001年4月から9月まで、6カ月間にわたって前年割れが続いてきましたが、10月には0.7%、11月には2.3%と2カ月連続で前年比プラスとなりました。7月に△4.5%と大幅なマイナスであった名目可処分所得が、8月△2.4%、9月△0.6%、10月△0.6%、11月0.3%とほぼ月を追って改善してきたことによるものであり、所得の改善が消費の改善に直結していることがわかります。平均消費性向も、前年に比べて10月に1.1ポイント、11月には1.6ポイント上昇しました。
 ところが12月には、一転して名目可処分所得が前年比△3.3%の大幅マイナスとなり、このため名目消費は△5.9%と可処分所得を上回るマイナスを記録、平均消費性向も前年に比べ1.3ポイント下落しました。
所得が改善すれば消費はそれ以上に改善し、所得が悪化すれば消費はそれ以上に悪化するという具合に、消費が所得の変化にきわめて敏感に反応するようになってきているといえます。とりわけ12月に、一時金を中心とした可処分所得のマイナスにより、消費のマイナスがきわめて大きかったことは、真剣に受け止める必要があります。
(図表5)

(2) 販売統計の動向

@ 家計調査における一進一退の動きは、販売統計でも裏づけられています。経産省・商業販売統計における小売業販売額は、2001年10月に前年比△4.7%だったのが、11月には△2.8%とマイナス幅が縮小しました。しかしながら、12月には△5.7%と再び拡大しています。
大型小売店販売額(既存店)も、10月の△7.1%から、11月には△0.7%と大幅に改善したものの、12月には△2.5%とやや悪化しました。このうち百貨店は、11月には前年比プラス2.5%だったのが、12月には△1.2%と前年割れになっています。ただしスーパーは、10月の△10.7%から11月には△3.3%とマイナス幅が大幅に縮小、12月も△3.6%とほぼ横ばいになっています。(図表6)

A 内閣府の景気ウオッチャー調査では、景気の現状判断(水準)D.I.を発表していますが、10月に21.9であったのが、11月23.6、12月24.6(対10月差+2.7)と改善傾向が続いています。なかでも家計動向関連D.I.では、10月23.7、11月26.1、12月27.9となっており、12月には10月に比べて4.2ポイントのプラスとなるなど改善幅が大きくなっており、同時多発テロ前の8月の水準(26.9)を超える状況となっています。(図表7)
  博報堂生活総合研究所が発表している「消費意欲指数」(注)でも、2001年9月以降前年割れが続いているものの、2002年1月には△2.6%と4カ月ぶりに小さなマイナス幅となっています。

(注)博報堂生活総合研究所が首都圏440人を対象に行っているアンケート調査。毎月、対象者に来月の消費意欲を点数(100点満点)で示してもらう。個別指標の合成ではなく、全体的な消費意欲のイメージをとらえているところが優れている。

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4.量的金融緩和の効果

(1) 量的金融緩和の経過

@ 2001年3月19日、日銀はいわゆる「ゼロ金利政策」に代表されるような、政策金利(無担保コールレート)の誘導を中心とするこれまでの金融政策運営を改め、
○金融のコントロールを、国債の売買を通じて日銀当座預金(銀行が預金払い出しの準備のために日銀に預けている当座預金)残高を管理することによって行う、量的金融コントロールに転換する。
○あわせて、この日銀当座預金残高を従来よりも拡大する。
という「量的金融緩和政策」に踏み切りました。

A 日銀が銀行から国債を購入すると、その代金が日銀当座預金に入金されます。「家計・企業・銀行が保有する現金と日銀当座預金の総額」をマネタリーベースといいますが、銀行はマネタリーベースの一部である「銀行が保有する現金+日銀当座預金」を法定預金準備率で割った金額だけ貸出を行うことができるので、日銀当座預金を増加させると、銀行は貸出を増加さることができます。貸し出した資金は、誰かの預金として銀行に戻ってくるので、銀行は戻ってきた預金を(法定預金準備として現金や日銀当座預金で残しておかなければならない部分を除いて)再び貸し出すことができます(=預金の自己増殖メカニズム)。銀行から貸し出された資金は、実体経済においては何らかの需要となるので、マネタリーベースの拡大は、需要(名目GDP)の拡大につながるということになります。
また日銀の購入によって、市中の国債が減少すれば、国債の金利が下がり、金利が下がると円安要因となって、輸出増につながるという側面もあります。
このように、マネタリーベースの動向は名目GDPを左右し、ひいては、日本全体の総額人件費の水準にも影響を与えるものですから、労働組合として常に注視していなければなりません。

B 99年1月から2000年10月にかけての景気回復が短命に終わった理由のひとつには、コンピューター2000年問題の発生に備えて99年末から2000年初に日銀が行ったマネタリーベースの大幅供給拡大が、景気回復を後押ししていたのにもかかわらず、2000年5月以降、日銀が逆にマネタリーベースを急激に絞り込んだ、ということがあげられます。2001年3月の量的金融緩和への転換は、こうした金融政策の失敗を修正したものといえます。

C しかしながら、3月19日の量的金融緩和では、
○日銀当座預金残高をそれまでの4兆円から5兆円に増額する。
○マネタリーベースの増加率を7%程度とする。
という内容に止まっていました。マネタリーベースの増加率は、従来5〜6%程度で推移していたので、7%ではこれに多少上乗せした程度にすぎませんでした。また、2%程度の名目成長を達成するためには、11%程度のマネタリーベースが必要とみなされていましたので、この点からも、3月19日の量的金融緩和は力不足といわざるをえませんでした。

 そして9月11日には、アメリカで同時多発テロが勃発し、経済活動に対する企業・消費者のマインドが急激に冷え込みましたので、2%の名目成長達成のためには、さらに多くのマネタリーベースが必要な状況となりました。(2001年7〜9月期のデータから推計すると13%程度)(図表8)

D こうしたことから、日銀は8月、9月、12月と3度にわたって追加の量的金融緩和を断行、12月19日の金融緩和では、日銀当座預金残高を「10〜15兆円程度」とすることを決定しました。
これら追加の量的金融緩和を反映し、マネタリーベース増加率は月を追って拡大しており、2001年10〜12月期には前年比15.6%(とりわけ12月には16.9%)と四半期としては1975年1〜3月期以来、四半世紀ぶりの高い増加率となっています。
(図表9)

(2) 量的金融緩和の効果

@ 量的金融緩和によってマネタリーベースを拡大しても、企業の資金需要が冷え込んでいるために、銀行の貸出が増えないのではないか、という見方もありましたが、国内銀行の設備資金新規貸出金の増加率を見ると、2001年1〜3月期には前年比で6.5%に止まっていたのが、4〜6月期には12.0%に拡大しており、量的金融緩和による貸出増効果は明白となっています。ただし、7〜9月期は同時多発テロの影響から5.2%に鈍化しており、追加の量的金融緩和が必要であったことを如実に示しています。(図表10)
銀行は不良債権の最終処理を進めていますので、「貸出残高」としてはなかなか増えてきていません。しかしながら実体経済に寄与するのは、あくまで新規の貸出ですから、新規貸出が増加するかどうかはきわめて重要といえます。

A なおマネタリーベースの動きは、実体経済面ではタイムラグを持ちつつ、機械受注に比較的よく反映されます。内閣府・機械受注統計(受注額合計)を見ると、2001年6月以降、前年比マイナスが続いており、とりわけ10月には△21.6%の大幅マイナスとなっていましたが、11月には△10.0%とマイナス幅が半減、季節調整済み前月比では18.8%の大幅プラスになっています。(図表11)

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