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2002年闘争をとりまく情勢

1.2002年闘争をとりまく経済情勢

1.マクロ経済の動向
2.量的金融緩和政策と同時多発テロ
3.個人消費の動向
4.設備投資
5.わが国における貿易収支の動向と双子の赤字懸念
6.対中国投資および対中国貿易
7.企業収益の動向と勤労者に対する配分
8.物価の動向
9.雇用の動向

1.マクロ経済の動向

1.わが国の名目GDP成長率は、2000年度に△0.6%となり、98年度(△1.1%)、99年度(△0.2%)に続いて3年連続のマイナス成長となりました。
四半期ごとに見ると、2000年4〜6月期以降は、10〜12月期にわずかながら前年比プラス成長(0.1%)となったのを除けば、一貫してマイナス成長が続いており、2001年4〜6月期には△1.9%になっています。△1.9%というマイナス幅は、統計開始以来、98年の10〜12月期に次ぐ2番目に大きいものです。
内外需別に△1.9%の内訳(寄与度)を見ると、内需△0.8%、外需△1.2%となっており、マイナス幅の半分以上が外需要因によるものとなっています。
日本経済全体の物価水準を表すGDPデフレーターの上昇率は、2000年度に△1.5%となり、これも3年連続のマイナスとなっています。四半期ごとでは、98年4〜6月期以来、13四半期連続でマイナスが続いています。しかしながらマイナス幅は、2000年4〜6月期に△1.8%だったのが、2001年4〜6月期には△1.1%とやや縮小しています。
実質のGDP成長率は、2000年度に1.0%となり、99年度(1.4%)に続いて2年連続のプラス成長となりましたが、2001年4〜6月期には前年比△0.8%となり、10四半期ぶりにマイナス成長に転じています。

2.2001年4〜6月期の名目GDP成長率(前年比)について、需要項目別に見てみると、
○個人消費は△1.1%で、5四半期連続のマイナス成長となった。マイナス幅は2000年10〜12月期の△0.4%、2001年1〜3月期の△0.9%に比べても拡大傾向にある。
○住宅投資は△8.8%となり、2四半期連続の大幅マイナスとなった。
○設備投資は2.5%のプラス成長となったが、2000年10〜12月期の5.3%、2001年1〜3月期の2.8%に比べて、プラス幅が縮小した。
○公的需要は△0.1%で、全体に対する影響は軽微に止まった。
○輸出は△3.0%で、99年7〜9月期以来のマイナス成長となった。輸入は9.0%となっており、大幅な伸びが続いている。このため外需(輸出−輸入)は、△71.4%の大幅減となった。しかしながら輸入の伸び率も、2000年10〜12月期の15.4%、2001年1〜3月期の13.2%に比べれば鈍化している。(図表1)

3.2001年11月9日に発表された政府経済見通しの見直し試算によれば、2001年度の名目GDP成長率は△2.3%とされており、4年連続の名目マイナス成長ということになります。内外需の寄与度(△2.3%の内訳)は、内需△1.6%、外需△0.7%となっており、すでに発表されている2001年4〜6月期の実績に比べて、内需の落ち込みがより激しくなるという見通しになっています。なかでも民需は、すべての項目について前年割れが予測されており、とくに住宅投資は△8.0%、設備投資は△5.1%で、いずれも98年度以来の落ち込み幅が想定されています。(図表2)
なお実質GDP成長率は△0.9%ですから、GDPデフレーターは△1.4%ということになります。従って、デフレは足許(2001年4〜6月期の△1.1%)よりも進行するという予測になっています。

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2.量的金融緩和政策と同時多発テロ

1.2001年3月19日、日銀は、
○金融市場調節の主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する。
○新しい金融調節方式は、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続する。
○当面、日銀当座預金残高を4兆円から1兆円程度積み増して5兆円程度に増額する。
○日銀当座預金を円滑に供給するため、長期国債の買い入れを増額する。
ことを決定しました。これによって、
○マネタリーベースの前年比伸び率は、最近の約3%(2月)から、半年後には7%程度に高まるものと見込まれる。
ことを明らかにしました。
続いて2001年8月14日には、日銀は、日銀当座預金残高を5兆円程度から6兆円程度に増額させる一層の量的金融緩和に踏み切りました。さらに9月11日の同時多発テロ発生により、翌12日には「潤沢な流動性供給を含め、万全を期していく」方針を示し、日銀当座預金残高を8兆円を上回る水準まで拡大させるとともに、9月18日には政策委員会が、「6兆円を上回る」ことを目標にすることを決定しました。

2.2001年3月以降の量的金融緩和政策により、マネタリーベースの増加率は着実に高まっており、2001年7〜9月期には前年比10.4%、10月には14.3%に達しています。ある一定の名目GDP成長率を達成するために必要なマネタリーベースの増加率を計算する「マッカラム・ルール」によれば、2%程度の名目成長を達成するためには、12%程度のマネタリーベースが必要ということになりますが、現状では、ほぼこれに近い水準が確保されているといえます。(図表3)
やや不安材料としては、日銀がいつでも(政策委員会での決定なしに)「量的金融引き締め」に転換できるようになっていることです。すなわち、
○9月11日の同時多発テロ直後、日銀は日銀当座預金残高を8兆円以上に拡大させたが、18日の政策委員会では、「6兆円を上回る」ことが確認されただけだった。11月時点では9兆円台の残高が維持されているが、日銀はいつでもこれを6兆円そこそこの水準まで削減できる。
○3月の量的金融緩和のときは、マネタリーベースの目標値を7%と明示されていたが、8月、9月の政策変更の時には、マネタリーベースの目標値に触れていない。現在は14%台の増加率となっているが、目標に拘束されていないので、日銀はいつでもこれを鈍化させることができる。
 ということです。実際に9月18日の政策委員会後の記者会見では、速水総裁に対して、日銀が金融引き締めに転じたのではないかという観点からの質問が相次ぎました。日銀には、このような疑念を引き起こさない、まっとうな金融政策運営が求められるところとなっています。

3.量的金融緩和政策に対しては、いくらマネタリーベースを拡大しても、企業からの資金需要がなく、また銀行自体も不良債権に縛られて身動きがとれないため、銀行の貸出が増加せず、従って景気にも寄与しないのではないか、との批判があります。
 しかしながら、銀行による設備資金のための新規の貸出は、タイムラグはあるもののマネタリーベースの動向に沿った動きをしています。例えば、
○99年末から2000年初にかけて行われたマネーサプライの大幅拡大を受けて、設備資金新規貸出金(国内銀行・銀行勘定)は、2000年7〜9月期には前年比10.3%の2桁拡大となった。
○その後、マネタリーベース増加率が大幅に鈍化すると、これを受けて、新規貸出の増加率も2001年1〜3月期には6.5%まで鈍化した。
○2001年3月以降の量的金融緩和政策によってマネタリーベースが拡大すると、4〜6月期には新規貸出は再び12.0%の大幅拡大となっている。
というような動きが見られます。量的金融緩和政策が銀行の貸出増加を直接促していることは明らかです。(図表4)

4.東京株式市場・日経平均株価は、小泉内閣成立時には14,000円台だったのが、その後じりじりと値を下げ、7月には日本経済の生命線といわれた12,000円を下回って、まさに株価底割れの様相を呈しました。9月はじめには10,000円ぎりぎりの水準となり、大台割れ必至と見られていましたが、11日には同時多発テロが発生し、翌12日には一気に9,610円10銭まで下落しました。
ニューヨーク株式市場は17日に再開されましたが、これに先立って取引が行われた東京市場では、ニューヨーク市場再開による暴落懸念から、9,504円41銭まで下落しました。しかしながら、ニューヨーク市場は7.13%と予想の範囲内の下落に止まったことから、最悪の事態が回避されたものとして受け止められ、日経平均株価も底値感が形成されたことにより、株価は反発、11月には10,000円台を確保している状況にあります。

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3.個人消費の動向

1.総務省「家計調査」全国勤労者世帯における消費支出(名目)の動向を見ると、2000年12月から2001年3月にかけて、4カ月連続で前年実績を上回ることとなりました。4カ月連続のプラスは、98年以降では初めてのことです。平均消費性向も同じく4カ月連続で前年を上回りました。
しかしながら2001年4月には、一転して前年比△5.0%の大幅マイナスとなりました。その後、5月△3.2%、6月△4.0%、7月△1.5%と総じてマイナス幅が縮小していましたが、8月には△1.7%、9月には△2.3%と再びマイナス幅が拡大する状況となっています。
平均消費性向は7月、8月には、2カ月連続で前年よりも上昇(7月+2.0ポイント、8月+0.5ポイント)していましたが、9月には再び1.5ポイント低下してしまいました。(図表5)

2.勤労者世帯のうち、製造業で働く勤労者の世帯について見ると、2001年4〜9月期には、消費支出が前年比△3.4%となっており、勤労者世帯全体(△3.0%)に比べてマイナス幅が大きい状況となっています。平均消費性向でも、製造業世帯は前年に比べ-1.3ポイントとなっており、勤労者世帯全体(-1.1ポイント)に比べて低下幅がより大きくなっています。製造業世帯では、とくに家計を切り詰めている状況にあることがわかります。
なお9月の製造業世帯では、可処分所得の大幅マイナス(△2.5%)にもかかわらず、消費支出のマイナスは△0.6%と小幅に止まり、この結果、平均消費性向は1.7ポイント上昇しています。(図表6)

3.販売統計では、小売業販売額が2000年1〜3月期に前年比0.8%となり、一時プラスに転じました。しかしながら、4〜6月期には△1.7%と再びマイナスに転じ、その後7月△2.7%、8月△3.8%、9月△2.5%と推移しています。
家庭用機械器具小売業、自動車小売業は、前年比プラスで推移してきましたが、家庭用機械器具小売業については、2001年4月以降、家電リサイクル法施行の影響などから前年割れが続いており、とくに8月には△12.2%、9月には△9.7%と大幅減となっています。これに対して、自動車小売業は6月(△1.5%)、9月(△0.3%)には前年割れとなりましたが、基調としては底固い動きを示しています。
大型小売店販売額(既存店)は、2000年7〜9月期に△5.3%となっていましたが、その後、10〜12月期△4.9%、2001年1〜3月期△3.4%、4〜6月期△2.9%、7〜9月期2.4%と期を追うに従ってマイナス幅が縮小し、とりわけ9月には△0.7%となっています。
このうち百貨店は、2001年4〜6月期に前年比プラス(0.4%)となりました。7〜9月期には△0.1%とごくわずかながら前年割れとなりましたが、9月には2.8%の大幅増を記録しました。スーパーは、2001年4〜6月期に△5.3%、7〜9月期に△4.1%と依然として大幅マイナスが続いています。しかしながらマイナス幅は縮小傾向にあり、9月には△3.3%となっています。
コンビニエンス・ストアの販売額(既存店)は、2001年1〜3月期△1.7%、4〜6月期△0.8%とマイナス幅が縮小していましたが、7〜9月期には△2.5%と再びマイナス幅が拡大しました。しかしながら、8月に△4.2%の大幅マイナスであったのに対し、9月には△2.6%でやや改善しています。(図表7)

4.博報堂生活総合研究所が行っている「消費意欲指数」調査によると、2001年10月の消費意欲指数は調査開始以来最低だった9月の50.6をさらに下回り、49.7となっています。しかしながら男女別に見ると、女性については54.3と回復傾向が見られ、99年、2000年の同月の水準に近づいている状況にあります。

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4.設備投資の動向

1.設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)は、2000年1〜3月期から10〜12月期にかけて、前年比2桁の大幅拡大が続いていましたが、その後2001年1〜3月期に4.6%、4〜6月期に0.8%と急激に鈍化し、7〜9月期には△10.5%の2桁マイナスに陥りました。しかしながら月ごとでは、8月に△13.4%だったのが、9月には△11.8%と若干ではありますが、マイナス幅が縮小しています。
9月の受注額を機種別に見ると、原子力原動機、火水力原動機、電子計算機、電子応用装置、鉄道車両、道路車両が前年比プラスとなっており、内燃機関、発電機、通信機、風水力機械、冷凍機械、建設機械、船舶などもマイナス幅が縮小していますが、電気計測器、半導体製造装置、運搬機械、産業用ロボット、合成樹脂加工機械、繊維機械、鉱山機械、工作機械などでは大幅なマイナスが続いています。

2.2001年9月調査の日銀「短観」によれば、2001年度下期計画の設備投資額は、製造業で前年比△12.1%となっています。前回(6月時点)の調査に比べて、1.1ポイント下方修正されていることになります。
 金属産業の各産業別に見ると、電気機械が△27.3%(前回調査に比べて-7.3ポイント)、鉄鋼が△13.7%(同-21.1ポイント)になっているのが、前年に比べてマイナス幅が大きく、また前回調査からの下方修正の幅も大きくなっています。
一方、一般機械は△10.4%、金属製品は△7.6%、精密機械は△6.3%、自動車は△6.1%、「その他輸送用機械」は△3.9%となっていますが、前年割れではあるものの、前回調査に比べれば、むしろ上方修正されています。さらに、非鉄金属は8.3%、造船・重機は16.9%と前年比でプラスになっており、とくに造船・重機では前回調査に比べて7.2ポイント上方修正されています。(図表8)

3.2001年3月からの量的金融緩和により、マネタリーベースの拡大が行われていますが、マネタリーベースの拡大は、銀行の貸出を通じて設備投資にも強い影響を与えています。マネタリーベースの推移と機械受注額の動向を長期的に見てみると、タイムラグを生じながらも、ほぼ同様の動きを見せていることがわかります。マネタリーベースの拡大は、設備資金の新規貸出とともに、機械受注統計によっても、実体経済への効果が立証されているといえます。(図表9)

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5.わが国における貿易収支の動向と双子の赤字懸念

1.わが国の貿易収支は、2001年に入って以降、急速に黒字幅が縮小しています。2001年1〜9月期の貿易黒字は約5兆円に止まり、前年同期の8兆6千億円に比べて3兆6千億円、約4割も減少しています。貿易黒字は、すでに99年、2000年と2年連続で減少していますが、この2年間にわたる減少幅(あわせて3兆3千億円)を上回る減少が、1〜9月期だけですでに生じています。
こうした貿易黒字の減少は、輸入が前年比8.2%と拡大している一方で、輸出が△3.1%とマイナスになっているためです。輸出減少のなかでの輸入拡大は、プラザ合意後の87年以来、実に14年ぶりのこととなります。

2.このような貿易構造の大きな変化は、生産拠点の海外移転による部分が大きいと指摘されていますが、その根底にはマクロ的な要因が作用しているものと考えられます。
GDP統計の考え方からすれば、政府赤字と貿易赤字とは、
   国内貯蓄超過=政府赤字+貿易黒字
 という関係にあるので、政府赤字の拡大は、
○貿易黒字の縮小(貿易赤字の発生・拡大)
または、
○貯蓄超過の拡大=民需(個人消費、設備投資、住宅投資)の縮小
を招くことになります。政府赤字が貿易赤字を発生させるといういわゆる「双子の赤字」は、80年代のアメリカにおいて大きな問題になったことは記憶に新しいところですが、今般の貿易黒字の激減は、先進国中最悪の政府赤字を抱えるわが国においても、現実のものになる可能性を示唆するものといえます。
 ちなみにこれまでの状況を見てみると、わが国のGDP統計上の貯蓄投資バランスは、99年度までしか発表されていませんが、
○98年度には、政府赤字は97年度に比べて39兆円拡大したが、企業は、12兆円の投資超過から23兆円の貯蓄超過(差し引き35兆円)に転じた。
○99年度には、政府赤字は前年に比べ20兆円縮小したが、企業の貯蓄超過も23兆円縮小した。
ことから見ると、少なくとも98、99年度については、政府赤字拡大は主に企業の貯蓄超過(=投資縮小)で吸収する状況となっていたことがわかります。(図表10)

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6.対中国投資および対中国貿易

1.中国は2001年11月、いよいよWTOに加盟しましたが、低廉な生産コスト、巨大な将来市場に加え、生産技術や製品の品質が急速に向上してきていること、IT分野でのめざましい人材供給が見られることなどから、中国が21世紀における「世界の工場」として、巨大な存在感を示すようになってきています。
丸紅経済研究所の集計によれば、99年の時点ですでにカメラ、電話機、エアコンが世界シェアで過半数を占めており、時計、モーターバイク、テレビ、冷蔵庫、粗鋼も、世界シェアトップに位置する状況となっています。グローバル経済下にあって、中国との関わり方如何が、貿易立国たるわが国の死命を制する状況にあるといっても過言ではありません。

2.グローバル市場において中国の存在感が増しているなか、わが国企業の対中国直接投資は減少傾向となっています。製造業の直接投資額は、95年度には3,368億円を記録していましたが、その後、ほぼ年を追って減少傾向をたどり、99年度には603億円と95年度のわずか17.9%に止まる状況となっています。投資件数でも、95年度の675件に対し、99年度にはわずか59件に激減しています。2000年度には、それぞれ840億円、86件に若干回復したものの、これは電機産業の投資額が357億円に達し、99年度の約5倍、ピークだった95年度(904億円)のほぼ4割の水準に回復していることによるものであり、電機産業以外の製造業では、投資額は2000年度も引き続き減少しています。(図表11)
わが国企業の対中国ビジネスについては、これまでの競争相手であった欧米系企業に加えて、現地資本企業が急速に力をつけてきているため、品質、サービス、コストの面で日系企業が現地資本企業に太刀打ちできない分野が出てきていること、日本企業が中国に直接投資する目的が明確でなかったため、中国の実情に応じたビジネスが展開できない企業が見られること、そうしたことなどから日系企業が優秀な人材を採用しにくくなっていること、などの問題点が指摘されています。直接投資額の減少傾向は、そういった指摘を裏づけるデータのひとつであり、製造業生産拠点の日本国内における一層の強化、再活性化が不可欠となっています。

3.わが国の貿易収支は、前述のとおり2001年1〜9月期に輸出が前年比△3.1%、輸入が8.2%となっていますが、対中国貿易だけを取り出してみると、輸出が20.2%、輸入が21.0%となっています。輸入の伸び率のほうが若干高いものの、輸出も健闘していることがわかります。対中国貿易は、かつては輸入の伸び率のほうが圧倒的に高かったのですが、その後は輸出入の伸び率が比較的、均衡する傾向が見られるようになっています。
 こうした傾向は、「機械機器」の対中国貿易についても見られます。機械機器は、97年までは中国への輸出に比べて、中国からの輸入の伸び率が圧倒的に高かったのが、98年比以降は状況が変化してきています。2000年には輸出が26.3%に対し、輸入が32.1%、2001年1〜9月期には輸出が22.4%に対し、輸入が32.3%となっています。依然として中国からの輸入の伸び率のほうが高いのは事実ですが、輸出も大幅な伸びを示しています。中国の経済発展がわが国の国内産業をたたきのめすのではなく、ともに補完しあい、共存する経済関係の構築を今後ともめざしていかなければならない状況にあります。(図表12)

4.金属産業が生産している輸出品目のうち、主要27品目について、「日本から世界全体への輸出品の単価」と「中国から日本への輸出品の単価」を算出し、日中の輸出単価の格差とその変化を、95年と2000年について見てみると、つぎのようになります。
○日中の単価の格差が大きく(2倍以上)、95年から2000年にかけてその差がさらに拡大しているものは27品目中7品目ある。単価の格差は、この場合は基本的には品質・性能の格差を示しているので、こうした品目は引き続き強い競争力を持っているといえる。
○日中の単価差は大きいものの、その差が縮小しているものは13品目ある。このうちわが国から世界への輸出が増加しているものは11品目、うち7品目は10%以上増加しており、こうした品目は引き続き競争力を保持しているといえる。
○単価差がほとんどない、あるいは逆転している品目は7品目あるが、このうち6品目は、わが国からの輸出が拡大(うち3品目は10%以上)しており、わが国におけるコスト削減努力により、競争力を確保している可能性がある。
という状況になっています。(図表13)

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7.企業収益の動向と勤労者に対する配分

1.2001年9月調査の日銀「短観」によれば、2001年度の収益予測は、売上高が全産業で△0.6%、製造業で△2.2%の減収となっています。前回(6月時点)調査に比べて、それぞれ全産業が1.4ポイント、製造業が3.0ポイントの大幅下方修正となりました。営業利益は全産業で△3.4%、製造業△13.6%の減益見通しで、これもそれぞれ10.3ポイント、19.1ポイントの大幅下方修正となっています。
このため売上高営業利益率は、全産業が2000年度の実績を0.09ポイント下回る3.03%、製造業が同じく2000年度の実績を0.48ポイント下回る3.60%となっています。しかしながらそれでも、98年度(全産業2.51%、製造業2.86%)、99年度(全産業2.94%、製造業3.54%)よりは高い水準となっています。(図表14)

2.金属産業の収益状況を業種ごとに見てみると、売上高は9業種(鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械、電気機械、造船・重機、自動車、その他輸送用機械、精密機械)のうち、自動車(プラス1.0%)を除く全業種で減収予測となっており、なかでも電気機械(△8.0%)、鉄鋼(△5.9%)の減収幅が大きくなっています。6月時点の調査では、9業種中6業種が増収見通しとなっていましたので、まさに様変わりの状況といえます。
 営業利益では、9業種のうち6業種が減益予測(6月時点では3業種が減益予測)ですが、売上高と同様、電気機械(△58.6%)、鉄鋼(△37.5%)の減益幅が大きくなっています。
これに対して、造船・重機は42.7%、「その他輸送用機械」は29.4%、自動車は17.4%の増益予測です。
こうしたことから売上高営業利益率は、電気機械が2000年度実績に比べて2.36ポイント低下の1.93%、鉄鋼も1.65ポイント低下の3.24%となっていますが、一方で、造船・重機は前年に比べて+0.88ポイントの2.72%、「その他輸送用機械」も前年に比べ+0.74ポイントで3.05%、自動車は+0.56ポイントで3.96%となっています。
 鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械については、2000年度に比べれば低下しているものの、99年度との比較では、これを上回っている状況にあります。(図表15)

3.このような収益動向のなかで、勤労者への配分も低下傾向が続いています。
 同じく日銀「短観」で、98年度の人件費実績と2001年度の人件費予測(2001年9月時点)とを比べてみると、全産業の人件費はこの間、99年度に前年比△3.0%、2000年度に△0.4%減少しており、2001年度も△0.5%の減少予測となっているため、2001年度の人件費は、98年度に比べて3.9%も減少することになります。一方、売上高は98年度と2001年度とはほぼ同水準であり、このため売上高人件費比率は、98年度の11.46%から2001年度には11.00%へ、0.46ポイント低下することになります。
製造業の人件費の減少幅は、この3年間で3.8%となっていますが、売上高のほうは2.6%の増加となっているため、売上高人件費比率は15.08%から14.13%へ、0.95ポイント低下することになります。製造業の低下幅は、全産業の2倍以上に達していることになります。
 金属産業でもほぼ同様の傾向にあり、同じく98年度実績と2001年度の予測とを比べてみると、人件費は造船・重機で△20.8%、鉄鋼が△16.7%の大幅マイナスとなっており、以下、非鉄金属が△9.3%、「その他輸送用機械」が△8.9%、一般機械が△4.7%、精密機械が△2.8%などとなっています。
このため売上高人件費比率は、精密機械が20.65%から18.59%に低下(-2.06ポイント)するのをはじめ、以下、造船・重機-1.63ポイント、金属製品-1.22ポイント、鉄鋼-1.12ポイント、一般機械-1.04ポイント、非鉄金属-0.94ポイント、電気機械-0.63ポイント、自動車-0.60ポイントと、すべての業種で低下しており、多くの業種で低下幅が製造業平均よりも大きくなっています。(図表15)

4.わが国のGDPベースの労働分配率(就業者1人あたり名目GDP/雇用者1人あたり名目雇用者報酬)は、2000年度には66.1%となりました。前年に比べて0.6ポイント上昇したものの、90年度以降の11年間では、96年度の65.9%、99年度の65.5%に次いで3番目に低い水準となっています。
 一般的に、労働分配率は景気回復期には低下し、景気後退期には上昇するといわれています。しかしながら、短期的にはそのような動きも見られるものの、90年代を通じて見れば、名目GDP成長率が次第に鈍化・マイナス傾向をたどっているにもかかわらず、労働分配率のほうも低下傾向となっています。
 これは、賃金(労働コスト)の下方硬直性がすでに失われ、経済の落ち込みに伴って、経済の落ち込み幅以上に人件費が抑制されているという事実を如実に示すものといえます。(図表16)

5.金属産業に関して、労働コストの付加価値創出力(労働コスト1単位あたりの名目GDP=名目GDP/雇用者報酬)を国際比較してみると、日本は労働コストの1.60倍の付加価値を創出していることになり、イタリア1.58倍、スウェーデン1.51倍、アメリカ1.44倍、ドイツ1.29倍、イギリス1.15倍を凌駕し、主要先進国中最高となっていることがわかります。
  しかしながら新興工業国では、中国2.25倍、中華民国2.13倍、韓国2.08倍となっており、これら諸国の労働コストの付加価値創出力は、日本をはじめ主要先進国を大きく上回っている状況にあります。(図表17)
なおこの指標については、分子に自営業者の創出した付加価値が含まれ、分母に自営業者に対する配分が含まれていないため、自営業者の比率の高い国では、低い国に比べて数値が大きく出てしまうという欠点があります。この影響を排除するためには、分子を就業者数、分母を雇用者数で除すことが必要になります。新興工業国の就業者数・雇用者数のデータは未入手ですが、主要先進国についてこの作業を行うと、日本1.53倍、アメリカ1.43倍、イタリア1.39倍、ドイツ1.25倍となります。(図表18)

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8.物価の動向

1.わが国の消費者物価上昇率(前年比)は、99年9月以降、26カ月連続でマイナスとなっています。99年度、2000年度の上昇率はともに△0.5%でしたが、2001年3月以降は一貫して△0.7〜△0.8%で推移しており、2001年4〜10月期では前年比上昇率が△0.8%となっています。(図表19)
一方、国内卸売物価上昇率は、98年度(△2.1%)、99年度(△1.0%)と2年間にわたってマイナスが続いていましたが、2000年度には、0.0%といったん落ち着きを見せました。しかしながら、2000年10月以降は再び前年比マイナスに転じており、2001年4〜10月期では△0.9%となっています。マイナス幅は月を追って拡大しており、2001年9月、10月には△1.1%に達しています。

2.消費者物価の動向を、2001年4〜9月の6カ月間について、財・サービス分類別に見てみると、まず財では、耐久消費財が前年比△7.1%に達しており、価格低下の激烈さが際立つ状況となっています。耐久消費財以外の財では、半耐久消費財が△1.6%、非耐久消費財が△0.5%となっており、その中身は、農水畜産物が△0.2%(ただし生鮮食品はプラス0.4%、コメは△3.8%)、食料工業製品が△0.9%、いわゆる「ユニクロ現象」の象徴である繊維製品でも、△2.4%というマイナス幅に止まっており、耐久消費財の価格低下に比べれば小さなものといえます。
サービス価格はほぼ前年比横ばい(△0.1%)となっていますが、医療・福祉関連サービス、教育関連サービスが、前年を上回って推移している一方、運輸・通信関連サービスは△3.2%とマイナス幅が大きくなっています。

3.国内卸売物価の動向を製品ごとに見ると、ほぼ消費者物価と同様の動きとなっています。2001年4〜10月期における前年比上昇率は、食料品が0.1%とほとんど横ばいとなっており、繊維製品も△1.1%に止まっていますが、これに対して、電気機器は△5.1%、鉄鋼△2.8%、輸送用機器△2.2%、精密機器△1.7%と、金属産業とくに電気機器のマイナス幅が大きくなっています。
最近の動向を見ても、輸送用機械についてはマイナス幅がやや縮小傾向(2001年5月△2.4%→10月△1.9)となっていますが、鉄鋼では月を追うごとにマイナス幅が拡大(10月△3.6%)しており、電気機器も10月に△5.2%と、目立った改善が見られない状況にあります。

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9.雇用の動向

1.完全失業率は、98年度4.3%、99年度4.7%、2000年度4.7%と高水準が続いていましたが、さらに2001年7月には5.02%、9月には5.30%と既往最悪を更新しています。一方、有効求人倍率は、99年度の0.49倍から、2000年12月には0.66倍まで回復しましたが、2001年に入って以降再び悪化し、2001年8月0.59倍、9月0.57倍になっています。(図表20)

2.2001年版の労働経済白書では、2001年1〜3月期におけるわが国の需要不足失業率と構造的・摩擦的失業率(潜在的失業率程度の成長が確保された場合でも存在する失業率)の推計を行っていますが、2001年1〜3月期の需要不足失業率は0.98%と前年同期の1.21%からやや回復していると推計しているのに対し、構造的・摩擦的失業率は3.77%と、前年同期の3.59%から0.18ポイント上昇しています。その後、景気の一層の悪化に伴い、需要不足失業率がさらに拡大していることが、失業率5%超えをもたらしているものと考えられます。(図表21)

3.2000年9月の男子・完全失業率(原数値)を「年齢階級別」にみてみると、15〜24歳が12.4%、25〜34歳が5.5%、35歳〜44歳が3.5%、45〜54歳が3.6%、55〜59歳が4.4%となっています。失業率が顕著に上昇する前の97暦年の数値と比較すると、15〜24歳の若年層および45〜54歳の中高年層の悪化が目立ちます。(図表22)

4.失業期間が1年以上の割合は、2000年8月の25.8%から2001年8月には27.4%へと悪化しています。男子のみでは32.0%となっており、年齢階級別にみると、15〜24歳が19.0%、25〜34歳36.2%、35〜44歳34.5%、45〜54歳36.4%、55〜64歳35.7%となっています。2000年8月に比べて2001年8月には45〜54歳で特に悪化していることがわかります。(図表23)

5.雇用者数は、全産業ベースで、98、99年と2年連続でマイナスが続いていましたが、2000年には前年比プラスに転じ、2001年に入ってからも増加が続いていました。しかし、9月には5,344万人、前年に比べ53万人の減少となりました。一方、製造業では、98年以降減少が続いており、2001年2月に一旦増加に転じたものの、6月以降は再び減少が続き、9月には1,162万人と、前年に比べ53万人の減少となりました。金属産業においても、2001年2月には回復をみせましたが、7月以降は再び減少し、9月には590万人、前年比29万人のマイナスになっています。(図表24)

6.雇用形態別に雇用者数の増加率を見ると、常雇は、98、99、2000年と減少が続いていましたが、2000年9月以降は増加が続き、2001年4月には0.9%にまで回復したものの、8月には△0.2%、9月△1.1%と再び減少しています。一方、臨時・日雇は2001年1月に前年比7.6%増となるなど伸びが続いていましたが、9月には女子が△1.1%へとマイナスに転じ、男女計では0.0%となっています。(図表25)
 
7.労働力調査特別調査で雇用形態別に雇用者数の変化をみると、90年2月調査時点で、典型労働者(正規の職員・従業員)3,488万人(雇用者数の74.4%)、非典型労働者(パート、アルバイト、派遣、嘱託、その他)881万人(同18.8%)であったのに対して、2001年には、典型労働者3,640万人(同68.1%)、非典型労働者1,360万人(同25.5%)と、非典型労働者の割合が7.1ポイント拡大しています。特に女子では、90年には典型労働者1,050万人(同59.5%)、非典型労働者646万人(同36.6%)に対して、2001年には典型労働者1,083万人(同50.4%)、非典型労働者994万人(同46.2%)と、非典型労働者が9.6ポイント増加しています。増加数では、典型労働者が33万人増に対し、非典型労働者は348万人増と10倍にも達しています。(図表26)

8.わが国の就業者全体に占める金属産業で働く就業者の比率は、第1次石油ショックののち、90年代はじめまで、20年近くにわたって11%程度を維持してきました。しかしながら93年以降、年を追って低下する状況となり、99年には9.4%となっています。(GDPベースの就業者数のため、労働力調査のデータとは異なる)
一般的に、経済が発展するとサービス経済化が進み、就業者全体に占める第二次産業に働く就業者の比率が低下します。しかしながら金属産業に関しては、第二次産業の一部ではありますが、経済の発展に伴って、就業者の比率が必然的に低下するわけではありません。前記のとおり、わが国では20年近く11%程度を保持していましたし、旧西ドイツでも、80年代前半にいったん17%台に低下したのが、後半には18%台に盛り返しています。イタリアでは70年代にはむしろ上昇傾向にありました。90年代のアメリカでも、IT関連雇用が爆発的に拡大したにもかかわらず、金属産業で働く就業者はほぼ一定の比率を保っていました。
このように見ていくと、金属産業の就業者比率の方向性は、その国の経済の力強さのバロメーターである、といえるのではないでしょうか。わが国の金属産業に働く就業者の比率は、急速に低下していますが、これこそがまさにわが国の「失われた10年」を象徴的に示すものであるといえます。わが国の基幹産業たる金属産業の衰退は、わが国そのものの衰退に直結するとの観点に立って、国内における生産基盤の強化を図っていかなければなりません。(図表27)

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