1.アメリカ
アメリカでは、厳しい景気調整局面が続いていたところへ、同時多発テロが追い討ちとなって、9月には景気が急失速し、今後の先行きは不透明となっています。個人消費は、所得税減税による可処分所得の伸びにくらべ低い伸びにとどまっており、消費者信頼感は大幅に低下しています。住宅投資が頭打ちとなっていることに加え、企業収益の悪化により設備投資は大幅に減少していることから、内需の伸びは鈍化しています。
実質経済成長率は、91年3月以来、史上最長の景気拡大期が続いていましたが、2000年後半から景気減速が鮮明となり、2001年1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期同1.2%のあと、7〜9月期は△0.7%となっています。(図表34)
鉱工業生産指数の伸び率は、2001年1〜3月期前年比0.3%の後、4〜6月期同△2.2%、8月には前年比△0.8%となるなど、減少傾向にあります。テロの影響を鑑みると、今後は一層悪化するものと見込まれています。
消費者物価は2001月1〜3月期と4〜6月期は前年比3.4%、7〜9月期は同2.7%となっており、今後はエネルギー価格の下落、労働・製品需給の緩和などを背景に、スローダウンすると見込まれています。
雇用環境は悪化しており、9月の就業者数(テロの影響は含まれず)は、前月差△19万9千人となっており、8月の同△8万4千人とくらべても減少幅が拡大しています。失業率(除軍人)をみると、2001年1〜3月期4.2%、4〜6月期4.5%、7〜9月期4.8%と上昇の一途をたどっています。テロ後には、輸送関連を中心に大幅な雇用削減がおこなわれています。(図表35)
金融面の動向をみると、9月11日に発生した同時多発テロ事件への対応として、連邦準備制度理事会(FRB)は、9月17日緊急に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、0.50%ポイントの利下げを実施した後、10月2日のFOMCでも0.50%ポイントの利下げを実施し、フェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導目標水準と公定歩合をそれぞれ2.50%、2.00%としました。さらに、11月6日に0.5%追加利下げしたことで、FF金利はケネディ政権以来約40年ぶりの低水準となりました。また、議会は9月14日に400億ドルの緊急歳出法案を可決、9月21日には150億ドルの航空業界支援法を可決するなど、財政・金融両面から対応が行われています。
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2.ヨーロッパ
ユーロ圏では、景気は減速しています。個人消費は引き続き底堅く推移しているものの、政府消費の伸びが鈍化し、固定投資はマイナスに転じました。生産は減少しており、世界経済減速の影響で輸出が大幅に減少し純輸出の寄与はマイナスとなりました。消費者物価上昇率は、食料品価格の上昇等からやや高い水準にありますが、鈍化の兆しもみられます。
欧州中央銀行は、8月30日に政策金利(短期オペの最低入札金利)を0.25%ポイント引き下げたのに続き、9月17日には米国連邦準備制度理事会(FRB)と協調して0.50%ポイントの利下げを実施し、政策金利を3.75%としました。さらに、11月8日にFRBに続くかたちで0.5%引き下げ、年3.25%とすることを決定しました。
また、アメリカ同時多発テロ事件の影響から欧州では、航空業界及びホテル業界など観光関連産業が打撃を受けるとみられています。こうした状況下、保険契約をめぐり保険会社と航空会社の折り合いがつかなくなったため、9月22日、EUの財務相理事会は、各国政府が保険料支払いの一部を肩代わりする方針を決定しました。(図表36)
1.ドイツ
ドイツでは、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比1.4%、4〜6月期同0.6%と低下傾向にあります。鉱工業生産指数は、2001年1〜3月期前年比4.0%の増加でしたが、4〜6月期には同△0.3%となっており、製造業の景況感悪化が続いています。個人消費は増加しているものの、その伸びがやや鈍化し、建設投資の低迷に加えて機械設備投資が大きく落ち込んだことから固定投資が大幅に減少しました。輸出及び輸入の伸びはプラスに転じたものの純輸出の寄与はマイナスとなっています。消費者物価上昇率は食料品価格の上昇等からやや高い水準にあり、1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期同3.1%となっています。失業率は1〜3月期、4〜6月期ともに9.3%と横ばいで推移しています。
ドイツでは、景気減速下でも緊縮財政を継続しており、米国同時多発テロ事件後も減税などの景気刺激策については慎重な姿勢をとっています。テロ事件を受けて、2002年度からテロ対策予算約30億マルクを計上することとしていますが、これはたばこや保険(除生保)への増税で賄うとの方針を示しています。(図表37)
2.イギリス
イギリスでは景気の拡大テンポが鈍化しており、実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比2.7%、4〜6月期同2.3%となっています。個人消費、固定投資等が好調であった一方、在庫投資は減少しました。鉱工業生産は、1〜3月期前年比0.6%増の後、4〜6月期同△1.8%と減少しています。物価は、食料品、エネルギー価格の上昇等から消費者物価上昇率がやや高まっています。失業率は、1〜3月期3.3%、4〜6月期3.2%と低水準で推移しています。
イングランド銀行は8月2日に政策金利を0.25%ポイント引下げたのに続き、9月18日、アメリカ同時多発テロ事件直後のFRBとECBの協調利下げなどを受けて0.25%ポイントの利下げを行いました。さらに10月4日にもテロ事件の経済に与える影響等を考慮して0.25%ポイント引下げ、政策金利を4.50%としています。
3.フランス
フランスでは、景気の拡大テンポは鈍化しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比2.8%のあと、4〜6月期同2.3%となっています。個人消費は引き続き経済を牽引しているものの、輸出と固定投資は減少しました。生産は横ばいで推移しています。物価は、食料品価格の上昇等から消費者物価上昇率が1〜3月期前年比1.3%のあと、4〜6月期同2.1%とやや高い水準で推移していますが、低下の兆しもみられます。失業率は1〜3月期8.8%、4〜6月期8.7%でしたが、8月には9.0%になるなどやや上昇しています。
フランスでは、9月18日に2002年度予算法案を閣議決定しました。2002年経済の前提は、GDP成長率前年比2.5%、消費者物価上昇率同1.6%、等となっており、財政赤字はGDP比で1.4%と、2001年度予算当初案の1.3%より拡大する見通しです。
4.イタリア
イタリアの実質経済成長率は、2000年の2.9%から、2001年1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期2.1%と減速傾向にあります。鉱工業生産指数は、1〜3月期前年比2.4%増のあと、4〜6月期同△0.7%と減少しています。失業率は、2000年10.5%から、2001年4〜6月期9.6%、7〜9月期9.4%と雇用状況は昨年に引き続き改善しています。(図表38)
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3.東アジア
1.韓国
韓国では、生産や輸出が減少するなど、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比3.7%、4〜6月期同2.7%と減少しています。鉱工業生産は、2001年1〜3月期前年比5.1%、4〜6月期同1.7%の後、6月には30カ月ぶりにマイナスとなり、7月には前年比△5.7%、8月同△4.7%となっています。輸出は2001年3月以降、前年比マイナスが続いており、前年同月比△20%と過去最大の減少幅を記録した7月に続き、8月も前年同月比△19.4%(速報値)となりました。2001年8月には経常収支は1年4カ月ぶりに赤字となっています。失業率は、1〜3月期4.2%、4〜6月期3.7%の後、8月3.6%、9月3.0%と低下傾向にあります。中央銀行はコールレートの誘導目標水準を7、8月に0.25%ポイントずつ引き下げ、さらに米国同時多発テロ事件後の9月19日に0.5%ポイント引き下げ4.0%としました。政府は9月、テロ事件を受け、第2次補正予算の再編など財政支出の拡大に向け検討を開始するとともに、2001年の経済成長率見通しを前回の4〜5%から2%台へとさらに下方修正しました。
2.中華民国
中華民国では、アメリカの景気減速やIT製品需要の大幅減退などによる生産や輸出の減少が続いているなかで、景気が急速に悪化しています。実質経済成長率は、2001年4〜6月期前年比△2.4%と東アジア諸国のなかで最も低い水準となり、四半期ベースでマイナスとなったのは、第1次オイルショック後の75年1〜3月期以来26年ぶりとなります。消費の伸びも鈍化しています。失業率は、1〜3月期3.7%、4〜6月期4.2%の後、8月には5.2%となるなど上昇しています。中央銀行は公定歩合が3.5%であったのを、8月から10月にわたり毎月引き下げを行い、過去最低の2.5%としました。11月に開催されたWTO閣僚会議では、中国につづき加盟が正式に承認されました。(図表39)
3.中国
中国では、個人消費や固定資産投資が堅調に推移していますが、このところ輸出の伸びが鈍化していることから、景気の拡大テンポはやや鈍化しています。実質経済成長率は2000年の8.0%ののち、2001年4〜6月期前年比7.8%、7〜9月期同7.1%となっています。鉱工業生産額(付加価値、実質)は、2000年前年比9.9%ののち、2001年1〜6月期前年比11.0%と堅調に推移しています。消費者物価上昇率は1〜6月期前年比1.1%、7月同1.5%、8月同1.0%となっています。貿易に関しては、中国におけるIT関連製品の生産拡大、日系企業などからのIT関連機器の逆輸入増加、中国の輸入関税率の引き下げなどにより、日中貿易総額は、2001年1〜6月期前年比12.2%増、上半期では過去最高額を更新しました。また、2001年9月のWTO中国作業部会では加盟議定書が採択され、11月に開催されたWTO閣僚会議で中国の加盟が正式に承認されたことで、日中貿易は引き続き拡大するとみられています。
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4.東南アジア
1.シンガポール
シンガポールでは、世界的なIT関連需要の減退とアメリカ経済減速の影響から、景気の減退が深刻化しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比4.7%のあと、4〜6月期同△0.9%と減速しています。輸出については、7月前年比△18.0%、8月同△21.3%と減少が続いているなかで、消費の伸びも鈍化しています。失業率は、4〜6月期2.6%と依然として低水準にとどまっています。民間消費や設備投資にかげりが見え始めており、景気の回復が当面望めないことから、今後、雇用環境についても急速に悪化することが懸念されています。
2.タイ
タイでは、民間消費が堅調なものの、輸出の減少とそれに伴う製造業部門の減速などを反映して、景気は減速しています。実質経済成長率は、2000年に前年比4.4%でしたが、2001年1〜3月期前年比1.8%、4〜6月期同1.9%となっています。輸出は、7月は前年比△13.3%となり、前年水準を1割以上下回ったのは、98年10月以来となります。政府は9月17日、米国のテロ事件が国内経済に与える影響を考慮し、2001年の経済成長率見通しを前回の2.0%〜3.0%から1.5%〜2.0%へとさらに下方修正しました。
3.マレーシア
マレーシアでは、世界的なIT需要の減少を主因とした輸出の低迷による製造業部門の落込みから総固定資本形成の伸びが鈍化し、民間消費の伸びも鈍化していることから、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年4〜6月期前年比0.5%となり、2000年1〜3月期から5期連続で低下しています。輸出に底打ちの兆しがみえないことから、マレーシアの景気低迷は一段と深刻化し、通年の成長率は、0〜1%程度にまで低下すると予想されています。
4.インドネシア
インドネシアでは、実質経済成長率は2000年の4.8%から、2001年1〜3月期前年比3.3%、4〜6月期同3.5%と景気回復のテンポはやや鈍化しています。消費者物価上昇率は9月には前年比13.0%を記録するなど高まっています。輸出は減少しています。8月27日、対外債務と財政難にあえぐ政府はIMFと「経済財政政策に関する覚書」について合意し、凍結されていた4億ドルの融資が実施されることとなりました。
5.フィリピン
フィリピンでは、製造業生産の伸びが鈍化し、輸出が減少するなど、景気拡大のテンポは鈍化していますが、実質経済成長率をみると2001年1〜3月期前年比3.2%、4〜6月期同3.3%と、経済減速が著しいアジア諸国の中では、好調を維持しています。消費者物価上昇率は高まっていましたが、このところやや低下の兆しがみられます。政府は8月、7,808億ペソ規模の2002年度予算案をまとめ、国会に提出しました。同予算案では2002年度経済成長率を4.3%〜4.8%と見込んでいます。
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