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第48号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2016年2月18~25日)

イラン労働者の課題と公正を求めての闘争

2016-02-25

イラン金属・機械労組のマジヤール・ギラニネジャド氏

イラン金属・機械労組のマジヤール・ギラニネジャド氏

イラン金属・機械労組(UMMI)のマジヤール・ギラニネジャドが、イランの労働者の課題と闘争、核取引が経済に及ぼす可能性のある影響について語る。(インタビュー)

Q:イランの経済情勢は悲惨な状況にある。失業率もインフレ率も高く、基礎食品や家賃が高水準にあり、国民は過度の負担を強いられている。組合の観点から見て、このような状況をもたらしている原因は何か。

MG:イランの経済政策は無制限の金融資本主義に基づいているため、物価と失業率が急上昇している。ラフサンジャニ政権下では、世界銀行とIMFの指令を実行することが政府の政策の重要な要因になった。最近、イラン経済はこれまで以上に金融資本を受け入れるようになっている。

 イラン・イラク戦争が終わってから25年が経ち、鉄鋼や発電、水、石油化学製品のような最大規模の基幹産業が危機に瀕しており、規制されていない輸入のせいで国内産業が低迷している。我が国は今、かつて輸出していた製品を輸入している。

 現在、労働者の40%以上が失業しているか、不安定な疑似的雇用に就いている。少なくとも300万人が雇用保険で生活している。昔は中東で並ぶもののない工場があったが、これらの産業は今、危機的状況にある。

 ザグロスやサーベーのような製鋼所が閉鎖され、廃業したタイヤ製造工場も5カ所を超えている。製錬所や鋳造所の生産は40%未満に落ち込み、自動車メーカーは製品の質の低さで有名だ。

 金融資本が政府に取り入り、大規模な資産剥奪を促進している。製造工場は倒産に追い込まれ、市場価格以下で民営化されている。明らかに、これらはグローバル資本の強い要請によって我が国で実施されているIMFの処方箋だ。IMFはイランのような国に対し、石油だけを生産する政策を規定している。石油以外はすべて輸入しなければならない。

 私たちの提案は、製造業の再建・刷新・近代化、富裕層とその所得に対する税金の体系的な引き上げ、イラン国内で生産されている商品や生産できる商品の輸入禁止だ。

Q:労働者はどのように問題に対処しているのか。

MG:労働者は、自分たちの働く産業が製品を売って賃金を支払うことができず、日ごとに労働者の購買力が低下している中で、抗議の声を上げている。当局に手紙を書いたり抗議したりしており、最終的には、自分たちの意見を主張するためにストや生産停止に訴えるしかない。金融資本は抗議行動に弱い。憲法第27条は労働者の抗議行動を認めているが、警察や治安部隊はあらゆる抗議行動を妨害している。

 ここ何年か、ILO第98号条約と第87号条約が完全に無視されており、労働組合は厳しい制約を課せられている。フージスターン州の司法省事務所は4カ月前から、訴訟によって労働者の抗議行動を阻止しようとしている。

 現在、数人の労働運動家と教員が投獄されている。テヘラン・郊外バス会社労組(Sherkat-e Vahed)のダビッド・ラザビ執行委員とエブラヒム・マダディ会長は、民事裁判所ではなく革命裁判所に召喚された。革命裁判所は扇動を裁くために利用される。

 チャドルマル鉄鋼山の労働者代表も革命裁判所で裁かれ、イスファハンのポリアクリル労働者数人が有罪判決を受けた。カトゥーン・アバド銅山の労働者代表28人が逮捕されたが、関連組合とインダストリオール・グローバルユニオンが抗議した結果、全員が保釈された。

Q:イランは核プログラムをめぐる交渉後、共同包括的行動計画(JCPOA)に同意した。多くの人々が、制裁解除で経済情勢が改善することを望んでいる。あなたの意見は?

MG:制裁解除が積極的な成果であることに疑問の余地はない。しかし問題は、それをどう利用するかだ。輸入と工場閉鎖を続けるのか。抗議している労働者は世界中に1人もいない。労働者が制裁解除に満足していることは間違いない。だが、政府の経済政策が変わらない限り、何も変化しないだろう。

 JCPOAは外国投資をもたらす。役に立つ技術の輸入に反対する者はいない。ちゃんとした計画に基づいて適切な産業を導入すれば開発・発展が進み、労働者の技術知識が向上し、雇用も増える。これは組合にとって好ましいことであり、組合員数が増えて交渉力が高まるだろう。産業開発は経済成長を促進し、良質な雇用の創出と賃上げを後押しする。ところが権力者の中には、国の開発は自分にとって何の利益にもならないと考えている者がいる。

Q:JCPOA成立後、イランと西側諸国、特にアメリカやEUとの関係が友好的な段階に入ると期待できるか。その状況は長く続くだろうか。

MG:現在、イランと隣接する3カ国が戦争をしている。すなわち、アフガニスタン、イラク、そして今度はトルコがシリアの戦争に巻き込まれた。イランを別の戦争に引き込もうとする試みがなされて久しい。イランの過激派はアメリカとの衝突を意に介さず、グローバル資本の構成分子は地域の地政学地図を塗り替えるためにイランを戦争に引き込もうとしており、リビアやイラクに対してしたのと同じことをイランにもしている。

 この策略に理性的に対抗する必要がある。イランの労働者は外交政策の緊張の高まりに反対し、異議を唱えている。これは問題の一面だ。しかし、もう1つの面は、私たちは自国の平和を維持するだけでなく、他国にも戦争をさせないようにしなければならないことだ。サウジアラビアとの関係を悪化させてはならない。私たちは、この地域で中国とロシアの同盟国であるなら、ロシアによるトルコへの対応から自制を学ばなければならない。

 協定の締結とその協定の実施は別物だ。協定の相手方に、あらゆる義務をうまく履行させなければならない。石油会社との契約は透明でなければならない。プジョーが制裁解除後に欧米企業として初めてイランと契約を結んだとき、この契約は侮辱的なものであり、国益に反するという噂が流れた。フランスやアメリカを非難するのではなく、しっかりした交渉戦略を立てなければならない。イランが支配権の大部分をロシアに譲渡した1828年のトルコマーンチャーイ条約のように、植民地主義的な取引を強制されてはならない

 金融資本は混乱に乗じて国有財産を接収できるので、戦争や混乱を支持し、そのような状況をもたらすために画策している。私の意見では、我が国のマフィアのような資本主義は、私たちの主権と繁栄に配慮しない外国資本と協力し連携している。

Q:JCPOA合意後、イラン政府が数百億ドル分の接収資産を取り戻し、この資金で経済を救済するという噂がある。UMMIは、近年経営難に陥っていた生産工場が稼働を開始し、それによって労働者の状況が改善されることを期待しているのか。

MG:ロウハニ大統領は、基幹産業の現状に取り組むことが優先課題だと述べている。私たちは、政府がこの資金を製造・生産工場に投資し、景気を刺激して労働者の暮らしを改善することを願っている。

 私たちは数カ月前に発行した声明で、現下の危機から脱却するための計画を概説した。関連産業を復活・再生させて最新技術を適用するために全力を尽くさなければならない。

 オイル・ダラーを使って技術を輸入すべきだ。イランで生産されている商品や製品の輸入を禁止しなければならない。地域全体と中東のニーズを満たすことができるハフト・タッペー・サトウキビ工場のような産業を再活性化させなければならない。ロシアは現在、この工場の製品を何としても必要としている。5万人以上を直接雇用することができ、その結果、10万人以上が間接的に雇用されるだろう。

 鉄鋼部門では自給自足を達成し、アフガニスタンやイラク、トルコ、アラブ諸国のような市場の支配権を得ることができる。イランはアジアとヨーロッパの交差路という戦略的な地域にあり、鉄道・道路輸送への投資によって素晴らしい国際輸送ルートを提供することができる。石油化学産業を拡大して、世界中の国々を我が国の石油化学派生物や石油化学製品に依存させることができる。これは言うまでもなく石油・ガスにも当てはまる。

Q:労働組合、特にUMMIは、イランへの外国人投資家の流入についてどう考えているか。

MG:政府が金融資本に譲歩し続ければ、私たちは外国投資の利益を得ないだろう。IMF(国際通貨基金)はイランに対し、外国人投資家に規制されない低コスト労働力を提供するよう求めている。1997年のハタミ政権以降、イラン政府はその要求に応えており、労働法が適用されない特別貿易通商区域を設立している。

 政府は第6次開発計画で、賃金や退職・医療・失業給付の法的規制撤廃を目指している。これは外国人投資家に「イランに来て労働者を好きなようにしてください」と言っているようなものだ。

 外国投資の流入は我が国への最新技術の輸入につながるのか、それとも、私たちはナットとボルトを締め続けるだけなのか。ブラジルと中国の例がある。両国は自国への外国投資を利用し、雇用を創出して失業を減少させるとともに、計画どおりの開発と成長を達成することができた。イランもそうなるだろうか。成り行きを見守らなければならない。

Q:来年の最低賃金は労働者にとって最も重要な問題だ。最低賃金の増額についてどう思うか、使用者や当局はそれにどう対処しているだろうか。

MG:憲法と労働法によると、最低賃金はイランの勤労者世帯が快適に暮らすために必要な金額だ。憲法第43条と労働法第41条は、これを明確に規定している。現在、労働者の賃金は貧困水準の4分の1だ。こんなことが憲法に定められているだろうか。さらに、狡猾な使用者は今年のインフレ率だけに基づいて翌年の賃金を決めており、これは明らかに略奪だ。

 ラグファー教授のような経済学者によると、貧困水準は1カ月当たり300万トーマーン(約1,000米ドル)だ。憲法を守りたければ、最低賃金の基準をこの金額よりも上に設定しなければならない。小さい店には労働者にこれだけの金額を支払う余裕があるだろうか。交渉にあたっては通常、相手にどれだけの金額を支払う余裕や能力があるか考慮したうえで案を提示している。

 ロウハニ氏が大統領に就任し、法律と規則に従って労働者に対応すると約束してから、特に賃金に関しては何の措置も講じられていない。先ほどお話のあったドル資金についてだが、その一部を労働者の賃金に回すべきではないだろうか。

 ロウハニ氏就任初年度、最低賃金は間違って12%少なめに計算された。昨年の最低賃金増額は予想を17%下回り、労働者に対する脅しもあった。昨年承認された月4万トーマーン(約13米ドル)の住宅手当は無視され、支払いが承認されなかった。

 政府によると、インフレ率は今年12%で、来年は10%か9%になる。政府はこの率を巧みに計算し、それに応じて労働者に賃金を支払って、うそつき呼ばわりされないようにしている。最低賃金を60%引き上げるべきだ。

 労働者代表が交渉の場に行って、交渉後に労働者に経緯を伝えれば、政府が労働者と世論を恐れて、この増額にほぼ同意することは間違いない。

 政府が労働組合に対する制約を撤廃し、憲法第26条と労働組合の自由に関するILO条約の規定に従って行動すれば、労働者の交渉力は間違いなく強まり、賃金問題が解決するだろう。

 組合が関与すれば、賃金が実質水準で設定されるとともに、児童労働の問題が解決され、安全な労働環境の提供によって職場における労働者の死亡事故をなくすことができるだろう。労働組合は自己の利益だけを考えているのではなく、すべての人々の利益と国益を考慮している。

 政府は、現下の危機から脱却したければ市民社会の助けを借りるしかないことを認めなければならない。資本主義的アプローチから国民重視のアプローチに切り換え、国家的努力を払うことによって、問題を克服することができる。政治と経済の安定を達成するには、国民、特に独立労働組合の助けが必要だ。

Q:インダストリオール・グローバルユニオンが現在まで貴組合に提供している連帯についてどう思うか。今後の期待や希望を話してほしい。

MG:まず、インダストリオールと世界の労働組合運動に対し、ここ数年の厳しい状況の中でイランの労働者に連帯を表明してくれたことを感謝しなければならない。闘争中の労働者の要求に基づいて積極的・効果的かつ迅速に連帯を示すことは、労働者の国際連帯の最も重要な表明の1つだと思う。

 インダストリオールのような組合組織がイランの大統領や閣僚に書簡やメッセージを送り、労働組合活動家への圧力に抗議したり、国家機関によるILO条約や人権憲章の侵害に異議を申し立てたりすることは、イランの労働者を代表して公正を求める実践的で効果的な方法だ。実際、インダストリオールの支援はカトゥーン・アバド銅山労働者の釈放に役立った。

 当組合の同志はイランの大統領に書簡を送り、労働組合活動家の逮捕や虐待、人権侵害、拘留に抗議し、行政府の長としてこのような事件に介入するよう求めることができる。国内外の組合組織は外国訪問中の大統領や閣僚との会談を設定し、イランの労働者を代表して労働者のために公正や権利を要求することができる。

 我が国の労働情勢に関するニュースや見解を発表することにより、私たちの闘争に世論の支持を取りつけることができる。国際労働組合組織は、ILO条約に従って私たちイランの労働者を扱うよう、イランの労働大臣に直接要求したり、労働組合活動家の拘留や違法解雇に抗議したりすることができ、直接の支援あるいはILOへの提訴によって労働者を擁護できる。

 労働組合には、苦境の際にだけ労働者のことを考えるのではなく、日ごろから絶えず接触し、経験を交換したり学び合ったりし、お互いの問題を知っておいてほしい。私たちは労働者の話を聞き、労働者が直面している課題について知りたいと思っている。

 最後に、イラン金属・機械労組を代表して世界中のすべての労働運動家に挨拶し、彼らと一緒にこう言いたい――世界中の労働者の連帯がさらに広がりますように!

 

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