コロナウイルス危機きっかけに組合は世界の再構築を
2020-09-21
<JCM記事要約>
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COVID-19ロックダウンに起因する経済活動の停止は世界を混乱に陥れ、すでに進行中だった傾向を加速させている。しかし、組合は準備を整えている。この機会をとらえて世界を作り変えることができる。
特集
文:ウォルトン・パントランド
このウイルスは、昨年後半に中国・武漢の生鮮食品市場で出現したようである。有名なバタフライ効果さながら、感染したコウモリかセンザンコウが世界中で混乱の嵐を引き起こした。
今回のパンデミックで、グローバル化とその長く不透明なサプライチェーンが白日のもとにさらされた。あらゆるものが互いに結びついているが、資金や権力、情報の流れに影響を及ぼすにはどうすればよいか、そのために何ができるかは、必ずしも明白ではない。
労働組合は1980年代からこのような環境下で活動してきた――複雑なグローバル問題のローカルな解決策を見つけようと試み、国際協力の拡大を通して形のない勝手気ままな資本に対抗する方法を学んでいる。グローバル・ユニオンは新しい労働者の国際主義を切り開き、グローバル枠組み協定や国際連帯キャンペーン、ブランドに対する消費者圧力の行使によって、労使関係をグローバル化した。
今年3月、その世界が突然停止した。世界経済が動きを止め、国境が閉ざされ、各国がロックダウンに入ったのである。
現在、多くの国々が慎重に再開し始めており、新しい世界の形はまだ定まっていない。しかしコロナウイルス危機は、決定的な崩壊、終止符のように見える。
世界は今後、これまでとは違った姿になるだろう。
このウイルスは偉大な平等主義者として迎えられた――富裕層であれ貧困層であれ、誰もが生物学的に感染しやすい。いや実際は、コロナウイルスは紛れもない階級格差を浮き彫りにした。このウイルスはまず、グローバル会合に出席した国際ビジネスマン階級を通じて中国から広がった。イタリアのスキーリゾートで冬を過ごす階級を通じてヨーロッパ全域に拡大し、ヨーロッパで休暇を過ごす階級を通じてアフリカとラテンアメリカに伝播した。
その影響は不均等かつ不公平でもある。世界中を動き回ってウイルスを蔓延させているグローバル化した人々は、最もウイルスに対処しやすい立場にある人々でもある。必要な場所と機器があれば、ほとんどの人が自宅でホワイトカラーの仕事を楽に行うことができる。
スキー旅行や外国での休暇などまるで想像できない労働者階級の人々が、危機の矢面に立たされている。ロックダウンで失業し、過密状態のアパートで暮らす人々。銃を持たずに戦場に向かう兵士のように、保護具なしで仕事に行かなければならない医療労働者や病院清掃人。
スーパーマーケットや輸送、配送の仕事に就く労働者は、最近まで未熟練として軽んじられていたが、突然、社会を結束させる不可欠な接着剤と認められるようになった。そして生産に従事する労働者は、車を作れず、シャツを縫えず、石炭を採掘できず、ソファーから石油を抽出できない状況にある。
さらなる不平等が明らかになった――危険な最前線の仕事では男性よりも女性が多く、有色人種が多いのである。この経済ですでに弱い立場にあった人々が、さらに弱い立場に追い込まれている。
組合はうまく対応し、労働者を擁護するために活動家や資源を動員している。労働者を支援する一時帰休制度や、保護具の提供を求める運動も、組合キャンペーンの結果である。組合は、経済の主要分野で低賃金労働者が必要不可欠な役割を果たしていることを強調している。南アフリカからブラジル、パキスタンまで、加盟組織の多くが全国レベル・企業レベルで救命協定を取り決めた。
速報:政府は組合の話を聞き、雇用定着制度を秋まで延長した。
政府は引き続き賃金の80%を負担し、段階的で安全な職場復帰の鍵である操業短縮を支持するために規則を変更した。
これは何百万もの勤労者世帯にとって大きな救済になる。
――労働組合会議(@The_TUC)2020年5月12日
ロックダウン中の賃金交渉によって、数百万人の労働者が安全に過ごせるようにし、ウイルスの拡大を抑えて無数の命を救うことができた。組合は、公衆衛生に関する助言の提供や、殺菌剤、マスク、手袋の配布でも先頭に立っている。危機に取り組むために職場を転換し、自動車工場で人工呼吸器を製造したり、縫製工場でマスクを作ったりすることを要求した。
その結果、多くの国々で組合加入者の増加が報告されている。
だが、少なくとも労働組合員であるならば、COVID-19後の世界の最初の形は望ましいものではない。一人一人が家族と地域社会を支えていたことを考えれば、大量失業にさらされることは壊滅的である。インダストリオールが組織化している部門は特に大きな打撃を受けている。購入企業が注文をキャンセルしたため、何万人もの衣料労働者がレイオフされた。日産はカタルーニャの工場を閉鎖し、ルノーは雇用を削減、ロールスロイスもスコットランドの飛行機エンジン製造工場で雇用を削減しており、商品価格は混乱し、石油産業や鉱業は今後どうなるか分からない。
だが、この大量失業がコロナウイルス危機の避けられない結果であるという結論に抵抗し、ここでさまざまな力が働いていることを見て取らなければならない。
第1に、使用者と右翼政権はコロナウイルスを口実に、平時なら達成することができない変更を強行している。インド各州は労働法を停止している。BHPはシフト変更を強要している。そして多くの企業が、とにかく辞めさせたい労働者をレイオフする機会として健康危機を皮肉的な態度で利用する一方で、政府から救済金を受け取っている。
第2の要因は、コロナウイルスがすでに進行中だったプロセスを劇的に加速させたことである。自動車工場はしばらく前から操業を停止しており、労働運動はモビリティーの将来が不確かであることをよく知っている。
私たちはファストファッションが持続不可能であることも知っている。化石燃料ベースの経済からグリーン・エコノミーへの移行が必要であることを知っている。石油や石炭に長期的未来がないことを知っている。気候変動によって従来とはまったく異なる経済が要求されていることが分かっている。
そして私たちは、政策活動を実施して準備している。私たちはこれに備えている。公正な移行を支持する論説を行い、この移行がさまざまな部門でどのような形を取るかに関する詳細な政策案を策定している
今のところ欠けているのは、政治的意志である。ほとんどの政府が、少数の軽微な措置で民間部門に転換への投資を十分奨励できると期待して、傍観主義的なアプローチを取って満足している。そして民間部門は、進むべき方向について政府の取り組みの明確な合図を待っている。
コロナウイルスは、各国政府が迅速かつ大胆に行動し、劇的な結果をもたらす決定を下せること示した。長年にわたって財源がないと不満を述べてきた保守政権が突然、社会の崩壊を阻止するために巨額の資金を工面している。何百万もの労働者が一時帰休させられて公的資金を支給され、企業が財政援助を受けた。
経済学者は、政府予算は家計とは違い、莫大な赤字は問題ではないかもしれないことを認識(あるいは承認)している。この資金は返済する必要がないのである。緊縮と不安定は常に政治プロジェクトであり、経済的または社会的理由で必要とされるものではない。
赤字は問題ではないというケルトンの意見に賛成。ただし、私が根拠とするのは現代貨幣理論ではなく、完全に伝統的なマクロ経済学だ。現代貨幣理論はここでどんな貢献をしているのか?
――ポール・クルーグマン(@paulkrugman)2020年6月9日
これらの大胆な政策対応は、ユニバーサル・ベーシックインカム、必要不可欠な最前線の労働者の価値、当然のことと思われていた古い日常のその他多くの面をめぐる対話を再燃させている。
新たな日常はこれまでとは異なるものでなければならない。
第2次世界大戦後、欧州は荒廃していた。ヨーロッパ大陸を再建するための資金を確保し、その再建が福祉国家の基礎を築き、サッチャーとレーガンのネオリベラル反革命によって破綻に追い込まれるまで大きな成功を収めていた。
COVID-19からの公正な回復は、このようなもう1つの機会でなければならない。政府・企業は、公正なグリーン・エコノミーを立て直すための資金を見つけなければならない。ニューディールを生み出すにはグローバルな協調的取り組みが必要である。救済措置だけでは足りない。将来への大規模な公共投資が必要である。労働組合員としての私たちの役割は、これを要求・主張し、私たちの方針を促進し、必要があれば将来のためにストを行うことである。
私たちが主導権を取らなければ、他者に取られてしまうだろう。
インダストリオールは6月の執行委員会で、より良い公平な未来のためにCOVID-19に関する政治決議を採択した。