特集:団体交渉によって賃金平等を達成
2022-06-02
【JCM記事要約】
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同一価値労働同一賃金は認知された人権であり、1951年に採択されたILO条約第100号に明記されている。それにもかかわらず、条約の採択から70年経っても、ジェンダー賃金格差は根強い地球規模の問題であり、世界中で平均20%に達している。
特集
テーマ:ジェンダー賃金格差
文:アルメル・セビー
ジェンダー賃金格差とは何か?
男女には、同じ価値の仕事に対して同じ報酬を受け取る権利がある。男女は、同一または同様の仕事に対して、また責任や任務、努力、労働条件に関しては異なっていても、客観的基準で見れば同じ価値を持つ仕事を遂行する際、同一賃金を受け取るべきである。
同一価値労働同一報酬(または賃金)は、賃金平等を達成してジェンダー賃金格差に取り組むために立案された原則である。ILOの『同一価値労働・同一報酬のためのガイドブック』によると、ジェンダー賃金格差は、労働力における男女の賃金格差を意味し、男性と女性の平均収入の差を男性の所得に占める割合として測定するものである。
女性労働者は同じ仕事の遂行に対して男性と同じ給料を支払われているので、ジェンダー賃金格差はないと広く信じられている。USWがジェンダー賃金格差の縮小に関するガイドラインで説明しているように、組合は同一労働同一賃金の確保にしばしば成功している。だが、それだけではジェンダー賃金格差はなくならない。給与体系は、女性の仕事の過小評価や、女性が低賃金職種で働く職業分離を防止しない。賃金平等や同一価値労働同一賃金の概念は、女性中心の仕事や部門で低賃金をなくそうとしている。
賃金構造にジェンダー差別があり、間接的な差別を招いている。例えば、体力は器用さや目の集中力よりも価値が高い。後者の技能は価値が低いとみなされ、男性が優遇されている。意識的な偏見ではないが、賃金決定は男性により大きな優位性を与える方法で構成されている(Manuela Tomei, February 2018)。
基本賃金や最低賃金は多くの場合、労働者が受け取る賃金・給付全体の一部にすぎない。ILO第100号条約の定義によれば、報酬とは、通常の、基本のまたは最低の賃金または給料、および使用者が労働者に対して、その雇用を理由として現金または現物により直接または間接に支払うすべての追加的給与である。報酬には、例えば、使用者が支払う超過労働手当やボーナス、会社株式、家族手当、ならびに現物給付が含まれる。
裁量賃金は、間接的な差別やジェンダー賃金格差の一因になることがある。例えば、女性は無給の仕事や介護の責任が不平等に大きいため、超過労働手当を得る機会が少ない。
スペインの労働者委員会からの最近の報告によると、月給の男女格差のほぼ40%が手当とボーナスである。英国では、従業員250人超の企業に、ボーナスも含めてジェンダー賃金格差の報告が義務づけられている。これはジェンダー賃金格差の要因に対する認識向上に貢献している。
団体交渉は、手当やボーナスの付与にあたって利用すべき透明かつ客観的でジェンダーニュートラルな基準の取り決めによって、ジェンダー賃金格差のうち差別的な賃金決定に起因する部分に取り組むうえで役立つ。
団体交渉の役割と課題
団体交渉は依然、労働組合が同一価値労働同一賃金の原則を実施し、より透明な賃金制度を達成する最も重要な手段である。これまでの証拠によると、団体交渉は男女間の賃金不平等の削減に積極的に貢献する(Jane Pillinger and Nora Wintour, 2019)。
団体交渉は、集権化されているか、部門レベルで実施されている場合、より幅広い労働者を対象とし、男女間の賃金不平等の削減により大きな効果がある。労働組合は、最低賃金と労働協約の対象範囲を不安定労働者やパートタイム労働者に広げることによって、包括的な賃金決定の促進を優先すべきである。というのも、女性はこれらの労働者グループに不釣合いに多く見られるからである(ACTRAV/ILO, 2019)。
団体交渉が重要なのは、多くの国々の法律が同一価値労働同一賃金の原則を反映していないからである。その結果、団体交渉が賃金条件を決定する主な方法になる。現行法が賃金平等を促進している場合も、団体交渉がこれらの原則を実施・監視するための重要な手段であることに変わりはない。
ジェンダーバランスと、ジェンダー問題に関して訓練を受けた交渉チームが、団体交渉によってジェンダー平等を促進する鍵である。証拠によると、労働組合指導部や交渉チームに女性がいれば、団体交渉の結果は、よりジェンダーに配慮したものになる。ILO労働者活動局の調査によると、女性が労働組合の賃金交渉チームに占める割合は30%にすぎない。半数前後の組合が、ジェンダー問題について交渉チームに概説したり、訓練したりしていると答えた。
英TUCは交渉チームの女性参画のために割り当てを実施している。南アフリカでは、NUMSAの全国ジェンダー機構が、ジェンダー平等(ジェンダー賃金格差を含む)に関する団体交渉チームの訓練を優先している。
最低賃金の引き上げ
証拠によると、最低賃金の増額は所得不平等とジェンダー賃金格差の縮小に貢献する(ILO)。
ILO労働者活動局の調査によれば、ジェンダー平等に向けた賃金設定に際して組合が主に重点を置くのは、低賃金労働者の賃金改善と、脆弱な雇用形態の労働者グループの組織化や、そのようなグループへの法定最低賃金または労働協約の拡大である。
女性は最も賃金が低い職種で働く可能性が男性より大きいので、最低賃金や生活賃金はジェンダー賃金格差を縮小する鍵である。かなりの割合の女性労働者が、団体交渉の対象にならない未組織の仕事や不安定な仕事に就いている。国家または部門レベルの最低賃金交渉は、そのような労働者に利益を与えるだろう。
衣料や電子のような産業のグローバル・サプライチェーンの末端で、組織率が低い低賃金雇用に女性が集中している現状は、ジェンダー賃金格差の一因となっている (ACTRAV/ILO, 2019)。インダストリオールはACTで他のステークホルダーと協力し、世界の衣料産業の主要な賃金設定手段として、ブランドの購買慣行に支えられた産業別団体交渉システムの確立に取り組んでいる。これによって衣料産業の労働者(主に女性労働者)のために生活賃金を設定できるようになる。
しかし、最低賃金政策や生活賃金政策だけでは、ジェンダー賃金格差は縮まらない。最低賃金政策や生活賃金政策がジェンダー賃金格差に及ぼす効果を最大限に高めるには、同一価値労働同一賃金をめぐる努力や交渉に関連づけなければならない。女性化された仕事や部門で働く女性の低賃金は、女性の仕事の過小評価と結びついている。それらの賃金は、男性中心の仕事や産業で働く男性の賃金と比較しなければならない。そうしないと、最低・生活賃金政策は(例えば、女性が働いている部門や職業の賃金水準を低く設定したり、移民を最低賃金法の対象から除外したりすることによって)脆弱な労働者グループを直接・間接に差別する恐れがある(Jane Pillinger and Nora Wintour, 2019)。
賃金の透明性と同一価値労働同一賃金
同一価値労働同一賃金の原則を適切に実施するために、団体交渉では、女性の仕事の過小評価と職務分類における女性の分離に取り組まなければならない。賃金の透明性の欠如は、賃金差別を隠された現象にする。全レベル(国家、部門および企業レベル)の男女別のデータや統計値は、既存の偏見、差別的な職務評価、分類体系を確認する鍵である。
労働組合は、ジェンダーニュートラルな賃金決定を取り決めるために、この情報を必要とする。欧州数カ国では、これは一定人数の労働者を雇用する企業の賃金報告義務に関する法律によって行われている。オーストリアでは、2011年に導入されたジェンダー賃金透明性法により、ジェンダー賃金格差の程度に関する認識が高まっている。インダストリオール加盟組織PRO-GEは、代表を教育するためのツールやガイドラインを開発している。
現在の賃金監査や賃金報告の規定方法では、既存の職務評価・職務分類体系が差別的であるかどうかについては報告されない。組合は賃金決定方法に関する情報を入手できず、主に女性が遂行している仕事の過小評価に取り組むことができない(Jane Pillinger, 2020)。
ETUCと欧州の労働組合は、ジェンダーニュートラルで差別のない方法による雇用の評価・査定を確保する、強力なEU指令を求めて運動している。ETUCは、仕事の価値を評価し、技能、努力、責任、労働条件などの客観的基準と比較するよう要求している。職務評価のための比較を職場レベル、企業レベルまたは部門横断的レベルで行えるようにすることが、組合の要求の中核となっている。
もう1つの要請は、従業員10人超の使用者に対し、労働者・労働組合への定期的な賃金報告と賃金監査の提供を義務づけることである。賃金監査では、それぞれの区分や職務の男女の分析や、利用されている職務評価と分類体系、賃金に関する詳しい情報、ジェンダーに基づく賃金格差を取り上げるべきである。労働組合は、労働者が自分の賃金に関する情報を開示したり、他の労働者から賃金に関する情報を入手しようとしたりするのを制限している、給与明細の守秘義務をなくしたいと考えている。
2021年3月に公表された欧州委員会の賃金透明性指令案は、同一価値労働同一賃金の適用強化を目的とする、賃金の透明性に関する拘束力のある措置に取り組んでいる。しかし、この案は労働組合と団体交渉の中心的役割を認めていない。これを受けてETUCは、労働組合を同一価値労働同一賃金の基準の評価などに関与させ、部門の垣根を越えて比較を行い、労働組合を賃金格差の測定方法の決定に参加させ、使用者にジェンダー賃金格差縮小計画の取り決めを義務づけることを要求している。職務評価に労働組合を関与させることは、ジェンダー差別を考慮し、新しい賃金決定がジェンダー賃金不平等を繰り返さないようにするために欠かせない。
カナダの労働組合は、新しい賃金平等法の定めに従って賃金平等委員会を設置しようとしている。ユニフォーは、委員会の代表が役割を完全に果たせるようにするためのツールとガイドラインを開発した。賃金平等委員会を通して、使用者は同じ価値のすべての仕事を比較して賃金平等計画を策定し、同じ価値の男性中心の仕事に比べて過小評価されている女性中心の職務等級について、報酬増額と賃金調整を規定しなければならない。
「使用者はすでに労働組合代表に接触してきて、もう雇用分類体系を見直したと言っており、強い抵抗が予想される。使用者はコンサルタントに職務評価を外注化しようと画策しており、コンサルタントは労働組合代表に影響を与えようとしている。私たちの代表は、多くの仕事が待ち受けているので委員会の作業を開始させたいと熱望している。私たちは同一価値労働同一賃金の重要性に関する認識を高めている。代表を教育し、新しい手段を提供している」とユニフォーのトレイシー・ラムジー女性担当部長は言う。
団体交渉がジェンダー賃金格差の縮小に効果的に貢献するには、賃金交渉を抜本的に変更し、すべての部門のすべての賃金交渉で、実施された仕事の価値を交渉の中心に据えるようにする必要がある(Jane Pillinger, 2020)。
賃金の透明性に関する措置は、すべての交差的形態の差別を考慮し、報告や行動計画で交差的なデータや分析の提供を義務づける必要がある。
女性のための公正で包括的な経歴開発の確保
賃金平等を完全に実施するために、組合は、女性が機会均等を享受し、同じ経歴開発の見込みから利益を得るようにする必要がある。
南アフリカではNUMSAとNUMが、出産休暇から復帰する女性向けの訓練を取り決めた。両組合の報告によると、女性は妊娠・出産休暇中に進化した技術に対処するための新しい技能を身につけていないことが多く、経歴開発の妨げになっている。
労働組合は、より多くの女性が技術的・管理的職務に採用されるようにするためにも交渉している。
「使用者に、高賃金の仕事にもっと多くの女性を採用させるために交渉している。ケニアの自動車部門では、ほとんどすべてのエンジニアが男性であり、秘書は全員女性だ。人事部長に占める女性の割合は、この職種で女性の割合が高まっているにもかかわらず、25%にすぎない。女性が男性と同じ機会を得るようにする必要がある」とケニア金属合同労組のローズ・オマモ書記長は言う。
賃金平等を実施するために、同一価値労働同一賃金に関する意識向上や訓練、教育をインダストリオールと加盟組織の優先課題にすべきである。ジェンダー賃金格差や賃金平等を中心とするキャンペーンや、ガイドラインその他の資料の開発は、認識を高め、労働組合とこの問題に対する理解を深めるうえで貢献する。
「インダストリオールと加盟組織は、ネットワークや部門が行うすべての活動に賃金平等を盛り込むべきだ」とルシネイデ・バルジョン・インダストリオール・ラテンアメリカ副会長は言う。