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日本経団連「経営労働政策委員会報告」に対する見解
人が財産、人がつくる現場力
2004年12月22日
全日本金属産業労働組合協議会
(IMF−JC)
 日本経団連は、12月14日、「経営労働政策委員会報告」を発表し、今次労使交渉に臨む経営側の姿勢を明らかにした。
経労委報告では、「労使による人材力の育成こそが企業発展の源泉」としている。しかし「現場力」の低下を懸念し、「人材」「知的熟練」の維持・向上の視点に立っているにもかかわらず、雇用、賃金に関する経営側の考え方は、むしろ「現場力」低下を加速しかねないと言わざるを得ない。
雇用の安定、公正な労働条件の確立、教育・訓練の充実など、働く者の貢献に報い、やりがいを高めるために、企業自ら実践すべき課題は多い。「人」を単なる経営資源と見ることなく、「人」を財産として活かし、現場力を高めるべく、以下の諸点について見解を示すこととする。<ページのトップへ>

1.「現場力」の復活・向上について
経労委報告では、「『3つの過剰』(設備、債務、雇用)が解消の方向に進みつつある」との認識を示している。しかしながら、その結果、雇用は減少し、労働条件の質も大きく低下した。
現場は、人員削減等によって職場要員がギリギリの状況となっているために、労働の過密化や、コミュニケーション不足を引き起こし、教育・訓練の機会等のゆとりを喪失している。さらに、経営が認識する以上に雇用形態が多様化し、職場によっては非典型雇用者が過半を占めていることもあり、技術・技能の継承・育成が不十分になっている。こうしたことが、職場災害の増加などにあらわれる「現場力」の低下をもたらしていることは、日本経団連も指摘している通りである。単に「『現場主義』の確立と徹底」「組織に対する責任感、組織を支える一員としての倫理観を徹底」することで解決できるものではない。
金属労協では、こうした実態を踏まえ、36協定特別条項の見直しに伴う要員確保を含めた取り組みの強化や、非典型雇用者受け入れにあたっての労使協議の充実を図ることとした。定期的に労使協議を行う体制を整え、職場で発生している問題点、労働時間や働き方のあり方、職場の秩序維持や安全確保などについて論議を深めることが、現場力の向上には不可欠である。同時に、非典型労働者を含めた現場力を向上するために、公正処遇の確立も図らなければならない。
「現場力」を強化し、企業の競争力を高めるためには、ヒューマンな長期安定雇用を基本としながら、長期的な視野に立った人材育成を図っていくことが必要である。企業自ら、雇用の安定と教育・訓練の充実を図り、働く者が能力を発揮することができる環境を構築していかなければならない。<ページのトップへ>

2.賃金決定のあり方
創造的技術、知的熟練を維持・向上するためには、「努力すれば報われる」ことが個々人の賃金水準で実感できることが第一であり、将来にわたり安定した生活が見通せることが重要である。
 「ベースアップ」については、これまでも各企業労使が、物価を含めた経済情勢、産業・企業の動向、働き方、社会的賃金水準や企業の賃金実態・あるべき姿を踏まえた、真摯な話し合いによって、ベアの有無を含めた賃金決定、配分のあり方を決定してきた。産業間、産業内の賃金格差が拡大する一方で、企業業績が回復している現在、企業労使の自主的な賃金決定を尊重することが、日本経済の発展のためにも必要となっている。
日本経団連は、「市場横断的な横並び」「全従業員の賃金カーブの毎年の一律的底上げ」という理由によって、ベースアップを否定しているが、そのことが、成果配分の社会性をも否定しているのであれば、容認することはできない。
 同様に、定期昇給制度についても「廃止を含めて制度の抜本的改革を急ぐべき」と主張しているが、個別企業の仕事や働き方の実態を踏まえて制度導入してきたものであり、年齢・勤続年数を重視した働き方を処遇する上で有効に機能している。また、年齢ごとの生計費の違いや標準的なスキルパスは存在しており、これに応じた制度的昇給の仕組みが不可欠である。
 なお、経労委報告で「企業規模が小さくなるにつれて付加価値に占める人件費(労働分配率)の比率は高くなっている。企業規模・企業体質に見合った賃金決定は、経営の根幹にかかわる問題である」としているが、企業規模のみで一律的に賃金の抑制を図るかのような主張をすることは認めることはできない。加えて、総額人件費の抑制を目的に、成果主義賃金を導入することは容認できない。<ページのトップへ>

3.総合的な労働条件の整備・改善と労働法制への対応
 経労委報告では、労働法制の「一層の規制改革・緩和」を主張しているが、労働分野の規制緩和は、雇用の安定を損ない、労働条件の悪化を招き、階層化を加速するのみである。また、非典型労働者の生活を不安定にし、ニートや少子化の一因ともなっていることにも留意すべきである。現在の労働法制は、経済・社会や働き方の変化への対応が不十分であり、むしろ、変化に対応したセーフティネットを強化していく必要がある。安定した雇用の拡大に向けて、労使が英知を傾けなければならない。
金属労協では、少子・高齢化の進展など、経済・社会の変化に対応した、社会的に共通化すべき総合労働条件の構築をめざしている。労働時間や働き方、仕事と家庭の両立支援、60歳以降の就労確保など、さまざまな課題について、企業労使自らが率先して労働諸条件を確立し、さらに社会全体に波及させていくことが必要である。<ページのトップへ>

4.労働時間行政に対する批判について
 経労委報告では、労働時間に関する監督行政について、批判を行っている。
しかしながら、監督行政が強化された理由には、長期不況を背景とした人員削減によって超過労働が増大していることや、不払い残業を強要する経営者が未だに存在すること、過労死を含めたメンタルヘルスの問題が深刻化していることなどの現状がある。
このような状況の下では、日本経団連のいう社会の安定帯としての労使の役割をまず果たすために、不払い残業の撲滅、長時間労働の是正を図っていくことが必要である。こうしたことは、ゆとりある生活時間の確保によって仕事と生活の調和を図る、これからの新たなライフスタイルを構築する観点からも重要となっている。<ページのトップへ>

5.格差の拡大、労働者の階層分化に歯止めを
「多様な雇用形態を最適に組み合わせ、環境変化への柔軟な対処と企業の競争力の強化を意図した」ものである「雇用のポートフォリオ」は、勤労者の生活を不安定にし、労働条件の格差拡大をもたらし、階層分化を推し進めている。「能力・成果・貢献度」のみを強調した処遇制度は、生活の安定や、社会的な公正の視点が欠けている。
金属労協では、「JCミニマム運動の推進」によって賃金の下支えを図りつつ、職種銘柄を明確にしながら仕事や役割を重視した「大くくり職種別の賃金水準形成」によって、金属産業にふさわしい賃金水準の実現を図ることとしている。賃金、労働条件は、公正で納得性のある制度と水準の確立が不可欠である。
また、日本経団連が、産業別最低賃金について、「屋上屋を架す」として「廃止すべき」とする姿勢は容認できない。産業別最低賃金は、地域別最低賃金とは適用対象が異なることはもとより、産業労使の合意によって、公正な賃金水準を見出そうという理念に基づくものであり、その意味で地域別最低賃金とは異なる役割を担った制度である。公正競争の確保、産業内の賃金格差是正の観点からも重要な役割を担っており、今後とも継承・発展を図らなければならない。<ページのトップへ>
以 上